WEB・モバイル2013.06.27

コマドリという手法で 動かないものが動くという 原始的な感動を見せられればいい

Vol.93
コマドリスト 竹内泰人(Taijin Takeuchi)氏
 
1コマ1コマ写真で撮影し、編集する「コマドリ」の手法を使った動画を専門に制作している竹内泰人さん。2009年にYouTubeに公開した「オオカミとブタ」は再生回数370万回を越え、大きな話題になったのをキッカケに、映像クリエイターとして活動されています。竹内さんのバックグラウンドから、コマドリ手法にこだわる想い、クリエイターを目指す人へのメッセージまでじっくりとお聞きしました!

コマドリムービー専門の「コマドリスト」 大学の映像サークルがスタート

竹内さんの現在の活動状況を教えてください。

コマドリ専門の「コマドリスト」の肩書きで、フリーランスで映像を作っています。Web用の広告ムービーやテレビCMの仕事を受けつつ、短い自主制作を1年に1本のペースで作っています。

コマドリを始めたキッカケは?

大学2年の終わり頃に映像サークルに入りました。そのサークルのメンバーが少なくて、入っていきなり5分のムービーを作らなければならなくなったんですよ。今はだいぶ社交的になったんですが、当時はひとりが好きで(笑)、ひとりで作れる手法としてコマドリを選びました。コマドリと言えばクレイアニメや人形アニメがまず思い浮かびますが、当時はあまり人形には興味がなかったので、缶を動かすコマドリ作品を作ったんです。この作品が周りの反応が良くて、コマドリにハマっていった感じですね。

もともと最初から映像クリエイターを目指していたんですか?

映像を作り始める前は、デザインを職業にできれば良いな、と思っていました。小さい頃から絵を描くことが好きで、画家は無理だろうからデザイン系の勉強をしようと、大学は九州芸術工科大学というところに進みました。美術系の大学に進むのは親も納得、という感じだったのですが、大学はアートよりも工学色の強い理系の大学でプログラミングなどをやってまして、映像はあくまで趣味で作っている、という範疇でしたね。4年になって進路を考えたときに、もう少し制作を続けたい、今度はアート色の強い環境で、と考えて武蔵野美術大学の映像コースの大学院に進学しました。

竹内さんは名古屋の出身とのことですが、大学が福岡で、大学院が東京って、すごい移動距離ですね。

僕、あまり土地に執着がないんですよ。やりたいことがそこにあるから行く、という感じで。もし沖縄にやりたいことができる大学があったら躊躇なく行ってましたね。

YouTubeで話題沸騰 「オオカミとブタ」がプロになるキッカケ

「オオカミとブタ」を制作されたのは、大学院時代ですか?

学部4年のときに制作をはじめました。大学の卒業研究は画像加工のプログラミングを書いていたので、その片手間に撮影をしてました。卒業ギリギリに撮影が終わって、編集は大学院に来てから。完成してNHKの「デジタル・スタジアム」というデジタル系のアワードに応募したんです。そこでは結局グランプリは取れず、その後にYouTubeで公開したら10日間で再生回数が100万回を超えて「これはすごいことになった」と自分でもビックリするくらいの反響がありました。

こんなことができるんだ!と衝撃的なムービーですよね。初めて見たときは驚きました。

YouTubeでの再生回数が伸びたのは、日本とアメリカの両方で「おすすめ動画」として紹介されたのが大きかったです。8ヶ月くらい作ってましたし、手間がかかる手法だったのですが、今見ると自分でも「よく頑張ったよなあ」と思いますね(笑)。でも、この作品のおかげで「同じようなコマドリの動画を作りたい」と仕事がポツポツ来るようになりました。

その流れで、現在はフリーの映像作家として活動されているのですね。大学院を卒業して就職することは考えなかったのでしょうか?

いえ、最初は就職するつもりだったんですよ。映像の仕事をしてみたいけどコネもツテもないし、フリーになったところでどのように仕事をしたらいいのかもわかりませんでしたから。デザイン事務所や制作会社など、広告系に就職しようかなと思って、エントリーシートを書こうとするところまではやりました。でも、書けない(笑)。そのうちに映像の仕事が来るようになって、やっているうちにフリーでの仕事のやり方がなんとなくわかってきて、今に至る、というところです。

お金よりもアイデアで勝負 コマドリの可能性を広げたい

竹内さんの作品には驚きがあり、シュールなようでいて温かみもある、独特の個性がありますよね。

動かないものが動く、という原始的な感動を見せられればいいな、と思っています。人形をいかにリアルに動かせるかどうか、で勝負する気はありませんし、まるでCGみたいと言われても面白くありません。そこで勝負しても、お金も人手も足りないし、絶対に勝てないんですよね。コマドリならば、素人っぽさも魅力になるし、アイデア次第で太刀打ちできると思っています。コマドリでこんなことができる、ということを提案していきたいですね。

今後はどのような仕事をしていきたいですか?

