子供と親と祖父母の 3世代が心を通わせた風景が 音を通して再現されることに貢献したい
- 東京
- 株式会社音感教育研究所 代表取締役 冨田芳正氏
音はもっとも原始的なコミュニケーション・ツールだと思います。たぶん、人類は言葉でコミュニケーションする前から、音でコミュニケーションしていたのだと思う。音から何かを感じるということは、空気を吸うのと同じくらい自然で不可欠なものです。その割には、音をないがしろにしてこなかったか?人は音の大切さにやっと気づき始めましたが、まだ、学問の分野に限られています。私たちは、日常のなかにもっとあるべき、音を通した何かを作って提供していきたい。役に立っていきたい。そう考えています。
音感教育研究所は、2005年4月に設立されたばかり。生まれたてほやほやの会社だ。しかし事業のアイデアは昨日今日生まれたものではない。冨田さんは株式会社オラシオンで代表取締役として約15年、この事業を手がけていた方。『ピーターと狼』という、教育用コンピュータソフトとしては異例の大ヒット作を生み出した方でもある。
私を含めて数人のスタッフが、オラシオンをスピンアウトして生まれたのが音感教育研究所です。音感に関する事業をより発展させるために、分離独立してスタートした会社です。
冨田さんはトランペット奏者としても作曲家としても高名な方。そんな方が音感にまつわる事業を手がけるようになったきっかけについて尋ねてみた。
1984年にアップルコンピュータがマッキントッシュを世に送り出して、それがグラフィックと音を融合させたことに感動した。有り体(ありてい)に言うと、私はこう思いました。『これで飯が食えるようになるといいな』と(笑)。で、幸運にも私は、徐々に『飯が食えるように』なりました。作曲の仕事に積極的に使い、ミュージシャン仲間からはサポートセンターのように毎日相談の電話がくるようになった。もちろん相談料は無料ですけど(笑)。そんなとき、1989年だったと思いますけど、旧知だった音楽ビジネスの会社の社長から『マルチメディアの時代らしいから、そういうビジネスをやらないか』と誘われました。それが発端です。そこでオラシオンを作り、音感に関する事業のアイデアが生まれ、『ピーターと狼』が生まれました。
具体的なアイデアは、自分の音楽の原体験が原型になっています。小学生のときに、「世界の名曲」というLPと写真集を組み合わせた30巻組のセットを買ってもらった。たとえば、ベートーベンの『田園』を、彼がそれを作曲したといわれる小道の写真を観ながら聴く。そういうことが楽しくて、どんどん音楽が好きになっていった。そして中学、高校と実際に音楽をやるようになってみると、そのセットの書籍の1/3ほどを占める解説に興味がいくようになり、音楽的な知識を深めることにとても役立った。やるなら、あれだと思いました。LPとカラー写真集とモノクロの解説部分とをオールインワンにしたソフトが、今なら作れる。音感ソフトの着想は、そんなところにありました
まずは幼児とシニアをターゲットに
教育事業のようでもあり、エンタテインメント事業のようでもありますね?
教育なのか、エンタテインメントなのかと問われれば、両方です。どちらなのかということには、あまり意味はないと思う。音楽というものはもともと、楽しむことが同時に情操教育にもなるものですしね。今はあまり使われなくなりましたが、“Edutainment”という造語、まさにあれです。遊ぶことと学ぶことは、人にとって不可分で不可欠なものですから。
新会社の戦略は?
マーケットとしては、当初、幼児とシニアをターゲットにしていきます。理由?それ以外は激戦区だからです(笑)。もちろんゆくゆくは進出していくつもりですが、教育産業でもエンタテインメント産業でも大手がしのぎを削っている10歳~30歳台までの市場は、まずは回避しようと考えました。情操教育の端緒となる2歳数ヶ月までの幼児、そしてまだ手のついていない分野の多いシニア層で事業から事業をスタートさせます。
シニアに音感ソフトですか?
今は、たとえば加山雄三さんなんかが、シニアと呼ばれる年代になっています。ビートルズやローリングストーンズを聴いて育った世代が、リタイアしているわけです。人生の円熟にさしかかった方々が有意義な余暇を求めているし、人によっては癒しも必要。高齢者が学ぶ意欲を満たしたいと思い始めてもいます。しかしまだ、世には『年配の人には民謡でも聴いてもらおう』程度のソフトしかありませんから、私たちが参入する余地は大いにあると思います。
3世代を通したコミュニケーションに貢献したい
音感教育研究所の本社オフィスは、とても小さい。大きな会議スペースがひとつあるだけだ。
ここには、週に数度メンバーが集まり、ミーティングをします。日常は、各自個々に、自宅などで仕事をしています。現在のネット環境下では、音楽ソフトの開発はそれでできます。各自がそれぞれの作業をノートパソコンで行い、必要に応じて会議をし、スタジオに入る。それで十分なんです
日常のコミュニケーションは?
メールとTV会議で十分ですね。ただ、それを突き詰めたところでの反省も感じています。フェイストウフェイスの重要性を再確認しています。先週から、週に一度のスタッフミーティングを三度に増やしています。そのかわり、一度の所要時間を限りなく短くしています。短い時間でも頻繁にみんなが顔を合わせる。そこが大切なんだと気づきました。
スタッフは役員も含めて9名ですが、どんな人たちが集まっているのですか?
共通するのは、音楽。全員がなんらかの形で音楽の活動を続けている人たちです。たった9人なのに、うち3人が絶対音感の持ち主だったりします。そして、そこにコンピュータの専門知識や音感教育に関するビジョンやアイデアを持ち寄ってできあがっているのがこの会社です。私が個人的に大切だと思っているのは、もうひとつのファクター。音楽と専門分野以外のプライベートです。たとえば私はアウトドアフリークですが、音楽と仕事を離れたところで、各人がどれだけ充実した生活を持っているか。それにどれくらいのバラエティがあるかが、音感教育研究所のもの作りの底力になるのだと思います
事業ビジョンを教えてください。
大きくわけて2つの柱を設けています。ひとつはコンピュータソフトやITを通じての活動。もうひとつは既存の書籍やアナログ媒体を通じての活動です。前者はデジタルソフトの開発で、後者は企業や教育機関などへの企画立案やコンサルティングで実現していきます
私たちが考えている理想のモデルは、子供と親と祖父母の3世代が音を通じて気持ちを通いあわせること。昔、囲炉裏端でおじいちゃんとお母さんと孫が心を通わせた風景が、音を通して再現されることに貢献したいと思います。それは一緒にコンサートに行くことかもしれないし、ファミリーバンドを楽しむことかもしれない。親と子とおじいちゃんのピアノ教室かもしれません。そういうことを通じて、社会は確実に豊かになるし、人は幸せになります。そういうシーンのあらゆるところに、私たちが貢献できる余地があると考えています。
株式会社音感教育研究所
- 代表取締役:冨田芳正
- 業務内容:
- 音感(聴覚)を主体とした教育系ソフトウェア/カリキュラム開発事業
- 音楽を媒介とするコミュニケーション・ツールの開発及びコンサルティング
- 設立:2005年5月
- 資本金:20,000,000円
- 所在地:〒151-0053 東京都渋谷区代々木2丁目26番11号 フレンドビル201
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