面白いという方向を探していれば 仕事になるチャンスはころがっている
- Vol.13
- イラストレーター Shu-Thang Grafix(シュー サン グラフィックス)氏
月20本の連載を17本に減らした。 それでも続く、締切に追われる日々。
売れてますね。ご本人の実感は?
確かに忙しいです。ただ、売れている実感なんてことより、怒られてる感覚の方が大きいです。「売れているね」と言われても、人ごとみたい。実態は、ただの引きこもりです(笑)。
怒られるって、締め切り過ぎてということ?
そう、「イラストまだですか?」です。「いつ寝てるんですか?」って怒られたこともある(笑)。
今日の締め切りは?
お昼までの締め切りがありました。というか、まだあります。このインタビューが終わってから、仕上げます(笑)。(インタビューは13:00スタート)
どれくらいのペースで仕事してるんですか?
最近、月20本の連載を17本に減らしました。でも、相変わらず、へんな汗と涙を流しながら生活してます(笑)。誰でもそうだと思うんですけど、仕事をやり始めた頃、依頼は絶対断らなかった。それがいつの間にか「全部受けます」になって、ついに間に合わなくなってしまったので、それじゃあ依頼主に対して失礼だと思ってセーブするようになりました。
「断らない」という方針は、失敗だった?
いや、それはないです。ぎりぎりの中で、できる限り受けるのは凄く大変だけど、楽しかったり、気持ちよかったりという部分もある。いろんな仕事を受けていると、派生してくることがあるので、そこも面白い。
誰に影響受けてますか?
昔から、説明図を集めるのが好きだった。今の作風はそこから始まっているので、「誰の影響か」と訊かれても、なんと言っていいかわかんないですね。いわゆるおしゃれなものを描く方向にだけは行きたくないし、80年代初頭のカタログから引っ張ってきたら面白いと思ってるだけでもあります。「昔見た、あれ」っていうところを狙ってみたら、うまくいった。そういうことだと思います。
このゆるさは、湯村輝彦さん(※)につながるなあと感じたんですけど。
おお、実は学生時代に湯村さんの事務所でバイトしてました。もちろん、大好きです。でも、たくさんいるスタッフの最末端で働いてましたから、直接指導される機会は多くはなかったんですけどね。でもあのバイト体験で、音楽やライフスタイルに大きな影響を受けたことは確かですね。
70年代にまでさかのぼってしまうと、そこには70年代の固定イメージがある。 結果的に80年代初頭あたりの人は、いい感じにやぼったかったりします。
イラストレーターとして活動し始めたきっかけは?
大学を卒業して1~2年ほどは、友人のデザインの仕事を手伝ってました。その間に描き溜めておいた作品を「POPEYE」のデザイナーさんに見せたら気に入っていただけて、そこから雑誌の仕事が始まりました。2000年くらいだったと思います。他には、特別営業はしませんでした。
突発的に始まったイラストレーター生活が、7年目に入ってるだけのこと?
そうです(笑)。
画材は?
全部Macです。デジタルです。手描きは下手です(笑)。
モチーフは70年代?80年代?
いや、僕としては、基本的に時代性は消したいんです。最近の人に面白みを感じないのは明らかなんですが、かといって70年代にまでさかのぼってしまうと、そこには70年代の固定イメージがある。結果的に80年代初頭あたりの人は、いい感じにやぼったかったりします。資料を見て、「この髪型は……」とか思えたらビンゴ(笑)。そこらへんから引き抜いてきています。
そうか、目の付け所の勝利、なんですね。
さっき「狙って」と言いましたが、正確に言うと、好きなことをやってるだけです。描いてて楽しいものを描いてる。描きながら、「これは笑ってもらえそうだ」と思える瞬間が最高に楽しい。
それが仕事になるんだから羨ましい。
確かに楽しいと思いながら描いてます。でも、同時に、泣きながら描いてもいる。「そろそろ催促の電話がくるかも」ってね(笑)。
車好きだそうですね。
父が「カーグラフィック」を創刊から集めている人だったので、それを漫画を読むように読みながら育ちました。だから実は、人物を描くより機械のイラストを丹念に描くことの方が好きだったりします。
ひとつだけ確かなのは、商業主義にわざと乗っていること自体 を楽しんでいること。それは明らかに面白い。
時代に受け入れられていると感じる?
