クリエイティブには人生を変える一瞬がある。その瞬間に出会いたくてクリエイターに

Vol.146
演出家・脚本家・監督・⼥優 山田佳奈(Kana Yamada)氏
1985年生まれ、神奈川県出身。レコード会社のプロモーターを経て、2010年に劇団・□字ックを立ち上げ。「荒川、神キラーチューン」は演劇ポータルサイト「CoRich 舞台芸術まつり!2014」でグランプリ、2014年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。2018年1月17日からは本多劇場にて新作「滅びの国」を公演。映画監督としては『夜、逃げる』、『今夜新宿で、彼女は、』でメガホンをとる。脚本家や女優としても活躍。
映画『今夜新宿で、彼女が、』が、第1回「渋谷TANPEN映画祭CLIMAX at佐世保 ※」で作品賞にあたるブロンズバーガー賞を、主演の広山詞葉(ひろやま ことは)が主演女優賞を受賞した、山田佳奈(やまだ かな)監督。彼女は、劇団・□字ックの主宰でもあり、新進気鋭の脚本家としても注目を集めている若きクリエイター。そんな彼女に映画と舞台についてや、クリエイターとしての自覚について語っていただきました。

※ 渋谷TANPEN映画祭CLIMAX at佐世保 http://eizousya.co.jp/tanpen/index.html

作品は、“俳優が一番魅力的に映る”ことを第一に仕上げる。

第1回渋谷TANPEN映画祭 佐世保 ブロンズバーガー賞、広山詞葉が主演女優賞を受賞作品。
「今夜新宿で、彼女は、」

第2弾監督作『今夜新宿で、彼女が、』が、2017年10月29日に開催された第1回「渋谷TANPEN映画祭CLIMAX at佐世保」でブロンズバーガー賞を、広山詞葉さんが主演女優賞を受賞されたそうで、おめでとうございます。

正直、今回、作品賞はとれないと思っていたのですごくうれしかったです。逆に、主演女優賞は、必ず獲らせてあげたいと思って撮影していたので、肩の荷が下りてホッとしています。実は今までも、舞台や映画など色んな賞をいただいていますが、女優賞というものを欠かしたことがないんです。小さいものから大きなものまで何かしら頂いていて。なので、今回も広山さんに女優賞をとってもらうことが命題でした。ちなみに私自身の信念として、作品は“俳優が一番魅力的に映るように仕上げる”ことを第一に考えています。それは、観客が一番身近に接するのが俳優だから。映画に関してもスクリーンで見られるのは俳優が悪戦苦闘している姿ですし、舞台も同じです。観客が共感したり、観客の心を動かす力があるのは俳優だけなんです。そしてその力を最大限に引き出すのが、ディレクターの仕事だと思います。

山田さんは、演出・脚本・出演と様々な役割をこなしますが、それぞれの立場をどのように考えていますか?

例えば自分が出演するときには、ディレクターが引いている透明のマーカーの上でどれだけ遊べるか?ということを考えています。あくまでもディレクターの考えの中で、どう演じられるかというか……。 脚本に対しては、自分が面白いと思うものが書けたらあとは好きにしてください、という考え方です。今、映画監督の堤幸彦(つつみ ゆきひこ)さんがプロデュースする女性アイドルユニット「上野パンダ島ビキニーズ」で、舞台脚本を担当させていただいているのですが、私の脚本に堤さんがギャグをのせると面白い! 自分の脚本がディレクターによって脚色されることにより作品が面白くなるなら、それもいいんじゃないかな?と思います。作品はディレクターのものだから、ディレクターに好きにやってもらって。
そしてディレクターの立場になると、演技をして観客が一番身近に接するのが俳優なので彼らが一番やりやすいように、セリフを足したり減らしたりして自分が思うキャラクターを演じればいい……。
なんか三者三様ですね。ちなみに私は今、脚本家でありディレクター、ときどき女優という意識が強いですね。基本、固定してしまうとつまらないと思うので、今のゆるゆるした状態がいいんじゃないかな? どれが一番向いているかを決めるのは私自身ではなくお客さんだと考えているので、お客さんからまだ何も言われていないのなら、ディレクターや脚本家といったひとつの役割に固執しないで、このままの状態でいきたいです。

俳優を経験しているからこそ、ディレクションしやすいということはありますか?

それはありますね。俳優をしているときにディレクターが何を求めているのかが分かったり、ディレクターが俳優に無理なことを言っていることが分かったり……。今回、女優賞をいただけたのもそういう経験があるからこそなんだと思います。ちなみに、自分の演出の強みだと思っていることに、相手との共通言語を見つけることに割と長けている、ということがあります。相手にとって伝わりやすい言葉をチョイスすることが得意というか……。これも、俳優と監督のどちらも経験していることが活かされているのだと思います。

25歳の時、演劇ができるのは今しかないと思い、最後の選択肢に賭けてみた!

