「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」は 面白いと思っていることを評価してもらえる場
- Vol.117
- 株式会社 電通 CDC局 アートディレクター 下浜臨太郎(Rintaro Shimohama)氏
買いたいものがある人は、八百屋のような専門店に行きますよね。 ぼくは、なんでもあるイオンに行く派でした。
現在の下浜さんのお仕事について、教えてください。
広告代理店の電通で、アートディレクター(AD)の肩書きで働いています。商品の魅力ををパッと見て伝わるような絵づくりをするのがADの仕事ですが、長く仕事をしていることもあって、絵づくり以外の仕事も増えてきています。広告全体の仕組みや仕掛けを考えたり、シンボルマークを作るなど企業ブランディングから考えたり、アプリをつくったり…いろんなことをやってます。
デザインの道を志したのは?
進学など将来のことを考える時期は、みなさん高校3年ぐらいだと思うんですが、その時自分には何もなかったんです。中高はとにかく部活に夢中だったんですが、とくに強くもなくて、プロになるわけでもなくやめなくてはならない。で、部活に夢中になる前の記憶を辿ると、そういえば絵を描くことが好きだったな、と。そんな消極的な理由で美大に入りました。美大に入る学生は、映像がやりたい、グラフィックがやりたい、ゲームが作りたい、と明確な目的を持っている人も多いんですが、僕は確固たるものは何もなく入ってしまいました。
広告代理店(電通)に入社したのは?
そんな状態だったので、就活時期になっても相変わらずやりたいことがなく、とりあえず会社に入ってから考えようと。買いたいものが決まっている人は八百屋さんとかお肉屋さんのような専門店に入ればいいのですが、そうでない人はなんでもそろってるイオンみたいなショッピングセンターに行ったほうがいい。つまり、電通はイオンみたいなものですね(笑)。専門店に行ってから、ここは違うと気づいた時にどうしようもないかなと思ってました。
卒業制作として作った作品がYahoo!のアワードを受賞 純粋に面白いと思っていることを評価してもらえた
学生時代に制作した作品で第1回の「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」一般の部:自由テーマ部門においてGOLDを受賞されたんですよね。
もともとインタラクティブなことが好きだったんですが、当時はFlashが全盛で、ブラウザの中の表現だけで満足された時代でした。ヌルヌル動くウェブサイトを見て「すげえ!」と完全に影響されて1年かけて作った卒業制作を出品したんです。
なぜ、「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」に出品されたんですか?
当時、学生が出せるWebのアワードは、ほとんどありませんでした。若手のデザイナーが応募するアワードと言えば、新聞広告賞とか紙の媒体が多く、個人的に、しかも若手がつくったウェブサイトを応募できて、しかも賞に手が届くようなアワードがなかったんですね。
受賞してみて、感想は?
受賞した時にはもう電通に就職していたんですが、広告の仕事と関係なく評価されたのは嬉しかったです。クライアントの意向に添ったものを提案し、効果を出すことで評価されることも大事ですが、自分が「おもしろい!」と思ったことを自由に作って受賞できたので、この方向でものを作っていいんだ!と認められた気がしました。
社会人になってからも受賞されていますね。
気づいたら年1回の締切に合わせて作品を作る、そんなサイクルになっていました。「Yahoo! JAPAN インターネットクリエイティブアワード」は、ありがたいことにジャンルの縛りがなく、クライアントがいなくてもOKですから、純粋に自分が興味を持って作ったものを応募できます。そういった場はなかなか他にありません。
もし、「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」がなかったら?
自分が好きで作った作品の出口がなくて、路頭に迷ってたでしょうね…(笑)。
目的ありきでなく作品をつくるとき、 締切があるということはとても重要です。
「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」に出品していた目的は?
