プロジェクションマッピングに限らず トータルな空間演出をしていきたい

Vol.96
NAKED INC. ArtDirector 小林恵美(Emi Kobayashi)氏
 
東京駅の『TOKYO HIKARI VISION』で大きな話題を集めたプロジェクションマッピング。さらに、東京国立博物館で間もなく公開の特別展『京都―洛中洛外図と障壁画の美』でも京都をテーマにしたプロジェクションマッピングが公開されます。このふたつの大きなプロジェクトを手がける株式会社ネイキッドでアートディレクターを勤める小林恵美さんにインタビュー!ドラマのタイトルバックや劇中CGの制作も手がける小林さんの駆け出し時代の逸話(?)や、若いクリエイターへのメッセージも必読です!

“東京”に続き“京都” アートディレクターとしてプロジェクションマッピングを制作

国立博物館で公開される京都をテーマにしたプロジェクションマッピングは、東京駅に続くビッグプロジェクトですね。

平面の屛風「洛中洛外図屛風 舟木本」に描かれた400年前の京都を空間に表現します。扱う題材が重要文化財ということもあり、大切に守られてきたものですが、「洛中洛外図屛風舟木本」の世界観はそのままに、現代解釈版の和のPOPアートとして見てもらえたら嬉しいですね。エンタテインメントショーとして、ストーリーがあったり、400年前と現代をタイムスリップしたり、面白い仕掛けがいろいろとありますよ。

東京駅も今回の京都特別展も、ネイキッドの村松代表と組んで仕事をされていますね。小林さんのポジションは?

村松が統括ディレクターとして、コンセプトと全体構成、ストーリー展開などを作っています。私はそのコンセプトをデザインとして具現化するアートディレクターの立場です。

現在は映像や空間演出を中心にお仕事されていますが、もともと映像志望だったのですか?

いえ、私は専門学校でグラフィックデザインを学んでいて、最初は仕事も広告などのグラフィックデザイナーになることをイメージしていました。ただ、学校に来る求人票を見ても、ピンと来る会社がなかったんですよね。そこで先生に相談したら「1週間前にできたばかりの会社だけど」と、ネイキッドの求人票を見せてもらったんです。待遇や福利厚生など、ほとんどの欄は真っ白で何も書かれていなかったんですが(笑)、そこに書かれていた“トータルクリエーション”“ボーダーレス”といった理念を読んで「ココだ!ココしかない!」とピンと来たんですよ。

創業1週間のネイキッドに就職 怒られて追い出されたことも

1週間前にできたばかりの会社に就職を決めてしまったんですか?

私が面接第1号です。当時は創業メンバー3人と、私を含めた新卒2人の会社でした。ただ、最初はつらかったです。理念は立派なんですが、来る仕事が創業メンバーの友だちの年賀状やイベントの招待状のデザインなんですよ(笑)。あとは、営業に行くための資料を作ったり。自分で飛び込みの営業にも行きました。実はこれは今でも続いていることなんですが、ネイキッドではデザイナーやディレクターのクリエイター志望でも、まずは自分で仕事を取ってこい、自分の給料分は自分で稼いでこい、という考え方なんです。まだ学生気分が抜けなくて毎日怒られて泣いていたし、休日も寝る時間もあまりないし、つらかったですねえ。

そんな毎日で、辞めようとは思わなかったのでしょうか?

辞めたい、というよりも、逃げたい、と思っていましたが、あまりに私が仕事ができなくて、村松に「出て行け!」と怒られてドアから追い出されたことがありましたよ。裸足で追い出されて、一度ドアを閉められたんですけど、しばらくしてドアが開いて「入れてくれるのかな?」と思ったら、靴と500円玉が放り投げられて、またバタン!と閉められて(笑)。

それは強烈な体験ですね。500円玉は何に使ったんでしょうか(笑)。

ホットコーヒー買いました(笑)。飲みながら、近所の公園で「どうしよう」と思っていたら、他の先輩が迎えに来てくれました。そんな毎日でしたが、日々発見があって、社員も刺激的な人ばかりで、仕事に限らずいろいろなことを教えてもらえました。家にいるよりも会社にいるほうが楽しかったです。

人手不足から映像ディレクターに テレビドラマのタイトルバックで活躍

映像の仕事には、どのように関わっていったのでしょうか?

とにかく人が足りないので、入社してすぐに女性のディレクターがレギュラーでやっている仕事でADとして現場に出ていました。そして人手不足もここに極まれり、という状況になって、村松から「現場で教えるからディレクターやれ」と言われまして。最初は指示出しのタイミングとかすべて教わりながら、見よう見まねで徐々に覚えていきました。

映像に関しては、会社に入ってからすべて覚えた、という感じなのですね。その状態から、映像ディレクターとして最初に手応えを感じた仕事は何ですか?

日本テレビ系の『金田一少年の事件簿』第3シリーズ(嵐の松本潤主演)で、タイトルバックや劇中のCGを担当した仕事ですね。撮影現場に立ち会って、監督とやり取りしながら作っていきました。村松も同行していましたが「メインはお前でやれ」と言われて、中心になって作った思い出深い作品です。

小林さんは、テレビドラマのタイトルバックの仕事を多く手がけていますよね。

タイトルバックは、作品で伝えたいメッセージをビジュアルで伝えるのが役割で、短い尺の中でどのように表現して感覚的に視聴者に伝えるか、それを考えるのはとても面白いですね。タイトルバックは、撮影前、しかも脚本があがる前に作ることが多いんです。プロデューサーとミーティングをして、作品のテーマやメッセージを聞き、考え方の整理を含めて2〜3方向のデザインを提案します。

タイトルバックの仕事で印象に残っているものは?