今の僕は、「オオカミとブタの人」で、この作品に近い仕事がメインなんです。もっと幅を広げていかないと限界があるので、コマドリの表現の可能性を見せる自主制作動画を作っています。「魚に似た唄」という作品はかなり大掛かりなコマドリです。「sakulalala」は、オシャレで爽やかな雰囲気です。また、僕の作品は三次元での表現が多いんですが、二次元でも面白いことができることを示そうと思って、切り絵アニメ(カットアウトアニメ)という手法を使った「MONKEY DEAD DROP TURN」を作りました。今後は苦手なことにもチャレンジして、幅を広げたいです。

苦手なこととは?

ストーリーを作るのがあまり得意ではなくて。僕の作品にはよく動物が登場するんですけど、動物が出て来るとストーリーがなくても単純に可愛くなるし、感情移入もしやすいからなんです。これまでいわゆるパペットアニメのような人形を使った作品は作ってこなかったのですが、人形でキャラクター設定をすればストーリーを作りやすいので、今後は人形を使った作品にチャレンジしようかな、と考えています。

仕事の報酬は仕事 どんな予算でもテーマでもコマドリに落とし込む!

お話を伺っていると、竹内さんはアーティストとして「作りたいものを作る」より、「求められているものを作る」志向が強いのでしょうか?

僕はやりたいギミックはあるんですけど、伝えたいテーマは特にないんですよ。僕の定義では、アーティストは「人と関わらないでも制作に没頭できる人」ですが、僕は違います。お金を稼ぎたいです。社会とお金を稼ぐことでつながりたいと思っています。

コマドリストとして仕事を受けて、お金を稼ぎたい、ということでしょうか?

そうです。ホントは自主制作を作る暇がないくらいに忙しければ良いんですが(笑)。僕は仕事の報酬は仕事だと思っていて、一度依頼してもらったら次も、とリピーターになってほしいと思っています。コマドリの企画が何度もリピートされる、ということはなかなかないのですが、予算が安くてもテーマが難しくてもコマドリに落とし込める自信はあるので、映像表現の企画に困ったときには僕のことを思い出してもらえると嬉しいです!

まずは「作ること」 そして「完成させること」「人に見せること」

YouTubeで自分の作品が話題になり、そこからプロの道が開けた竹内さんは、クリエイターを目指す人にとっては憧れですよね。

ひとつのことに特化してやっているので、目立っているとは思いますし、うらやましがられることもあります。まだまだコマドリでやってみたいことがあるので、ワクワクしていますね。

クリエイターを目指す人にアドバイスをお願いします。

「作りなさい」という一言に尽きますね。旅行行ったり遊んだりすることでインプットすることも大切ですが、まずは作らないと。伝えたいメッセージやテーマがなくても、アイデアが出なくても、とにかく作れば何かが見えて来る。そして必ず完成させること。完成させないと意味ないですね。完成させた達成感が次へのエネルギーになります。次に、人に作品を見せること。人から感想を聞くとモチベーションにもなるし、自分に足りないものが客観的に見えてきます。それと、クリエイターとして仕事をしていく上で「考えを言語化すること」は大切なことだと思います。クライアントやスタッフとの打ち合わせでは、どういうものを作るのか言葉で伝える必要があります。共同作業でも「これをしてほしい」というのがちゃんと説明して指示できないとこちらが思った通りにやってもらえないわけです。コマドリはひとりでカバーできる範囲は広いですが、照明や美術の専門の人と一緒に仕事をすることで、クオリティが格段に高くなります。僕も想いを言語化できるように、日々努力しています(笑)。

取材日:2013年6月10日

プレゼント★竹内泰人さんサイン入り書籍 「つくろう!コマ撮りアニメ – HOW TO MAKE THE STOP MOTION ANIMATION 」

つくろう!コマ撮りアニメ竹内泰人さんより、サインをいただいた著書「つくろう!コマ撮りアニメ – HOW TO MAKE THE STOP MOTION ANIMATION 」を抽選で1名様にプレゼントいたします。 記事を読んでの感想をご記入の上ご応募ください。

プレゼントページよりご応募いただけます。 応募締め切りは7月23日(火)とさせていただきます。

皆様からのご応募を心よりお待ちしております。

◆プレゼントページ:https://www.creators-station.jp/gift/12982

 

Profile of 竹内泰人

最新作「MONKEY DEAD DROP TURN」

1984年 愛知県生まれ 2007年 九州芸術工科大学 (画像設計学科) 卒業 2009年 武蔵野美術大学 大学院 (映像コース) 卒業

現在はCM製作会社キラメキに所属/東京都在住

◆HP:http://dokugyunyu.boo.jp/ ◆Youtube:http://www.youtube.com/user/dokugyunyu ◆著書「つくろう!コマ撮りアニメ」BNN新社:http://www.amazon.co.jp/dp/4861007232

 
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