メンタルケアからゲームまで・・・ “心のレントゲン”感性制御技術を活かす
- 東京
- 株式会社AGI 代表取締役 光吉俊二氏
彫刻からコンピュータの世界へ
以前は彫刻家だったそうですね。芸術の世界に進んだきっかけは何でしょうか?
正直に言いますと、大学受験当時、僕の成績で行ける大学はかなり限られていて、その中から「女の子がいて学生ライフをエンジョイできるのは」と考えたら美大しかなかった。加えて、そのころ憧れていた女性が彫刻家をめざしていて、同じ道に進みたいという下心もありました(笑)。そして、一浪後に多摩美大の美術学部彫刻学科を受けたら受かってしまった、というわけです。
ということは、実は彫刻に興味がなかったのですか?ひょっとして、それまで彫刻を全然やったことがなかったとか。
そうです(笑)。絵は得意でしたが、「2次元の絵より、3次元の彫刻の方が次元が上だからやりがいが大きそうだ」などと考えていました。
実技の試験もあるのにすごいですね。それに大学卒業後の彫刻家としてのキャリアも順調でした。1994年には、霞が関にある「法務省赤レンガ棟」の建物や門の意匠設計を手がけていますね。
最初で最後の建築物です。あれをつくったときに、「あぁ、これでもういいや」と思ったんです。建築の世界は、どんなにしがみついても上に先輩がびっしりいます。そんなところで我慢して出番を待っている気質ではなくて、次の新しいことへのチャレンジの方が魅力的でした。それで、コンピュータの世界で科学者になろうとしたのです。
彫刻家からコンピュータの科学者へ!どうして、そんな展開になったのですか?
インターネットの世界を知ったのがきっかけです。94年のことですから、まだWindows 95が発売される前で、多くの人たちはネットなんて知らない時代でした。じつは、アメリカのヤフーのアート・カテゴリーに登録された、初めての日本人のホームページは僕のものです。生まれて初めてコンピュータを買って、すぐにHTMLを自分で書いてつくりました。そして、なんとそこから今の今まで一度も更新したことがないという、歴史的遺産のようなホームページです(笑)。 もともと、そのホームページは自分の作品を紹介するつもりでつくったものです。ところが、「そうか、おれはコンピュータができるんだ!」と気づいて、1週間後にはシリコングラフィックス(SGI)のワークステーションを購入し、プログラムを自分で組んで3D画像を扱うようになっていました。光ファイバーのモデムが手に入らなかったので自作したのが1ヵ月後。新しいマシンを買おうと思ったものの、値段が高いからワークステーションまで自作したのが半年後。結局、ソフトからハードまで自分でつくって、今の会社と技術を確立したのち、最終的にシリコングラフィックスに買収されました。
驚きのスピード展開ですね。機械いじりも好きなのですか?
得意です。東大で機械工学専攻の非常勤講師もしています。今でも、バイクからコンピュータまで自作しますよ。
御社のSTとは「声から感情を認識する技術」。この技術を手がけようと思ったきっかけは?
コンピュータグラフィックスには限界が見えて、もう未来がないと思ったからです。
えっ!?「まだまだ伸びる」じゃなくて?
そうです。本当にクリエイティブなことは機械ではできないですから。だから、「機械がおれを超えた才能を持つにはどうしたらいいのか」と考えたら、機械で人間をつくればいい、となったわけです。
機械に自分を超えてもらうということですか?
そう。そのためには、まず機械が僕にならなければいけません。それには何が必要かと言えば、機械が人の気持ちをわかることです。それで、このSTをつくったのです。
ごもっともの理屈です。でも、STの仕組みについてうかがうのは難しそうですね…。
いや、簡単です。声をデジタル信号に変換し、その信号を分析してパラメータを計算して、脳がどういう状態にあるのかを可視化しているだけです。
計算した結果を感情のパターンに分けるということですか?
違います。パターンに分けるというのは、サイコロを振っているのと同じです。だから、当たったり当たらなかったりします。STはそうではなく、声から特徴量をとっているのです。固定されたロジックで計算しているので、何万回やっても同じ結果が出ます。だから医療にも使えるんですよ。10年間かけてとうとう現在にいたるまでに世界中で数万人のモニターにテストを受けてもらうなど、約11億円の費用がかかっています。
人種間の違いはないのですか?
もちろんありません。脳は人種を超えても同じですよね。遺伝子と脳の構造が違ったらそれは人類ではなくなってしまいます。感情の出方も同じです。だから、声から脳を見ることができるのです。
確かに医学に人種間の差はないですね。ところで、医療に使うというのはどういうことですか?
ストレスとうつの問題です。僕はこの技術を使って、日本人のうつ病の半分を治そうと思っています。うつの治療には、まずその人がうつかどうかを見分けなければなりませんよね。でも、本当にがんばっているうつの人は、「私はうつです」とは認めてくれないのです。でも、STがあればそれを見抜いて彼らを休ませることが可能になります。しかし、うつ、ストレスは医師でも判断が難しい曖昧な状態。だから、「不安」をテーマにST技術で培われた神経活動変化の音声特徴や、主観の再現ロジックなどが有効になると考えているのです。なぜなら、実際の自殺は「不安障害」が原因と専門家の間では認識されているからです。また、最近では自衛隊と共同研究をして発表もしていますね。
自衛隊とは何をされているのですか?