フジテレビ系列の『家族のうた』は、1話の最初で5分くらいのドラマの序章を作ったんですよ。ミニチュアっぽい、ちょっと仮想空間のような雰囲気にしたい、という要望があったので、ムービーもスチールもすべてあえてiPhoneで撮影して、ムービーを切り抜き、コマ撮りして、さらにトイカメラっぽい加工をして…3,000枚以上の写真と格闘して、それはそれは大変でした!でも、面白かったですね!あと、NHKのBSドラマ『真夜中のパン屋さん』は、パン屋さんが舞台なのですが、そのセットにプロジェクターを持ち込んで投影して撮影しました。プロジェクションマッピングのドラマ版ですね。マッピングを使って実際の現場で撮影することで、合成では表現できない世界観、臨場感、質感を出すことができたと思います。

プロジェクションマッピングは手法のひとつ 技術ではなく演出で勝負

東京駅『TOKYO HIKARI VISION』の経験と評判で、プロジェクションマッピングはネイキッドの、そして小林さんの強みになっていますね。

確かに東京駅のプロジェクトは、大きな経験でしたし、実績になったと思います。マッピングは表現手法のひとつであって、予算やスケジュール、伝えたいテーマなどによってマッピングを選択しないほうが良い場合もありますが、最初にマッピング企画ありきの前提で話が持ち込まれることも多いですね。最近はマッピングを扱う会社も増えて来ていると思いますが、弊社はマッピングを技術としては捉えず、演出のひとつだと考えているので、そこが強みになっていると思います。

今後はどのような仕事をしていきたいですか?

もっと空間演出を手がけていきたいですね。今はプロジェクションマッピングと言えば人が集まる状況なので(笑)、しばらくはマッピング関連の仕事も多くなると思いますが、マッピングオンリーではなくて、その周りの空間をどう演出していくかなど、トータルな空間演出をしたいです。いろいろな方向を探っていきたいです。

正解はいらない 他の人とは違う何かを見つけ、表現してほしい

本当に素晴らしい活躍ぶりで、キャリアも十分積まれています。独立は考えていないんですか?

一人でできることは、限られています。大きな仕事こそ、遠慮しないでコミュニケーションが取れる仲間が必要。ネイキッドにいれば、意思疎通のできる優秀なメンバーがいて、チームとして取り組むことができますから。今は人を動かす立場で仕事をすることが多くなりましたが、思うように動いてくれない時はとにかく話し合って、良い関係を作るように努力します。もちろん、ただ仲が良いだけでは甘えが出て来たりもしますが、ダメなところはシビアに共有する文化がネイキッドにはあります。

最後に、小林さんのようになりたい!と憧れる若いクリエイターにメッセージをお願いします。

私も採用面接に出ることがありますが、最近の若いクリエイターはポートフォリオや作品がきれいにまとめられて素晴らしいな、と思います。だけど、それだけなんですよね。正解を目指して、きちんと課題をやって、きれいにまとめられているけど、すごいと思う何かが足りない。他の人とは違うものは何か、それが見たいのに見えないんです。間違っていても良いし、支離滅裂でも良いから、伝えたいものを自分なりに見つけて、それが伝わるように表現してください。

取材日:2013年10月2日 ライター:植松

Profile of 小林恵美

1997年、デザイナーとしてネイキッドに入社。入社一ヶ月足らずで、映像の世界に魅了されディレクターへ。 地上波TVドラマのタイトルバックを若干25歳で手がけ、タイトルロゴデザイン、ビジュアル面のアートディレクションをも行う。代表作としてNTV『ハケンの品格』「アイシテル」『ホタルノヒカリ』「火曜サスペンス劇場」などのタイトルデザインを手がけ、『マイ★ボスマイ★ヒーロー』ではザテレビジョン「タイトルバック賞」受賞の経歴を持つ。 また劇場公開映画『ラヴホテルズ』『ヘイジャパ!』『アリア』『ランブリングハート』の監督補・編集・MAを統括し、総合演出のトップとしてキャリアを積む。自ら監督した短編映画『10』ではリール国際映画祭ノミネートを果たす。 その他、映画美術やコスチュームデザイン、特殊メイクなど、世界観を作るすべてのものをディレクションし、トータルに世界観を作り上げている。 最近では、3Dプロジェクションマッピングなど、映像とリアルな空間との総合演出に取り組み、 活動の範囲を広げている。

 

特別展「京都―洛中洛外図と障壁画の美」 http://www.ntv.co.jp/kyoto2013/index.html

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開催:2013年10月8日(火)~12月1日(日) プロジェクションマッピングの上映は10月16日(水)、17日(木)の2夜のみ※チケット完売

この秋、東京国立博物館本館と東洋館に特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」の開催にあわせ、今話題の3Dプロジェクションマッピングが登場します。昨年12月、東京駅のマッピング「TOKYO HIKARI VISION」で大きな話題を呼んだクリエーター村松亮太郎が、「洛中洛外図屛風 舟木本」に描かれた400年前の京を「空間」として表現します。ぜひこの機会に洛中洛外図に描かれた一人になった気分で、秋のスペシャルイベントを体験してみてください。そして、時空を超えた旅の後は、特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」をお楽しみください。このスペシャルナイトは、10月16日(水)、17日(木)の2夜のみ。チケットは「洛中洛外図屛風 舟木本」に描かれた京の人々の数と同じ、2728枚限定発売(2夜合計)。ご購入いただいた方には、本マッピング映像のDVDをもれなくプレゼントします。(公式サイトより)

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