TVディレクター出身のカメラマンと編集部出身のライター夫妻。経験を「武器」に変えて、若き日の「憧れ」を実現
- 名古屋
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OFFice RINON(オフィス リノン)
【撮る人】写真・映像 新井 亮 氏
【書くひと】ライター・編集者・筆文字 石崎 幸子 氏 - プロフィール
- 新井 亮(カメラマン)
愛知県名古屋市出身。テレビ制作会社に勤務。2005年よりフリーカメラマンとして活動をスタート。雑誌媒体や企業ホームページの動画作成など幅広いジャンルで活躍中。2017年には監督映画作品『ブギーをぶちこめ』が上映。
石崎幸子(編集者・ライター)
愛知県名古屋市出身。短大を卒業後、ぴあ株式会社に入社し、「ぴあ中部版」美術ページを担当。出産を機に退職し、現在はフリーランスの編集者・ライターとして、活躍中。
映画作りの夢の一歩としてTVの世界に。そこで感じたギャップとは
現在カメラマンとして活躍している新井さんですが、キャリアのスタートはテレビの番組制作会社。ディレクターの仕事をしていたんですね。
新井さん:元々、映画を作りたいという想いがあったんです。ただ、地元でいきなり映画の仕事していくのは難しかったので、同じように映像を扱うテレビ業界で仕事していれば夢の実現に近づけると思って。ただ、入ってみたら全然想像と違っていました(笑)。
やはり、映画とテレビでは違いますか。
新井さん:最初はADから始まって、その後「P.S」(中京テレビ)などのディレクターも務めましたが…。バラエティや情報番組の演出でしたから、いかに“笑いを取るか”だったり、お店の料理をいかに“美味しく撮るか”だったりを求められる。映像の作り方や演出、スタッフの人数など、映画作りとは全然違う世界で8年間、過ごしてきました。
その後制作会社を退職して、カメラマンの道を歩むことになるわけですが、思い切った転身でしたね。
新井さん:テレビディレクターって局内では色々なスタッフに指示を出して仕事を進めるんですが、テレビ局から1歩外に出てしまうと、途端に“何もできない人”になってしまうことに、あるとき気づいたんです。企画を考え、台本を書き、編集作業までもこなすけれど、自分の手では何も生み出すことができないんです。これではいけない、何か技術を身につけておかなければと思いました。
そこで選択したのがカメラマンだったんですね。
新井さん:映画作りへの想いは持ち続けていましたから、ディレクター職から離れて映像の仕事をしていくなら、“絵作り”をするカメラマンの技術を身につけておくべきだと思いました。
原稿を書くことが“仕事”であるライターならではの「矜持」
石崎さんは短大を卒業後「ぴあ」に就職。雑誌編集者としてキャリアをスタートしたんですね。
石崎さん:学生時代によく音楽誌を読んでいて、自分の書いた文章が誌面に載って仕事になるって素敵だなって、漠然とした憧れの気持ちを持っていました。それで、卒業後は出版社に勤めようと決めていたんです。
「ぴあ」ではどのような仕事に携わっていたんですか?
石崎さん:最初はアルバイトでのスタートでしたが、仕事の内容はバイトでも社員と同様に取材執筆し、「ぴあ中部版」美術ページの担当として展覧会の紹介記事を書いていました。その後、巻頭特集やグルメムックの編集も担当して、ぴあには結局12年間勤めました。
編集部の中心的役割を担っていたんですね。その後出産のために退職して、現在はフリーランスの編集者・ライターとしてさまざまな媒体に携わっているそうですが、編集部時代と今ではどのような違いがあるのでしょうか?
石崎さん:ぴあという雑誌の中で原稿を書く場合は客観的な視点を意識していました。今は媒体に合わせて原稿のスタイルは違ってくるんですが、ネット媒体の署名原稿では“自分カラー”を出して書くこともあります。
紙媒体とネット媒体、ライターとしては原稿を書く上で違いを意識しますか?
石崎さん:ライター仲間でも紙とネットを分けて考えている方が多いのですが、私自身はそういう意識はないですね。情報誌出身ということも影響しているのかもしれませんが、情報を知りたい人に向けていかにわかりやすく発信するかを常に心がけて原稿を書いています。
ネットの中には石崎さんのようにプロのライターとして原稿を書いている方もいれば、個人でブログ記事を書いている人もいますよね。ライターとブロガーの違いってどこにあるのでしょう?
