VFXはチームで作り上げるもの。1人では作れなかった映像を見たときは驚き、やりがいを感じる。

Vol.145
株式会社ピクチャーエレメント
代表取締役
テクニカルプロデューサー
大屋哲男(Tetsuo Ohya)氏
profile
1957年生まれ、埼玉県出身。1980年に海外CMのポストプロコーディネーターとして映像業界に入る。その後、ゴジラシリーズなどの映画やTVのVFXを手掛ける。2011年に株式会社ピクチャーエレメントを設立。『シン・ゴジラ』でアジアフィルムアワード最優秀視覚効果賞を受賞。
大ヒットを記録した映画『シン・ゴジラ』、3DCGで描かれた迫力満点の映像が話題となりました。そのVFXを担当した大屋哲男(おおや てつお)さんに、現在の映画界でVFXやCGはどのように使われているのか、またクリエイターに必要なスキルとは?フィルムの光学合成時代からさまざまな映画に携わってきた彼が語る、VFXの魅力について語っていただきました。

VFXやCGは特撮やSF作品だけのものではない! 何気なく見ている映画にも使われている技術

VFXやCGは映画のどのような部分に使われているのでしょうか?

『シン・ゴジラ』に代表されるような特撮やSF作品など、現実では表現できないものを描くときに使われるイメージですが、意外と普通の作品にも使われています。
例えば、ラブストーリーなどで夕日をバックに恋人たちが語らっているシーンがありますが、実はここにもVFXの技術が使われていることがあるんです。普通に撮影すると、途中で夕日が沈んでしまったり、思っているようなロマンチックな画を撮ることが難しいのです。そこでVFXの技術を使って、ゆっくりと沈んでいく夕日を作り出してロマンチックなシーンを演出することもあります。
また、顔のアップのシーンでは、目の中のコンタクトレンズの輪郭を消すのもVFXの仕事です。アップにすることによって心情的な何かを伝えたいカットでコンタクトに気を取られてしまう観客がいるかもしれない。何かを訴えるときに邪魔になるものを消すことも仕事のひとつです。同じような理由で時代劇でもよく使います。日本はどこに行っても電信柱が立っていて山には高圧線があるのでそれらを消したり、お侍さんの耳のピアスの穴を消した事もあります。VFXが目立っていい作品もありますが、基本は観客が見ているときに違和感を感じさせないようお手伝いする技術です。なので、意外と多くの作品に隠れて使われているんです。

台本にVFXの指示が出ていたりするのでしょうか?

ト書きにはそのようなものはないですね。そのため、「崖から飛び降りる」という一文があったとしたら、前後のストーリーを読んで、人が助かる高さなのか、俳優なのかスタントマンが演じるべきなのか、VFXが必要なのか?と考えることが大事です。何事も想像することですね。
監督によっては、「25階の会議室で話し合う2人」と台本に書いてあっても、窓の外が映るように窓際に2人を立たせて25階にいることを表現する人もいれば、25階の窓の外から2人がいる会議室を映してそのまま部屋の中にカメラがくるなんて演出をする人もいます。これは監督によって違いますが、後者の場合は間違いなくVFXが必要となります。最近の漫画原作の作品は、漫画本来の自由な表現力を活かした演出にするために、VFXを使うことも多いです。ただ、どのような作品の台本も最初は文字しかなく、それを読んでイメージをすることが大事。派手なシーンも、しっとりとみせるシーンも、スタートラインは基本、文字なんですよ。

監督の頭の中にあることを映像にするのが仕事だと思いますが、どのようにして形にするのですか?