山田さんが演劇の世界にどっぷり浸かるようになったのは25歳からとのことですが、昔から演劇をやりたいと思っていたのですか?

演劇ではご飯は食べられないと思っていたので考たこともありませんでした(笑)。中学・高校では演劇部だったので、進路指導の先生からは勉強して大学で演劇を学んでみては?と提案されましたが、当時は勉強に興味が無く(笑)。バンドをやっていて、それを通じて知り合った友だちと毎週末、遊びに行っていて……。その中で、漫画家や映画監督らと出会う機会が多くって刺激的で楽しかったんです。そういう人たちと出会う機会を失う1年を過ごすくらいなら、出会う1年を過ごしたいなと思って、受験を“選択”しませんでした。そして音楽関係の専門学校に行って、レコード会社のプロモーターとして働くようになって……。このころは演劇とは無縁でした。レコード会社に入ったことはすごくよかったと思っています。テレビやラジオ局に行って自分の受け持っているアーティストを売り込むプロモーターって、究極のサービス業だと思います。そういうことを経験できたのはよかったです。ただ、20代前半で土日もない仕事をしていると、年に3回くらいは限界が来る(笑)。うら若き乙女が彼氏もつくらず、一体何をやっているんだろう……と。そんな時期に趣味を持とうと思って始めたのが演劇でした。でも、演劇は稽古に1カ月とか費やすので時間的にそれもちょっとできない……。それで、ショートフィルムを撮ろう!と思い、自主映画の撮影のお手伝いを始めました。その後その延長で、一度きちんと演劇をやろう、という話になって。演劇部のときの同級生や後輩と、気軽な感じで立ち上げたのがきっかけでした。

そこで演劇の面白さを思い出した感じですか?

そうですね。あと、今まで脚本に自信がなかったんです。そもそも中学1年生の時に出会った演劇部の顧問の先生に影響を受けて書きはじめたのですが、あくまでも興味の対象として書いていただけで、自分でうまいと思ったことがなく……。それなのに、大人になってやってみたら案外評価が高くて。これは調子に乗っちゃいますよね(笑)。こんなに評判がいいなら、本腰を入れて取り組んでみようかな、と思うようになり、調べてみたところ、タレント事務所のオーディションには年齢制限があって、24歳までだったんです。知識のない私はそれを見て、このタイミングを逃すとこの世界にはもう入れない、選択肢としては今しかないと思い、最後のチャンスに賭けてみようと思ったのです。まぁ、心のどこかで失敗すれば音楽業界に戻ろう、と思っていたのですが思いのほか応援していただいて(笑)。ありがたい気持ちでいっぱいでしたが、引き返せないなと感じましたね。

エンターテインメントは消費されるもの、だからこそ消費される中で何かが残ればいい。

映画や舞台などジャンルを問わずに活躍されていらっしゃいますが、映画と舞台の違いはありますか?

演出に関しては、映画はそれぞれの場面をチョイスできますが、舞台は一枚絵で見せなければいけないという差があります。ただ俳優に対してのディレクションに関しては同じです。ちなみに舞台の中でも、劇場の大きさによって芝居の見せ方に変化をつけなければいけません。小さい劇場で大げさな芝居をするとうるさすぎるし、大きい舞台でさりげないを芝居してもなかなか伝わらないですから。そして映画は、カメラが寄ってくれるので呼吸だけ変化をつけるときがあってもいいんです。でもやってることは同じで感情を動かして見せる。このように芝居の大きさこそ違いますが、本質は変わらないと思います。

描く題材も、“人間を描く”という意味では同じですか?

私は作品において“生きている人間を描きたい”という意識が強いので、舞台も映画も変わらないですね。ちなみに、人間の中でも普段スポットライトが当たらない人に興味があって……。そういう人たちを描きたい、と思って今は作品をつくっています。映画や舞台って生活の必要不可欠なものではない。あったほうが豊かになるけれどなくてもいいもの。消費されるものだからこそ、消費されていく中で少しでも何か残ればいいんです。私たちが映画や舞台から勇気や一歩踏み出す力をもらうときって、センチメンタルやナイーブになっているときだと思います。そういうときに出会った作品はパワーになって何かを変えてくれる。そういう出会いの一瞬を描きたいんですよ。私自身、クリエイティブの仕事をしていて一番面白いと思うことは、人の人生を変えられる一瞬がある、ということ。そういう瞬間により多く出会いたいです。それは、自分が作品をつくっているうえで一番うれしいことでもあって。作品と出会ったおかげで変化がありました、と言われるとうれしいし、その言葉で私自身にも変化をもらっているんだと思います。

山田さんにもそういう作品はありましたか?

