海外で名をあげて、逆輸入 そんなパターンをやれないかなあと・・・
- 東京
- 株式会社クルーザー 代表取締役 市川マミ氏
有限会社一億円プロジェクトから分社独立し、 株式会社クルーザーを設立。
会社としては、規模は小さいんですよね。
メインは、私と監督の古屋雄作になります。業務は、クリエイター/古屋雄作をマネジメントと古屋作品のプロデュース。現在はほぼ、それのみに特化している会社です。
古屋雄作という才能のために、会社をひとつつくってしまった。
そうですねえ。ただ、正確に説明すると、古屋との仕事は、2006年以来ずっと有限会社一億円プロジェクトという会社を通してやっていたものなんです。一億円プロジェクトは『夢をかなえるゾウ』などで知られる水野敬也のつくった会社なのですが、古屋作品の制作業務が結構忙しくなってきていて…古屋関連の制作会社と水野敬也のマネジメント会社を分ける目的で2008年に分社したんです。
水野さんは、著述業ですよね。その会社で古屋さんの作品をつくっていたのは、なぜ?
ふたりは、中学時代からの幼馴染なんですよ。一億円プロジェクトは水野のつくった会社で、水野の講演を古屋が手伝っていたり、2人でプロジェクトをやっていたりしてたんです。2004年に私が水野と出会ったことがきっかけで、私は一億円プロジェクトの社員となり水野の手伝いをし、社長を任されたりして。そしたら、2006年に今度は古屋のデビュー作のリリースが決定し、そこから、私はなぜか古屋作品DVDのプロデューサー兼AD的な役回りをやることになったんです。水野がある日、事務所に興奮気味に戻ってきて「マミさん。古屋とも相談したんですが、マミさんにDVD制作の方を手伝ってもらおうと思って!」って(笑)初耳すぎてビックリしましたし、やり始めてからも「明らかに向いてないんですけど、私…」と思いながらやってました(笑)でも何とか順調にきて、作品が注目され始めて、社内でDVD制作業務が結構占めることになってきた、という感じですね。
古屋雄作さんって、どんな人?
天才的かつ変態的な人ですね。あと、作品においては非常にサディスティックです(笑)。いつも思うのは、出してくる企画が絶えないし、出すスピードが速いです。実現できてない企画が沢山あります。欠点としては、いわゆるマーケティングとか契約やお金の話とか、そういうのは全然ダメみたいです。説明しても途中で「ちょっと、わかんなくなってきましたね…」って、打ち合わせの席でも半目になってウソ寝を始めます(笑)。だから、この会社はそういう意味で必要だったんだと思っています。
彼のお気に入りのタレントは、古屋用語で「ポンコツ」。 やる気はあるけど、空回りしてしまう俳優、タレントの意味。
古屋作品って、なんというか――すごいですね。それが、うけている、ヒットしているというのもまたすごい。日本の映像コンテンツも、豊かになったなあという感慨がわく。
古屋作品ってテレビの人からしたら、「これ、30分番組の5分コーナーじゃん」って思う人沢山いると思うんです。「えー?この切り口で1本いっちゃうの?!」みたいな。今はどうかわからないですが、ちょっと前のテレビ だったら、企画書の時点で確実に落されてると思います。マーケティングとか時代性とか、一切関係ない企画ばかりなので(笑)
そういう、ニッチなところを狙った?
まったく狙ってはないですね。そもそも古屋がそういう企画ばかり思いつく人なので。古屋がDVD作品をつくるきっかけは、「自分の作品がTSUTAYAに置かれる」「自分の作品のコーナーができる」、そんな夢があったみたいで。 じゃあ、まずは量で攻めようと。数があることがコーナーづくりの早道でもあるし、3年はハイペースで頑張ろうと。そうすれば、メディアがとり上げないわけがないと思ったんです。ほぼノンタレントで実写のオリジナルバラエティーDVD作品を出している人なんて、そういないと思ったんで。そんな意思を互いに確認して、結局3年で、12タイトルを超えました。「バカなもの出しつづければ、誰か取り上げてくれるだろう」とは信じていましたけど、NHKの『トップランナー』から声がかかったのだけは想定外でしたね(笑)。今年一番の事件でした(笑)。
古屋雄作って、どんな監督?