東日本大震災で救助活動にあたった隊員たちが、どれだけ苦しんでいるのかを調べているのです。これは、あまりに過酷な任務にあたったストレスが原因で、彼らが自殺してしまわないよう心のケアをするためです。 考えてみてください。被災地に赴いた彼らがどれほど辛かったか。18歳で入隊した若者が、被災者よりもさらに厳しい、たいへんなテント暮らしをしながら、無残な遺体を見つづけていたら発狂してしまうと思いませんか?これはもう、国士として取り組んでいる仕事です。僕は普通の国民で、国を愛していて、国の未来を憂いています。だから、今、がんばっている人たちの心を支えたいのです。
非常に重要な役割を果たされているのですね。この案件は、自衛隊の方からオファーが来たのですか?
そうです。正確に言うと防衛医科大学校との共同研究において、最初、イスラエルの似たような技術を使ってみたら認識しなかったそうです。そこで、弊社の技術が採用されました。
医療以外にも活用されているのですか?
幅広い分野で利用されています。コールセンターでオペレーターや顧客の感情をモニタリングするソフトや、ゲームではSEGAの「ココロスキャン」というニンテンドーDSのソフトがありますね。ゲーム機のマイクにしゃべった声から感情を読み取るゲームです。これも、最初はイスラエルの技術を使っていたそうですが、使いものにならず弊社の出番となりました(笑)。きっと、またどこかの国から似たようなニセ技術が出てくるので気をつけてください。感情音声認識で博士号をとり、世界中で特許を持っているのは僕ですから。
日本発の技術で世界に勝つ
STでコンピュータが人間の感情を理解できるとなれば、次はAI(人工知能)が登場するのでしょうか?
そのとおりです。弊社の技術を採用しているAIが間もなく世に出ます。AIのフレーム問題(有限の情報処理能力しかないロボットには現実に起こりうる問題すべてに対処できず、今からしようとしていることに関係のあることだけを選び出すのが難しいという問題)を解決し、自分で善悪、好き嫌いを判断できるようにしています。どのコンピュータにも入れられるものです。時代は変わりますよ。
新しいものをつくる挑戦の連続ですね。
コンピュータを使い始めたときもそうでしたが、自分の欲しいものがなければ、自分でつくってきました。心のレントゲンがなかったからSTをつくり、AIがまともにないからつくるのです。世の中のニーズを気にしながらものをつくるなんてクリエイティブとは言えません。真の実力があれば“シーズを押しつける”ことができます。これが本当のクリエイターです。そして、それがすぐれていれば、皆がこぞって使ってくれるはずです。たとえば、スティーブ・ジョブズは世間の顔色をうかがいながらものをつくっていたでしょうか?いや、彼は「自分が世界を変えるんだ」と思っていたはずです。そして、ジョブズのつくった仕組みの上で動いてきたのがビル・ゲイツ。だから、彼はクリエイターではなく商売上手な人ですね。
この技術を使って世界進出も計画しているのですか?
僕の開発中のAIアルゴリズム(正確には感情マッピングとメカニズム)は英訳が不可能な表現の日本語でつくられ、そして僕のつくった数学(独自の演算子)で動きます。だから、僕の方から世界へ出て行く必要はないし、意味がない。知りたいという世界中の文系理系両方に優れた人々が日本語を勉強してからここ(日本)へ来ればいい、と思っています。 じつは、自分でこのAIの基本概念にコードネームをつけています。その名も「オカネトロン」。私が尊敬するトロンはお金を取らずに失敗してしまいましたが、今度はお金を取るからオカネトロンです。そして、OSの名前は「ケムニマク」。合わせて「オカネトロン・ケムニマク・システム」です(笑)。外国人が「オカネトロン!ケムニマク!」と言って大騒ぎするのをテレビのニュースで見ているところを想像すると面白くないですか?日本人が意味もわからず、「ヘッジ・ファンド」、「Java」、「パンパース」と言っているのより数倍愉快でしょう。我々は、これまでWindows、Mac、iPhoneなど外国の技術にたくさんのお金を払ってきました。今度はこの技術を使い、自分たちが日本型のIT軍団をつくってその分を取り戻してやる――。そういう気概で勝ちに行くつもりです。そう、TOYOTAだってできたのだから、私にもできます。
(取材日:2011年10月)
株式会社AGI
- 代表取締役:光吉俊二
- 事業内容:
- 感性制御技術ST(Sensibility Technology)の研究・開発
- STをはじめとしたセンサソリューションの企画・設計・開発・販売
- 音声ソリューションの企画・設計・開発・販売
- 設立:2006年6月
- 資本金:7,460万円
- 所在地(本社)〒107-0052 東京都港区赤坂6-4-15-305
- TEL:03-5575-1457
- FAX:03-3568-2007
- URL:http://www.agi-web.co.jp/
- 問い合わせメール:information@agi-web.co.jp