YouTubeで全編公開中! 数々の映画賞を受賞した「サムライオペラ」
- Vol.107
- 株式会社スイッチ代表取締役 映画監督・プロデューサー 大川祥吾(Showgo Ookawa)氏
ミュージカル、英語… 昔から愛される時代劇の所作を斬新に表現
「サムライオペラ」は、ミュージカルで、時代劇で、英語劇で…普通に考えれば噛み合ない要素が詰まった映画ですね。
「サムライオペラ」は短編映画としては私の6作目の監督作品で、時代劇は3作目です。 「サムライオペラ」にも何度も出てきますが、私は時代劇の「お約束」が大好きで、今回も時代劇を撮ろうと考えていたのですが、企画会議の場で「いつか時代劇をミュージカルにした作品をやりたいんですよねー」と話をしたところ、今回やろうと。そしてもともと今回の作品は、最初からYouTubeで全編公開しようと決めていたので、YouTubeであれば世界中の人が見るのだから英語で作ろう!と盛り上がったんです。
海外の人が日本人を勘違いしている典型例のシーンが多いですよね。
根本にあるテーマは「侍は忠義を尽くす」です。そこだけはブラさないようにして、あとは誤解されていることも面白ければどんどん出していきました。昔から愛されている時代劇の所作が詰まっていて、それをあえてミュージカルで、しかも英語でやることのおかしさが伝わればと思います。
20歳で上京し「お金の勉強」IT業界へ 30歳で映画制作の道へ
大川さんが映画の世界を志したのは?
「映画を作る人になろう!」と決めて、故郷の北海道から上京してきたのは20歳の時でした。それからいろいろ迷走して、路頭に迷ったときもあったのですが(笑)、25歳で当時勢いがあったIT業界に入り、30歳で映像を作ろう!と決めて会社を辞め、自主映画を作り始めました。
映画の世界に入るときは、制作プロダクションに入社したり、弟子入りしたり、いわゆるアシスタントから始める人が多いと思います。いきなり自主映画を作り始めた経緯は?
実は20歳で上京したときも、すでに遅いと思っていたんですよね。その時点でアシスタントとして始めるのが良いのか、それとも自分で作ることから入った方が良いのか?と考えた時、違うアプローチで映画の世界を見てみよう、と思いました。良い映画を作るのには何が必要か?と考え、それにはまずお金が必要だろうと。そこで、プロデューサー的な視点を育むためにも、お金の勉強をしようと思って、当時勢いのあったIT業界に入ったんです。
IT業界がちょうど盛り上がってきた頃ですよね。
ちょうどi-modeの着メロが一気に普及し、入った会社ではその波に乗って業績を伸ばし始めていました。ものすごい勢いでお金が回っていて、「儲かるとはこういうことなのか」と感じましたよ。新しい技術が一気に広がり、ライフスタイルまで丸ごと変えてしまうこと、そしてその広がりはいつかしぼむこと、世の中の流れが変わったらどんなに頑張ってもダメなことも見てきました。
確かに、着メロのブームはすごかったですが、あっという間にしぼんだような気がします。
着メロから着うたになり、着うたでさえもしぼんでいく状況の中、どんなに頑張ってクオリティの高い着メロを作っても、もうダメなんです。世の中というのはそう言うもの。着メロでは、半年前にあんなに儲かっていた会社がつぶれている、というのが当たり前に起きていましたからね。まさに「生きたお金の勉強」ができました。
怒濤の時代を経験したわけですね。
お金の勉強はもちろん、ひとつのビジネスが終わっても、残る文化はあり、その残った文化を活かして企画を考える肌感覚も身に付きましたね。ここで学んだことは他でも通用すると確信しました。いつの間にか管理職にもなり、自分で仕事をするよりも、チーム員の面倒を見ることが主な業務となってきて、このスキルを会社のためよりも自分のために使おうと思い、退社しました。と言いつつ、一番の理由は映画を作る時間を捻出するためです(笑)。
自主映画制作セミナーで仲間と知り合う 1人ずつ監督をして6本の作品を制作
映画を作ろう!と決めて、まず最初にしたことは?
映画プロデューサーセミナーに参加しました(笑)。主に映画産業の現状やマーケティングについて学ぶセミナーで、なぜ映画はハリウッドのリメイクやマンガの原作モノが多いのか、なぜ予告編でクライマックスを見せるのか、などを教わりましたね。前職ではソーシャルゲームのプロデュースもしていたので、ユーザーを引きつける根本的な導線は同じだな、と納得はしました。
映画産業について納得した後は?
ゲーム開発においてもそうなのですが、良いプロダクトを産む為には信頼のおけるディレクターにお金を渡して自由に作らせ、製作側が無用な口出しをしないのが一番だと思っています。なのでその「信頼のおけるディレクター」を探すにも、まず自分自身で映画を実際に作れるようになろうと、自主映画制作セミナーに参加しました。ここで仲間ができたことが大きいですね。仲間6人と「1人ずつ監督して、他のメンバーはスタッフをして、1年で6本の映画を撮ろう」と決めたんです。前職でもゲーム用の映像を作ったり、映画の出資をしたりしていたので、ある程度の知識はあったのですが、実際に作ってみると監督としてもスタッフとしても全然違いましたね。
実践で学ぶことはが多かったわけですね。
人脈も6本作っているうちに広がりました。サムライオペラだけでなく、私と時代劇の作品を一緒に制作している時代劇専門の劇団「劇団歴史新大陸」とも知り合えましたし、仲間の1人は今回のサムライオペラでも英訳や歌唱指導として関わってくれました。
「サムライオペラ」で数々の映画賞を受賞 次回作もミュージカル+時代劇!
サムライオペラ YouTubeで全世界公開中!
