世界と一体となり、そこで生まれる美を体験する。チームラボにしかできないアートの形

Vol.220
チームラボ 代表
Toshiyuki Inoko
猪子 寿之
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さまざまなスペシャリストが集結し、これまでにない新しい体験ができるデジタルアート作品を世に放っているチームラボ。国内のみならず世界中で話題となり、日本へ訪れた外国人の10人に1人がチームラボのアートミュージアムへ足を運んでいると言います。マカオ、マイアミ、シンガポールなど海外での展示も好評を博しています。

なぜこんなにも、チームラボの作品は人々の心をつかむのでしょう。2024年2月に麻布台ヒルズにオープンした「チームラボボーダレス」で、代表の猪子寿之氏にインタビュー。チームラボの根底にある世界観や、多くの人を惹きつけてやまない独自性とは何か。猪子氏に迫りました。


チームラボ 《森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス》© チームラボ

言葉や論理で切り刻まれている世界に、連続性を取り戻す

「チームラボボーダレス」を体験し、アートと一体化するような感覚を覚えました。チームラボのミュージアムを訪れる多くの人が、こうした体験に心躍らせています。チームラボが人々に届けたいものとは、何なのでしょうか?

(私たち)人間が、言葉や論理を用いて考える外側にある「自分と世界との連続性」をテーマにして、その連続性を美しいと思えるような認識や体験を届けたいと思っています。本来、世界は何もかもが境界なく連続していて、連続性の上に成り立っている。でも、人間は言葉や論理によって、連続しているものを切り刻んでしまっています。

例えば、宇宙と地球には境界線などありません。地球のすべての生命体は太陽エネルギーがあるからこそ生きている。連続性をもって相互に作用しながら存在しているにもかかわらず、「地球」と言ったとたんに、まるで独立した存在のように認識してしまいます。言葉や論理は、認識上、世界をどんどん切り刻んでいって、あらゆる存在が独立しているかのように見せているのです。

そういった考え方を作品に落とし込んでいることが、チームラボの大きな特徴ですよね。

美の対象も、これまでは独立したものばかりでした。例えば、ゴッホの「ひまわり」もそう。アートに限らず、美しいと言われるものは、基本的に独立した存在を対象としていたのです。でも本来は、すべてが連続性の中にしか存在していない。だから、連続していることそのものを美しいと思える場所を作りたいと思いました。連続性をもったものが美の対象、認識の対象となるような体験ができる場所として、チームラボのミュージアムは生まれました。


チームラボ 《森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス》© チームラボ

訪れる人に連続性を感じてもらうために、アートと一体化するような作品を生み出しているのですね。

自分と作品、自分と世界が連続していたり、その一体であったり。チームラボのミュージアムではそういう体験ができます。

例えば、三次元空間を写真や映像などのレンズで切り取ると、レンズを境界にしてこちら側と向こう側に境界線が引かれますよね。それに対して、われわれはコンピューター上に作った三次元空間を平面で切り取った時に、境界線が生まれない方法を模索してきました。チームラボが最初に取り組んだのは、いわゆるレンズとは違った論理を構築する映像を作ることです。今も、それをずっと模索し続けています。


チームラボ 《森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス》© チームラボ

チームラボ 《森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス》© チームラボ

 

才能やアイデアがぶつかり合って生まれる相乗効果が、集団制作のメリット

チームラボはアート集団で、チームでアート作品を手掛けています。チームで一つのものを作り上げることの意義とは何でしょうか?

そもそも、グローバルである程度、活躍している人のほとんどはチームでものづくりをしています。集団制作です。個人名で発表している人は多いけれど、そういった人でも大規模な組織で作っているのです。

日本社会は世界と比べて特殊で、非常に個人主義だと思います。だから、どんな分野でも個人で取り組む人が多い。例えば、日本で有名なレストランの多くは小さな店ですよね。反対に、グローバルで名を馳せているレストランは、規模が大きい。「世界のベストレストラン50」で5回、世界1位を獲得したデンマークの「ノーマ(noma)」というレストランでは、一つの店で何十人ものシェフが料理を作っています。

世界において、集団で何かを作ることは当たり前のことなのです。でも日本は違う。だから付加価値を生みづらく、世界における競争力の低下を招いている側面もあるのではないでしょうか。

