グラフィック2021.01.27

おばあちゃんが読んでも分かること。日刊ゲンダイ小塚かおるが大切にする、編集記者のクリエイティブの真髄

Vol.183
日刊ゲンダイ 第一編集局長 編集記者
Kaoru Kozuka
小塚 かおる

毎日、午後になると駅の売店やコンビニの店頭に夕刊紙が並びます。その見出しはときに衝撃的で、購入する気のない人でも、「おっ」と目が留まることも少なくないはずです。(この夕刊紙の世界にも、記者をはじめ、世の中の「今」やそこに潜む社会課題を刮目し、人々に伝えるクリエイターたちが多く活躍しています。) 今回は、夕刊紙のなかでも政権に対して強い主張を持つイメージがある「日刊ゲンダイ」で、政治経済の領域を扱う第一編集局長の小塚かおる(こづか かおる)さんにインタビュー。『小沢一郎の権力論』(朝日新書)などの著書がある小塚さんがジャーナリストとして大切にしていること、政治という専門ジャンルへの思いなどについて伺いました。

「毎日出る雑誌」のタイムスケジュール

まずは、小塚さんの仕事について伺いたいと思います。編集局長という「肩書」ですが、「職種」としては、どのような職種になりますか。

一言でいうならば、「編集記者」です。一般的に、新聞社では記者たちが記事を書き、その記事を集めて編集するデスクや編集長がいます。一方、週刊誌や雑誌となると、企画を立てて外部のライターさんや作家さんに原稿の執筆をお願いし、それを構成する編集に特化した仕事をする人が多くなる。日刊ゲンダイの場合、もちろん部署にもよるのですが、編集も記者も両方やるのが基本的なスタンスです。私が所属する第一編集局は政治や経済、社会などを領域とする部署で、自ら現場に行って取材し、記事を書き、見出しも自分で付ける傾向が強いですね。記者であり、編集者、という感じです。

日刊ゲンダイは、どのようなタイムスケジュールで動いていらっしゃるのですか。

日刊ゲンダイは新聞だけど、「毎日出る雑誌」というコンセプトでスタートしたため、動き方は雑誌と近いのかもしれません。それでも、毎日ですが(笑)。曜日ごとに担当が決まっているのではなく、基本的に毎日締め切りがあり、日々起きることを追いかけています。どのようなサイクルで動くかというと、記事を取りまとめるデスクの場合、1〜2週間のシフトを数人で回してます。また、記者には、ある程度記事を書く時期を自分でコントロールできるようにしています。まずは見出しとテーマ、そしてどんな内容を取材して、どんな記事を書こうとしているかをデスクに申告し、デスクがそれを見て「この日はこれで行こう」と決ています。

夕刊紙の場合、駅やコンビニに並ぶのは一番早くて13時頃です。そのため、最終の締め切りは朝9時前後になります。多くの部署は発行日の前日に校了しますが、私がいるような時事を扱う部署と、スポーツや夜中に事が動く海外を扱う部署では、朝に記事が追加されます。「大変」といわれるのですが、これが私たちの日常です(笑)。むしろ、毎日満員電車に乗るとか、決まった時間に会社にいなければならない方が苦痛です。

テレビの向こうで伝える側の仕事をしたい、というキャリアの原点

小塚さんのキャリアも大変興味深いです。テレビ局を2社経験して、その後、紙媒体を扱う現在の会社に入られたと伺がっています。報道という意味では共通していますが、どのような思いでこのようなキャリアを歩んできたのですか。

大学時代は外国語大学でスペイン語を学んでいました。ちょうどベルリンの壁が崩壊するなど、ヨーロッパが大きく揺れた時期でした。そのとき、「私もテレビのモニターの向こう側の現場で、伝える側となって仕事をしたい」と思ったのが、報道の世界を志したきっかけです。新卒では関西テレビ放送株式会社に入社しました。 ところが、採用はアナウンス職、総合職、技術職という区分しかなく、総合職で入社したら報道ではなく編成局へ配属されてしまったのです。編成局とはテレビのタイムテーブルを決める部門です。なぜか企画プロデュースを行う部門があって一流のクリエイターと接する機会に恵まれるなど、勉強にはなりました。それでもやはり、報道への思いが強くて異動希望を出し、3年目で異動がかなったのです。

