大連にはなぜないんだろう? ないなら自分でやってみようか、と思った
- 東京
- 株式会社チャイナ・コンシェルジュ 代表取締役/CEO 大西正也氏(グループ総代表)
出版の自由がない中国で、フリーペーパー事業を立ち上げる。
どんなことをしている会社なのですか?
日本人向け生活情報フリーペーパー『Concierge』を大連、北京、香港、上海で発行しています。中国人向けの旅行情報フリーペーパー『A「ei」』は、北京、上海、広州で配布。中国を旅する日本人向けの旅行情報フリーペーパー『CHINA Concierge』は、日本国内の大手旅行代理店に配布しています。インターネットにおいては、日本人向けの中国総合情報サイト『ちゃいなび』(www.chainavi)と日中横断人材サイト『Chinajob.jp』(chinajob.jp)を運営しています。『Concierge』は、今後、広州、蘇州、天津へも進出する予定です。
創業の発端は、『Concierge』の発行?
そうです。1995年8月に大連で日本人向け生活情報フリーペーパー『大連ウォーカー』を立ち上げたのが発端です。その後、北京、香港、上海と配布地域を広げ、それぞれの都市に編集部を立ち上げ、事業を拡大しました。2001年4月からは誌名を『Concierge』とし、現在のスタイルになっています。
『Concierge』(当時:『大連ウォーカー』)立ち上げの動機は?
簡潔に言えば、そういうものがなかったからです。私の体験では、ハワイやニューヨークなど、主だった観光都市に行くと、必ず空港や駅に情報提供フリーペーパーがありました。「大連にはなぜないんだろう?」という疑問があって、「ないなら自分でやってみようか」と思った。当時1万人ほどいたはずの在留日本人は、日本語で現地の生活に役立つ情報を入手する手段を持っていませんでした。彼らに情報を届けるメディアを作ればうまくいくかもしれないと思ったんです。
中国でメディアビジネスを手がけようという着想は、いつから?
大連に住み着いてからです(笑)。実は、まったく違うビジネスを計画して大連に渡った。大連市当局から事業の許可が下りるまでの間―これがけっこうかかるんです―ただ待っているのもつまらないなあ……というところから、前出のフリーペーパーのアイデアに行き着きました。そして、やってみるとそっちの方が明らかに面白かった(笑)。性に合っていたと言ってもいいですね。そして、今に至ります。
フリーペーパーそのものは、決して大発明と言えるような、斬新なビジネスモデルとは思えません。それまで誰も手がけていなかったのには、理由があるのでしょうか?
ありますね。中国にはまだ、出版の自由はありません。フリーペーパーであろうが、有料出版物であろうが、無許可で、しかも外国資本の会社が勝手に発刊することなんて不可能です。
では、御社はその許可を取得したということですね。
そうです。とても幸運ないきさつがあります。それはまず、私が、「大連は日本企業誘致に前向きで専門部署もある。しかし、広報が下手で行き届いていない」という事実に着目したことです。「こんな状況では日本の企業家たちは、その事実の存在にさえ気づかない」ということを論旨に市当局に働きかけた結果、『大連ウォーカー』は市の刊行物として出版する許可が取得できたのです。しかもそれが軌道に乗った頃、経済会議が大連で催され、空港で『大連ウォーカー』を目にした北京の政府要人が、「これはぜひ北京でもやりたい」と考えてくださった。事実上、そこで北京進出が約束されました。
次の着想は、「中国の富裕層」。 「富裕層」の定義を明確に できたことが、成功の鍵。
2005年6月に創刊した『A「ei」』は、中国人向けフリーペーパーですね。どんなコンセプトなのですか?