石崎さん:私自身は記事を書く上で、読み手の興味を惹きつけられるように、記事内容の「構成」には細心の注意を払っています。体験レポート記事でも取材した内容を後から再構成して、読み物として完成度を高めることに力を入れているんですが、ブロガーの方でも切り口が面白かったり構成力が巧みな方は大勢みえるので、確かな線引きは難しいです。
プロのライターとして心がけていることはありますか?
石崎さん:情報を発信する側として、「掲載情報の正確さ」に責任が持てるかどうかは常に意識していますね。自分の判断だけに頼らず、細かいことでも掲載先に確認を取る習慣は身についています。やはり、確認をせずに記事を上げると不正確な内容が含まれることもあるので、そこは気をつけるようにしています。
TVディレクター経験のあるカメラマンならではのアイデアに溢れる映像構成
お二人とも最近は企業のホームページや求人サイトの取材を手掛けることも多いようですが、印象に残っている仕事はありますか?
新井さん:電気工事会社のリクルート用の企業PR動画を作ったのですが、なかなか面白い内容に仕上げることができました。いきなり美味しそうな焼肉の映像が流れ、続いて「焼肉が嫌いな人は社員になれないので…」って代表が語るという構成にしました。
どうして焼肉が登場するのでしょうか?
新井さん:焼肉好きじゃないと入れない会社なんです。仲間同士のふれあいを大切にしていきたいと考えているんですね。それなら、“焼肉の映像から入りましょう”って提案しました。代表へのインタビュー内容もこちらで質問を考えて、1時間ほど語っていただいたものを編集しています。代表のメッセージを伝えるのが一番の目的ですが、ただインタビューを流すのではなく、どうすれば見ている人を惹きつけられるか、映像の構成が大切になりますね。
動画内容の構成まで考えて提案するというのは、普通のカメラマンにはできない仕事ですよね。
新井さん:ディレクター時代に取り組んできた仕事が活きています。絵コンテを描いて、全体の構成案を作って提案すれば、クライアントさんもイメージをつかみやすいですし。しかも自分がカメラを持って撮る側に回っているので、色々なパターンのカットもたっぷりと撮っておくことができます。
現場のひらめきで撮影カットを増やすための引き出しも豊富にあるでしょうね。
TVディレクター時代にも一人でカメラを持って現場に行く機会がありましたし、自分で演出しながら撮影を行えるというのは他の人にはない武器になっていると思います。
取材中に出会った「キーワード」をどこまで原稿の中で膨らませられるか
石崎さんも企業のホームページの仕事は多いのでしょうか?
石崎さん:はい、企業取材で社長や社員の方にインタビューする機会も多いですね。
出来上がったホームページの文章を見ると、相手の方は上手にまとまった話をしてくれているように見えますよね。
石崎さん:ライターをしている方なら皆さんご存知だと思いますが、しっかりとした構成で、そのまま文章になるようにお話ししていただけるというケースはめったにないです(笑)。相手の方のお話の内容を紡いでいって、想いを伝える文章にまとめ上げていきます。
記事のイメージは取材前にある程度当たりをつけてあるんでしょうか。
石崎さん:取材前から方向性を決めてしまうことはしませんね。もちろん、質問項目は用意して伺いますが、何よりも、現場で出てきたキーワードを大事にしています。
取材中にキーワードを探し当てるわけですか。
石崎さん:お話の中で、“この言葉、使えるな”っていうフレーズに出会えることがあるじゃないですか。そのキーワードを元に構成していきます。キーワードを膨らませてどこまで“妄想”できるかが、いい原稿を書く上で大切だなと思います(笑)。
お二人とも企業取材などで、取材相手によってはなかなか思うような話が引き出せないこともありますよね。そういうときはどうやって対処しているんでしょう。
石崎さん:口数が少ない方だと確かに困りますが、とにかく質問を投げかけるしかないと思って、角度を変えながら話を聞かせていただくようにしています。
新井さん:欲しい答えが得られるような話の流れに持っていくようにすることもありますが、こちらから“このように言ってください”といった指示は絶対に出しません。それでは“台詞”になってしまいますから。欲しい言葉を引き出すまで、とにかく時間をかけてインタビュー映像を撮っていますね。
石崎さん:新井の仕事を見ていると、1分の映像を作るのにどれだけ手間をかけるんだろうと思います。映像の編集をしているときが一番楽しそうに仕事しています(笑)
共同制作チーム「OFFice RINON」のカメラマンとライターとして、お二人でひとつの仕事に関わることもあると思いますが、その際に心がけていることはありますか?
