ドリカムは「僕自身が生きられる場所」中村正人さんが振り返る“吉田美和との35年 ”

Vol.231
ミュージシャン
Masato Nakamura
中村 正人
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DREAMS COME TRUEとしてのデビューから35年以上、ミュージシャンとして華々しいキャリアを築いてきた中村正人さんは、なおも挑戦をやめません。2025年4月11日公開の堤幸彦監督による映画『Page30』ではエグゼクティブプロデューサーを務め、公開に併せてメインの上映館となる通称「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」を新設。表現の場を求める誰もが「興行の原点」を味わえる場所を作った。中村さん自身も「ステージに立つ自分の初心を取り戻している」といいます。

その歩みでは、ヴォーカルの吉田美和さんとの出会いが転機に。自身の「生きられる場所」だと語るDREAMS COME TRUEをはじめ、アーティスト人生で味わってきた思いとは。映画撮影秘話などと共に聞きました。

「夢を叶えられる場所として」テントシアター新設の挑戦

映画『Page30』のために新設された、東京・渋谷のテントシアター「渋谷 ドリカム シアター」。映画の公開に併せて映画館そのものを新設するのは、映画界で異例の試みです。

だからもう、どうなっちゃうんだろうと(笑)。そもそもの企画は、映画のプロモーションを打ち合わせる段階で決まったんです。僕と堤幸彦監督、配給協力のK2 Picturesの代表取締役CEO・紀伊(宗之)さんのあいだには、いつからか「映画は興行である」という意識が薄れてしまったという共通認識があって。

窓もない小さな芝居小屋で極限状態に追い込まれた女優たちが奮闘する今作『Page30』では、シネコンのように効率を求める現代型の上映方法だけではなく、別の見せ方が必要だと話し合ったんです。そこで「見せる環境を作るのもおもしろいんじゃないか」と提案してくれたのが紀伊さんで、僕も堤監督も「たしかに」と納得しました。

シアターの名前には、バンド名DREAMS COME TRUEの愛称「ドリカム」も冠しています。

2024年3月にデビュー35周年を迎えた僕らのプロジェクトでもあるからです。35周年イヤーでは、吉田(美和)の故郷である北海道池田町で2日間の野外イベントを開催したり、大阪の阪急うめだでファッションデザイナー・丸山敬太さんとコラボレーションした展覧会を実現したりと、僕らとゆかりのある土地でドリカムの存在そのものを感じてもらえるきっかけを作ってきました。

今回の「渋谷 ドリカム シアター」もそのひとつで、映画『Page30』の公開後も僕らだけではなく、たくさんの人がエンターテインメントの夢を叶えられる場所として新設したんです。ただ、この先がどうなるかは本当に分からない。正直、多少の不安もあるんです。

ディーシーティーエンターテインメントはドリカムの所属事務所。中村さんは代表取締役会長として、渋谷 ドリカム シアターのサイトに「” 我らがちっちゃい会社 “ のありったけの夢を詰め込んでの大挑戦!」(原文ママ)と、渋谷 ドリカム シアターへの熱い思いを寄せていました。

そうですね。だから正直、赤字は覚悟の上です。渋谷 ドリカム シアターに関わってくださるみなさんが「この場所をどう活かせるか?」と、前のめりで楽しんでくださっているんですよ。日々「これもできるんじゃない?」「あれもやってみたい!」と、どんどんアイデアが生まれていて。僕らの単独出資だからこそできた自由に遊べる場所ですし、たとえ収支が見込めなくても「使わせてもらえませんか?」という方がいて、そこで素晴らしいエンターテインメントが生まれるなら快く提供します。

プロかアマチュアかを問わずに興行の原点を味わってもらいたいし、ビッグプロジェクトに携わってきた方からすれば驚くほど小さな箱かもしれませんが「ここなら、こう遊べるかもしれない」と自由に発想を広げてもらってかまわない。新たなアイデアが形となり、いずれ渋谷 ドリカム シアターがかつてない得体の知れない場所となるのを夢描いている今が、すごくおもしろいです。

吉田美和との出会いがくすぶる自分を変えた

渋谷 ドリカム シアターの建設地となった渋谷には、中村さん個人としても特別な思いがあったのでしょうか?

渋谷は学生時代から慣れ親しんでいて、ドリカムとしても下積み時代を過ごした街です。それと、自分にとっては幼いころから憧れの街でした。僕らのような昭和30年代生まれにとって、文化の中心は新宿のイメージだったんです。でも、学生運動をテーマにした作品を数多く書いていた作家の庄司薫さんが好きだった僕は、若者たちが「新しい時代を作るかもしれない」という熱気に溢れていた渋谷が、とても印象的に映っていました。

渋谷 ドリカム シアターへの思いを語っていたYouTube動画 『渋谷とドリカム「夢が始まった街を歩く〜DREAMS COME TRUEの軌跡〜」』では、代々木第一体育館の前で「デビューから35年、俺頑張ったな」と振り返り、涙をこらえていました。

思わず泣いてしまったんですよ。撮影中に「よくやったな」という達成感が込み上げてきて。でも決して僕ひとりの力ではなく、吉田や支えてくれたスタッフ、応援してくださったみなさんのおかげだと思ったら、涙が溢れてきました。才能も技術もなかった僕が、吉田と出会い「これで食べていけるかもしれない」と思いながら、頑張ってこられた。結果として、35年以上も続いているのは、振り返るととても不思議です。

新設の「渋谷 ドリカム シアター」は、いわばサーカス小屋のような小規模の箱です。そうした場所での、エンターテインメントに触れた原体験もあったのでしょうか?

