モノが減っただけでなく、 考え方、物事の捉え方が劇的に変わりました

Vol.122
編集者/中道ミニマリスト 佐々木典士(Fumio Sasaki)氏
 
モノを必要最小限に減らして暮らす人たち「ミニマリスト」が注目されています。「ミニマリスト」を1つの考え方、哲学として捉えることで、クリエイターにとって、新しい価値観を提案できるのではないかと考えたクリステは、「ミニマリスト」としての実体験を著した本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス社)の著者・佐々木典士さんにインタビューを敢行。テレビも本棚も収納家具もない、さらにはテーブルもベッドもない、驚くほどモノがない佐々木さんのご自宅のお部屋で、「ミニマリスト」について、考え方やご自身の経験談など、さまざまな興味深いお話を伺いました。

閉塞感を抱えていたときに出会った「ミニマリスト」に 自由さ、身軽さを感じて衝撃を受ける。

今回、インタビューさせていただいたのは、茶室と呼ばれる佐々木さんのご自宅。

今回、インタビューさせていただいたのは、茶室と呼ばれる佐々木さんのご自宅。

佐々木さんが「ミニマリスト」という言葉に出会ったのは?

2013年の年末に、知り合いのクリエイティブディレクターから聞きました。当時はまだ日本ではあまり知られていない言葉で、ネットで検索してみたところ、海外のミニマリストの画像がたくさん出てきました。たった15個の荷物だけで移動生活をしている人がいること、あのスティーブ・ジョブズも昔は何もない部屋に住んでいたことを知り、当時の自分にはない、自由さや身軽さを感じました。

その当時の佐々木さんの暮らしは?

中目黒に11年住んでいて、とにかくモノを溜め込んで、いわゆる「汚部屋」に住んでいました。あふれるモノを整理するために、もっと大きな部屋に引っ越したいけれど、経済的にかなわない……。という閉塞感を抱えていました。だからこそ最小限のモノで暮らしている「ミニマリスト」に、衝撃を受けました。

まず、何から始められたのでしょうか?

一気にすべてを捨てるというのは無理ですから、まずは、小さなこと、ゴミを捨てるところから少しずつ始めて、1年かけて徐々に捨てるテクニックを積み上げ、今の状態があります。 モノを増やすことについては、買い方や選び方など、たくさんの情報がありますが、モノを減らすこと、捨て方は誰も教えてくれない。だから、誰もが苦手なのです。また、物に対する「執着」を捨てるのには、時間がかかります。

生活サイクル、時間の使い方、仕事の進め方、すべてが変化して 暮らし方、働き方が自由に。価値観が根底から変化!

「ミニマリスト」になって、一番変わったことは?

自分に対して肯定感が生まれたことですね。以前は、散らかった部屋に住んで、いろいろと行き詰まっている「できてない自分」に対し、ストレスがありました。今は、散らかるモノがないので、いつも部屋がきれいで毎日気分がいいです。

時間の使い方や、1日の生活サイクルに変化はありましたか?

モノがなくなって掃除が簡単になったので、毎朝、掃除をしています。休みの日も、以前は昼過ぎまでゴロゴロして、夕方くらいになってやっと部屋を片付けようかなぁ、なんて思いつつ、なかなか腰が上がらなくて……。といった感じで、完全にインドア派でしたが、今は、外に出掛けて人に会うことも多く、ものすごく行動的になりました。 食事についても、外食が多いことに変わりはありませんが、以前はコンビニでお酒を買って暴飲暴食をしていましたが、ストレスがないと食欲も自然と減るんですね。今は、体重もピーク時より10キロは減りました。

趣味など「好きなこと・モノ」は、変化しましたか?

以前は映画が好きで、DVDを買い溜めして、自宅にあった大画面テレビやホームシアターで見ていました。洋服も好きで、1日中探し歩いていましたね。今でも映画も服も好きですが、映画はDVDやホームシアターがなくても、パソコンからネット経由で見ることができますし、街に出かけて「いいなぁ」と思う服に出会ったとしても、好きな服と必要な服は違うと考えているので、服は必要なモノだけを買って、着古したらまた同じものを買おうと思っています。服を選ぶための時間が減って、そのぶん他のことに時間を使えるようになりました。

仕事面での変化は、ありましたか?

以前はデスクに書類が積み上がり、仕事に取り掛かるまでに時間がかかっていましたが、今では、辞めていく人よりもキレイなデスクと言われています(笑)。 パソコンも、デスクトップアイコンを減らして、やるべき仕事がすぐに分かって、すぐに取り掛かれるようになりました。 また、時々、伝言の付箋メモが貼ってあると、デスク周りに何もないだけに、ものすごく目立ちます。だから、すぐに、メモの要件を忘れずにこなすようになりました。

お金の使い方も変わったそうですね。

以前は広い部屋に住みたい、将来も不安だ、だからもっとお金を稼ぎたい、もっともっと、と考えていましたが、最小限のモノ以外は必要ないと思えるようになると、部屋は狭くても問題ないし、将来に対する不安も消えて、お金も必要な分だけ稼げばいいし、住み方も暮らし方も働き方も自由になりました。 始めた当初は、自分の根本的な価値観まで変わるとは思ってもいなかったので、この変化には自分でも驚きました。 自然と固定費が下がって、今までモノや住まいに使っていたお金は、もっと何かを“経験”することに使いたいと思うようになりました。

「いつか」ではなく、「今、必要か」で判断。 街を「間取り」として考える。

クローゼットの中も、すっきり。

クローゼットの中も、すっきり。

佐々木さんは「編集者」というお仕事柄、必要な資料や書類が多いと思いますが、「ミニマリスト」になるのは、大変だったのではないでしょうか?