いや、僕は使いやすいんだと思う。「あれと同じように」っていう依頼のされ方、けっこう多いです(笑)。自分では全然面白いと思わない仕事でも「面白い!」と絶賛されますからね。それはそれでいいと思ってます。
Shu-Than Grafixのファンは着実に増えている。作家としてやってきたことが認められたということになるのでは?
救命胴衣の説明とかプラモデルの組み立て図という、本来作家性のないモチーフを作品にしてやろうという感覚が受け入れらているのは、もちろん嬉しいです。でも、自分の中に、作家性というものはないと思います。少なくとも感じない。ひとつだけ確かなのは、商業主義にわざと乗っていること自体を楽しんでいること。それは明らかに面白い。
「発想転換は夜中の散歩」らしいですね。
最近は、夜中に徘徊する時間もないんです。減らしたとはいえ、仕事は1日にひとつかふたつ仕上げているという感じ。スケジュール管理はほぼ破綻してますから(笑)、次々に襲いかかる締め切りに追いまくられている日常です。
プライベートな時間を楽しむ暇もない?
友人からは「ドタキャンの帝王」と呼ばれてます。最近はもう、気を使って呼ばなくなり始めている(笑)。やばいですね。
仕事の質は、ちゃんと維持できてるんですか?
もちろん、最低限そこは踏ん張っているつもりです。ただ、印刷上がりを見て、「ああ、もっと遊べたなあ」と思うのは、この仕事の宿命ですかね。これまで、「これは、いいできだ」と思えたのは全体の2~3割くらいです。
さらにもっと数を減らして、ひとつひとつじっくり取り組むやり方に変える選択もありますよね。
仕事が来てから無理やりに動くっていうのが、けっこう性に合っている(笑)。だからもうしばらくは、こんな状態が続くと思います。
ジャンルは問わず、いろんな人と一緒に仕事ができたら 面白いと思う。
今後、どんな風に活動を広げていきたいですか?
まず、他の人の作品をもっと見たいですね。そしてジャンルは問わず、いろんな人と一緒に仕事ができたら面白いと思う。もっと遊びのあることができると思うから。コラボレーションには憧れがあるし、実はうまくできるんじゃないかとも思ってます。人のアイデアを横取りしつつ手を加える(笑)なんて、けっこううまいと思う。特に、自分のできないこと、たとえば映像とか写真の人と一緒にやるのが楽しみです。
これからも、面白いものを作り続けるんですね。
はい。自分の中だけで大爆笑してて、まわりからはドン引きなんてことになるかもしれないけど(笑)、まず自分が楽しむことを最優先にしていきたいです。
私生活での夢は?
美人秘書がほしいですね(笑)。まあ、予算の関係から無理でしょうが。あとは、犬がほしい。旅行もしたいですね。近場でいいから。以前はハワイにベタベタの観光客の格好で行くっていうのが夢だったんですが、最近は「奥多摩でもいいから」となってる(笑)。それと、呼ばれた飲み会には、ちゃんと出たい。
最後に、これからクリエイターになる人たちにエールを贈ってください。
自分の「面白い」という方向を探していれば、仕事になるチャンスはころがっていると思う。そのために必要なら、職業なんて、途中でころころ変えていけばいいと思う。責任は持ちませんが(笑)。
※ 湯村輝彦さん(知らない若者のための解説) 「TerryJhonson」のペンネームで、80年代に一世を風靡した「ヘタウマ」イラストの旗手。広告デザインの世界では、その作風とともにディープなブラックミュージックファンとしても名が通っている。もちろん現在も現役で大活躍中。
Profile of Shu-Thang Grafix
1976年生まれ。本名/浦野周平。東京造形大学卒業。『R25』の「スマートモテリーマン講座」をはじめ、『BRUTUS』『CQ』『POPEYE』など様々な媒体で活躍する人気イラストレーター。雑誌連載の他にも、書籍や広告、ロゴ、パッケージデザインまで手がける URL:http://www.shu-thang.com/