たくさんあったと思います。劇作家の野田秀樹さんが立ち上げた劇団「夢の遊眠社」が駒場小劇場でやっていた演劇も見ましたし、下北沢の小劇場にもよく足を運んでいたんです。過去に、青山のバーでアルバイトとして働いていた当時、バイト仲間には40歳を超えても役者になろうと頑張っている人たちもいたし、これまでの時間すべてが渋谷 ドリカム シアターに繋がっている気がします。

そんな経験があったからこそ、渋谷 ドリカム シアターを通して「興行の原点」を、たくさんの人に味わってほしいと思っているんです。ドリカムとして、東京ドームのように大きな会場で公演をするたび、関わってくれた人たちの生活を支えている実感が薄れてしまい、ふと「俺は何をやっているんだろう?」と思ってしまう瞬間もあって。今作での試みによって、ステージに立つ自分の初心を取り戻している感覚もあります。

そのキャリアとしては、2025年3月でデビュー36周年に達しました。アーティストとしてのご自身を支えているものは何でしょうか?

吉田ですね。そもそも、ドリカム結成以前は吉田のマネージャーでしたし、それがすべてのはじまりだったんですよ。音楽で食べていきたいと思い、サポートミュージシャンをやっていた時代もありますが、スターを目指しながらも「なんで、世間はオレをもっと評価してくれないんだ?」とくすぶっていた時期もあって。

でも、僕にない才能を持っていた吉田と出会ってから、彼女にない部分を「僕が補えるかもしれない」と、意識を変えられたんです。曲のアレンジやプロモーション、事務所のマネジメントなどを経て、僕自身が生きられる場所を見つけることができました。

「表現者になりたい」と願う人が自分を投影できる映画に

公開される映画『Page30』では、エグゼクティブプロデューサーを務めています。堤監督とのタッグで映画を製作することになった経緯は?

たまたま、堤監督とお会いする機会があって、そこで見せていただいた原案のプロットがとてもおもしろかったんです。直後に「映画を作りましょう」と提案して、当初は製作委員会の一員として関わる選択肢もあったんですが、ディーシーティーエンターテインメントとしてもイベントへの投資に力をそそぎはじめたタイミングでもあったし、堤監督に「自由に作ってもらいたい」と思ったので、単独出資を決めました。

劇中では、手渡された30ページの台本に「3日間かけて向き合い、4日目に舞台公演をする」と告げられた4人の女優たちが、閉鎖的なスタジオでときにいがみ合いながらも、与えられた戯曲を演じ切るために奮闘します。

まさしく「役者のミステリー」になりました。ただ正直、説明がしづらい映画でもあります。実際に観ると、映画内に登場する女優たちの1人になったかのように、没入できる作品になった手ごたえはあって。全国の映画館でも上映されますが、渋谷 ドリカム シアターでは空間も含めて映画の世界観を味わえると思いますし、たくさんの方に見ていただきたいです。

最後に、何かを表現したいと考えるクリエイターに向けて、映画の見どころを伺えればと思います。

映画の展開そのものかもしれません。劇中では、自身のキャリアに様々な葛藤を抱く4人の女優たちが登場するのですが、劇中に出てくるセリフはきっと共感できると思います。表現のプロよりも「表現者になりたい」と憧れる「ワナビー(wannabe)」が世の中では多いと思っていて、人によってはアルバイトを兼業しながらも、いつか花開くと夢見て頑張っている。かつての自分もそうでしたが、今作はまさしくそんな人達へのエールになる作品になっていますし、自分の姿を投影しながら観ていただけたら嬉しいです。

取材日:2025年3月10日 ライター:カネコシュウヘイ スチール:あらいだいすけ 動画撮影:布川 幹哉 動画編集:浦田優衣

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プロフィール
ミュージシャン
中村 正人
1958年10月1日生まれ。東京都出身。DREAMS COME TRUEのリーダーであり、ベース担当。バンドの所属事務所である株式会社ディーシーティーエンターテインメントでは、代表取締役会長を務める。1989年3月にシングル『あなたに会いたくて』とアルバム『DREAMS COME TRUE』の同時リリースでデビュー。DREAMS COME TRUEでの楽曲制作全般を担い、映像作品などの音楽プロデューサーとしても活躍。

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