演出家としては、すごいSですね(笑)。まあ、演出家ってそういうもんだと思いますけど。おじいちゃんを起用するのが大好きですねえ。おじいちゃんにある独特の“味わい深い哀愁”がいいみたいで。「笑わせる側」の人として起用するには、おじいちゃんが古屋作品においてはうってつけみたいです。狙ってない感じ、わかってない感じが好都合みたいです(笑)。というわけで、弊社にはおじいちゃんリストが沢山あります。古屋が大好物なのは、古屋用語でいう「ポンコツ」ですね。やる気はあるんだけど、空回りしてしまうというか、そもそも演技力が相当危ういというか、いくらリハをしても全然セリフが覚えられないというか…(笑)。そういう、普通の作品では間違いなく「ナシ」とされる人たちを、「逆にアリ」に見せるのはうまいですよね。ほかの作品ではたぶん「ダメ」とされている人が「面白い」風に見えてしまう。あれは古屋マジックですね(笑)。冒頭にSと言ったのは、自分でそういうポンコツな人たちを選んでおいて、演出の現場では「なんで、それができないんですか」とイライラしてたりするんです。「いやいや、わかってて、アンタが選んだんじゃん」って毎回思います(笑)。
なるほど(笑)。そういう作家ありてあの作品あり、ですね。
最初は、さすがに私も戸惑いました。ほんとに、意外なところで古屋はひとりで大爆笑する人なので(笑)。一緒に作業をしていくうちに、だんだん理解出来るようになってきた感じですねえ。 ちなみに、キャスティングを相談する事務所の間でも、徐々に古屋テイストが理解されるようになっているようで。「古屋枠」を設けてくれる事務所も出ていて、「こういうタイプ、古屋さんお好きでしょう?」とキャストの紹介をしてくれるようになってきました。これはありがたいことだなあと思います。今まで説明するの、大変だったんで…(笑)
「後輩オーディション」というのがあって、 「僕たちの後輩になることを希望する人、集まれ」 とやっていた(笑)。
市川さんは、元放送作家でもある。作品には、アイデアを出したりして参加することもあるのでしょうね。
今は、自主的にはあまりないですねえ。どっちかっていうと、古屋からのアイデアを吸い上げて、整理して、どういう風にリリースしていくかを考えて、実行するというポジションです。DVD制作においては少数精鋭方針でやっているので、古屋が監督で、私はプロデューサー兼AD兼制作兼…という感じでやってます。ちなみに、私はもともと「適職は他人が決める」と思っていて…自分の希望や夢なんかより、他者の客観評価の方が数段的確だと思っているんです。そっちの言葉にノッた方が、人生、運良く進むと思っているんです。で、不思議なことにこの仕事をやり始めてから、会う人ごとに結構な比率で「この仕事、すごく向いてますよねー」と言われるんです。明らかに、放送作家時代より言われてる気がするんです(笑)。それを踏まえると、「人が向いてるって言ってくれてるんだから、最低5年は腰を据えてやろう」と思っています。放送作家業は、たまに知人のディレクターが、今の私の状況を知っていながらも誘ってくれることがあったりして、それはやらせていただくこともありますが、基本的に社長業務に専念しています。
プロデューサーとしては、リクープラインの設定などが重大な責務になりますね。
そうなんですよねえ(笑)。でも、その辺はメーカーのプロデューサーといろいろ相談してやってます。というか、メーカーのプロデューサーの方が大変だと思います(笑)。DVDってたとえばテレビ制作と比べると、そんなに大金の予算があるわけではないんです。でもその分、企画に自由度がきくんですけど。だから1本ごとちゃんと会社として利益が出るようにはもちろん計算しています。
会社として、人員等の拡大は考えていない?
