地域の魅力発信プロジェクトに邁進 仙台圏のIT業界を牽引する革命家
- 仙台
- サンキュロットインフォ 代表 小泉勝志郎氏
プログラマーや開発者が技術とアイデアを持ち寄り、短期間で集中的に共同作業を行うハッカソン。東北で初めて行われたハッカソンの仕掛け人が、今回お話をお伺いしたサンキュロットインフォ代表の小泉勝志郎さんです。2014年5月に宮城県沿岸部の塩竈市で開催した『第一回島ソン~浦戸諸島ハッカソン(以下、島ソン)』も話題となりました。今回は、最新のIT技術で東北の魅力を伝える取り組みを続ける小泉さんにお話を伺いました。
漁業を支援するため震災後1週間で立ち上げた クラウドファンディング
小泉さんが独立されたきっかけを教えていただけますか。
15年ほどシステム会社にいて、製品開発部長を務めていたんです。そこで震災がおこりました。実は、弟が塩竈市の浦戸諸島で漁師をしているのですが、弟たちの生業である養殖業が、津波によって大変な被害に遭いました。牡蠣と海苔の養殖業の復旧と復興のために、クラウドファンディングという仕組みを使うことを弟に提案して、『うらと海の子再生プロジェクト』を1週間で立ち上げ、2ヶ月で1億8,000万円の支援金を集めることができました。会社に勤めながらそういうことをしていたので、震災から1年を契機に、退社して独立をすることにしました。
たった2ヶ月で相当な金額が集まりましたね。
そうなんです、私たちも驚きました。浦戸諸島の養殖業の復旧と復興のため、支援して下さる方が大勢いらっしゃって本当に感謝しています。集めた資金は震災後4年の今の時点で9割以上返還しています。
それは素晴らしいですね。クラウドファンディングが有効に機能しましたね。
クラウドファンディングを活用することを提案したのは私ですが、なによりも、プロジェクト代表であり、漁師である弟が、水産業にかける想いを不特定多数の方に向けてすぐに発信できたのがよかったのかもしれません。
地方の魅力を発信することが その土地の価値を高めると信じて
独立後はどのようなお仕事をされているのですか?
仕事としてはアプリやシステムの開発を行いながら、アプリ開発やWeb開発、そしてオープンデータの教育事業を行っています。大学の非常勤講師として教えたり、企業向けの教育として行っています。最近はITイベントを請け負って開催することも出てきました。
お仕事以外にも、様々な活動を行っていらっしゃいますが。
はい。活動の軸として「ITコミュニティ」「震災復興」の2つがあります。 ITコミュニティの方は『東北デベロッパーズコミュニティ』の運営委員を2008年2月、つまり震災以前から行っていました。震災以前から東北の技術者や開発者を対象に、Javaやクラウドの勉強会を行っています。
震災後すぐに、東北初のハッカソンを仙台で行ったわけですが、これは今まで行っていたITコミュニティの活動で震災復興に役立てないかというものでした。この時のハッカソンの主催団体は震災を機に立ち上がったITコミュニティ『Hack for Japan』です。私は『Hack for Japan』でもスタッフをしていて、宮城県のスタッフとして開催をサポートしています。
震災復興の方は先ほどの『うらと海の子再生プロジェクト』をはじめ、『よみがえれ!塩竈』といった地元塩竈のプロジェクトに関わっていました。 実は、震災から時間が経つにつれ、震災復興が「災害対応」から「地域振興」に移ってきているんです。そこで、塩竈の地域の課題を解決するための団体として『Code for Shiogama』を立ち上げ、活動しています。
その『Code for Shiogama』の活動の一環として開催されたのが、『島ソン』ですね。
『島ソン』は2014年5月に、浦戸諸島で一泊二日のスケジュールで開催しました。参加者は県内外のIT技術者と大学生。まず、浦戸諸島で暮らす方と浦戸諸島で仕事をする方を呼び、彼らから課題そして島での生活を語ってもらい、それについて技術者や学生も混ざってディスカッションをおこないました。その後、ディスカッションの内容をもとに「島あるき」を行って島の実際の様子を見てもらうのです。 地元の人が何を食べているのか?どんな生活をしているのか?何に不便さを感じているのか?また、地元の人がまだ気づいてないこの場所ならではの価値は何なのか?島を歩きながらとことん探し、そのあと企画を練ります。
自分の目で見て、耳で聞いて、企画を作るのですね。
そうですね。ただ、ハッカソンでは限られた時間に参加者が集うため、生まれた企画が単発で終わってしまいがちなんです。その点、今回は幸いなことに、継続してよりよいものにブラッシュアップするために、石巻専修大学の舛井研究室でゼミの課題にしていただけました。
それはうれしいですね。 実際に『島ソン』から、どのような企画が生まれたのですか?
