大手の動きを気にせず 自らが市場を形成し 引っ張っていこうという戦略
- 東京
- 株式会社エイト 代表取締役 西澤明洋氏
埼玉県にあるプレミアムビールブランド「COEDO(コエド)」のパッケージデザイン、WEBデザイン(http://www.coedobrewery.com/)で「JWDA WEBデザインアワード グランプリ」「ジャパンパッケージングコンペティション 日本パッケージデザイン協会賞」「日本ガラスビンデザインアワード 審査員特別賞」「日本パッケージデザイン大賞 入選」と、受賞ラッシュの最中にある会社です。洗練と個性をあわせ持ったデザインに目を奪われますが、この会社ちょっと違います。ただのデザイン事務所ではありません。デザインマネジメントを標榜し、ブランディング戦略立案にがっぷりと取り組みます。必要とあれば、市場調査だってします。綺麗なデザイン、目を引くデザインという次元を越えた、説得力、訴求力を生み出している制作会社です。代表取締役であり、デザインディレクター/デザイナーとしてプロジェクトの中心も担う西澤明洋さんにお話を聞いてみました。
リスクを伴うという認識を、クライアントさんと共有しています。
COEDOは、多方面に反響を呼んでいます。
COEDOのデザイン開発には、ここまで足かけ2年かけています。作業はデザインリサーチから始めました。マーケティングのロジックではなく、デザインの視点から、他社のプロダクトの成り立ち、ネーミング、パッケージのデザイン、見せ方などを掘り下げて、調べる。戦略を分析する。そんな作業を重ねて、ビール市場をクライアントさんと一緒に勉強しました。結果できあがった戦略が「Beer Beautiful」。COEDOが10年以上かけて築き上げた技術力の高さを前面に出し、プレミアムビールブランド市場をつくり上げようという戦略です。
市場そのものを新たに形成しようというお考えですね。
プレミアムビールとは、おいしい優れたビールという位置付けを示した言葉です。今、大手メーカーさんもかなり力を入れて市場形成をはかっていますが、食品業界には動かしがたい現実があります。それは、大量生産に長けた大手メーカーには、出せる味に限界があるということ。ナショナルブランドのパンはどんなに頑張っても、良い職人のいる町のパン屋さんの味にはかないません。COEDOには、ずば抜けた技術があり、職人が隅々に目を届かせる規模で動いている。大手の動きを気にせず、自らが市場を形成し、引っ張っていこうという戦略は、そんなところから生まれました。
しかし、斬新なデザインです。
振り切ったデザインですよね。ビールでこういうことをやるのはリスクを伴うという認識は、クライアントさんと共有しています。新しいものをつくろうとするなら、既存のビールパッケージとは距離をとり、それがビールに見えるか見えないかのぎりぎりの線に落とし込むべきだろうと考えた。ただし、やりすぎて店頭でお客さんがビールと気付けないようでは困ります。今回はデザインリサーチの結果、ビールと認識してもらえるためのグラフィックのルールがあることは突き止めていたので、そこを押さえれば大丈夫だという確信はありました。
オーナーさんと直接コミュニケーションのとれるケースであることが仕事の条件。
デザインマネジメントとは?
企業経営におけるデザイン資源の全体的運用管理をデザインマネジメントと呼びます。日本では60~70年代にかけて先端企業での実践例があらわれ始め、80~90年代に学問として大きく進展した分野です。それまで、たとえば企業のブランディングプロジェクトにグラフィックデザイナーが参加する場合、役割は立てられた戦略に沿ったデザインをすることだけでした。戦略はマーケッターやプランナーが立てた。しかし、その戦略立案のプロセスも、デザイナーの視点で、デザイナーが組んだロジックでつくることができるはずだ。僕はそういう視点でデザインマネジメントを深く掘り下げていこうと日々実践しています。
西澤さんは、大学でデザインマネジメントを勉強されたのですね。
はい、そうです。大学院に進んで、研究もしていました。今は、非常勤講師として母校(京都工芸繊維大学)で教鞭もとっています。
やはり、既存のデザイナーとは取り組み方がまったく違います。
そうですね、これまでのデザイナーは、まず受け身ですから。僕も会社員時代には、いやというほどそれを体験しました。エイトを立ち上げた目的は、一緒にものづくりをする提案をしていきたいから。ですから、ある意味クライアントさんも選ばせていただいています。現在は、基本、オーナーさんもしくはプロジェクトの決裁権のある人と直接コミュニケションのとれるケースであることを仕事の条件にしています。結果的に中小の企業さんとのお付き合いが多くなっています。
広告会社や広告代理店と組むことはないのですか?
