グラフィック2018.12.26

「ブロッコリーで森」、アイデアが浮かんだらその場でスマホにメモ

Vol.158
ミニチュア写真家・見立て作家 田中 達也 (Tatsuya Tanaka)氏
Profile
ミニチュア写真家・見立て作家。広告ビジュアル、映像、装画など手がけた作品は多数。’17年NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。写真集「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」、「Small Wonders」発売中。
「ブロッコリーで森」「アイスクリームで地球」など、身近なものを別のものに「見立て」たアイデア写真をSNSで発信したのをキッカケに、広告ビジュアルやTV番組のタイトルバックを手がけるなど、ミニチュア写真家として幅広く活動している田中達也さん。Instagramのフォロワーは現在170万人以上(!)となった田中さんに、プロの作家として活動するようになった経緯や、アイデアを生み出す秘訣などを伺いました。

ミニチュア写真をSNSに毎日アップ。着実にフォロワーが増加!

「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」日本橋髙島屋(2018年9月12日-23日)

「ミニチュア写真家」「見立て作家」として大活躍の田中さんですが、現在の仕事に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

もともとは広告業界でデザイナーとして働いていました。カメラマンに撮影の指示をする立場だったこともあり、写真にはもともと興味がありました。
ちょうどそんな時、2010年にInstagramのサービスが開始され、写真の勉強がてら投稿を始めました。投稿していると、やっぱり「いいね!」が欲しくなるんですよね(笑)。もっと「いいね!」がもらえる被写体を探すうちに、ブロッコリーを木に見立て、キリンのミニチュアと一緒に撮った写真を投稿したら、すごくたくさんの「いいね!」がもらえたんですよ。それから見立てを意識して写真を投稿するようになりました。

投稿した「見立て」の作品の中でコレがきっかけで、たくさんの人に知られるようになったキッカケは?

それが、「コレ!」というのはないんですよ。ミニチュア写真を投稿し始めたころ、3ヶ月後に自分の結婚式が控えていたので、それまでは毎日続けようと決めて投稿していました。毎日続けているうちに、徐々に多くの人がフォローしてくれて、写真に反応してくれるようになっていったので、結局3ヶ月後も止めずに、そのまま続けて今に至っています。「コレ!」という写真があったわけではなく、徐々に知られるようになったのは良いことだと思っているんですよね。

一行で表現できるアイデアをスマホにメモ。SNSはパッと見てわかるシンプルさが大切!

投稿していた写真が、仕事になり始めたのは?

毎日投稿し始めて2年以上経った頃、撮りためた写真を写真集にしたいと思い、クラウドファンディングで資金を募りました。このクラウドファンディングをきっかけに出版社から声がかかり、写真集を広く一般に流通させることができるようになりました。
それと同じようなタイミングで、ミニチュア撮影の仕事がポツポツと来るようになりました。それで得た報酬をミニチュアなどの写真素材にミニチュアなどの写真素材につぎ込み、どんどんミニチュア写真を撮る環境が充実してきましたね。それから徐々に仕事も増え続け、2015年9月に会社を辞めて、ミニチュア写真家として活動するようになりました。夫婦共働きだったので、子育てと仕事を両立させるためにも、独立したのは正解だったと思います。
それまで勤めていた会社は、ミニチュア写真家としての活動をずっと応援してくれていたので、とてもありがたかったです。今でもたまに、当時の同僚と飲みに行くことがあります。

「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」日本橋髙島屋(2018年9月12日-23日)

田中さんの写真は、どれもクスッと笑ってしまったり、こんな視点があったのか!と驚かされたりしますが、写真のアイデアはどのように考えているのでしょうか?

SNSでは、パッと見てわかりやすいシンプルなアイデアが必要だと感じています。また、見立てを成立させるために、老若男女、国籍問わず誰にでもわかるモチーフを使うことを心がけています。スーパーやホームセンターなど、日常の生活圏内で、モチーフを探すことが多いです。そこで見立てのアイデアが浮かぶことも多いですね。ハサミといえばこのカタチ、クリップといえばこのカタチ、と、誰が見てもわかりやすいこと、誰もが見ても典型的な形のモチーフを探すことが重要です。
アイデアが浮かんだら、その場でスマホにメモをします。「ブロッコリーで森」「クロワッサンで雲」など、そのくらいの簡単なメモです。つまり、それくらいシンプルに書けないと、写真にしてSNSにアップしたときに伝わらないということなんです。

毎日アップされている写真は、確かに一言で伝わるようなシンプルさがありますね。逆に最近は、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックや、日本橋高島屋S.CのオープンのPRムービーなど、スケールの大きな仕事も増えています。

大きなテーマで作るときは、少し複雑な文脈も考えますが、基本的には典型的な日用品や食べ物を使って、シンプルに伝えることは同じです。毎日アップしている写真が、大きな仕事をするときのアイデアのストックにもなっていますね。
毎日アップしている写真は、自分ひとりで完結していますが、広告やメディアなどから依頼される仕事は、自分ひとりではなく、他分野のプロフェッショナルな方たちと一緒に仕事ができるので、とても刺激になります。毎回、想像以上の完成度で仕上がるので、そのたびに感動しますし、次の新しいアイデアの源にもなります。

今は発信する場がたくさんある時代。
好きなことをひたすら発信し続けるべし!

今後はどのような方向の作品を作っていきたいと考えていますか?

大きな仕事をさせていただいて、他分野のクオリティを改めて感じることができたので、今後もいろいろな方たちと一緒に、新たな技術や表現を取り入れた試みをしていきたいですね。
今回の展覧会では、来場者がミニチュアの世界に入り込んで写真を取れるフォトブースがいくつかあります。もっと造形のレベルや規模を大きくして、驚きや発見のある写真が撮れる仕組みを作りたいですね。
また、プロジェクションマッピングと組み合わせても、面白い表現ができそうだと考えています。いろいろと可能性を探っていきたいですね。もちろん、毎日のミニチュア写真のアップも続けていきますよ!

では最後に、若手のクリエイターへ向けてアドバイスをお願いします!

自分自身が好きなことを発信し続けていたら仕事になったので、好きなことはアピールし続けることをオススメしたいですね。
ひたすら好きなことを発信していたら、「これだけ好きならこの人に頼むしかない」という流れになるはず。発信しないとチャンスもやってきません。今はSNSなど発信する場がたくさんある時代です。「実は好きでした」ではなく、好きなことはとことんアピールして仕事につなげましょう!

取材日:2018年9月21日 ライター:植松 織江

田中 達也(たなかたつや)/ミニチュア写真家・見立て作家

ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立て、独自の視点で切り取った写真「MINIATURE CALENDAR」がインターネット上で人気を呼び、雑誌やテレビなどのメディアでも広く話題に。広告ビジュアル、映像、装画など手がけた作品は多数。’17年NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。写真集「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」、「Small Wonders」発売中。

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