石崎さん:一緒に仕事する機会も多いので“言わなくてもわかる”部分も多いですが、かえって掲載媒体の企画の撮影意図を伝えきれていないこともあったりするので、その辺りは気をつけています。情報誌の仕事は短期間に集中して取材をしなければいけないことが多いので、二人のスケジュール調整に無理をきかせやすいのは助かりますね。
新井さん:編集者とカメラマンとして意見を交わし合うのはいいんですが、何でも言いたいことを言えてしまう仲でもあるので(笑)、そこは気をつけています。
石崎さん:意見がぶつかりあったときにヒートアップし過ぎないように(笑)、バランスを取るようにしています。
“紹介”が大きな意味を持つ名古屋の地域特性を活かしてほしい
新井さんは昨年、映画を撮られたんですよね。
新井さん:豊田市がアート作品を通じて街の魅力を発信する「とよたデカスジェクト」に依頼されて、『ブギーをぶちこめ』という自主製作映画を撮りました。監督、脚本、編集、撮影を務め、ほぼすべてのシーンを一眼レフカメラの動画撮影機能を使って撮影しました。
新井さん:
今後はいっそう映画の仕事に力を入れていきたいとお考えですか。
新井さん:現在『ブギーをぶちこめ』を3ヶ国語に翻訳していて、海外のコンペにも出品していく予定です。映画を撮っただけで満足していては“次”がないので、作品をきちんと評価してもらうことでチャンスを広げていけたらと思っています。
映画作りの夢の実現に向かって進みだした新井さん、文章を書く仕事に憧れてこの業界に入り、順調にキャリアを重ねている石崎さん、お二人とも自分の“武器”を最大限に活かして仕事の評価を高めていますね。最後に、これからこの名古屋のエリアで仕事をしていく可能性のあるクリエイターの方たちにアドバイスをいただけますか。
新井さん:どこでもオープンな雰囲気で迎え入れてくれるというわけではないので、初めは“壁”を感じることもあるかもしれませんが、仕事先の信頼を得て他の人に紹介してもらえると、途端に壁がなくなって仕事の幅が広がるようになります。“紹介”を大切にしているというのは名古屋の特徴ですね。
石崎さん:ライターの仲間同士でもおたがいの得意分野の仕事を紹介しあったりしています。人と人の繋がりで仕事が回っていることは多いですね。名古屋で仕事をするなら、いきなりフリーランスで始めるよりも編集プロダクションなどで人脈を作ってから独立した方がスムーズにいくと思います。
ありがとうございました。今後のいっそうのご活躍に期待しています。
取材日:2018年1月19日 ライター:宮澤裕司
新井 亮(カメラマン)
愛知県名古屋市出身。大学を卒業後テレビ制作会社に勤務し、番組ディレクターとして企画、構成、台本作成、収録、編集、MA、ナレーション原稿作成等、制作全般に関わる。主な担当番組に東海テレビの音楽番組、中京テレビの番組など。2005年よりフリーカメラマンとして活動をスタート。ウェディング、ポートレイト、料理写真、企業VP,動画撮影・編集等に関わる。ぴあ中部版、じゃらん、東海ウォーカーなどの雑誌媒体や企業ホームページの動画作成など幅広いジャンルで活躍中。2017年には監督映画作品『ブギーをぶちこめ』が上映。撮影、編集、共同脚本も務めている。
石崎幸子(編集者・ライター)
愛知県名古屋市出身。短大を卒業後、ぴあ株式会社に入社し、「ぴあ中部版」美術ページを担当。アーティスト取材や展覧会レビュー記事に携わる。その後、イベント、レジャー部門を経て巻頭特集企画を毎号担当。グルメムックの編集も兼任し、テレビの料理番組のタイアップ本も手掛けた。出産を機に退職し、現在はフリーランスの編集者・ライターとして、紙媒体、Webメディア双方で署名記事を多数執筆。「あいちトリエンナーレ2016」公式ガイドブックの編集・執筆、東海エリアの飲食店ムックの編集・執筆など、地元の仕事も多い。
OFFice RINON(オフィス リノン):entotsu6133@gmail.com