WEB・モバイル2020.11.18

人混みを避け、徳島・神山町で働くエンジニア・辰濱健一さんに学ぶ地方での働き方

Vol.45 徳島
Sansan株式会社 エンジニア
Kenichi Tatsuhama
辰濱 健一

徳島県神山町。徳島市の繁華街から車で約45分進んだ山奥にある町で、日本のビジネスを支える仕事をする一人の男性がいらっしゃいます。エンジニアとして働く辰濱健一(たつはま けんいち)さんです。

今回はなぜそのような「秘境」で働くのか。彼のライフスタイルを含めてご紹介します。ヒントとなるのは神山という土地にあえて勤務地を作ったSansan株式会社の考えでした。

喧騒が苦手!

エンジニアの仕事は一般的に都心部における需要が多いはずです。ただ辰濱さんは新卒で地方都市である、徳島県の企業に就職しました。それはなぜでしょうか。

これは私が人混みが苦手な性格であるということに起因します。中学校→高校→大学と進学していくなかで、必然的に顔のわからない同級生が増えていく状況に違和感を覚えました。

仕事中はオフィスで横にも前にも人がいて仕事をする環境よりも、一人で静かな環境のなかで集中したい。また休日に出掛けた際、地下街に多くの人がいる、電車も混んでいる。

このような状況でない場所、その一つが徳島でした。また、通学・通勤の時間がとてももったいない時間だなと感じていました。大学時代は通うのに毎日2時間かかっていて、この時間をもっと有効活用できないかなと思っていました。

関西で育ったので、大阪の企業に就職するのかな、と考えました。ただそうすると満員電車に揺られて通勤する必要が出てきます。これに違和感や抵抗を感じたのです。

コロナでリモートワークに試行錯誤されている方へ

現在新型コロナウイルスの影響でリモートワークをされている方が増えてきていますが、マイナス面は何であると考えていますか?

リモートワークのマイナス面は建前しか見えないということです。表情やしぐさ・目線などで伝わる情報も十分ではないでしょう。また、オンラインのときはお互いに「仕事モード」ですので、オフでの人柄を知ることが難しいです。

そのような部分を具体的にどう克服しているのでしょうか。

チームとやりとりするチャット上に、各自が「今思ったことを自由に書き込めるチャンネル」を作っています。例えば「今日のお昼こんなの食べてきました~」「土日こんな動画を見て面白かったです~」などたわいのないことを書き込んでいいチャンネルです。

ただ日頃の雑談程度の話題を共有し、このチャンネルを流し読みすることによって、「メンバーの違った一面」を理解することができます。

そして実際に東京のオフィスに行ったときには、食事を共にして会話をする、土産を持っていき雑談をするなど、積極的にコミュケーションをとるように心がけています。

さまざまな議論があるリモートワークについてお聞きします。以前は今ほど一般的ではありませんでした。例えば「山ごもり」などと思われませんでしたか?

私は今“この場所”で海外向けのプロジェクトに携わっています。また名刺アプリ「Eight」の海外展開業務も行っていました。インドに1カ月滞在したり、アメリカで開催されたGoogleの本社イベントに参加したこともあります。私は「山ごもり」をしているようでグローバルだと思いますよ(笑)。

また東京で働いていると、東京で全てが完結してしまいます。何もかもが手に入り、出る必要がありません。でも神山だと他の地域に目を向けなければ情報や体験は不十分になります。

そこで「大阪や九州にこんなイベントがあるぞ」となれば実際に現地に赴きます。その結果、インプットが増えるだけではなく、行動力を高められることにも繋がるのです。

リモートワーカーとしてのモデルケースになっておきたい

Sansan株式会社の社員としてお聞きします。なぜ徳島県にサテライトオフィスを作ったのですか?