その後、すぐに東京MXテレビに転職されていますね。

プライベートな事情と、大学時代を過ごし、首都であり、日本や世界全体の情報を扱える東京で仕事がしたくて、1995年に新規開局したMXテレビのに応募しました。MXテレビは職種別採用を取っており、ビデオジャーナリスト(映像記者)という職種がありました。報道の仕事を続けられるというのが転職の後押しになりました。

映像記者とは、聞き慣れない職種ですが。

日本ではMXテレビが初めて導入したのではないかと思います。アメリカのNY1(ニュー・ヨーク・ワン)というニュース専門放送局が始めたビデオジャーナリズムの先駆的手法で、当時日本でも話題になっていました。普通、テレビの報道は記者、カメラマン、音声の3人で動きます。記者が伝える内容を書き、カメラマンは映像を撮りますが、MXテレビでは映像記者が一人でこなします関西テレビの報道にいたとき、カメラマンの撮った映像を見て、「ここが面白いと思ったのにその絵がない!」ということがよくありました。今思えば生意気ですが、20代の駆け出しだった私が、ベテランのカメラマンに勇気を持ってそう伝えても、「そんな映像いらない」と切り返されてしまい、自分で撮りたいという欲求がありました。自分で映像を撮って、記事を書いて、編集もやる。一気通貫の、とても貴重な経験ができたと思います。後発局だったからこそ、他社との差異化でさまさまな挑戦ができたんですね。

気が付いたら、政治が専門になっていた

小塚さんと政治という分野との接点は、MXテレビの時代に始まったのですか。

そうです。政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんがMXテレビの時の先輩で、その弟子のような形で政治に接点を持ったのが始まり。加えていうならば、MXテレビは後発局で、ローカル局が必要ない東京で生まれたので、「何で勝負するのか」となったとき、鈴木さんが考えたのが「東京の議員と都政を追え」だったのです。 一般的に、地方ローカル局では県議会など地方議会にフォーカスした取材をしますが、東京にはローカル局がないため、都議会や都議会議員の取材は比較的少なかったのです。都政に関していえば予算規模がスウェーデンと同じくらいと言われるほど大きい。それでもそのお金の使い方や行政のありようについて、人々が知る機会がなかったのです。 また、東京は国政の中心であるため、東京選出の議員は50人以上もいるのに、これも注目されることはありませんでした。折しも、衆議院は小選挙区制になったばかりで人々の関心が高い時期で、東京の選挙区は25にもなりました。「東京選出の議員の取材を徹底的にやろう」となったのです。

政治を専門領域と意識されたのはいつですか。

正直、あまりそういう「腹決め」みたいな瞬間はなくて、気が付いたら専門になっていたという感じでしょうか。 MXテレビから日刊ゲンダイに2002年に転職したですが、その後はしばらく政治から離れ、経済記者をやりました。当時は、金融機関の不良債権問題が取り沙汰され、銀行の再編が起こったり、親会社のフジテレビを狙ってニッポン放送の株式を堀江貴文さんが買おうとしたり、いわゆる規制産業が大きく揺らいだ時期で、全く政治と関わりがないわけではなかったですし、その後、当社の組織改変で政治と経済を同じ部署でやることになって、再び政治も主たる領域として扱うようになりました。 ちょうどそれが、2009年の自民党から民主党への政権交代の時期と重なり、それまで記者クラブ所属以外の記者に開放されていなかった取材の機会が幅広いメディアに与えられて、日刊ゲンダイも取材しやすくなったのです。MXテレビ時代の人脈をたどって取材し、そこからまた人脈が広がって、政治の世界に深く入り込んでいきました。 最初から「これをやりたい」という強い思いを持ち、そこに向かって突き進むのも悪いことではありません。ただ、若い人たちにときどき話すのは、まずは専門を決めずに幅広く取材してみたら、ということです。その中から面白いと思ったり、問題意識を持ったことを深掘りすると、知識も人脈も増える。そうやって専門性を持つようになるのだと思います。

日本がどう変わるのか。有権者が政党を選ぶ選択の材料を提示する

政治の面白さは何ですか。

政治の中でも、私の専門領域は選挙の取材だと思っています。選挙とは、この人がこの国や街にとって役に立つ人かどうかを判断する場です。そして、政党とはその人たちの集合体。どの政党を選べばより良い日本になっていくかを考えることにもつながります。候補者はどんな人格の、どんな考えを持つ人なのか。どの政党を選べば日本が変わっていくのか。こちらの政党が勝ったら日本はこうなる。こうした選択の材料をいかに読者に提示するのかということに常に力を注いでいます。

