東京

エフ・プラット株式会社 代表取締役社長 神部典之氏

では、創造性流通サービスカンパニーとはいったい何なのかからお願いします。

インターネットの発展によって、デザイン、イラスト、文章、そしてマンガといった創造性のあり方、発信の仕方が大きく変わっています。私たちは、インターネット上に、誰にも開かれた創造性の市場である“クリエイティブ・プラットフォーム”を作っていこうと考えています。

もう少し、具体的な説明を。

これまでのやり方では流通に乗らなかったクリエイティビティを、流通させる仕組みを作っているのです。たとえば、制作予算が5万円しか確保できない中小企業のリーフレットのニーズは、世に数多くあります。しかし、そんな小予算では、普通の広告会社もデザインプロダクションも相手にしてくれない。そういう、つまり、クリエイティビティが限られた人だけのものであった状況を変えたいと思っているのです。見渡せば、個人で、あるいはアルバイトで、5万円のリーフレットデザインを受けてもいいというデザイナーが、実はいる。その間を取り持つのが当社のファーストデザインというサービス。クリエイティブ・プラットフォームが具現化したもののひとつです。

ファーストデザインサイトトップ

ファーストデザインは、どんな仕組みのサービスですか？

まず、グラフィックデザイナーの方々を集めました。WEB上で登録を募り、2008年1月現在、約2300人の登録デザイナーを確保しています。その中でさらに、諸条件を満たし、稼動可能とされるデザイナーが約200人。その方々にはカテゴリー別にプロフィールを公開してもらっていて、閲覧したクライアントさんが自由にデザイナーを選んで仕事を依頼できるようになっています。

発注が決まると、御社がディレクションに入る？

いえ、当社は実作業にいっさい介在しません。ファーストデザインは、システムを提供することに特化したサービスと考えてください。

出会いの場を提供することに、意義がある。

そうですね。そうすることによって無駄なコストが省け、クライアントさんにとってもデザイナーさんにとってもベネフィットのある取り引きが成立するのです。

ファーストデザインサイトトップ

商談、制作進行中にトラブルは発生しないのですか？

もちろん進行管理上のトラブルシューティングは、綿密に行っています。クライアントさんとデザイナーさんのやり取りはすべてシステム上の掲示板で進める仕組みとなっていて、コミュニケーションの内容は常にモニターしています。トラブルになりそうな状況は未然に察知し、当社からアドバイスのメールを送ります。実際にトラブルとなれば、もちろん責任を持って解決にあたります。案件途上で突然中止を宣言してしまったクライアントさんと、今も粘り強く支払いの交渉をしている。そんな案件も、実際にあります。

納品したのに支払ってもらえない、なんていうケースはありませんか？

それは、ありえません。システム上、クライアントさんの支払いが確認できなければ納品のデータ・アップロードはできない仕組みとなっていますから。

FAST DESIGN for Restaurants and Barsサイトトップ

ファーストデザインが、サッポロビールと提携したサービスを開始したようですね。

「FAST DESIGN for Restaurants and Bars」（http://sappro.fast-d.com/）のことですね。ファーストデザインの機能と、サッポロビールさんの顧客サービスのニーズがマッチしたことで生まれたコラボレーションです。ビール業界は飲食店さんの経営サポートが重要なサービスアイテムになっていて、飲食店さんのチラシや店舗デザインへのこまごまとした要望にどう応えるかが大きな課題だった。それには、ファーストデザインがうってつけだったというわけですね。

メジャーな企業からも注目されるファーストデザインには、さらなる成長が見込めますね。今後の、ビジョンは？

社内では、「世界制覇だ」が合言葉になっています（笑）。もちろん決して冗談ではなく、本年中にファーストデザイン英語版を立ち上げることが決まっています。

世界市場に打って出る？

それがネットビジネスの利点ですからね。この仕組みはとてもシンプルで、だからこそ文化の違いはほとんど壁にならないと思うのです。実際、現状でも登録デザイナーの中に海外在住の日本人デザイナーも多く、ハワイのクライアントさんがシンガポールの日本人デザイナーに仕事を発注した案件も生まれています。問題はもう、言語だけ。英語版を立ち上げれば、ここまで育てたビジネスモデルが、そのままインターナショナルバージョンに生まれ変わると考えています。

ユニークな着想は、どこから生まれているのでしょう？

私がITの専門家でないのが、よかったのかもしれない。ITでどう儲けるかとは考えたくても考えられないので（笑）、「ITを使って」何をするかばかり考えていましたから。事業に関して試行錯誤する中で、「デザインって、ほんとうに重要なんだな」ということと、「デザインって、うまく流通していないな」という現状を知ったのが大きな出会いだったと感じています。そして、流通していないのはデザインのみならず、その他のジャンルも含めたクリエイティビティ全般に言えるのだと知り、クリエイティブ・プラットフォームの構想に至りました。

クリエイティブ・プラットフォームの、その他のアイテムは？

「出版できる本屋さん」――マイブックルが好評ですね。これは、いわゆる自費出版の仕組みですが、オンデマンド印刷のシステムを利用していて、出版を希望する人はデータをアップロードするだけでいい。印刷は、1冊でも100冊でも必要な分だけできるし、公開している著作に買い手がつけばその分だけ出版される。つまり、著者に一切のリスクがない自費出版システムです。

なるほど、これまた、これまでにあったものとはちょっと違う仕組みですね。

昨年1月にNHKのニュース番組で紹介され、ちょっとした火がつきました。特に年配の方々がとても興味を示してくださり、たくさん登録してくださっています。

どれもが、ユニークで、使う人が明らかな利便性を感じられるシステムサービスですね。「創造性流通サービスカンパニー」の意味が、よくわかったように思います。

そう言っていただけると、嬉しいですね。当社はどこまでも、クリエイティブに関して素人です。ですが、素人だからこそできる貢献というものがあるはずだし、それこそが「創造性流通サービスカンパニー」なのだと思います。これからも、クリエイティビティの流通に関して新しいアイデアと信頼できるシステムを提供していこうと考えています。

取材日：2008年1月22日