弊社の寺田親弘社長が古民家再生を手掛けている知人に呼ばれ、神山町を訪れた際、「古民家を改装してシリコンバレーのような広々とした素晴らしい環境をエンジニアに提供することはできないのだろうか」と思いつきました。

社長は、もともとアメリカのシリコンバレーでの勤務経験がありました。起業当初、小さなオフィスでエンジニアたちが壁に向かって仕事をしていることに違和感を覚え、「もっとシリコンバレーのように、自然が豊かで環境が素晴らしく広々とした空間は作れないのだろうか」と考えていたそうです。

体験の場を増やし、チームの団結力を向上させる。またエンジニアには生産性を上げることを条件に自由な職場を提供できる。これらがSansan株式会社としての神山ラボ開設の狙いでした。

さらに企業がある人材をとりたいとき、その人の希望する条件が「上京せずに今自分がいる場所で働きたい」ということもあります。その場合に、サテライトオフィス等の拠点があると、お互いにとってメリットになるケースがあると思います。


「Sansan神山ラボ内には暖炉も」

「ラボ内の中庭もある」

辰濱さん自身は徳島県で仕事をすることについて、どのようにお考えでしょうか?

私は「東京の会社が地方にオフィスを出し、現地雇用を行ったモデルケース」になれたら良いなと思っています。「東京では見つけられなかった人材を地方で見つける」また「地元で働きたい」と思う方のマッチングの機会として、サテライトオフィスがその選択肢として成立するようになっていたら嬉しく思います。

サテライトオフィスは「自由」という印象を持たれている方も多いかと思います。しかし、もし私が怠けて成果を出せず、「サテライトオフィスはだめだね」という印象を持たれてしまえば、自分が徳島で働き続けるという選択肢がなくなるだけではなく、他の人のこれからの働き方の選択肢を狭めてしまうリスクがあると思っています。

そのため、気を抜こうと思えばできる環境でも、成果を意識して働くことを心がけています。

他人の目を自ら創造・想像するということ

Iターン・Uターンなどの希望者は、何を重点的に考えるべきですか。

「自分のやりたかったこと・なりたかったこと」と「今」のギャップを定期的に考えてみると良いかと思います。私自身、神山町で働いて何度もインタビューを受けるなかで、何度も自分の選択や思いをお話しさせて頂く機会がありました。

それらの機会を通して何度も自分と向き合う機会になり、自分の意思がよりクリアになったり強くなった気がして、行動も伴ってきたように感じています。

実は逆!都会よりある意味チャンスが多いのは地方

地方に移住して活動したいけれども、都会の方が仕事に巡り合うチャンスが多いはずだ、と移住をためらっている方も多いのではないでしょうか。

私は「都会より地方にチャンスがある」と考えています。なぜなら私は地方は人数が少ない分、同じようなスキルを持っている人がいない場合が多く、オンリーワンになりやすいと思うからです。

どういうことかというと、地方に住んでいる方には「こんな田舎には、こんなスキル持っている人いないだろう」という先入観があります。ですので、自分のちょっとしたスキルでも歓迎されたり、役に立つことが多いように感じています。

私は小さい頃から音楽教室に通っていたり、高校時代に吹奏楽部に所属していたので、複数の楽器を演奏することができます。徳島市内などであれば、吹奏楽部のある高校も多く、私と同様のスキルを持つ人が多くいるでしょう。「演奏してよ」などと個人的に声を掛けられるチャンスは少ないです。

でも神山町内であれば楽器を演奏できる人自体が珍しいです。そして、自分が楽器を演奏できることを知った方から、「今度のイベントで演奏して貰えませんか?」とお声がかかるようになり、実際に演奏を聴いて下さった方の中からもまたお声がけを頂くようになりました。このようにスキルを発揮する場所が広がっていくのです。

金銭的な面を考えても、メリットがあると思います。例えばアトリエを作りたい人の場合、都会だと家賃が高く思うようなスペースを確保する事が難しいかも知れません。しかしながら、地方では安価で広い物件を借りることができ、より自分が実現したかったことに近づきやすい気がしています。

「移住して地方で働くこと」は、近年働く場所を選ばずできる職種が増えたことによる流れだと思います。全てのクリエイターさんに当てはまるわけではありません。でも移住の是非を考えている方は、自身のスキルがその場所で応用できるかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。

取材日:2020年9月11日 ライター:渡邉 祐人

プロフィール
Sansan株式会社 エンジニア
辰濱 健一
徳島県に生まれ、奈良県内で幼少期を過ごす。大学卒業後、徳島県内の企業に就職。複数回の転職後に現在の「Sansan株式会社」に入社。徳島県神山町にある「Sansan神山ラボ」で、現在は主に、個人向け名刺管理アプリ「Eight」の開発を行っている。

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