「こういう背景が欲しい」と言われた時、まずはどういう感じなのかをきちんと聞いて、それに近い写真を探したり絵を描いたりして近づけますね。監督によって異なりますが、自分の頭の中でしっかりとした形を想像している人もいます。そのときは、監督が伝えたいことを汲み取ってどんなものを想像しているのか理解したうえで形にする必要があります。そしてもうひと案、「こういう方法はいかがですか?」という提案ができるようにしておくことも大事です。監督にも色んな方がいて、助監督を経験されている方だと自分が撮影小道具を用意してきた経験があるので、何となくのイメージを掴めている人が多く、他のジャンルから監督になる方はそれぞれの専門家に自由にやらせて最終的にそれらを使って演出していく人が多いように思います。まぁ、どう映像にするかは話し合って決めていくので、その時にそれらを表現する方法を持っていることが大事になってきます。

何を作りたいのかをイメージしてから、道具を選ぶ。発想力と知識が武器

シャワーやサーフボードなどの小物が配置されたオフィスは、映画のセットのデザイナーによるもの

技術というのは常に進化していくものですが、それについて行くのは大変ですね。

技術を追っていくことは必要なことですが、実は経験値を上げていくことの方がもっと大事であると思っています。実は私はすごく恵まれた年代です。初めて仕事に就いたときはフィルムを加工する光学合成を駆使していた時代で、CGは夢のような存在。画像処理にパソコンを個人で持つなんて考えられませんでした。その後CGは1980年代前半から少しずつ映画で使われ、1990年代には飛躍的な進歩を遂げ、撮影もフィルムからデジタルに変わりましたが、私たちの世代はそれらをすべて経験することができた。今、デジタルで作っていても、積み上げてきた経験があるんですよ。これは本当に大きい。今の子たちはその前の経験がないので、こういう映像を作ってとお願いすると、「○○のソフトがないから作れません」となってしまう人が多いですが、その点、私たちはパソコンさえないころからやっているので、ソフトがなければ手で絵を描くなど、欲しいものを作るための違う方法も知っているし、そのためには色んな方法を考えます。大事なのは物を作ることであって、道具を使うことではないんです。これでできないのなら違うものを組み合わせて作れないかと考えることも大事。昔よりも技術が開発され選択の幅が広がっている今だからこそ、そういう発想で脳を使っていく必要があります。“道具がないからできない"で終わらない。技術の習得はもちろん大事ですが、まずは作りたい映像をイメージし、そのためにどういう道具を使おうかと考えることが一番です。

道具を使う発想力が重要なんですね。

あと、伝統や以前これでうまくいったから同じ方法を使おうなどという成功体験に縛られてしまうのは避けたほうがいいですね。昔と違って今は技術の進化のスピードが速いので、この前までできなかったことができるようになったり、今までなかった道具が生まれていたりします。そのため、この前作ったものを今の技術を使ってどこまでよくできるのか、と常に新しいことを考えていくことも必要です。『ゴジラvsビオランテ』『ゴジラvsキングキドラ』などの「ゴジラ」シリーズに参加しているときは、前と違うものをどうやって作るかばかり考えていました。その年の作品が終わると、すぐに次のネタを探すためにゲームセンターに行ったり……。同じことをやらないよう、プロデューサーや監督とよく話していたのもいい思い出です。

ゲームからヒントを得ていたのですか?

ゲームはもちろん、映画やドラマなどあらゆるものにヒントはあります。VFXやCGは頭の中にあるものを形にするのですが、そのヒントとなるのは情報ですから。情報源としての引き出しはたくさん持っていた方がいいですね。それには映画やドラマを観て勉強をする必要があります。そういう知識の積み重ねがより面白い作品を作っていきます。発想力と知識の両方が重要ですね。

妄想と映画が好きな少年が映像の世界に飛び込んだ!

そもそも大屋さんは、CMの編集者としてこの世界に飛び込まれたんですよね。

そうです。たまたま専門学校でアニメやコンピューターの勉強をしていましたが、CGについては全く知らなかったです(笑)。私が入社した1980年は『スター・ウォーズ』の2作目が公開になった年で、コンピューターで作った画が映画に使われ始めたころです。コンピューターとアニメの両方に関わる仕事がしたくて、映像に関われるならなんでも!という気持ちでCMのポストプロダクションに入って、海外作品のネガ編集やポスプロコーディネーターをしていました。

学校で学んでいたことと違うことをして、戸惑ったり、辞めたいと思ったり、はなかったのですか?

