「シナリオを一度あきらめた君へ」を上梓 自身の経験や本に込めた想いを語る
- Vol.109
- シナリオライター 安倍照雄(Teruo Abe)氏
21歳で上京し、飛び込みで売り込んで作詞家に 30歳を過ぎてシナリオライターへの転身を決意
『シナリオを一度あきらめた君へ』を読ませていただき、僭越ながら「これなら私にもシナリオが書けるかな?」と思ってしまいました(笑)。
ありがとうございます。それが狙いです(笑)。本屋にはシナリオライターを目指す人のための本がたくさんありますが、理論的な本が多いんですよね。この本は、才能など関係なく「これならペロッと書けそうだ」と感じてほしいと思って書きました。
安倍さんご自身がシナリオライターを目指した経緯は?
もともと映画が好きで、中学の頃からテレビで放送している映画を熱心に見ていましたし、上京してからは名画座に通っていました。あくまで楽しみのひとつでしたが、ある時友だちが自主映画を撮るというので、原作を基にシナリオを書くことになったんです。遊び半分のつもりだったのですが、書いているうちに「やっぱりシナリオは面白い。プロになりたい」と思うようになりました。当時は作詞家をしていて、その決意をしたときは30歳を過ぎていましたね。
元作詞家なんですね!
21歳の時に作詞家を目指して上京し、アルバイトをしながらアパート暮らしを始めました。しかし、田舎から出てきた21歳には知り合いもツテもない。どうしたらいいのかわからないながらも、飛び込みで売り込みをしたんですよ。もちろんいきなり会ってくれるわけがありませんが、断られながらもレコード会社に詞を持ち込んでいました。大雪の日に、あえて「こんな日に行けば覚えがめでたくなるだろう」と出かけた日もありましたね。お目当ての人は風邪引いて休んでいたのですが(笑)。
そんなツテのない状態からスタートして、作詞家になることができたのは?
売り込みに行った当初は知らなかったのですが、レコード会社が曲を作っているわけではないんですよね。ですが、ウロウロしているうちに、歌手を抱えている事務所を紹介してもらうことができました。そこで「新人歌手の詞を書いてみないか?」と声がかかり、そこから糸がつながって作詞家として活動することができるようになったんです。
コンクールを利用して締め切りを設定 最後まで書き上げることがシナリオ上達のポイント!
作詞家からシナリオライターに転身しようと決意して、まず最初にしたことは?
まだインターネットで調べる時代ではありませんから、まず『公募ガイド』というシナリオ募集のコンクール情報が掲載されている雑誌を買ってきました。コンクールを調べて、1年間のスケジュールを「コレとコレとコレに応募する!」と決めて、取りかかりました。
1年分のスケジュールを最初に立てたのはなぜですか?
素人に締め切りを設定してくれるのは、コンクールしかありません。応募するコンクールを決めて逆算して書かないと、あっという間に時間が過ぎてしまうと考えました。シナリオライターを目指すならば、コンクールの締め切りを利用して、必ず最後まで書き上げることが大切。内容がたとえひどくても、「End.」まで書くことがシナリオ上達の近道です。
途中で「これはつまらない」と感じても、最後まで書き上げることが大切なんですか?
最後まで書かずに放り投げると、クセになっていつまでもシナリオが仕上がりません。最初にプロットを決めて書き始めるときは、誰もがいい心持ちですが、途中で必ずつまらなくなったり、だるくなるときが来るんですよ。そして、その絶妙のタイミングで忙しくなったり言い訳ができる(笑)。最後まで「このシナリオは傑作だ!すごい!」と思い続けて書き上げることなんて、ほぼありません。首を傾げながらも最後まで書き上げることで、「もっとココをこうすれば」と具体的に見えてくることがたくさんあります。
再び飛び込みで売り込み、熱意でチャンスをもらう 怒ってくれる人は大切にするべき!
安倍さんはコンクールに入賞されていますが、コンクールで道が開けたんでしょうか?
賞を2つ取りましたが、落ちたことのほうが圧倒的に多いですし、コンクールで仕事が来たり道が開けたことはないですね。コンクールはあくまで上達するための手段でした。道が開けたのは、作詞家時代の経験が活きて、同じように必死に売り込みをした結果です。レコード会社が曲を作っていないのと同様に、有名な映画会社の東宝や東映は配給会社ですから、実際に映画を作っている制作会社を調べて売り込みました。
作詞家時代の経験が活きて、少し効率的に売り込みができたんですね(笑)。ですが、売り込みは実になるかわからない、地道な活動ですよね。
キラキラしている突出した才能にかなうものはないと思いますが、仕事のチャンスは熱意や情でもらえます。出入りしている売り込み先の会社の人間関係の中で「コイツは一生懸命だから、ちょっとやらせてみるか」と仕事をもらえるようになりましたし、「頑張れよ」と言ってくれる人にも巡り会えました。
売り込みのコツはあるんでしょうか?