中国の富裕層をターゲットにしています。一口に「富裕層」と言いますが、「ではその定義は?」という課題への回答が難しい。私たちはそれに「海外旅行に行けるくらい裕福な人たち」という明確な線引きをしました。発行部数10万部に対して、アンケートの戻り実績は300を超えました。これはアンケート収集活動実績としては、極めて優秀な数値です。明確な属性を持った層からの、貴重なマーケティングデータが着々と集まっています。『A「ei」』単体の収支はもちろんですが、取得したデータをもとにした次のビジネス展開にも大いに期待が持てます。もともと「中国14億人マーケット」に魅力を感じて海を渡った私ですから、ある意味原点回帰とも言える事業ですね。
リクルート『じゃらん』と提携しているんですね。
ええ、こちらから持ちかけました。とても興味を示してくださり、理解もしてくださって、良い関係を築けています。『じゃらん』のスタッフが広告営業をしてくれ、編集部からは記事の提供までしていただいています。中国からの旅行者というターゲットに、同じ夢を抱けていると感じます。
日中横断人材サイト『Chinajob.jp』もまた、ユニークな着想ですね。
これは、私のように中国とビジネスをし、たくさんの中国人とお付き合いしている者にとって日常的に触れている疑問から生まれています。中国から日本へ、日本から中国へと留学する若者は年々増えています。が、その留学経験を活かした就職ができているかというと、はなはだ疑問。北京語をマスターした日本人がいて、語学が堪能な人材を求める企業もあるのに出会えない。新橋の料理店でアルバイトをしている中国の若者の身の上話を聞いてみると、「一橋大学を卒業した」「東京工業大学を卒業した」、「でも、就職できなかった」という。私の知る限り、日本の電機メーカーで優秀な中国人を採用したいと考えている企業はいくつもあります。とにかく、そういう出会いがあまりにも少なすぎる。だから学生、企業双方が登録し、情報を公開し合う場が必要だと考えました。私たちは、このサイトで人材紹介のビジネスをするつもりはありません。この情報を専門の紹介会社さんが有効に使っていただければいいと考えています。ボランティアです。
近い将来、中国進出企業のコンサルタントも事業化する予定。
情報誌やサイトの制作体制はどうなっていますか?
『Concierge』は、4都市の編集部に日本人の編集長を置き、中国人スタッフが脇を固めています。『ちゃいなび』は日本人社員が北京で制作し、運営しています。『Chinajob.jp』は、中国に進出した日本のWEB制作会社さんに制作してもらいました。どちらのサイトも、サーバは東京に置いています。
日本人の編集長でも、中国でちゃんとやっていけるものですか?
まず、本人が中国勤務を希望することが最優先です。そういう人物を選んでいます。言葉に関しては、堪能なのは中国勤務社員のうち2名ほどだったはずです。仕事にとって必要な言葉は、やっているうちに身についていくみたいですよ。みんな、ちゃんとやっていますね。
では、制作体制はほぼ固まっている?
いえ、そんなことはありません。事業としては軌道に乗りましたが、制作物のクオリティに関しては改善の余地はまだ大いにあると感じています。編集スタッフも、WEB制作・運営スタッフも、常時新しい人材を求めています。正直、現行の制作ノウハウは、私が見よう見まねで作り上げたものの延長線上。創刊10年を経て、そろそろ次のステージに進むべきだと考えています。
では最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
我ながら、面白いビジネスを立ち上げ、育ててこられたと思っています。これからも、日本人には「日本にいながら中国を理解できる」と「中国で日本人が暮らしやすく」を、中国人には「日本で中国人が暮らしやすく」と「中国にいながら日本を理解できる」「日本の先進技術を使いやすく」を提供していければと思います。今後は、インターネット関連事業の強化と通販事業の強化、そして中国進出企業へのコンサルティングなどを立ち上げたいと考えています。
現在は東京にある本社を訪れると、小さいけれど綺麗なオフィスで驚くくらい少人数のスタッフが静かにデスクワークに勤しんでいました。事情を知らなければ、ここがほぼ中国全土をカバーした出版ビジネスの総本山であるなんてわからない。ギラギラした情熱はたぶん、大西さんとその仲間たちの頭の中で燃えさかっている。大西さんご自身が「次のステージに進む前段階」とおっしゃるように、あと1年、いや半年もすれば、その情熱が実を結び、あっと驚くような成長をとげているはず。そしてそうなっても、東京本社は、同じように、淡々と静かに活動しているような気がします。
取材日:2006年4月11日
株式会社チャイナ・コンシェルジュ
- 代表取締役/CEO:大西正也氏(グループ総代表)
- 業務内容:
- 日本及び中国語圏での書籍の企画、制作、発行
- 中国主要都市にて配布中の日本語無料情報誌
- 「 Concierge <北京・上海・大連・香港>」の企画、制作、発行
- 広告物のデザイン及び制作
- デジタル・コンテンツの企画、制作、及び WEB サイトの運営
- 中国語圏にて事業活動を予定している企業へのコンサルティング
- 設立:2004年5月
- 本社所在地:〒104-0061 東京都中央区銀座8丁目11-5 正金ビル6F
- TEL:03-3573-1222
- FAX:03-3573-1221
- URL:http://www.chainavi.jp/