正社員として採用することは、今のところ考えていません。そもそも、そんなお金ないです!(笑)。たとえばDVD作品ごと、契約ディレクターみたいなパートナー的な意味でのスタッフは常にいたらいいなあと思ったりはしますけど。いわゆる、既存のテレビ番組制作会社のような成長をさせるつもりはないですよねえ。機動力という意味と、スピードという意味では、現在の体制が、今は合っていると思っています。ただ、いつも協力してくれるメンバーがいるんです。実際のDVD制作が始まると――これも、一億円プロジェクト時代に水野&古屋コンビが始めたヘンな企画なんですが、「後輩オーディション」というのがあって(笑)。「僕たちの後輩になることを希望する人、集まれ」とWEBで呼びかけたんです(笑)。ここまで3回開催したんですが、そこで集まってくれた人たちが沢山いるんです。そういう、普段は普通の仕事をしている後輩たちの中に、現場を手伝ってくれる子がいて、撮影がある時は声をかけると来てくれますね。会社に有給とって来てくれたり、引きこもりの子は家を出てきたりして(笑)。それがとても助かってます。
ジャンルとしての「リアルコント」を確立するのだ! というのが、最近のテーマですね。
なんか、大変だけど、楽しそうだ。
いやあ、楽しいです!ほんとに!(笑)。こんなスタイルで働けるってアリなんだ!っていう発見です(笑)。放送作家時代ももちろん楽しかったですが、それ以上ですね。古屋は、つくるのが好きだし、アイデアも湯水のようにわきでるけど、まとめたり、説明したりとかが苦手な人なので、私がアイデアをまとめて、プロジェクトを進めるのはコンビとして合っているなあと思います。自分の性にも合ってますね。
才能に出会った幸運であり、悲劇。引き受けて、まっとうするしかなさそうですね(笑)。
そうですねえ。頑張ります!(笑)
で、今後の構想は?劇場公開映画とか、やってもいいのでは?
映画は、いくつかオファーをいただいています。けど、古屋を普通に映画監督デビューさせるのはなんか普通なので、何か「プラスアルファ」的なアイデアとか切り口の面白いものにしたいと思って、色々と考えてます。たとえば、日本で映画撮るより、古屋作品を海外に出すことのほうが先かもしれないし、それをやりたいなあと思っています。こないだ海外の関係者と話したんですが、古屋のやっていることはモキュメンタリー(Mockumentary)というジャンルに合致するので、意外と海外の人の方がすごく理解が早いんですよね。海外で名をあげて、逆輸入。そんなパターンをやれないかなあと思っています。
モキュメンタリー(Mockumentary)か。『スカイフィッシュの捕まえ方』は、フェイクドキュメンタリーと称してますよね。このジャンルは、この作品だけ?
『R65シリーズ』やミュージシャン・ノリアキが主演する『カリスマ道』なんかも、そこに入りますね。あと、最近古屋は、自分の作品を例えるときに「リアルコント」という言葉をよく使ってます。古屋の造語ですけど(笑)。 やりたいことを突き詰めていくと、どうやらコントなんだと再確認したらしいです。でもそれは、いわゆる、セットをバックに、カツラをかぶって、小道具振り回してというのではなくて…リアルな世界観、設定、エキストラ、ロケ場所の中で、主役の人だけおかしいっていう(笑)。だから、次はジャンルとしての「リアルコント」を確立していこうと思っています。
楽しんで、がんばってください!
そうですね!来年は特に、いかに古屋の「かけ算」をオーバーなことにしていこうかと企んでます(笑)。――古屋×『トップランナー』は、やっぱり個人的にありがたい上に面白かったので、たとえば、古屋×カンヌとか、古屋×MTVとか、どんどん面白そうなかけ算を実現していきたいですね。古屋作品のくだらなさからいくと、かけ算の相手が高ければ高いほど、面白いなあと思うので(笑)。
市川社長より、今号でご紹介させていただいた古屋監督作品をプレゼント用にいただきました! 抽選で3名の方にプレゼントいたします。いずれも今年発売されたばかりの最新作です。ご自宅で古屋監督ワールドをご堪能下さい!
- R65 老人魂
- カリスマ入門 【第1巻】
- ハリウッドスターになろう! オンエア編集版
- ご希望の方は、下記のフォームからお申込み下さい。(どの作品が届くかはお楽しみです)
取材日:2008年10月
株式会社クルーザー
- 代表取締役社長:市川マミ
- 業務内容:
- DVD 企画制作
- テレビ番組企画制作
- DVD に登場するキャラクター等を利用した各種マーチャンダイジング
- キャラクタープロデュース
- CD、楽曲の企画・制作
- WEB コンテンツ制作
- 映画製作
- 設立:2008年4月
- 所在地:東京都目黒区大橋
- URL:http://www.thecruiser.jp/
- 問い合わせメール:こちらよりお問合せ下さい
- ブログ『女社長市川マミのクルーザー航海日誌』http://ameblo.jp/cruisermami/