「視聴率さえとれればいい」 という風潮に 背を向けて活動してきた
- 東京
- 株式会社ジャンプコーポレーション 代表取締役 松本直規氏
テレビ界の最大の構造変化は、 視聴率でスポンサーがつかなくなっていることです。
テレビ業界、テレビ番組制作業界は、かなり厳しい状況にあるとか。
テレビ業界の不況は、もう間違いなく、経済不況のせいではありません。宣伝費の分配の変化です。業界はネガティブな時期に入った。私は、そう判断しています。数年前から予見はあって、だから準備もしていたけれど、これほど早くここまで悪くなるとは思わなかったですね。
暗いトンネルを抜け出るには、何が必要なのでしょう。
テレビがこの世から消えることは、まずありません。ですが、ビジネスの構造、制作の構造は劇的に変わって行かざるを得ないでしょうね。そんな中で、私たちのような、受注産業であるテレビ番組制作会社がどう立ち回るべきか、生き残っていくかは、文字通り暗中模索と思います。<br /> 私自身もそうですが、当社のスタッフたちも全員、マスメディア上で自身のアイデンテティを示すことにプライドを感じて企画、制作にたずさわってきた者です。インターネット興隆などに直面している現状は、江戸時代のランプ職人が、文明開化で電灯が出現した時代にどう対処するか悩んでいるようなもの(笑)。私には、そう感じられます。
現状分析が、必要なようですね。
テレビ界の最大の構造変化は、視聴率でスポンサーがつかなくなっていることです。以前は高視聴率の番組には、内容などどうでもよく、スポンサーが出稿の順番を待って列をなしました。ですが、多くの視聴者を獲得した番組枠にドーンとCMを打って、大量消費を期待する企業は減っているのです。CM出稿料への費用対効果の評価が、日に日に厳しくなっている。ものが売れにくくなっている時代に、どうするかということなんでしょう。 ですから、逆に視聴率は悪くても、企画意図に賛同したスポンサーが腰を据えて応援する番組が徐々に増えています。 その点、長く「視聴率さえとれればいい」という風潮に背を向けて活動してきた当社には、追い風が吹き始めたとは思います。
映像コンテンツづくりをビジネスと考えるのは、 決して卑しいことではないのだから。
視聴率至上主義が、崩れ始めているということですね。
当社の企画、制作で10月から日曜よる6時半から、30分の科学番組をスタートさせます。スポンサーは大手光学器機メーカー。企画段階から「視聴率は、低くてもいい」、そのかわり真正面から科学を扱って欲しいと申し渡されています。それが、技術企業としての企業姿勢を示すことになるからと、狙いも明確です。視聴率は低くても、真摯な内容ならば、長くつづける。そんな制作者冥利に尽きる申し出をしてくださるスポンサーさんが、現れ始めているのです。 この場合、スポンサーはもう、明らかにテレビCMを通してものを売ろうなんて考えていませんね。
「視聴率が悪くても、スポンサードする」とは、制作者にとっては嬉しいことですね。
これまで、テレビ番組のつくり手は、少々極端過ぎたのだと思いますよ。一方に「俺たちはつくり手だ」という気概が立ち過ぎて、スポンサーの意向など無視するのが当然と考える人たちがいて。もう一方には、スポンサーの意向を尊重するということは、魂のないものをつくることだと勘違いしてつまらないものをつくっちゃう人たちがいる。 映像コンテンツづくりをビジネスと考えるのは、決して卑しいことではないのだから、もっと普通にすればいいのにと常々感じていました。当社に特徴があるとしたら、その点でしょうね。途中からスポンサーの横槍が入るのがいやなのは私も同じですから、ならば最初からちゃんと意向を聞こう、引きだそうというスタイルを心がけてきました。会社のスタッフにも、それは徹底させています。他業界の人には不思議に思われるだろうけど、そういう考えは、テレビ業界ではとても少数派だったのです。
大型科学映画など、 ユニークな着眼点でのコンテンツビジネスに進出。
そのように本業でがんばる一方、予見に沿って準備はしていた。つまり、他の分野への進出も果たしているのですね。
インターネットに目を向けたのは、かなり早かったですよ。2000年に政府の肝いりで始まったインターネット博覧会も、企画を仕掛けたのは当社ですし、運営の実務も請け負っていました。 当時、インターネットに興味を持ったのは、もちろん私だけではありません。ただ、映像コンテンツから発想するとどうしても映像コンテンツの配信にこだわることになるようで、そのような着想のチャレンジは軒並みうまくいきませんでしたね。そんな単純なビジネスモデルは通用しそうにないと直感したので、手を出さずに正解でした。
大型科学映画の制作は、かなり興味をそそられるエピソードです。
大型科学映画の『ミラクルダイナソー』、『ミラクル昆虫王国』、『アクアプラネット』は、NHKの所蔵するハイビジョン科学番組映像の2次利用企画です。科学館向けにアーカイブ映像を活用し新しい作品として再構成し、追加撮影も加えて、デジタル上映用の大型科学映画をつくる企画は、全国紙に出た「日本の学生の理科と数学の水準が、世界ランクで下がっている」との記事からひらめきました。記事の切り抜きを持ってNHKに出向き、配給会社との提携も含めて提案。1作目の『ミラクルダイナソー』が1年で制作費を回収したため、関係者から驚きの声があがっていましたね。そのおかげで第2弾、第3弾が制作できています。
科学館上映用映像コンテンツとは、目のつけどころがいいですね。
実は、私は、科学館フリークなんです(笑)。日本の科学館も大好きですし、海外へ出かけたときにはまず科学館を探し、訪問するほど。あまり知られていませんが、実は、欧米の科学館は、基本的に大人向けなんですよ。日本のように子供だけを対象にした科学館は、ほとんどありません。大人向けでありながら子供にも人気なのはニューヨークの自然史博物館くらいなものと思います。おもしろいでしょう。
