カタチという制作者集団は 純粋なプロダクト表現をし その力を広告制作でも発揮できている
- 東京
- 株式会社カタチ 代表取締役 干場邦一氏
大阪生まれの会社が、社員全員で東京進出。 本気で勝負に出ている制作者集団。それがカタチ。
干場さんは大阪の広告制作会社育ちで、独立も大阪。株式会社カタチも大阪で設立し、後に東京に進出したんですね。
そうです。2004年に社員全員で上京してきました。
デザイナー個人が一念発起して東京進出というのは決して珍しいことではありませんが、会社が、社員総出で上京というのは聞いたことがないです。
指摘されると、さすがにそう思いますね。みんな、よくついてきてくれたよなあ(笑)。でも本当に、当時はそんなことは問題にならなかった。僕が「東京に出よう」と言い出したら、ほとんどのスタッフが「わかりました」と受け入れてくれました。残念ながら、家庭の事情で大阪を離れられない社員がひとりいましたが。
若いクリエイターの集団が、目的を一にしているからこそできることなんでしょうね。リスクを払うことに躊躇がない。
僕は今45歳で、そんなに若くはないんですが(笑)。会社を辞めたのも40歳で、なんの相談もせずに決めたから、奥さんが、けっこうマジで青ざめてましたね。「信じられない」の一言に、「なんで今さら」や「ちょっと騙されたかも」が微妙に混じっていたような気がします(笑)。
40歳で独立、43歳で拠点変更というのは、確かに微妙なタイミングですね。干場さんが、そんな大きなリスクを払ってまで動いた動機は?
勝負したかったから。それに尽きます。独立も勝負するためのことでしたが、やはり本気で勝負するなら東京に行くしかないと思うようになったのです。
勝負というのは、「no quiet」で?広告デザインで?
両方です。
既存ブランドが高名なグラフィックデザイナーにデザインを依頼するというケースは知っていますが、広告デザインを手がけている会社とデザイナーがオリジナルなプライベートブランドを持ち、その双方に本気で取り組んでいるというのはかなり稀なケースだと思います。
そうかもしれませんね。でも、決して余技としてではなく、本気でプライベートブランド「no quiet」に取り組むことが、広告デザインにも良い影響を与えている。カタチという制作者集団は、ブランド事業のプロダクト開発で純粋なプロダクト表現をし、その力を広告制作という制約の多い世界でも発揮できているのです。
「私はこんな風にして着てます。使ってます。」というお話を聞く機会 もあり、まさに“我意を得たり”の気持ちになります。
経歴を読ませていただくと、干場さんは前職(株式会社ズーム)在籍時にオリジナルブランド開発を経験しているんですね。
そうです。その時の経験がすべての始まりです。いわゆるバブルの金余りが発端ですが、会社が「何か新しい事業のアイデアはないか」と社員に呼びかけ、結果、僕のアイデアが採用された。「AIRWARE」というブランド名で、チューブウォッチという、チューブの中に文字盤のある腕時計を発表しました。
そこでプロダクトデザインとプロダクト事業の面白さを知ってしまった。
そういうことです。あの事業では、デザインだけでなく、販路開拓まで自分でやりました。貴重な体験ができました。
「no quiet」には「物申す」という意味があり、「大量消費を促す既存の市場システムに対抗したい」との思いが込められているそうですね。
はい。目指すのは、独創性のあるデザインで、流行や季節に関係なく継続して販売できる定番商品を作ることです。
服もあれば家具もある。ステーショナリーやカレンダーまであって、その雑多さが逆にポリシーなのだと感じます。
最初からアイテムはまったく限定せずにデザインを進めました。要は、自分がほしいもの、あったらいいなと思うものを作ったわけです。
「取り外して、組み合わせを変えられる」。服やカップにまでそういう機能を持たせた斬新さに関心します。
けっこう評判いいですよ(笑)。ユーザーさんから、「私はこんな風にして着てます。使ってます」というお話を聞く機会もあり、まさに“我意を得たり”の気持ちになります。
売れてます?
正直、まだまだこれから。ラインナップもこうですから、売り手泣かせであることは事実なようです(笑)。ユーザーがカスタマイズして楽しむものというコンセプトも、初めて接する人には多くの言葉で説明する必要がありますからね。もうしばらくは苦労すると思いますが、コンセプトを動かさず、地道にファンを増やす作業に取り組んでいくつもりです。
企画デザインという意味では、まったく同じ作業だと 思っていますし、相乗効果を実感しています。
このビルはかなり古いですが、御社のオフィスは素敵ですね。かなり手を入れて改装している。
ありがとうございます。「徹底的に改装する」という条件を受け入れてくれるビルを探すのは、大変でした。
しかも、広告デザインの仕事をするには理想的な場所。
この辺が、「旧電通村」と呼ばれるエリアであることは、越してきてから知りました。まったくの偶然です。おかげさまで、今は電通さんのお仕事もさせてもらっていますが、この場所とはなんの関係もありません(笑)。
「no quiet」の活動は、広告デザインの仕事にも良い影響を及ぼしている?
はい。広告クリエイティブの世界には、けっこう「no quiet」を評価してくれる方も多い。後から知り、「そうなんだ、これ干場さんなんだ」と驚かれることもあります。
プロダクトデザインと広告デザインの相乗効果は生まれている?
広告は、結局消費者の消費行動を喚起できて初めて成功と言えるもの。直接消費者の気持ちにメッセージするプロダクトデザインが、広告デザインの活動に無益なはずがありません。先ほども申し上げたとおり、プロダクト開発での力を広告制作でも発揮できている。企画デザインという意味では、まったく同じ作業だと思っていますし、相乗効果を実感しています。
取材日:2006年11月16日
株式会社カタチ
- 代表取締役:干場邦一
- 業務内容:
- プランニング及びデザイン制作全般、広告カタログ・パッケージ、WEB、CF、インテリア、プロダクト、販促物
- 自社ブランド「no quiet」製造・卸・販売
- 主要取引先:株式会社電通、株式会社博報堂、株式会社ワコール、森ビル株式会社、株式会社アーテック等
- 設立:2004年1年1日
- 資本金:1000万円
- 所在地:
- <東京>〒104-0045 東京都中央区築地2-14-2 築地NYビル6F、7F
- <大阪>〒550-0002 大阪府大阪市西区江戸堀1-18-22 清水ビル2F
- TEL:03-3544-5320
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