目指すはデジタル版トキワ荘 キラーコンテンツの作家を 発掘する場になれば
- 東京
- 株式会社キバンインターナショナル 代表取締役社長 西村正宏氏
システムの受託開発から大きな方向転換。 事業内容の集中化と、人材確保に注力する。
創業の経緯と、その当時のお話をお聞かせください。
大学院在学中に、研究成果を発表するためのウェブサイトを提供していたことが認められて活動資金の寄付を受けたのをきっかけに、仲間とともにWebサイトや、当時はまだ珍しかったWeb Mailの仕組みをつくって提供していました。そしてその仲間とともに、大学院卒業と同時に起業しました。 システムの受託開発を事業の柱に10名程度のメンバーで活動していたのですが、設立から10年目を迎えるころに、皆で立ち止まって考えたのです。受託開発は、時間とともに単価は下がり、一方で難易度は上がり、納期も短くなる――自分たちの人生、生活を含めて考え、果たしてこの仕事をつづけていくべきなのか? と。 受託開発の3重苦の解決策を見つけることができず、そして悩み、議論を重ねた末に、eラーニングに特化して自社開発製品で勝負しようとの結論にいたりました。
思い切った方針転換ですね。
文字通り、一念発起ですね。ただ、いきなり走り出すことができるとは思いませんでした。幸いにしてそれまでの事業で、メンバー全員の給与をその先約10ヵ月分まかなえる内部留保があったので、10ヵ月を助走期間と設定し、再スタートにチャレンジしました。
eラーニングに着目した理由は?
受託開発時代の案件のひとつに、小学生向けのeラーニングシステムがありました。ある地方の小中学生向けで、約70校、40,000名の生徒が使用していたと聞いています。実際に使用されている風景を見て、深い感銘を受けました。子どもたちがキャアキャア言いながら、本当に楽しそうに学んでいるのです。そんな体験から形成されていた「何かに絞るなら、よろこんでくれる人が多いシステムがいい」という私の考えに、ほかのメンバーも賛同してくれました。 また、自己体験も、重要なベースになっています。起業メンバーは皆、文系出身者でしたが、システムに関する勉強は、専門の学校には通わず、すべてアメリカのeラーニングで学びました。eラーニングの有用性を肌で知った私たちだからこそ、eラーニングの可能性、将来性を強く信じ、eラーニングを核にしていこうと決断できたのだと思います。
大きく進歩したいと願う企業ほど社内教育を重視する。 その思いを強力にサポートするのが「キバンのeラーニング」。
御社のeラーニングシステムの特徴は?
いくつかありますが、まずはシステムを購入した企業が、自らの手でeラーニングを作成できる点をあげるべきしょう。PPT2 Voiceではパワーポイントに合成音声ナレーションをつけ、それをフラッシュに変換することで簡単にひとつの教材ができますし、Quiz Creatorでは試験問題もキーボードの操作ができれば誰でもつくれる。こうしたシステムがあれば、それぞれの企業に合わせた細やかな教育を、自分たちの手でつくることができるようになると考えました。 これまでの日本のeラーニングでは、コンテンツを購入して、社員にやらせる形式がほとんどで、自分たちの教育コンテンツは、自分たちの手でつくるべきであるとの明確なコンセプトを打ち出した会社はありませんでした。 私たちの提供するシステムが評価を得たのは、そのような状況に風穴を開けたからだと自負します。ちなみにSmart Brainは、ユーザー数20名までであれば、ご登録いただくだけですべての機能を無償利用していただけるようにもなっています。 オープンソースという手段も考えましたが、技術者やサーバが必要なオープンソースではなく、クラウド、ASPサービスで、WEBから申し込めば、すぐに無料で利用できるサービスこそが重要だと思い、サーバもこちらで用意し、すべて無料で提供しています。
御社の理念と製品は、eラーニングに革命的な変革をもたらしそうですね。
私自身もそのポテンシャルを感じています。ですが、顧客はまだ2,700社に過ぎません。日本には230万を超える数の企業が存在するわけですから、まだまだ大きな波及と言うにはほど遠いと感じています。さらなる努力が必要ですね。
開発力も、かなりの重要になりますね。
そこが当社の生命線と言っていいでしょう。事業をeラーニングに特化した時点から、独自開発力を養うため人材獲得にも真剣に取り組んでいます。 特に、私たちが着目してきたのが、博士号取得者。彼らは学術的な知識はもちろん、海外への学会発表等を行ってきたために語学(特に英語)が堪能ですが、それにもかかわらず、日本では年齢制限のために新卒扱いされませんし、職務経験もないので中途採用枠にも入りません。また、外国人の博士号取得者にも就職枠はありません。 今まではこうした優秀な人材が海外に流出していく傾向がありましたが、それはたいへんもったいなことです。私たちは、博士号取得者に対して積極的な採用活動を行ってきました。 そんな努力の結果、高い専門性を持ち、かつ語学力が高いスタッフをそろえることができました。現在も、日本語以外に、英語、中国語、韓国語を社内で対応可能で、システムは、基本的に4カ国語対応でリリースしています。
めざすはデジタル版トキワ荘。 キラーコンテンツの作家を発掘する場になれば。
ところで、本日の取材場所である「パンダスタジオ」とは?
