『僕のなかのブラウニー』相馬雄太監督「出演者ファーストの現場づくりを」悔しさが生んだ決意

Vol.225
映画監督
Yuta Soma
相馬 雄太

2021年末、俳優から監督へと転身した相馬雄太さん。吃音症の少年と、ディスレクシア(文字の読み書きに困難が生じる学習障害)を抱える少年の交流を描く短編映画『ぼくときみの小さな勇気』をはじめ、子どもたちの生きづらさにフォーカスした作品を数多く手がけてきました。
そして2024年に公開される『僕のなかのブラウニー』は、相馬監督にとって初の商業長編映画となり、震災での悲しみを背負う少年の物語が描かれています。過去作は国内外の映画祭でも支持を集め、子どもたちを描く背景には「監督として生きる上の戦略」があったとも。商業映画での成功を強く夢見る相馬監督にキャリア、映画づくりへの思いなどを聞きました。

撮影現場では子役とのゲームも『僕のなかのブラウニー』秘話

2024年内に全国ロードショー予定の映画『僕のなかのブラウニー』は、相馬監督初の商業長編映画となります。

本作は、震災で家族を亡くした少年が家族の死を受け入れられず、“ブラウニー”という妖精を探す物語です。原作・脚本は、映画『明日の記憶』で日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞を受賞された三浦有為子さんで、別の脚本家の方を介して、出会いました。三浦さんの考えていらっしゃった震災がテーマの原案に共感して、たがいに意見を交わしながら、物語を作りあげていきました。

Xでは、撮影のオフショットも多数投稿されていて。子役のみなさんの笑顔が、目立っていました。

タイトなスケジュールながら、撮影は楽しめました。これまで子どもたちをテーマにした作品をたくさん撮ってきて、何よりも子どもたちが演技しやすい環境を意識しているんです。
そのためには、緊張感があるとのびのびと演技ができなくなるので、朝は必ず「おはよう!」と元気よく声をかけたり、撮影前には、制限時間1分以内で「さ」からはじまる言葉をたくさん言えた人が優勝する景品つきのゲームで遊んだりと、リラックスして演技ができるような環境づくりに努めています。後はシンプルですが、子どもたちがのびのび演じてもらえるよう、監督としてはとにかく褒めて、褒めて、褒めて伸ばしています。

俳優時代の悔しさも糧に「出演者ファースト」の現場を

映画『僕のなかのブラウニー』では、クラウドファンディングも活用されて、相馬監督自身の情熱もひときわ強かったのではないかと思います。

僕にとって初の商業長編映画ですし、かなり気合いが入っています。元々8年ほど、テレビ番組の再現VTRに出演するようなフリーの俳優として活動していたんですけど、コロナ禍でふと「撮られる側でなく、撮る側に回りたい」と思い、監督になったんです。
制作会社で学んだわけでもなければ、有名な方に弟子入りしたわけでもなく、見よう見まねで作った監督デビュー作『彼女はウチュウジン』では「映画づくりにはたくさんのお金がかかる」と痛感しました。演じる側として、カメラのカット割りなんかは分かっているつもりでしたけど、音響などの技術は知らなかったので独学で、ネットで必死に調べました。

撮る側の監督となった現在、俳優時代の経験は生きているのでしょうか?

私は出演者ファーストの現場をめざしているんですが、それは俳優としての経験があったからです。スタッフからぞんざいに扱われた経験が反面教師となり、自分が監督を務める以上は演者の人たちに同じ思いをしてほしくないと考えています。

俳優時代、どんなことがあったのでしょう?

嫌な思い出の方が多いですね(笑)。あるゲームのCMオーディションがあって、サブキャストとして合格していたのですが、ふたを開けてみれば現場では台詞ナシのエキストラとして扱われたり。あとは早朝に集合したのに、夜の9時までひたすら出番を待たされたり。演者はぞんざいに扱ってもいい…みたいな現場が多く、さんざんな目に遭ってきたんです。
そういう経験から僕の現場では、スケジュールもしっかり逆算してムダに早く集合してもらうことのないよう心がけています。
コロナ禍で熱があったのに「こっそり撮影に来てくれ」と言われた経験もあったので、主要キャストが体調不良で抜けても予定どおりの撮影を進められるように、最悪を想定した脚本を準備しています。

ステップアップのために映画祭を分析「子ども」が軸に

短編映画『ぼくときみの小さな勇気』など、子どもたちの生きづらさをテーマにした作品を数多く手がけていらっしゃいます。

映画づくりのモチベーションには、社会へのひそやかなイライラもあって、映画を通して社会問題に目を向けてほしいと思っているんです。子どもたちの生きづらさにふれた作品の一作目は、まさに『ぼくときみの小さな勇気』で、実際、小学校時代に吃音がひどかった僕自身の体験が原点になりました。