仕事相手が海外の人だったので、入社してすぐのころは英語の勉強ばかりでした。会社から宿題が出されて、通勤の間にひたすら辞書を片手に勉強をする毎日。そして3カ月後にはもう1人でマレーシアに出張に行っていましたね。今考えてもなかなかのスパルタ(笑)。ただ何も分からずひたすらそういうことをしていたら、気づけば何年も経っていた……という感じで、すごく充実していました。勉強は苦手だったのですが、これを覚えたら仕事ができると必死で、戸惑っているヒマなんてありませんでした。ちなみに、大好きな映像の世界に携われていたので、逃げたいと思ったことはないです。

子供のころから映像が好きだったのですか?

特撮をすごく意識していたわけではないですが、もちろん『ゴジラ』からも影響は受けましたね。あと、長編アニメ『わんわん忠臣蔵』など、東映動画や日本アニメーション制作の劇場アニメがとても好きでした。家にあった映画のタダ券を持って、1日中、映画館で過ごしたりして。楽しかったです。それから、子供のころはSF小説を読むのが好きでした。実際に同人誌で書いたりもして、子供の頃から妄想が好きなんですよ。実は今でも、朝、今日起こることを色々細かく想像します。そのあたりが、今の私を作っているのかもしれませんね。

映画は総合芸術。それはVFXも同じで1人では作れない映像がある

ちなみに今回の『シン・ゴジラ』にはPE RUSH!という、iPadを使ったオリジナルのビューワーアプリを使用したんですよね。

これは撮った映像を見るツールです。フィルムのころは撮影したネガからポジフィルムを作って映写室で大勢のスタッフとともに確認していました。デジタルになってからは、撮影したものをDVDに焼いてスタッフに手渡すようになりました。ところが、これがめちゃくちゃ画質が悪い。ピントが合っているかさえわかない状態だったので困っていたのと、1日に何十枚もDVDを配るムダと流出の問題を抱えていました。それらを改善するために弊社でドイツのソフト会社と契約してクラウドサービスの利用と iPad をセットにしたサービスを開発しました。これにより、確認作業もスムーズになりました。iPadを使うことで、フィルムのときに行っていたように、大勢の人と映像をその場で確認し合うことができるようになりました。一気に意思の疎通が図れるということは大きいことですね。

そんな最新ツールを使ったり、最新技術を駆使しながら作品が生まれているんです。これまでさまざまな作品に携わっていますが、大屋さんにとって“VFXの魅力"って何だと思いますか?

VFXって1人で作れるものではないんですよ。大きい映画だと数十人、ハリウッドだと何百人の人が働いて初めてひとつの映像ができあがります。自分がやったからこれができたという喜びよりも、このチームでこれまで見たことのない、こんな映像ができた!という驚きの方が大きいです。自分で色んなものが作れるようになりたいと思ってきましたが、一人で作れるものは本当に少ないんです。そういう中で、その道のプロたちが集まればここまでスゴイ映像が作れるんだ、これに携われたんだ、と思えることは本当に素晴らしいです。一見、個人作業のように思いますが、この仕事は1人でする仕事じゃないんですよ。そもそも映画というのは“総合芸術"と言われますが、美術の人が絵を描いて、建築家がセットを作って、服飾デザイナーが衣装を作り、それをカメラマンが撮影して……と専門家がいっぱい集まってやっとひとつのシーンが生まれます。それはVFXも同じ。多くの知恵とアイデアによって形づくられるものなんです。だからこそ面白いんだと思いますよ。

取材日:2017年10月18日 ライター:玉置晴子

大屋哲男(株式会社ピクチャーエレメント 代表取締役 / テクニカルプロデューサー)

1957年生まれ、埼玉県出身。1980年に海外CMのポストプロコーディネーターとして映像業界に入る。その後、『ゴジラvsビオランテ』などゴジラシリーズなどの映画やTVのVFXを手掛ける。2011年に株式会社ピクチャーエレメントを設立。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』などのテクニカルプロデューサーを務める。『シン・ゴジラ』でアジアフィルムアワード最優秀視覚効果賞を受賞。

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