コンテンツに必要な映像制作のためにつくったものです。当初から自社利用目的だけではなく、多くの方にコンテンツ制作の場として利用していただくことを考えて設計、建設がされました。白を基調としたホワイトスタジオと、黒を基調としたブラックスタジオの2つからなっており、この色合いからパンダスタジオと命名して2010年10月より稼働しております。 インフラとしては、書画カメラを含む6台のカメラと数種のマイクがあり、インターネット回線は光回線を使用。PCやUSBメモリでPPTデータや動画などを持ち込めば、3台の65インチ液晶ディスプレイによって迫力のあるセミナーや撮影を行うこともできます。完全にフルハイビジョン撮影に対応したスタジオです。
とても充実したスタジオですね。
これらのインフラの可能性は、使用者のアイデア次第です。 eラーニング用の動画教材の撮影から、20名程度のセミナーの実施。さらにそのセミナーをUstreamで生中継することも可能です。また、番組作成・配信もできるので、少人数で番組をつくって全世界に向けて発信することも――使いかた次第で、とてつもなく大きな何かをつくれるかもしれませんね。
このスタジオを使って、「eラーニングにとどまらず情報発信をしたいと考える人々のバックアップをする」と宣言されていますね。
あるとき、大手有名予備校の元講師らが設立した予備校から「年間1,500本の教材を作成したいが、資金はまったくありません」というアプローチを受けました。前例はありませんでしたが、当社のシステムと、一般の機材を組み合わせれば不可能ではありませんでしたので、私たちは思い切って「このシステムをとおして得た売り上げの3割をください。その代わり、初期費用、開発費用、ランニング費用は一切いただきません」と言ったのです。それが、今、自社スタジオからさまざまな機材までを無償でお貸出ししはじめたきっかけです。今では、こうしたeラーニングの作成のみならず、Ustreamの番組作成のためにも、スタジオ、機材などを無償提供しています。 手塚治虫が、若手漫画家に住まいと仕事を提供したというトキワ荘の話がありますね。私たちが、イメージしているのは、デジタル版トキワ荘です。映画監督が自分の映画を紹介したり、これから売り出そうというアイドルの番組をつくったり――キラーコンテンツを持つ作家のタマゴを発掘する現場になればと思っています。 当社のスローガンに入っている「学び」と言うにはやや幅が広いのですが、「情報を発信したい人」と「知りたい人」をつなぐことをとおして、よろこびを生み出せることにやり甲斐を感じています。 今後、私たちは情報のプラットホームになりたいと考えています。バルブをひねれば、費用を気にせず水を使える水道のような、生活の基盤となるものを提供していきたいですね。
取材日:2010年10月
株式会社キバンインターナショナル
- 代表取締役社長:西村正宏
- 事業内容:
- eラーニング教材作成ツールの開発、販売、カスタマイズ(PC用教材作成ツール、モバイル用教材作成ツール)
- コンテンツ開発補助、コンテンツ販売システムの提供
- 設立:1998年3月29日
- 資本金: 10,000,000円
- 所在地 :〒101-0021 東京都千代田区外神田6-7-3 セイコービル4F
- TEL:03-5846-5800
- FAX:03-5846-5801
- URL:http://www.kiban.jp/
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