超定番な時代劇を全編英語のミュージカルにした20分のショートフィルム! 浪人が歌う、町娘が回る、悪代官がほくそ笑む。
総制作費約100万円、撮影4日、制作スタッフ10名未満! 驚異のスペックでの制作ながら、スカパー!鬼がシネマinゆうばり2014、TOKYO月イチ映画祭、中之島映画祭などで受賞多数。 YouTubeで全編(20分)視聴可能です。 samuraiopera.com/今回、サムライオペラは多くの映画祭で受賞し、映画ファンの間で話題になることも多い話題作となりましたね。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014の「フォアキャスト部門」の審査に通り、上映されると、映画祭のファンの人がいるので、たくさんの人に知ってもらうことができました。また、「スカパー!映画部『鬼がシネマ』 in ゆうばり」で、劇場公開権を賭けたプレゼンバトルでグランプリになったのも嬉しかったですね。大阪の中之島、兵庫の姫路、福岡の映画祭などでも審査に通って上映されたり、賞をもらったりしました。
一気に脚光を浴びる作品となったわけですが、ご自分では評価される理由はどこにあると思いますか?
企画自体が面白かったこともあると思いますが、キャストもスタッフも楽しく撮影ができたことが大きかったですね。自主映画はお金がないので現場がギスギスすることもあるのですが(笑)、サムライオペラは本当に楽しかった。もちろん、これまでの経験からスキルが上がり、なるべくキレイな絵の中でふざけたことをやる、という狙いが表現できるようになったこともあります。
次回作は?
ミュージカル調の時代劇、というジャンルをもう少し突き詰めてみたいですね。次回は水戸黄門をモチーフにしたその名も「水戸黄門Z」という企画を考えていて、来月クランクイン予定です。
▼水戸黄門Z Facebookページ 撮影、編集、公開までの流れを随時アップ予定です! https://www.facebook.com/mitokomonz
踏み出せば次が見えて来る まずは踏み出すことが大事!
次回作が楽しみですね!自主映画は撮りたいものが撮れる反面、収益を上げていくのは難しいと思います。ビジネスとしてはどのように考えていますか?
現状では映画では収益がないので、ソーシャルゲームのプロデューサーとして働いて費用を捻出していますが、映画をビジネスとして成立させたい思いは、もちろんあります。音楽のインディーズのように物販やライブなど音源ではないところで収益を上げるのか、どうマネタイズしていくかはITのプロデューサー業も長いのでいろいろと考えています。とはいえ、まずは映画のクオリティを上げて、次回作を待ってくれるファンを増やしていくことが大事です。
大川さんの監督作品はもちろん、プロデューサーとしての手腕も楽しみですね!ゆくゆくは監督業、プロデュース業、どちらに力を入れていきたいですか?
今は監督とプロデュース両方をやっていますが、私のやりたいことを理解してくれる監督がいれば任せたいですし、逆に理解してくれるプロデューサーが現れればお任せします(笑)。
わかりました(笑)。では最後に、映画の世界を志す若いクリエーターにアドバイスをお願いします。
まずは踏み出すことですね。私も会社員時代、毎年「今年こそ作品を作るぞ!」と正月に誓うのですが、1本も作れませんでした(笑)。踏み出して会社を辞め、仲間を6人見つけ、1年で6本作品を作ったことから、次が見えてきました。いろいろやろうとしてわからなくなって止まっている人には、まずはひとつ決めて、突き詰めてやろうと踏み出して欲しいですね。とにかく踏み出せば、次が見えてきます!
取材日:2014年9月10日 ライター:植松
Profile of 大川祥吾(Showgo Ookawa)
株式会社スイッチ 代表取締役 映画監督・プロデューサー 1978年生。北海道出身。 2003年にIP事業を手がける株式会社ケイブに入社。マネジメント職についてプロデューサー業務に従事し様々なコンテンツ製作に携わった後、2009年頃から映像制作を開始、2011年に映像制作プロダクションとして株式会社スイッチを立ち上げ、PVや各種映像コンテンツの製作を行っている。
【受賞歴】 2014年公開予定の日米合作長編作品 『千里眼(CICADA)』(Dean Yamada監督・渋谷悠脚本)/プロデュース ・Los Angeles Asian Pacific Film Festival グランプリ ・ロードアイランド国際映画祭 入選 ・グアム国際映画祭 入選
2013年公開の時代劇ミュージカル短編映画 『サムライオペラ』/監督・脚本・編集 ・ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 フォアキャスト部門 ・スカパー!鬼がシネマinゆうばり 最優秀作品賞受賞 ・中之島映画祭 入選 ・TOKYO月イチ映画祭vol.12 グランプリ ・ひめじ国際短編映画祭 特別上映 ・福岡インディペンデント映画祭 優秀作品 ・那須アワード 入選 ※2014年9月22日現在
【過去の短編映画制作歴】 2012 『始まりの試験』(渋谷悠監督) 撮影・プロデュース 『がんじがらめ』(渋谷悠監督) 撮影・プロデュース 『お伽話』(渋谷悠監督) 撮影・プロデュース 『紙一重』(渋谷悠監督) プロデュース 『多重人格』(渋谷悠監督) プロデュース 『あれから』(渋谷悠監督) プロデュース 2011 『透明人間』(松井貴監督) プロデュース 『三匹』 監督・脚本・編集 『SIMPLICITY』(村松直監督) 出演 『BEHIND』 監督・脚本・編集 2010 『視覚系』(中島悠監督) 制作・編集 『プロフェシー』(渋谷悠監督) プロデュース 『エアーな奴ら』(渋谷悠監督) 出演 2009 『Catch Up!!』 監督・脚本・編集 『仇討ち』 監督・脚本・編集 『告白』 監督・脚本・編集