自分でやり方を考えなくてはならない そこが面白い
- Vol.4
- Webデザイナー/株式会社ラナデザインアソシエイツ代表取締役 木下謙一(Kenichi Kinoshita)氏
サイトオーナーとユーザーに、いかにベネフィット(利益)を 提供するかを日夜考えている人。
ポリシーは?
今、ラナデザインはデザインの良さで評価をいただいているのが、ほとんどだと思います。でも、僕はそれだけで満足したくはない。手がけたサイトのオーナーやユーザーにどんなベネフィットを提供できるのか?そこにこだわっています。それがポリシーです。
ベネフィットを提供できたかどうかは、検証しているんですか?
もちろん、していますよ。まあ、一番わかりやすいのはECサイトで、ユーザーが買い物をしてくれれば明らかにベネフィットです。でもその先に、店舗に足を運んでくれたとか、友人に紹介してくれたとか、ダイレクトにはわからない行動もあります。その辺は、オーナーと一緒に検証することになります。
木下さんの考えるユーザーベネフィットとは?
サイトに訪れている人たちはアクティブです。何かを知りたがっているから、そのサイトにアクセスしています。だからその欲求にちゃんと応えて、さらに期待以上の情報や面白さを提供することが大切だと思います。
木下さんはWebデザイナーですか?グラフィックデザイナーですか?
それを問われたら、やはりWebデザイナーということになるのでしょう。現在手がけている仕事のほとんどはWebデザインですから。
【ラナデザインが手がけたWEBサイト】
スーパーカーに憧れ、工業デザインを目指してこの世界に。
キャリアのスタートはCGデザインですね。
そうです。当時はCGの黎明期で、デザインとテクノロジーの両方が好きな僕としては、進路はCGしかないという感じでした。NHKアートという会社に就職し、テレビ番組関連のCGを作っていました。
次に進んだ会社では工業デザインを手がけていた。
ひとつは、もともとこの業界に進んだきっかけが工業デザインへの興味だったということと、もうひとつは、転職先の未来技術研究所という会社が、当時としては最先端の、CGを使った3Dの工業デザインを行っていたということです。
デザイナーを目指したきっかけは?
小学生の頃の、スーパーカーブームですね。スーパーカー図鑑の巻末に収録されていたジウジアーロというスーパーカーデザイナーのインタビューを読んで、車をデザインする職業があると初めて知り、工業デザインに興味を持ったのがきっかけです。
きっかけは工業デザイン?
そうですね。それで武蔵野美術大学に進んだのですが、そこに時代の潮流みたいなものが加わってきます。大学時代にはコンピュータやCGなどのテクノロジーへの興味がもの凄く大きくなっていきました。
ルーツである工業デザインには、もう興味はない?
いえ、十分にあります。将来的にはラナデザインとして、工業デザインの分野に進出したいと思っています。ここ、ぜひアピールさせてください(笑)。
この業界には大御所もいなければ、セオリーもない。そこが面白い。
WEB制作に興味を持ったのは?
フリーランスになってからですね。出てきたときに、「これは面白い」と、もの凄く興味をもった。いや、飛びついた(笑)。さっきも言ったようにデザインとテクノロジーの両方が好きなので、僕にはとっても刺激的な新ジャンルだったし、知れば知るほど将来性豊かな分野だと思いました。
で、今も面白い。
インターネットという分野は、新しいから、教えてくれる人がいないんですよ。大御所がいない。セオリーがないし、自分でやり方を考えなくてはならない。そこが面白い。
木下さんの行動の原理は「好奇心」だけ?
関係性を考えるのが好きなんです。最初は、デザインとコンピュータ。次は工業デザインとコンピュータ。そして、インターネットとデザイン。それまで関係のなかったもの同士を結びつけるとどうなるのか?もちろん自分でデザインすることも好きですが、そういう関係性を考えて、試してみることが好きで、実際にやってみた。その結果として、今の自分がいるのだと思ってます。
コンピュータ時代のデザインの特徴は?
アマチュアのデザイナーがプロになりやすくなると思います。これには良い側面と悪い側面のどちらもあると思いますが、確実に起きている現象です。学校や会社で「デザインを学ぶ」というプロセスを経ずに仕事をしている人が増えていますね。僕には、デザインがバンド活動に似てきているように思えます。CDのヒットチャートも音楽大学に縁のない人たちが名をつらねている。僕は母校の武蔵野美術大学で非常勤講師をしているのですが、美術大学も広い意味の現代美術やデザインの世界で位置や意味が変わりつつあるのかなと思っています。
アマチュアが仕事をすることは良いこと?
善悪両面だと思いますが、修行でしか身に付かない技術や技法がコンピュータというツールで補えれば、以前は出て来られなかった才能が日の目を見る機会が増えることは確かでしょう。
【ラナデザインが手がけたWEBサイト】
目標って、追いついたと思ったときには、 すでに追い抜いていたりする。
今後の目標は?
私たちが得意とするのはWebを通してのブランディング。ブランドイメージの確立、浸透です。WebというのはTVなどに比べて、利用者が能動的なメディアです。つまり自分から見にきてくれる。そういう方たちを取り込むという機能を通して、ブランディングに有効なメディアだということが認められてきたのがここまでの流れです。ただ、やってみて欠点や弱点が見えてきたことも確か。今後はそこを補うために、他のメディアや表現手法との融合に取り組んでいきたいと思います。
仕事の手法や内容に変化が起きている?
日々変化してます。先日は、ロケ隊を率いて都内から湘南へと移動しながらムービー撮影のディレクションをしてきました。まったくの初体験で、エキサイティングでした。
今までは、そんな仕事はなかった?
Web用に独自の動画コンテンツを作るということはなかったですね。今は、それが必要にってきているということです。
木下さんの求めるスタッフ像は?
次のデザイン、次のステップを一緒に考えてくれる人。僕は自説を得々と説いたり、ワンマンでひっぱったりするタイプではありませんから、常に何かを提案してくれるような人に参加してもらいたいですね。
若手クリエイターたちへエールをお願いします。
新しいジャンルではロールモデルにこだわらないほうがいいと思います。伝統のあるジャンルでは大御所を目標にして頑張るのも大切なことですが、Webなどの新しいジャンルではちょっと違うと思う。目標を持つのは大切ですが、目標というのは、追いついたと思ったときには、すでに追い抜いていることもあるし、もしかしたら目標とした人がその間にイノベーションできずに前進していなかったりもしますから。
Profile of 木下謙一
1969年生まれ。(株)ラナデザインアソシエイツ代表取締役。 www.ranadesign.com 武蔵野美術大学非常勤講師。1992年、武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。1992年、株式会社NHKアート入社。主にNHKのコンピュータグラフィックス制作を行う。 1994年、株式会社未来技術研究所入社。コンピュータグラフィックスを用いた工業デザインを行う。1996年よりフリーランス。1997年からラナデザインアソシエイツとして活動。当時よりウェブサイトを中心にデザインを行い、サイトの企画段階から、立ち上げ、その後の更新、運営までをトータルに行い、データベースやeコマースサイトの構築も行う。サッポロビールのnamashibori.comや、ユニリーバ・ジャパンのmod'hair等のウェブサイトを手がけるほか、松任谷由実のCDジャケット、広告、ツアーサイト、マーチャンダイズのデザインを総合的にデザインするなど、メディア間でのデザインのインテグレーションを得意とする。 The New York Festivals、The One Show、LONDON INTERNATIONAL ADVERTISINGAWARDS、東京ADCなど受賞多数。