これまででは、そのケースはないですね。良い機会があれば組んでみたいと思っていますが。クライアントさんとダイレクトにやりとりでき、長いお付き合いをさせていただける環境が、良いデザインを生み出す条件だと思っています。
そのやり方で、顧客獲得、新規開拓はできるのですか?
幸運にも、いくつもの出会いが重なって仕事につながっています。僕はデザインマネジメントの研究者でもあるので、その活動の途上で様々な人に出会います。特にここまでは、僕と同年代で起業した人や、企業の2代目、3代目として経営を引き継いでいる若手経営者と出会うことができています。やはり、そういう経営者さんとは、気も合うし、経営戦略などでも意見が一致しますね。ちなみにCOEDOのプロジェクトは、33歳の副社長さんと一緒に進めています。
会社にとって使い勝手のいいデザインには、言語化はとても重要です。
メーカー勤務の経験があるようですね。
大学院を卒業し、2002年に大手電機メーカーに入社しました。デザインセンターに勤務し、デザイナーとして開発を担当していました。独立したのは2004年で、その折は今とは違う会社を有限会社で立ち上げましたが、2006年にそこを離れて株式会社エイトを設立しました。
大手電機メーカーでの職を捨てることには、躊躇はなかった?
もともと、デザインマネジメントを究めたい、ものづくりを仕事にしたいというビジョンが固まっていたので会社を辞めること自体に躊躇はありませんでした。もちろんリスクについては、よく考えました。すでに家庭も持っていましたからね。結局、僕の考えでは、独立する時期を遅らせれば遅らせるほどリスクが高まるという結論に達した。当初は5~6年は在籍するつもりでしたが、結局2年で独立となりました。
西澤さんが手がけているデザインは、グラフィックデザインですか?
僕は、デザインのジャンルをあまり意識しません。クライアントの立場に立てば、願うのは会社や事業をよくしてくれるデザイン。それがグラフィックデザインか、空間デザインかはこちらが必要に応じて使い分ければいいことです。デザインをどう使うかを一緒に考えていく――そういう意味でのデザインのプロフェッショナルでありたいと考えています。
実際のデザインで、心がけていることは?
僕がデザインするにあたって大切にしているのは、まず構造。ちゃんとした構造を持っていて、かつ「言語化」されたデザインであることを目指します。お客様と一緒にものづくりしている以上は、デザインは言語化できる次元まで組み上げられていないと会社のシステムに還元できないのです。なんとなく「これかっこいいでしょう」では、お客様だって「そうですね」で終わってしまいます。会社にとって使い勝手のいいデザインとするためには、言語化はとても重要だと考えています。
ネットを使ってオリジナルプロダクトを発信、販売しようとするデザイナーが増えている。
「Project8」とは何ですか?
つくり手として、自分から発信するものを年に1~2個生み出したいと考えています。それが「Project8」です。これまでのデザイナーは受け身でしたから、そこから脱却したいという意識が強いのですね。この4月から「Project8」第1弾として、寄木でつくった酒道具「双猪口-futachoco-」をリリースします。ネット販売もします。
「Project8」の活動も、デザインマネジメントの範疇に入るのですか?
入ると考えています。ここ数年、ネットを使ってオリジナルプロダクトを発信、販売しよう試みるデザイナーが増えています。それをお金儲けの手段ととらえてしまえばそれまでですが、僕には、デザイナーたちが自分をブランドとしてどう成立させるかと考え、取り組んでいるように見えます。とてもデザインマネジメント的な動きだと思います。
今後のビジョンは?
僕の取り組んでいるデザインマネジメントの実践は、まだ結果を出そうとしている途上。ですから当面の目標は、ちゃんと結果を出すこと。幸運にも出会うことができたクライアントさんと一緒に、コツコツとものづくりに取り組み、着実に前に進んでいきたいと思います。
取材日:2007年3月8日
株式会社エイト
- 代表取締役:西澤明洋
- 資本金:500万円
- 事業内容:デザインおよびブランディング
- 設立:2006年5月
- 所在地:〒104-0045 東京都中央区築地1-8-1 泉ビル4階
- TEL:03-3547-6636
- FAX:03-3547-6637
- E-mail:info@8design.jp
- URL:http://www.8design.jp/