日本で吃音症の方は“100人に1人”ともいわれるのに、知らない人もたくさんいます。そんな現状にふと、一石を投じたくなったんです。ただ、吃音症の少年だけではなく、別の悩みを抱える少年と壁を乗り越えていくような物語にできればよりおもしろくなるかと思って、自身で調べたディスレクシアもテーマに据えました。

映画界で、子どもたちをテーマにした作品を撮り続けていらっしゃるのは、なかなか珍しいポジションかとも思いました。国内外の映画祭では、数々の賞も受賞されています。

じつは、監督として生きる上の戦略でもありました。短編映画を撮りはじめてからは「映画祭で賞を獲れない作品を作っても意味がない」とも考えて、ある程度の実績を重ねて、有名になってから理想の作品を手がけたいという思いが強くなったんです。
監督として最初に手がけた『彼女はウチュウジン』は青春恋愛ものでしたけど、受賞できなかったので、徹底的に各地の映画祭の出品作を分析して、人と被らないテーマとして選んだのが子どもの生きづらさでした。ホラー映画とかも候補にはあったんですけど、大学時代の学童でのアルバイト経験であったり、今も続けている少年野球のコーチ経験であったりと、子どもの世界であれば誰よりも上手に描けるという自信があったんです。

とはいえ、大人の目線から子どもたちの生きづらさを掘り下げるのは、難しくもありそうです。たとえば、スカートを履くのに抵抗をおぼえる少女を描いた短編映画『I am me』は、何がきっかけとなったのでしょうか?

撮影現場で、子役の女の子から実際に悩みを聞いたんです。僕の通っていた中学や高校でも、女子ではあるけど男子の制服を着ている同級生がいたのも思い出し、物語を作りました。ほかの作品でも共通して、子どもたちが抱えている悩みをもっと多くの人に知ってほしいし、彼らに寄り添える社会になればいいと、常に考えています。

社会問題を描き“なんちゃって映画監督”からの脱却を

過去のインタビューでは「マイノリティに属する子どもたちの問題を映画パワーで広めたい」と語っていました。広める手段はさまざまあれど、映画にこだわる理由は?

世の中にはいろいろな問題や考え方があると知るきっかけが、映画だったからです。幼い頃、ジブリ映画の『火垂るの墓』で戦争の悲惨さを知り、『平成狸合戦ぽんぽこ』で環境問題を知ったり…。今の活動にもつながる原体験だと思います。そうやってスクリーンを通して社会問題へとふれられるのは、映画ならではのパワーだと思っています。

映画づくりの担い手として今後、どのような作品を手がけていきたいですか?

子どもをテーマにした映画は変わらず、ほかにも、社会的弱者とされる方々にスポットライトを当てていきたいです。先日、高齢ホームレスの方のドキュメンタリー番組を見たのですが、満足に働けず、厳しい生活を強いられている高齢者の現状を目の当たりにし、そういう方々を題材とした映画を作りたくなりました。また、埼玉県川口市のいわゆるクルド人問題で、日本人による自警団があると紹介していたのを見かけて。差別は許せないと考えているので、将来的に外国人差別にもふれる映画を作りたいと思っています。

2024年7月23日、Xにおける相馬監督のポストでは33歳の誕生日を迎えて「将来のビジョンが明確になる歳にしたい。今の楽しさよりも未来のことを」とも、明かしていました。

まだ、なんちゃって映画監督を自覚していて、いずれは商業映画で成功をつかみたいんです。短編映画を数本作ってきたんですけど、次のステップへの足がかりとして、やはり、弱いと痛感していて。初の商業長編映画『僕のなかのブラウニー』はもちろん、翌2025年には僕にとって初の製作委員会方式による新たな長編映画も決まっていますし、監督として一段ずつ、のぼっていきたいです。

取材日:2024年8月19日 ライター:カネコシュウヘイ スチール:あらいだいすけ 映像撮影:指田 泰地 映像編集:遠藤 究

プロフィール
映画監督
相馬 雄太
1991年7月23日・33歳。千葉県習志野市在住の映画監督。子どもたちの抱える生きづらさや社会問題を扱った作品を制作。キネコ国際映画祭初め多くの国内映画祭で入賞を果たしている。2024年冬に自身初の商業長編映画「僕のなかのブラウニー」が全国ロードショー予定。

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