チームラボは、集団制作の良さを生かして作品制作を行っているのですね。

大勢の人が、1人1人の知恵を持ち寄ったり、互いに良い相乗効果を起こしたりしながらものづくりをしています。その方がいいものが出来上がる。チームラボはいろいろな分野の専門家や、クリエイティブなアイデアをもった人が集まっているからこそ、成功しているのだと思います。

2024年中には、アブダビ(アラブ首長国連邦)における大規模なアートプロジェクト「teamLab Phenomena Abu Dhabi」が竣工するそうですね。国内外でさまざまなプロジェクトが展開されていますが、どのような特徴があるのでしょうか。

チームラボが生まれたのは、2001年。新たに作るものはすべて、当時から作っているものの延長線上にあります。基本的な考え方はずっと変わりません。どのプロジェクトも、「自分と世界が、連続性の上に成り立っていることを美しいと思えるようなもの」を作ることに力を注いでいます。

ますます成長と広がりを見せていますが、今後の展望をお聞かせください。

チームラボは設立以来、デジタルテクノロジーを使った新しいアートを作っていました。一方で、経済的にチームラボを存続させるために、ウェブやシステムのようなソリューション、クライアントからの受託の仕事もしていました。そんな中で、現代美術家の村上隆さんに「世界で発表しなさい」とアドバイスをいただき、2011年に台北のカイカイキキギャラリーで、初めて個展を開催しました。それが、今の国際的なアート活動への大きなきっかけです。以降、シンガポールビエンナーレ2013をはじめ世界の大都市で開催される現代アート展で作品を展示する機会が増えています。これからも変わらず、世界各地でどんどん作り続けていきたいです。

 


teamLab Phenomena Abu Dhabi は、ルーヴル・アブダビ、グッゲンハイム・アブダビなどがあるアブダビ文化中心地に、2024年竣工予定 © DCT Abu Dhabi, Miral

 

取材日:2024年1月24日 ライター:佐藤 葉月 スチール:幸田 森 動画撮影:小田原 光史 動画編集:遠藤 究

森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス

開館日:2024年2月9日(金)- 常設
開館時間:10:00 – 21:00
* 最終入館は閉館の1時間前
* 開館時間が変更になる場合がございます。公式ウェブサイトをご確認ください。
休館日:第一・第三火曜日 2.20(火)、3.05(火)、3.19(火)
*休館日が変更になる場合がございます。公式ウェブサイトをご確認ください。

チケット価格:
大人(18歳以上):3,800円〜
中学生・高校生(13 – 17歳):2,800円
子ども(4 – 12歳):1,500円
3歳以下:無料
障がい者割引:1,900円〜
会場:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1(東京都港区麻布台1-2-4)

プロフィール
チームラボ 代表
猪子 寿之


チームラボ

アートコレクティブ。2001年から活動を開始。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されている。

チームラボは、アートによって、自分と世界との関係と新たな認識を模索したいと思っている。人は、認識するために世界を切り分けて、境界のある独立したものとして捉えてしまう。その認識の境界、そして、自分と世界との間にある境界、時間の連続性に対する認知の境界などを超えることを模索している。全ては、長い長い時の、境界のない連続性の上に危うく奇跡的に存在する。

ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、シリコンバレー、北京、メルボルンなど世界各地でアート展を開催。ミュージアム・大型常設展を、東京「チームラボボーダレス」、「チームラボプラネッツ」、マカオ「teamLab SuperNature Macao」、北京「teamLab Massless Beijing」などで開館した他、今後もアブダビ、ジッダ、ハンブルク、ユトレヒトなどでオープン予定。

チームラボの作品は、ビクトリア国立美術館(メルボルン)、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(シドニー)、南オーストラリア州立美術館(アデレード)、アモス・レックス(ヘルシンキ)、ロサンゼルス現代美術館(ロサンゼルス)、サンフランシスコ・アジア美術館(サンフランシスコ)、ボルサン・コンテンポラリー・アート・コレクション(イスタンブール)、アジア・ソサエティ(ニューヨーク)などに収蔵されている。

teamLab is represented by Pace Gallery, Martin Browne Contemporary, and Ikkan Art.

チームラボ: https://www.teamlab.art/jp/
Instagram: https://instagram.com/teamlab/
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Twitter: https://twitter.com/teamLab_news
YouTube: https://www.youtube.com/c/teamLabART

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