自主制作コンテンツ 『第三の極 チベット 天空への道』が見せてくれる、可能性。
他には、話題はないですか?どうやら、もっと興味深い取り組みがあるらしいと耳にしているのですが。
究極の新しいアプローチと言うなら、自主制作でしょうね。『第三の極 チベット 天空への道』がそうです。制作費はすべて当社の持ち出しでつくった2時間番組、完全に自主制作です。チベット高原を鉄道路線で訪ねるドキュメンタリーはすでにありますが、陸路レポートしたものはまだない。ならばやってみようと進めた企画です。
自主制作ということは、オンエアの保証のない、テレビ番組コンテンツということですね。
できあがってから、「オンエアしませんか」と営業している(笑)。これまでのテレビ界では、ありえないやり方です。今年、某デジタルBS局が開局記念特番としてオンエアしてくれました。もちろん、放映権を購入してもらったわけです。売るのは放映権のみで、その他の著作権はすべて当社の権利というのがこのやり方の特徴ですね。これまで、いくら心血を注いでよいものをつくっても、ほとんどの権利をテレビ局に持たれていた私たち制作会社にとって、かなり溜飲の下がる場面です。
そうですね。つくった者が諸権利を保有するなんて、とても当たり前に思えるし、これまでその当たり前がなかったわけですから。
溜飲が下がる分、リスクも負わなければなりません。事実、今回の放映権料だけでは、まだ制作費は回収しきれていません。 ただ、今回のケースは、デジタルBSのように新しくできたメディアには、『第三の極 チベット 天空への道』のようなクオリティを持ったコンテンツはニーズがあると証明してくれました。一筋縄ではいかないと思いますが、自主制作に成功の可能性があることは十分にわかったと思っています。
取材日:2009年9月
株式会社ジャンプコーポレーション
- 代表取締役社長:松本直規
- 業務内容:
- 企画制作
- テレビ・ラジオ・映画の企画立案及び制作
- 音楽製作・ステージの企画・制作
- イベントの企画立案及び制作
- VTR・CM及びVPの企画・制作
- クリエイターのマネージメントの育成及びプロモーション
- テレビ・ラジオの構成作家・シナリオライター・演出家・作家・タレント・文化人等企画開発
- マーチャンダイジング・SPのコンセプトワーク
- プレミア商品の開発・その他イメージプランニング
- 設立:1995年9月13日
- 資本金:2300万円
- 所在地:〒107-0052 東京都港区赤坂1-6-8 井上赤坂ビル6階
- TEL:03-5561-7810
- FAX:03-5561-7811
- URL:http://www.jump.co.jp/
- 問い合わせメール:こちらから
クリエイターズステーション「風雲会社伝」第53回にご登場いただいた 株式会社ジャンプコーポレーションさんの作品 「第三の極 チベット 天空への道 ~神々を宿す大地 3000キロ 大走破!~」のスペシャルページです。 この作品は、従来のテレビ番組制作の枠を超えた自主制作番組。 チベット高原3000キロを陸路で追った壮大な作品となっています。 著作権は株式会社ジャンプコーポレーションに帰属していますので、放送、上映を希望される方はお問い合わせ下さい。
株式会社 ジャンプコーポレーション 総務部 原 お問い合わせ:m-hara@jump.co.jp
人は何のために生まれてきたのか? 人は何に向かって生きていくのか?
人間という小さな生命。 その生命にはとめどもない可能性が秘められている。 しかし、一旦立ち止まって見つめてみると自分自身にはどうにも出来ない大自然の存在を感じずにはいられない。 その大自然に身をゆだねた時、人はその己の小さな存在に気づくはず。大自然への恐れに、おのずと頭を垂れるに 違いない。地球のなかで、いまだ手付かずの美しさ、強さを感じ取れる場所があるとするなら・・・ そんな想いに応えてくれる場所・・・・・・それはチベット!
海抜3000~5000メートルのチベットの大地 3000キロに及ぶ、陸路「シルクロード南路」
2008年3月に起きたチベット騒乱以降、不安定な状態が続き、中国との緊張が高まるチベット。 この番組は、騒乱が起こる半年前のチベットでその圧倒的なまでの大自然をフルハイビジョンで三週間にわたり撮影した作品である。 海抜3000~5000メートルのチベットの大地を、チベット鉄道の鉄路ではなく陸路を選択し世界初公開の地域も含む「シルクロード南路」を辿って撮影を敢行した。 チベット鉄道のルートは2000キロだが、今回の撮影はシルクロード南路、そのとその周辺に広がる壮大な大自然を求めて陸路を三週間にわたり撮影したものである。
大自然における生命の営み、息吹 そのすべてが語り掛けてくる無言のメッセージ
シルクロード南路は、従来中国の許可が出なかったエリアであるため、特別許可の下で撮影を行った。 息を飲むほど厳かな大地と山々、祈りに身を捧げ五体投地を行いながらラサを目指す人々など、カメラは、道中で出逢った天空への道への道にある大自然の営み、そしてその地で生きる人々の姿を捉えた。 そして鉄路では決して出逢う事の出来ないこれらの風景を捉えたその移動距離は実に3000キロにも及んだ。 大自然における生命の営み、息吹、その全てが語り掛けてくる無言のメッセージを番組では 一方的に語ることなく、「仏陀の教え」を最も純粋なかたちで継承したチベットの先人たちの悟りの「心の言葉」と 重ね合わせて五感に訴える形式で構成されたテレビエンターテインメント作品となっている。