特にないですね。熱意だけです。人間関係で仕事のチャンスをもらうというと、如才ないタイプが有利だと思われがちですが、そんなことはありません。例えば、飲み会で注文を仕切ったり、空になりそうなグラスにすかさず水割りを手際良く作ったりできなくてもいいんです(笑)。チャンスをもらえれば、紹介してくれた人に泥を塗らないように、精いっぱい誠意を持って取り組めばいい。最初はヘタでも、だんだん上手くなればいいと思います。不器用でも愛情を持って取り組んだシナリオは、きちんと伝わりますよ。
上手くなる過程では、怒られることもありますよね?
怒ってくれる人は大切にするべきです。あるプロデューサーに泣きついて連続ドラマの仕事を紹介してもらった時、自信がなくて、打ち合わせでオドオドした態度を取ってしまったことがありました。その時は「俺が推薦しているんだから、堂々としろ!」と怒られましたね。怒られるということは、なんとかしてやりたい、と真剣に考えてくれているということなんです。怒らずにニコニコと「また連絡するから!」と言われた時は、連絡なんてありません。私も何度も見限られてきた人間ですから、よくわかります。
他人に将来を決めさせるのはもったいない あきらめた人に再チャレンジして欲しい
安倍さんは、シナリオスクールの講師もされていますね。
最初はシナリオライター協会から紹介されて始めました。講義だけでなく添削もあるし、大変なことは多いんですけど、しゃべるのが好きなのか、長く続いてますね。
講師として心がけていることは?
シナリオに正解はありませんから、ルールをあまり作らずに自由に書いてもらうようにしています。例えば、空想シーンはできるだけ入れない、「…」は使わない、などのルールを決めることもありますが、書いているうちにそれは無駄だと気づけばいいと思っています。気づくためには、しつこいようですが「End.」まで書き上げることが必要ですよ(笑)。
講師だけでなく、今回はシナリオライターを志す人向けの本を出版されました。
シナリオ教室の講師として、シナリオをあきらめた人をたくさん見てきました。そんな一度あきらめた若い人に再チャレンジしてほしいと、出版社(玄光社)の編集者と2人3脚で作り上げた本です。
なぜあきらめてしまう人が多いのでしょう?
才能がないと言われたり、セリフが弱いと指摘されたり、コンクールに落選し続けたり、心が折れてしまったのでしょう。しかし、それは他人の評価であり、他人に自分の将来を決めさせるのはもったいないと思いませんか?シナリオライターを目指す人全員がプロになるのは無理かもしれませんが、センスがあるのにやめていった人はたくさんいます。やめるかどうか、自分で決めてほしいと思い、この本を書きました。
全員が才能にあふれたシナリオライターである必要はない 3年は暗中模索してもがき続けろ!
自分で決める、とは?
もっともがいて、暗中模索をしてからやめることを決めた方がいい。コンクールに応募して落選しただけで、やめることを決めるなんてとんでもないことです。断られても怒られても「シナリオライターになりたいので助けてください」と発信し続ければ、その姿は誰かが見ていて「1回会おうか」「書かせてみようか」と言ってくれる人が現れるかもしれません。才能の有無なんて、あまり関係ないですよ。
シナリオライターは、きらびやかな才能がある人だけがなれる職業だと思っていました。
そんな誤解をしている人は多いですが、全員が才能にあふれた一流の脚本家である必要はありません。デパートにあるような大衆食堂には和洋中、高級素材から庶民的なものまで、いろいろなメニューがありますが、すべてを一流シェフが作れるわけではないのと同じです。自分を活かせるジャンルやメニューが見つかるかもしれないし、3年は暗中模索してもがいて欲しいですね。それをしないであきらめるのはもったいないですよ。
若いクリエイターにとって、勇気をもらえるメッセージですね!ありがとうございました!最後に、安倍さんの今後の展望を教えてください。
今も来年公開の映画のシナリオに取りかかっていますが、書いていてとても楽しいです。私は今でも今日よりも明日が上達すると信じて書いています。そう思える限り、シナリオを書き続けたいですね。
取材日:2014年11月12日 ライター:植松
Profile of 安倍照雄
1961年生まれ・大阪府出身。
- 93年『怖いおじさん』で第四回TBS新鋭シナリオ大賞佳作入選。
- 95年『こんちねんたる』で第21回城戸賞受賞。
- 97年日本テレビ『ナチュラル』(第1話、2話)
- 98年NHK水曜ドラマ『極楽遊園地』
- 99年劇場映画『のど自慢』
- 99年劇場映画『ビッグショー・ハワイに唄えば』
- 01年劇場映画『死者の学園祭』
- 02年劇場映画『女はバス停で服を着替えた』
- 06年劇場映画『手紙』
- 07年劇場映画『やじきた道中 てれすこ』
- 08年劇場映画『築地魚河岸三代目』
- 08年劇場映画『ラブファイト』
- 14年劇場映画『ふしぎな岬の物語』
- 14年劇場映画『ATHOME』
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