当社の編集者には 編集者の側面と もうひとつの得意分野を持ってほしい
- 東京
- 株式会社カラット 代表取締役 岩佐徹氏
出版不況の真っ只中で出版社としてのスタート
編集プロダクションを出版社に育て上げる。あまり例がないことだと思うのですが・・・。
私も聞いたことがないです(笑)。書籍出版を手がけている編集プロダクションはあるようですが、当社のように雑誌刊行に手を伸ばしているところはないですね。でも、不思議だなあ。なんでないんですかね。
会社は岩佐さんが大学在学中に創業し、その当初から、将来出版社となる目標を掲げていた。
これといった根拠があったわけではありませんが、そう決めてスタートした。始めた以上、やめたくないので編集プロダクションを続け、10年続けたところで出版に進出する機会を得たということです。
このコメントだけを読むと順風満帆な歩みに聞こえるだろうが、ことはそう簡単ではなかったようだ。
いわゆる出版バブルの崩壊を、編集プロダクションとして経験しています。『自遊人』の創刊は、出版不況が万人の共通認識となった2000年です。ただでさえ景気が悪いのに、わざわざリスクのあることに手を出さないよな、普通、とは自分でも思いました。でも、やるしかなかった。編集プロダクションとして仕事がどんどん面白くなくなっていて、そのままではなんの希望も見出せない状況でしたから。
その決断が“吉”と出て、今日に至る。創刊号の5万部はすぐに売り切れ、その後も読者の支持を得て、2002年には15万部を突破したのを期に、隔月刊化を果たす。
創刊から3号のうち、1号でも売上が悪かったら廃刊。収支シミュレーションで、それは判明していましたから、必死でしたよ。
編集部を越後湯沢に移した理由
いかに軌道に乗ったとはいえ、カラットは弱小出版社だと岩佐さんは言う。そして、弱小が大手と渡り合うには、ならではの方策や努力が必要だとも。
私は、編集部を、一般のメーカーの研究開発部門兼工場だと認識しています。だとしたら、研究所や工場を、高コストな都内の一等地に置いているメーカーさんってあまりないですよね?そこは変えるべきだと思った。ですから、『自遊人』の編集室は越後湯沢の編集分室に移しました。現代のネット環境があれば、なんの障害もなく運営できると思いました。 出版不況は現在も変わりなくあります。そこでコスト削減が至上命題となるわけですが、それを取材費の削減にもってくれば当然クオリティは落ちます。クオリティが落ちれば読者は離れる。そんな負のスパイラルから抜け出す努力をせずに、書店や読者の気まぐれさに原因や責任をなすりつけている人たちが多すぎると感じます。私は内容を落とさずにコストを削減したかったし、編集者の待遇も維持したかった。もちろん編集作業に加わっていますから、私自身、越後湯沢勤務となりました。月曜日と火曜日だけ東京にいて、あとはあちらで仕事をしています。最近、住民票も移しました(笑)。
実際に越後湯沢勤務に身を置いてみての感想は?
快適ですよ。仕事をするには絶好の環境です。情報を集めるには東京にいなくてはという意見を述べる人もいますが、本当にそうなんでしょうか?少なくとも私たちはちゃんとできている。むしろ今は、東京に来たときの新鮮さがいい。明らかにおのぼりさん気分です(笑)。で、以前から耳にしていた「なぜか、地方在住の女の子たちが東京に詳しい」という現象も腑に落ちた。東京に暮らすのと、東京に足を運ぶのでは、東京の見え方が違うんだと実感しています。編集者にとっては、こっちの方がいいくらいだと思う。
レストラン店長兼編集者という人材が必要だ
“ならでは”の方策はほかにもある。
大きな方針としては、物販の強化があります。通販はすでに軌道に乗っていて、今後の課題として外食、旅行、不動産をテーマに置いて準備作業を進めています。
経営の多角化ですか?
違います。これだけ情報が行き渡り、個々がこだわりを持って生きている時代です。そんな中で、雑誌を通してライフスタイルの提案をするのは生半可ではできない。うわべだけすくって情報発信しても通用しません。編集者なんかより蕎麦に詳しい方は山ほどいらっしゃるし、ブログを通して目を見張るような情報発信をなさっているアマチュアだっている。現在でも、私たちは、あるテーマを扱う場合、とことんそれを好きになることから始めていますが、もう一歩先に進まないと通用しなくなるだろうと感じている。だから、紹介すること、紹介するものの世界に自ら身を置くという環境を作ろうとしている。それが外食や、旅行や、不動産の事業なんです。たとえば外食に関する特集を組んだとき、“編集もやっているが、レストランの店長でもある”という人材がほしい、ということです。それを本気で考えているんです。 当社の編集者には、編集者の側面ともうひとつの得意分野を持ってほしい。いわば、2つの職種を持つ編集者ですね。まずは、編集者兼通販バイヤーを育成しようと考えています。
事業拡大の意欲は、持って生まれたもの?
あの~、行くつくところは、面白い仕事がしたい、嬉々として携われる編集作業を失いたくないということなんです。私は、つまるところ“もの作りバカ”。どの方策も、作り続けるためにどうするか?ということを考えたらそうなっただけ。見渡すと、大手でも、中小でも、心から楽しんで仕事をしている編集者が減っているようです。それこそが出版不況なんだと思いますし、なんとかしなければいけないと思う。
風潮ということで言えば、今現在は、「会社を作ったら、上場し、大金持ちになる」ということに脚光があたっている。さらに言えば、どんな業種であっても、金儲けが上手く、経済テクノロジーに精通した経営者のいる会社が有望だし、仕事をするにも安心だという認識が大勢を占めている。そんな中で自称“もの作りバカ”が立ち上げ、育てている会社がカラットだ。ユニークで、ときには冷徹でもある経営判断が実は、「作り続けたいから」「より良いものを作りたい一心で」から生まれている。根幹がシンプルなものは強いという原則は、やはり、時代のうつろいに左右されない真理なのだと思う。
株式会社カラット
- 代表取締役:岩佐徹
- 業務内容:
- メディア事業/『自遊人』の編集・発行
- 通販事業/雑誌と連動したオリジナル商品の開発、PB商品の開発、通信販売
- 外食事業/準備中
- 旅行事業/2005年度中のスタートを目指し準備中
- 不動産事業/旅行事業の次にスタートの予定
- コンサルタント事業/法人・個人両面へのサービスを検討中
- 創業:1989年5月
- 設立登記:1990年12月10日
- 資本金:5,450万円
- 所在地:〒103-0026 東京都中央区日本橋兜町3番3号 兜町平和ビル5階
- TEL:03-3249-0131【代表】
- URL:http://www.karatt.com/
- 代表E-mail:info1@karatt.com