クリエイターを育てるには ちゃんとしたフィードバックのある 環境は不可欠
- 東京
- 株式会社スペースポート 取締役社長 上田壮一氏
お金に執着せず、良いものをつくり、 それを評価されることに喜びを見出すクリエイター気質。
このような会社が生まれた経緯に、とても興味をひかれます。
まず、私自身に環境や社会貢献への強い興味があったこと。それが大きな要因のひとつです。私は、大学の機械工学科でコンピュータサイエンスを学んだのですが、いわゆる理系の人間って、けっこう社会貢献に関心が高いものなんです。「新しい技術を生むことで、この世界にどんな貢献ができるか」なんていう会話が、日常的にかわされていますから。 そしてもうひとつ、1996年前後にフリーランスの映像ディレクターとして活動していた私が、とある通信会社のプロジェクトに「アースウォッチ」という企画を提案したのが大きなきっかけになりました。その企画は現在、「アースウォッチ wn-2」として市販(Think the Earthプロジェクトの通販コーナー→http://thinktheearth-shop.com/で販売中)されていますが、そのプロジェクト主体として会社を設立する必要に迫られたのです。
「アースウォッチ」販売が、会社設立のきかっけになったわけですね。
そうです。企画を出し、プロダクト開発はメーカーに任せるが、販売や在庫リスクは自分で担うことになった。それで会社組織が必要になったのですが、設立にあたって共に商品開発を行った仲間や、ブレーンとなってくれた方たちに相談したら、「その会社は、金儲けのためだけにつくるのか」「せっかくつるなら、そんなことではつまらないだろう」となったのです。
それで、“ソーシャル・クリエイティブ・カンパニー”なるコンセプトも生まれた。
ただ儲けるだけではなく、収益の一部を社会貢献に役立てるために「Think the Earthプロジェクト(http://www.ThinktheEarth.net/jp)」というNPOを設立。当時(2000年)としてはかなり新しい、というか誰も思いいたっていないビジネスモデルを立ち上げることになりました。
とにかく、「クリエイティブの力で持続可能な社会の実現をめざす」という着想がすごいですね。できそうでできない、発想だ。
私自身はもともとクリエイターではなく、エンジニアを志望していました。しかし、広告代理店のマーケティングセクション在籍時に、クライアントに恵まれ、コンテンツづくりのプロジェクトに多くかかわることができました。その経験から職を辞した後は映像ディレクターとして活動しましたし、クリエイターたちの気質も理解していました。 お金だけに執着せず、良いものをつくり、それを評価されることに喜びを見出すクリエイター気質は、社会貢献との親和性がとても高いのだと思います。
制作、ときには販売まで関わるからこそ、 次の企画につながるフィードバックを手にできる。
会社の事業形態について、説明してください。
当社の特徴は、企画、制作、販売まで手がけることでしょう。既存の事業分類でいえば制作会社に属する会社ですが、「企画だけ」や「制作だけ」を請け負うことは滅多にありません。特に企画と制作は、本来分業されるものではないというのが私の考え。企画だけを手がけることが多かった広告代理店時代に、心からそう感じていましたから(笑)。 制作、ときには販売まで通して関わるからこそ、次の企画につながるフィードバックを手にできるものです。人材育成の観点からも、そこにはこだわるべきだと考えています。力のあるクリエイターを育てるには、ちゃんとしたフィードバックのある環境は不可欠です。
そして、社会貢献や環境問題を扱う。
そうですね。それ以外のテーマに関する案件は、基本的にお断りしています。
NPO団体などへのコンサルティングも手がけていますね。
日本のNPO団体は数も増え、有力な団体は資金も潤沢に、組織も大きくなっています。そうなった団体には、ある意味、大企業のような社会的使命が生まれるのですが、特に、広報分野がとても弱い。 環境保護団体がつい社会との軋轢を生んでしまうことなどにも、情報発信のスキルが低いがゆえの不幸ないきさつがあることが驚くほど多いのが現実です。つまり、彼らはとても真剣に社会のために活動しているのに、コミュニケーションの技術が足りていないのです。どんなことをどう表現して、どんな風に発信するかはまさにクリエイティブの領域です。当社がお手伝いできることは、とても多いのではないかと思います。
環境保護活動などは、あまりエキセントリックになるとかえって反発を招いてしまいますよね。
そうですね。ですから私は、「反対運動はやめて、賛成運動にしよう」と提案しています。ものごとを純粋に考えるあまり、対決姿勢を強くしすぎるのは決して正しいやり方だと思えません。多くの人が賛成できるやり方を見つけ、多くの人の参加を促すことが必要です。
私たちの使命も、関心喚起から一歩前にでて、 関心をアクションに結びつけることになっている。
今後の、ビジョンは?
あくまで個人的な価値観を披露すれば、決まった途端につまらなくなるので、将来のことは決まっていないのがいい(笑)。それをそのまま実行したら、経営者失格なのですが、実は、この分野は、少なくとも今はそうするのが正解かもしれないのです。 特に環境問題のフィールドは、今、激動の時期。それはとても良い激動で、先日の洞爺湖サミットでも顕著なように、環境への関心が世界的スケールで深まっています。ですから、この分野で何かをしようと考える組織も人間も、大きな変化のうねりに対してのかじ取りが肝要になっている。一歩間違えば、すぐに状況にそぐわなくなってしまいますから。 そこで、私は今、社内には「先のことを決めないのが戦略だ」と話しています。
「何をなすべきか?」ということに関しては?
当社やThink the Earthプロジェクトを設立した当時は、関心のない方々に関心を喚起するのが活動の大テーマでした。メディアもまったく関心を持ってくれない時代でしたから。 しかし現在は、状況は一変し、日々社会の認知も関心も深まっています。私たちの使命も、関心喚起から一歩前に出て、関心をアクションに結びつけることになっていると自覚しています。「世界を変えるお金の使い方」や「1秒の世界」といったビジュアルブックは、版元のダイヤモンド社が全国の小・中・高等学校に寄贈していますが、ただ書籍をつくって売るだけでなく、それを教育の現場で活かしてもらうように働きかけるというのもアクションを促す活動になると考えています。
明確なビジョンを持った御社の存在感は、今後もますます大きくなりそうですね。
この先、この分野ですべきことは増えても減ることはないでしょうね。だからこそ、私たちは常に意欲的で実験的であるべきだと考えています。事業形態も、クリエイティブのアプローチも、今ある形が3年後にも有効とは思っていません。 私たちが、「プロダクトではなく、プロジェクトをつくる」を合言葉にしているのはそのためです。試行錯誤の中から、次につながること、もっとも求められることを見出し、取り組んでいきたいと考えています。
取材日:2008年8月
株式会社スペースポート(英語表記:SPACEPORT Inc.)
- 代表取締役/小西健太郎
- 取締役社長/上田壮一
- 事業内容:各種商品、ウェブサイト、携帯アプリケーション、書籍などの企画制作・販売
- 設立:2000年8月
- 資本金:2,000万円
- 所在地:〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町3-1 エムワイ代官山202
- TEL:03-5459-2181
- FAX:03-5459-2194
- URL:http//www.spaceport.co.jp/
- 問い合わせメール:sp-info@spaceport.co.jp
<Think the Earthプロジェクト/公式ウェブサイト> http://www.ThinktheEarth.net/jp