はい。資料の本や書類は多いですね。 ただ、プロジェクトが終わったら、すべて捨てて片付けるようにしています。いったんゼロにするので、溜め込むことはないです。 以前は、「いつか必要になるかも」と本を溜め込んでいましたが、積み上がっているだけで、どこに何を溜め込んでいるのか把握していなかったので、探している時間が、もったいなくて、結局新たに買い直したりしていました。

仕事の資料を溜め込まないようにするコツは?

「いつか」を考えると、何も片付けられないので、「今、必要か」を考えるようにしています。私の場合、もしかしたら「いつか」同じような本を作るときに、必要になるかもしれませんが、その「いつか」は、いつ来るのかわからない。必要になった時にまた手に入れようと思っています。 「いつか」必要かも、と思う資料は、スキャナで取り込んで、検索しやすいファイル名を付けてPDF化し、保存します。情報が必要になった時には、ファイル検索ソフトで探したほうが、紙を引っ掻き回して探すよりも、はるかに早く見つかります。

モノを捨てるため、他には、どんな工夫をされていますか?

必要なモノは、自宅になくても街にはあると考えること。 街を間取りとして考えると、自宅にはダイニングテーブルも食堂もないけど、街に出れば、ダイニングテーブルがあるお店が、食堂にも応接間にもなります。コンビニは、自宅に代わって日用品や食品をストックするストックルーム。だから、自宅には「今、必要」なひとつだけあればいいんです。

「自分が書くしかない!」と編集者ながら執筆者に。 人生史上最高の忙しさも、部屋はキレイなまま!

編集者である佐々木さんが、「ミニマリスト」についての本を自分で書くことになった経緯を教えてください?

2013年の年末に「ミニマリスト」という言葉と出会って、翌年の春には、もう「ミニマリスト」についての本の企画を通していました。当時は、まだここまでモノのない部屋ではありませんでしたが、寝ても覚めても「ミニマリスト」のことを考えていました。ここまで何かに強烈にハマったのは初めてのこと。いつしか自分が書いたほうがいいと思い始め、使命感に駆られて書きました。編集者は本を作ることが仕事で、書くことは本来の仕事ではないですから、周りは「どうした!?」という雰囲気だったようです。自分自身も普段の仕事と平行して書いていたので、史上最高に忙しかったですが、部屋は荒れずに済みました。(笑)

出版後、話題になって、周りの評価も変わったのでは?

周りの評価はわかりませんが(笑)。こうして、たくさんの取材を受けてもいるので、今の時代に求められる本だったのか、と思っています。「ミニマリストになりたい」「憧れています」という話を聞くのは、嬉しいですね。

「ミニマリスト」に条件はない。 自分の最小限を考え、実践しようとする人こそがミニマリスト!

自著『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス社)にサインしていただきました。

自著『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス社)にサインしていただきました。

「ミニマリストになりたい」と憧れる人に、アドバイスをするとしたら?

一気にやる必要はないので、カバンの中だけ、玄関だけ、仕事場のデスクトップだけ……と、まずは小さな範囲から始めてみてください。始めてみれば、そこから派生して拡がっていくと思います。「ミニマリスト」は、こうあるべし、モノはこれだけ、と決められた条件があるわけではありません。モノを管理できる量はそれぞれ違うので、モノが少ないから格上とか素晴らしいとか、競うものではないと思います。「自分の最小限とは?」と、常に考えて、実践しようする人こそがミニマリストであると思います。

どんな人にオススメしたいですか?

自分もそうだったように、今、閉塞感を抱えている人。今の自分を変えたい、変わりたいと思っている人は、ぜひ実践してみて欲しいです。 自分自身、モノが少なくなっただけでなく、考え方、物事の捉え方が劇的に変わりました。やってみると、変わったことが実感できて、突き進めました。

最後に、ミニマリストとしての佐々木さんの今後について教えてください。

ミニマムな持ちモノで、移動生活をしてみたいですね。東京で働いてひとり暮らしをするならば、今のスタイルかな、と思うのですが、これが2人、3人と家族が増えたり、田舎へ引っ越したり、暮らし方に変化があると、必要なモノが変わってきて、最小限の暮らし方も変わってくると思います。新たな暮らしの中で「必要最小限のモノとは何か?」と常に考えながら、今後も生活していきたいです。

ありがとうございました。

【プレゼント】『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス社)を、10名様にプレゼントします! 佐々木さんが、ミニマリストについてご自身の体験を書いた『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス社)を、クリステメール読者の中から、10名様にプレゼントいたします。 ご希望の方はクリステメールプレゼントページよりご応募ください。 たくさんのご応募、お待ちしております。

取材日:2015年11月27日 ライター:植松織江

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Profile of 佐々木典士

編集者/中道ミニマリスト 1979年生まれ。香川県出身。学研『BOMB』編集部、INFASパブリケーションズ『STUDIO VOICE』編集部を経て、現在はワニブックス所属。すべてを保存し、何も捨てられない元マキシマリスト。2015年6月、自身が所属するワニブックスより『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)を出版。

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