客観報道が求められている、とよく言われます。バイアスなしに書けるものですか。

もちろん、私情を挟むのはよくないと思います。ただ、完全な客観報道などあり得ない。同じ人を同じテーマで取材しても、取材者が違えば違った記事になります。ですから常に配慮していることは、取材の手法に客観性を持つことです。例えば選挙の取材であれば、1つの政党に肩入れするのではなく、できるだけ多くの政党に同じテーマで話を聞く。多くの政党に話を聞けば、「私はこの政党のこの政策がいい」と思うことがあります。その自分の主観を前面に出さず、一定の距離を置いて書くように努力します。 とはいえ、最近思うのは、主観の入らない記事なんてつまらないということです。何の意見も持たず玉虫色に書くより、「こうあるべき」と主張することがあってもいいと思います。うちのメディアは「主張が強い」とよくいわれますが、主張して読者に納得してもらうには論拠を示す必要があります。それを示すには多様なソースから取材をし、客観性を保たなければならない。政権批判ばかりしているのではないのですよ(笑)。多様な取材をした結果、そのときの政権がよくないと思えば「よくない」と書くというスタンスです。

いくら伝えたいことがあっても、伝わらないと意味がない

編集記者にとって、クリエイティブとはどのようなことでしょうか。

あまり意識したことはないですし、自分自身のことをクリエイターと認識しているかというとそうではないですね。ただ、改めて問われると、私はフィクションの作り手ではないけれど、「ノンフィクションの領域でものを作り、人に伝えるという意味ではクリエイターであり、クリエイティビティ」は重要だと感じます。 クリエイティブの根幹にあるのは、自分の中に伝えたいものがあること。こんなにすごいことが起こっている。こんなにひどいことがある。でも、いくら伝えたくても伝わらないと意味がないのです。よく、師匠に言われたことは、「自分のおばあちゃんが読んでも分かるように書け」。伝えたいことが深く記憶に残るにはどういう構成、表現で文章を書けばいいのか、どこに光を当ててどう加工すればいいか迷いながら、何度も書き換えたりします。 特に迷うのは見出し。日刊ゲンダイは定期購読紙ではなく、駅やコンビニで目について、読みたいと思わなければ買ってもらえない。私は見出しを付けるメンバー3人の1人ですが、インパクトがありながら下品すぎない、際を狙っていくのが難しいところです。

伝わるものを作るために、何か努力していらっしゃいますか。

結局、サラリーマンとか、普通に生活している人々の感覚を忘れないようにすることが求められます。例えば国会の記者クラブを往復しているだけでは、多忙であることも相まって、市井の人々の生活にほとんど触れることがありません。日常的に庶民の話に耳を傾け、例えば、買い物に行って店員のおばちゃんと話をしたりしながら、今、近所の人々がどんなことに関心を持っていて、どんな言葉に敏感になっているかを知る必要があると思います。 私が関心があるのは、政治が変わることによって普通の人々の暮らしがどのように変わっていくかです。お金持ちではなくて、普通の人々の社会福祉や税金、暮らしぶりがどう変わるかという視点で、今の政権や、政権を取ろうとする他政党の政策をきちんと発信したいと思います。

最後に、クリエイターとしてチームで仕事をするうえで、大切にしていることを教えてください。

一緒にものを作る人には、何でも思ったことを言ってほしいですね。最悪なのは忖度(そんたく)して意見を言えないチーム。スムーズに仕事は進むけど、結果的にいいものが作れません。チームの全員が、全く異なる経験を積んでいます。それを基盤に、さまざまな情報、視点、発想を持っています。私1人で出せるアイデアは限られていますから、多くの人の知恵を集結した方がいいものができるに決まっています。

取材日:2020年11月18日 ライター:入倉 由理子 スチール:幸田 森 ムービー 撮影:加門貫太 編集:遠藤 究

※コロナウィルス感染防止のためアクリル板を使用しています。

 

プロフィール
日刊ゲンダイ 第一編集局長 編集記者
小塚 かおる
東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年より夕刊紙「日刊ゲンダイ」の記者として主に政治・経済を担当。2019年より現職。 著書『小沢一郎の権力論』(朝日新書)、共著『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』(かんき出版)

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