流れるままに・・・ 「なんか楽しそうなモノ」を あれこれつくる
- 東京
- ウサギ王株式会社 代表取締役 うもとゆーじ氏
思わぬ社会人スタート、波乱万丈のクリエイター人生
うもとさんのキャリアのスタートは、ゲームクリエイターのようですね。
大学は経済学部で、数理経済学を専攻。ただ、経済学部というのは文系科目で受験できてしまうのですが、いざ入ってみると経済学って数学の勉強ばかりで僕にはさっぱりわかりませんでした(笑)。結局、2回留年して4年間通ってドロップアウト。中退後、1年ほどはビデオショップでアルバイト生活でした。 ものづくりの世界に入るきっかけは、ゲーム好きだったことですね。絵はそこそこ上手かったので、キャラクターの絵を描いてゲーム会社に応募するようになりました。当時は、「ファミコン」の時代。ゲームの表現性能が現在とはくらべものにならないほど低く、美大や芸大で絵を勉強してきた人たちが本気で入ってくる業界ではなかったので、専門的な勉強をしていない僕でもチャンスがあったんだと思います。そうこうしているうちに、あるゲーム会社に採用されて5年働き、次に1年ほどマルチメディア関連の会社に勤めました。 その後、以前いた会社を辞めた人たちが立ち上げた、オリジナルのゲームをつくる会社に参加し、エニックスで「うたうたウ~」という音楽ゲームを手がけました。とりあえずモノ好きなファンの間で高い評価を獲得し、発売元でも一応ペイしたそうです。ほかの音楽ゲームをつくったクリエイターからも、「参考にしました」という言葉をもらったこともありました。
早い段階で大成功を収めた?
そう言いたいところなのですが、その当時在籍してた会社の経営状態がひどく、会社の口座に50円しか入っていない有り様で、最後の方は給料も出なくなってしまいました(笑)。当時、すでに副業で雑誌の連載記事や3DCGの講師をしていたので、そちらの報酬でなんとか生活できていたという状況です。 その後、2000年頃に、やはり知り合いに誘われてGONZOというアニメ会社にちょびっと在籍してました。そして同時期に3DCGクリエーターの紹介番組でテレビ局の取材が自宅にやってきまして、その番組に出演してたプロデューサーの方が作品を気に入ってくれたのがきっかけで、イスラエルの会社がつくった3Dのデスクトップアプリケーションをローカライズする仕事が持ちこれまれました。その案件はあまり成功とはいえなかったのですが、プロジェクトを進める過程で仕事の受け皿としてチームをつくったのが「ウサギ王」です。設立後は、ゲーム、アニメーション、イラスト、キャラクターデザインにサウンド制作と、あらゆる仕事をこなして現在に至ります。
実験的プロジェクトに白羽の矢が立つ存在
ところで、「ウサギ王」という社名の由来は…?
“うもと”の漢字、「兎本」が由来です。漢字が難しいですし、間違われるし、名前はひらがなでいいや、社名はカタカナでいいや、と(笑)。「王」に特に意味はないのですが、「“ソロモン王の指輪”があると動物の言葉が聞ける」という話から、何となく“王”を付けただけなんです。
でも、インパクトのある社名で忘れられないですね。 インパクトと言えば、2009年に、テレビ東京で「RUN BEAR RUN!!」という、白いクマが走っているだけの不思議なCMが放送されました。クマのキャラクターをベースに、さまざまなコンテンツ・ビジネスを展開するプロジェクト。御社は、映像制作を担当されたそうですね。
実は、自分でも「これ何だろう」と思って見ていました(笑)ウサギ王には、そういう新しい実験的なプロジェクトがよく持ちこまれるんです。「ここに任せればなんか楽しそうなモノつくりそうかな?」と思っていただけているようです。 実験的なプロジェクト=新しいメディアというケースが多いので、完成品をなかなか見られないのが悩みの種です。たとえば、「ダーリンは外国人」という、山手線の車内モニターだけで流れるアニメーションの監督・制作を担当したのですが、ウサギ王は小田急線沿線にあって、JRはなかなか乗らないので見られない(笑)。社員旅行で海外に行く時、山手線に乗って初めて社員みんなで見たくらいです。
ここまでは、いろいろな作品を、いろいろな側面から手がけてこられましたが、今後はどんな展望を描かれていますか?
