オリジナリティある 活動をするためには しっかりしたコンセプトが必要
- Vol.82
- Killigraph/エディトリアルデザイナー 瀬川卓司(Takuji Segawa)氏
何度でも貼ってはがせる「付箋」の特徴を活かした「切りグラフ付箋」
ふだん何気なく使っている付箋が、こんなに表情を持った作品になるとは驚きました!
付箋の「糊」の部分を使って立てることで、立体的になるので表情が出てくるんですよね。一度貼っても簡単にはがせて、何度でも使える付箋の特徴を活かした作品ができるんですよ。例えば、斜めでも貼れるのでスポーツのダイナミックな動きを表現できますし、片足でも立てられるので、バレリーナのポーズも決まります。また、いろいろな場所に貼ったりはがしたり、複数の作品を組み合わせたり、楽しみを広げることができます。
現在は作品を作って発表するだけでなく、ワークショップを開催されて「自分で作りたい」人にも教えているそうですね。
切りグラフ付箋は、付箋とデザインナイフとカッティングマットがあれば、作ることができます。付箋は大きさも色もいろいろな種類のものがあり、常に身近にありますよね。デザインナイフも数百円程度ですし、誰でも気軽に初めてもらえます。ワークショップにはお子さんも来てくれるのですが、小学校高学年くらいならば十分に作ることができます。付き添いで来た親御さんのほうが夢中になってしまうことも多いのですが(笑)書籍も発売し、そこには型紙も多く収録しているので、ぜひトライしてもらいたいですね。
笑点の舞台の組み上げ制作がヒント。切りグラフは江戸時代の「立版古」の現代版
とてもオリジナリティのあるプロジェクトだと思いますが、瀬川さんの本業はエディトリアルデザイナーですよね?
はい、最初は女性誌をメインにしたエディトリアルデザイナーとしてスタートしました。そこから書籍のデザインに広がって、特に実用書のデザインが好きですし得意分野なんですよね。子どもの頃からイラストや美術より図画工作の「工作」が好きでした。そこで切り紙や手作り文房具など、クラフト系の実用書を企画や編集段階から手掛けてきました。その中で「紙」のジャンルは、手軽で身近な素材の割に、うまく活用した事例が少ないなと感じていたんです。そこで、紙を使って何か面白いことができないか、と常々考えていたのですが、たまたま仕事で切りグラフ付箋を思いつくヒントと出会えたんですよ。
[lignleft" width="214"] 林家たい平師匠の著書[/caption]
仕事がヒントになったのですか?
落語家の林家たい平師匠の著書をデザインしたのですが、その時「笑点」の舞台を切り取って組み上げる付録みたいなものを入れたんです。その「組み上げ」を関西では「立版古(たてばんこ)」と言って、江戸から明治時代におもちゃ絵として親しまれていたらしいんですね。そういう、紙を使った立体的なものはすごく面白いな、と思って、身近な付箋を使った切りグラフ付箋を考え出したのです。
そこから作品を作り始めていったのですね。現在は書籍まで発行するほど注目を集めていますが、すぐに切りグラフ付箋への反響はあったのでしょうか?
最初は作った切りグラフ付箋を行った飲食店に置いて来て、その写真をブログにアップする、といったとても地道な普及活動からスタートしました(笑)その飲食店を訪れたお客さんがお店の人に聞いてくれたり、サイトにアクセスしてくれたりして、やはり目を引くというか、作品として人を引き付ける力はあるのかな、と感じましたね。意外に付箋は耐久性があって、お店に置いてきた切りグラフ付箋が1年経ってもまだしっかりと残っているんですよ。
ブログの写真を拝見しましたが、切りグラフ付箋の材料は付箋だけなのに、独特の存在感がありますよね。
立たせることで影ができるので、雰囲気のある佇まいになりますね。料理や雑貨小物の撮影でスタイリングのアクセントとして使ってもらえると活きるのではないか、映像が向いているのではないか、とあれこれと今後の展開を考えています。切りグラフプロジェクトを始めて5年以上になるのですが、まだまだこれからの段階ですね。
消耗品である付箋に新たな命を吹き込む
バレリーナやスポーツ、動物など、キリグラフの作品テーマは幅広いですね。
バレリーナのシリーズは女性に人気がありますね。あとは、侍や兵隊も人気があります。男の子はプラモデルやジオラマ、女の子はドールハウスなど、ミニチュア文化は根付いているので、切りグラフ付箋もパッと見て「カワイイ」「欲しい」と幼い頃からの「ミニチュア好き心」をくすぐるんでしょうね。ミニチュアフィギュアの分野で世界中に知られている、ドイツの「プライザー社」というメーカーがあるのですが、小さくても本当に精巧でありとあらゆる人や動物のラインナップが揃えられているんですよ。切りグラフ付箋も、紙のプライザーを目指しています!