そのとき面白いと思っていることを作品として残す場としての価値と、締切という時間的なプレッシャーが与えてくれる価値、でしょうか。卒業制作は1人でやりましたが、最近の個人制作はチームで作るので、むしろ仕事より難しいと感じることがあります。仕事は目的があってつくるものなので、チームのベクトルが同じ方向を向いていますが、個人制作は、その求心力が作品にしかありませんから。「コレ、面白くないんじゃない?」と誰かが考え始めると、突然進まなくなります。そのベクトルをなんとか合わせるという意味でも、アワードの存在は重要です。締切があるのでとりあえずつくろう!というエンジンになるんですね。
作品を作るときに、どんなものを参考にしますか?
アワードの入賞作は仕事の参考にはしますが、プライベートでの作品づくりの参考にしませんね。美術館に行ったり、仕事とは違うものを見てインスピレーションを感じる方が役立ちます。
仕事以外の活動と言えば、「のらもじ発見プロジェクト」がありますよね。アワードへの出品作品ではありませんが、Yahoo! JAPANと「のらもじin東北」として、東北の石巻を応援する活動もされています。
「のらもじ」は、個性的で味のあるフォントを全国から集めようというフィールドワークをネット上で展開しているプロジェクトです。地方を活性化するプロジェクトとしても取り上げられていますが、社会貢献のような大それた目的があったわけではなく、もともと自分の興味だけで始めたものなんです。目的ありきで入らないで、純粋に自分が面白いと感じる、文化的なところから入るのもいいんじゃないかな、と思っています。
審査員として作品を評価する立場に 新しい世代が世に出て行くキッカケになってほしい
2012年から「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」で、審査員も務めていますね。
とてもお世話になっているアワードなので、僕で良いのかな?と思いながらも、恩返しできるならばと務めさせて頂いてます。審査員のみなさんは、いろいろなバックグラウンドを持つ人が集まっているので、アートディレクターである自分でないと指摘できない視点を持つようにしています。
最近の「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」について、どう思われますか?
自分もそうだったように、まだ仕事では大きな評価を得ていない、まだ仕事的には何者にもなっていないような人がチャレンジして、表彰される賞であってほしいと思っています。新しい世代が世に出て行くキッカケになるといいですね。
下浜さんは、今後はどんな作品を作っていきたいと考えていますか?
今の企業は社会的な役割を求められていますから、人の役に立つようなアプリやサービスは、仕事をしている中で作ることができると思っています。なのでその反面、自由に作ることができる作品では、社会に対して問いかけるようなものを作りたいですね。役に立たなくてもいいから、「なんだコレ」「なんでこんなの作ったの」とザワザワして議論になるようなものを作りたいです。
若いクリエイターにアドバイスをお願いします。
クリエイターはモノをつくる人であり、モノをつくることに憧れている人です。大人の世界は理詰めの世界であり、広告表現でも「この表現は、これこれこういった理由でこの表現になっています」と言語化して説明しなければなりません。子どもは違いますよね。単純に面白そうだからと友だちを誘って、「なんで面白いの?」と聞かれたら、ただ「面白そうだから」「作ってみなきゃわからないから、一緒に作ってみようぜ」と遊んでいたその気持ちだけです。僕もいまインタビューを成立させるためにペラペラ話していますが、本質的にはそんな説明はクリエイターの仕事ではないと思います。モノづくりになぜ魅力があるか?誰も答えることはできません。答えた瞬間につまらなくなってしまうからです。それこそがクリエイターと言われる職業の魔力だと僕は思っています。そんな気がします(笑)
取材日:2015年7月2日 ライター:植松
Profile of 下浜臨太郎
株式会社 電通 CDC局 アートディレクター Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード 2015 審査員
ビジュアルをベースに、ポスター、アプリ、VI、UIUX、空間デザイン、バイラル企画、芸術祭への出品、など幅広く活躍中。
Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード 2015
今年で10年目を迎える「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード 2015」。グランプリは、賞金100万円。 マルチデバイスの新しい使い方を提案する作品募集中です。 募集期間: 2015年7月17日(金)~8月24日(月)
くわしくは、Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード 2015の公式サイトをご覧ください。