正直、“流れるままに”みたいなことしか言えないですね。毎日、ミクシィとかに仕事もしないで日記ばっかり書いているのですが、年末になると「今年もなんとか生き延びた」と記すのが恒例でして…。ここ5~6年連続で書いてますねぇ(笑)。あえて言えば、オリジナル作品はもっとやりたいですね。あっ!そういえば、今まだあんまり誰もやってなさそうな「社会派アニメ」をつくってます(笑)。
「PIX」というDVDレーベルをお持ちですね。オリジナル作品をリリースしているのですね。
2002年、ちょうどCGブームの最後の頃。いわゆる“美少女CG”が流行っていたのですが、一方で、キャラクターのCGはあまりなかったので、知り合いや友人に声をかけてDVDのインディペンデントレーベルをつくり、キャラクターCGの作品を製作、販売しました。DVDは4本ほどリリースして、ビジネス的にはどうなんでしょ?(笑) でも、これも後進が歩むべき道を探るための重要な手がかりくらいにはなったかな?と。あと、プロモーションにはなったと思います。
御社のホームページに掲載されている「ゾンビの安田さん(http://www.usagiou.net/movie.html)」は、PIXに収録されている作品のひとつですね。
はい。3DCGでキャラクターを動かすのが大変なので、メインのキャラクターを人形にすれば楽だろう!と考えて、背景と人形の表情のみを3DCGで組み合わせた作品です。予定では楽なハズなので、あっという間につくり終えるつもりだったのが3ヵ月くらいかかってました。その間、通常の仕事をしてないワケで、つくり終わったあたりでふと気がつくとお金がない…(苦笑)。 ただ、この作品でアニメフェアにも参加したおかげで、制作会社さんとはいくつも知り合うことができ、後に生きるコネクションが形成できました。
やはり、いい仕事をしていたことで、新しい仕事につながったのですね。
そうであるんですかね…やっぱり。ただ、確かに新しい作品をつくると何かしらの反応があります。何だかんだ言いつつ会社が続いているのは、そういう成果の積み重ね上にあるのかもしれませんね(笑)。
優れた人材を埋もれさせないために
ところで、2008年には会社を法人化されました。業績が順調に伸びてきたのでしょうか?
全然(笑)。美大を出た女性スタッフさんが2人入社する時、彼女たちの親御さんが心配するだろうなと思って法人化しました。つまり、スタッフさんの親向けの対策なのです。
法人化する理由もいろいろですね(笑)。現在の社員数は?
今は4人です。そのうちのひとりは妻で、キャラクターデザインなどを担当しています。実は、昨年段階では7人ほど社員がいたのですが、日本アニメーションさんの2クールのアニメシリーズが終わったところで「もっと、ちゃんとしたアニメ(=TVでやるような商業アニメ)の仕事がしたい」という理由で退職してしまいました。「あっ!ウチってちゃんとしてないアニメなのか…」なんてね(苦笑)。ウサギ王はわりとスタッフの移籍もあって、スタッフが進みたい道があれば希望を叶えてあげたいので、知り合いの制作会社などに紹介したりしています。学校で講師をしていることもあり、「誰かいい人はいない?」と良く聞かれるため、もともと、人と人の橋渡し役をすることは多いんです。
みつけた「優れた人材」を、どんどん他社に紹介するとは、ずいぶん気前のいい話ですね。
彼らの給料の5%でも手数料でもらっていたら今頃すごく楽だったのかも…、とは思います(笑)。「この子は伸びるだろう」と思って紹介しているわけですが、だいたいその後本当にいい仕事をしていますね。 当社が人材を募集する時は大々的に宣伝せず、どちらかというと、こちらから探しに行くことが多いですね。東京5美大の卒業制作展は必ず見に行っています。上手い子で就職先が決まっていなければ入社を誘ったり、その時、雇う余裕がなければ他社に「イイ子がいるんだけど面接だけでもしてみない?」と頼んだりもします。とにかく、埋もれている人材を見つけると、すごくもったいないと思うんですね。そんな思いから、あれこれと得にもならないのに世話を焼いてしまうのだと思います(笑)。
(取材日:2011年9月)
うさぎ王株式会社
- 代表取締役:うもとゆーじ
- 事業内容:
- テレビ、映画、DVD等の映像媒体の企画制作
- キャラクター、イラストレーションの企画制作
- 出版物および電子出版物の企画制作
- 執筆・イラストレーション
- アニメーション技術の開発指導およびコンサルティング
- 設立:2008年4月1日
- 資本金:100万円
- 所在地(本社):〒194-0022 東京都町田市森野2-1-8 サンコート町田301
- TEL/FAX:042-722-7933
- URL:http://www.usagiou.net
- 問い合わせメール:umoon@usagiou.net