一枚の付箋から、いろいろな世界が作られていくんですね。
付箋は消耗品で次々と使っては捨てられていくものですが、ちょっと手を加えてあげるだけで、これだけの表現力が出てストーリー性を感じられるものに変えることができます。作品を見せると「ひとつひとつではなく、束になってメモとして使えるものがいい」と言われたりするのですが、それは切りグラフのコンセプトから少しズレてしまうんです。切りグラフ付箋には消耗することに対するアンチテーゼのメッセージも込めていますから、紙の束を動物や人の形に切り抜いて付箋にしたものとは全く価値が異なります。
一枚の付箋に命を吹き込むような作品づくりだからこそ、キリグラフ独特の味わいがあるんですね。今後、よりキリグラフを広めていくために考えていることは?
6月にスポーツシリーズのふせん切り絵の書籍や8月にもディズニーのキャラクターのふせん切り絵の書籍が発売予定です。現在は紙とは別の素材を使って、より丈夫で消耗品ではなく、長持ちするアイテムを考えています。他にも実用的なものなど流通を意識した販売用のアイテムを考えています。
新しいものを産み出すには常に考え続けることが必要
瀬川さんのようにオリジナリティあふれる作品を生み出したいと考えているクリエイター志望の若者は多いと思います。
まずは新しいものができないか、何か面白いことができないか、常に考え続けていることが必要です。新しいものを生み出すきっかけというのは、日常の中にあるものなんですよ。この切りグラフ付箋もきっかけはエディトリアルデザインの仕事ですが、その仕事もひとつではなく、複数の仕事を掛け合わせてできたきっかけです。考え続ける中で探していたパーツが、たまたま見たものや経験したもので合致することによって、新しい企画が産まれてくる。そして何となく頭に浮かんだら、とにかく手を動かして形にしてみることも大切です。具現化することで見えてくることがたくさんありますし、さらに企画をテイクオフさせるために必要なものもイメージできますから。
キリグラフも、頭に浮かんだものを形にしながら作られていったのですか?
そうですね、最初はもっと小さなものを作ったり、シルエットではなくて写真を使ったり、試行錯誤して今の形に落ち着きました。ただ、最初に「身近なものをアートにできないか?」とか「消耗品の付箋をもっと大切なものにできないか?」というコンセプトがありました。コンセプトがしっかりしていないと中身がないので、真似される亜流がいくらでもできてしまう。切りグラフ付箋も、同じように切り抜かれてデザイン化された商品はありますが、それとはコンセプトが違います、と自信を持って言えます。自分の作品はこういう考え方の元、こういう表現をしています!とハッキリと言えるようにすることが、オリジナリティのある活動をするためには大切なことだと思います。
取材日:2012年5月2日
Profile of killigraph/瀬川卓司(せがわ・たくじ)
エディトリアルデザイナーとして、雑誌、書籍を中心にデザインをおこなう。最近では企画・編集・デザインを担当した書籍や著書も。特に「クラフト系」「紙もの」の企画を得意とする。自身でスタートしたプロジェクト「切りグラフ」を進行中。「切りグラフ付箋」はホームページからワークショップも受付中です。
▼killigraph http://killigraph.com/
<著書/作品(Killigraph・瀬川卓司)>