私は音楽が多いですね。いつだってエレファントカシマシの宮本浩次(みやもと こうじ)さんになりたいと思っています。ストレートさがいいんですよ。私には絶対ないところなので憧れたり、作品にそういう気持ちを託すんだと思います。

色んなことに興味を持って、挑戦して、人と会うことが大事。アンテナの感度を上げて世の中を見てみよう

劇団□字ック、本多劇場進出記念作品「滅びの国」

お忙しいと思いますが、リフレッシュするときはどういうときですか?

海外旅行に行くのが好きなんですが、行っているときは考え事なども吹き飛んで頭の中が真っ白になっています。私、英語が全くできなくて英会話の本を片手に強引に旅をしているんですが、話せないことで一生懸命になり、意識を仕事や日々の生活と切り離すことができるんですよ。意外と自分自身と向き合える瞬間になっていますね。あと、旅行中は事件しか起こらないのですごく楽しいです。現地にいるときは大丈夫かな?と思うことも、帰ってきたらネタの宝庫で(笑)。こういう仕事をしているのだから人生どっちに転がってもネタなので、面白くなればいいやと思って行動しています。創作って仕事は自分の中や他人とのかかわりから生まれてくるものなので、人と関わりをたくさん持った方がいいと思いますね。あとは、ニュースなどを見て自分の感度を高めるのも大事です。

劇団□字ックでは、、前作『荒川、神キラーチューン』をはじめ、1月に公演予定の新作『滅びの国』など、今話題になっていることを題材にし、その本質を描いた作品が多いですよね。

『滅びの国』は、団地とシェアハウスの物語を書きたい、と思ってできた作品です。昔、集合住宅地の場だった団地と、今の時代の集合住宅地の場であるシェアハウス。集合体として存在が同じで面白いな~と感じたんですよ。多勢の中にいる刹那と一人部屋に残されている刹那……。そして、SNSを介して孤独を埋めようとしているけれど本当に埋まっているのだろうか?など疑問も出てきて。やはり時代に即してるモノや事象に興味があるんですよ。それは、“人間を描きたい”と思っているから。最近は、身近な出来事からキーワードを拾ったりもしています。昔はテレビがうるさくて好きじゃなかったんですが、いつのころからか面白いと思うようになって……。流しっぱなしにしているのですが、そうするとキャッチ―な言葉が色々飛び込んでくるんですよ。あと、世界で今何が起こっているかを知りたいという気持ちもあります。自分の心が揺れる瞬間というか……。事件を見て心を痛めるのと同じように、なぜこうなってしまったのかに興味がある。軽薄な言葉で表すと、野次馬根性が強いんだと思います。

そういうアンテナを張っているからこそ、作品が生まれてくるんですよね。

私は、クリエイターとして勉強してきたことがないため、劣等生の部類に入ると思うんですよ。そんな私が映画で賞をいただいたり、劇団をやっている人にとってあこがれの場所である本多劇場に立たせていただいているのは、そういうアンテナ感度を高くしているからだと思います。色んなことに興味を持って、挑戦して、人と会う、そういうことが大事なんじゃないかな~と。そして、人の意見にはできる限りNOを出さない方がいい。何でも一度聞いてみて、その中で自分が面白いと思ったことをセレクトしていけばいいと思います。そして多くの選択肢をセレクトしていった先に、多分クリエイティブというか創作する自分なりの意義みたいなものが見つかっていくと思うので。誰かに聞いた話ですが、“正しい努力”はしたほうがいいらしいです。もし遠回りをしていたとしても、“正しい努力”をしていれば必ず正解の近くにたどりつけているはずだということです。私にとって、その“正しい努力”は人に会うこと、色んなことに興味を持つことなんだと思います。いつもネタ探しをしているというか……。レコード会社に勤務したことも劇団を立ち上げたことも、映画を撮ったことも、すべて役に立っていますから。

取材日:2017年11月2日 ライター:玉置晴子

山田佳奈(Kana Yamad)氏(演出家・脚本家・監督・女優)

1985年生まれ、神奈川県出身。レコード会社のプロモーターを経て、2010年に劇団・□字ックを立ち上げ。絶望や喪失、生への欲求や期待などに葛藤する人間を描く。「荒川、神キラーチューン」は演劇ポータルサイト「CoRich 舞台芸術まつり!2014」でグランプリ、2014年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。2018年1月17日からは本多劇場にて新作「滅びの国」を公演。映画監督としては『夜、逃げる』、『今夜新宿で、彼女は、』でメガホンをとり、人間の心の機微をリアルに描いて話題に。脚本家やミュージシャンとしても活躍。
劇団□字ック http://www.roji649.com/
第12回本公演「滅びの国」 2018年1月17日(水)~1月21日(日)本多劇場
詳しくは、劇団□字ック公式サイトをご覧ください。

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