浦戸諸島を舞台にしたゲームや浦戸諸島の謎解きゲームなどの企画が生まれ、現在も進められています。 既に動いているものとしては、塩竈で取れる「アカモク」という海藻の販売促進活動があります。実際にTwitterのbotやFacebookページの作成を行い、販売の入り口となる「萌えキャラ」として海藻のアカモクをモチーフにした『渚の妖精ぎばさちゃん』というキャラクターが生まれました。現在は、このぎばさちゃんが活躍するスタンプラリーアプリも開発中です。このアプリはオープンソースとして公開し、「画像と位置データ」を置き換えるだけで他の地方のキャラクターにも流用可能にしていく予定です。 また、現在「Code for Shiogama」の活動で行っている塩竈のまちあるきもオープンデータにして、このアプリに反映して行きます。
塩竈の知られざる海産物を擬人化したキャラクターが活躍しているのですね。
ええ、そうです。ぎばさちゃんは、『ゆるキャラ』ではなく『萌えキャラ』です。 萌えキャラは拡散性が高いので、ゆるキャラよりも熱心なファンが生まれやすいんです。TwitterやFacebookページも運営中です。Twitterは一日に何度も更新しているんですよ。すでにファンとの交流も生まれています。
ホームページを拝見したのですが、キャラクターの画像データの使用をオープンにされているんですね。
個人による二次創作およびスマートフォンアプリ開発は問い合わせなく無償で使用できることになっています。今年の1月にヒューマンアカデミー仙台校ゲーム科グラフィック専攻の学生・萩原佳央瑠さん(2年)、小林悠さん(2年)、新沼伊緒奈さん(2年)らが作成してくれました。そのデータを現在公開しているんです。 また、海藻アカモクの販売促進や震災復興イベントの目的であれば、法人でも無償で広告やパッケージに公開しているキャラクターイラストを使用できます。昨年末に東京・有明で開催された『キャラサミ冬の陣』では、ぎばさちゃんがパッケージに採用された『ぎばさちゃん藻塩』を販売し、話題になりました。 サンキュロットインフォでも、iPhoneケースやトートバックを販売しています。
仙台圏のIT業界に 刺激的な新風を吹き込む
現在、力をいれているプロジェクトを教えていただけますか。
「仙台に仕事を生む」という話もいわゆるいわゆるニアショアだったりして、それって仙台の技術者の単価が首都圏に比べると安いから使っているということじゃないですか。本当の意味で仕事を生むためには、地元の開発者がこの場所の良さを発信し続けることが大事だと思っています。 ですから、東北でITイベントを開き、技術を持つ人たちが交流し刺激を与え合える場を生み出していきたいですね。 東北の開発者に気づきを与えるために、県外のスペシャリストにゲストに来てもらってイベントを行うことも必要ですがそれだけだと足りません。ここからこの地に新しいコミュニティ・勉強会が生まれて来ていたりもしていてそれが重要なんです。また、こうして生まれたコミュニティを育てていくことも必要ですから、それを実現しつつ、『ぎばさちゃん』のように東北の開発者がおもしろがって仕事ができるような企画を考えていきたいですね。
そうですか。情報発信のためにIT業界のニュースをネット配信されているんですよね。
そうなんです。東北のIT業界って意外と活発なんですよ。それを発信する人がいないから外に知られていないだけなんですよね。そういうことをこまめにやっていこうと思いまして、配信をしています。ぜひ、ご覧いただきたいです。 ■東北ITニュース http://tohokuitnews.info/ ■東北ITニュース(Ustream) http://www.ustream.tv/channel/tohokuitnews
突拍子もないことを 手堅くやるのが面白い
小泉さんの5年後、10年後の目標を教えていただけますか。
実験的なアプリや取り組みも、いずれサービスが生まれるような仕掛けに変えていきたいと思っています。遠くない未来に東北で仕事を生み出すことが一番大事だと思っているので。 地方で開発していることをうまく発信することが、その地方の価値を高めることとなり、信頼を得られれば、東京からの仕事を生むこともできると思います。 そんな良好なサイクルを作り、回していく。自分の活動は、この宮城県に仕事を生み出すことだと思っています。
取材日:2015年2月12日
サンキュロットインフォ
- 代表:小泉勝志郎(こいずみ かつしろう)
- 事業内容:アプリ開発、人材育成
- URL: ■東北ITニュース http://tohokuitnews.info/