現時点でのベストと 思えるものをぶつけるのは チャンスをもらった最低限の礼儀
- Vol.89
- NAKED INC. CEO/Director 村松亮太郎(Ryotaro Muramatsu)氏
2次元のモニターを飛び出した プロジェクションマッピング
東京駅のプロジェクションマッピングは、大きな話題になりましたね。話題になりすぎて残念なことになってしまいましたが...
東京駅前の小さなスペースに10万人もの人が集まりましたからね。クリスマスから年末にかけてという時期、そして東京駅という舞台が魅力的だったこともありますが、改めてプロジェクションマッピングの注目度の高さを感じました。わずか2日間しか開催されなかったのは、制作者として非常に残念でしたが。
村松さんにとって、プロジェクションマッピングの魅力とは何ですか?
強く意欲をかき立てられる、積極的に関わっていきたい表現です!プロジェクションマッピングは、初めて2次元であるモニターという概念を飛び出した映像表現ですからね。これは大きな革命だと思います。3Dなども話題になりましたが、あくまでモニターを見ながらの疑似3Dと、プロジェクションマッピングは違う。いまは建物にマッピングしていますが、それはひとつの方法であって、これからもっといろいろな空間がマッピング対象となると思います。これまでのモニターでの2次元に比べると、見る人の「体感」は、まったく違う次元にあると思いますよ。
条件が厳しかった東京駅 地下室に模型を作って投影テスト
プロジェクションマッピングの幻想的な光のショーを「体感」する舞台としては、年末の東京駅とはこれ以上ないほどの舞台ですよね。
モニターに映されて何度も繰り返し見ることができる映像と違って、その建物のその時間でしか見ることができない、という刹那感も人を集める力になっているんでしょうね。そう考えると、年末の東京駅とはすばらしい舞台なのですが、プロジェクションマッピングの場としては条件が非常に厳しかったんですよ。まず、赤レンガの建物ですから、色がうまく乗らない。さらに、プロジェクションマッピングは暗いところで実施されるものですが、東京は夜でも明るい。今回の作品はバックストーリーにこだわって世界観を細かく作り込んだのですが、目の前をライトをつけたタクシーが行き交うのですぐに現実に戻される(笑)
確かに厳しい条件ですね。リハーサルを繰り返して微調整していく、というプロセスも東京駅が舞台では難しそうです。
その調整のために、弊社の地下室に東京駅の模型を作ったんですよ。そこで投影テストを繰り返しました。今回は2日間だけのお披露目になってしまいましたが、模型もあるので、いつかどこかで皆さんに見ていただく機会を作りたいなと考えています。現時点ではベストのものができたと思っていますが、プロジェクションマッピングに関してはまだまだやりたいことがたくさんありますので、これからもモニターでは作れなかった世界観を作る仕事を手がけていきたいですね。
スペシャリストよりはジェネラリスト 現代サッカーと同じ!?
プロジェクションマッピングを制作してみたい、という若いクリエイターは多いと思います。どんなキャリアがあれば有利でしょうか?
技術的にはCGの経験が多少あれば、特に問題なく作れると思います。ただ、2次元のモニターに投影する映像を作ることに慣れている人がうまく作れるか、というとそうではない。2次元の概念を取り払わなくてはならないので、かえって難しいかもしれませんね。映像の知識や経験だけではなく、照明や空間の感性も必要なので舞台演出の経験がある人が有利かもしれない。ひとつの技術を極めたスペシャリストというよりは、ジェネラリストでいろいろとやってきて、技術を感覚として捉えられることが重要ですね。現代サッカーと同じですよ!
現代サッカー?
いまのサッカーは、FWだからシュートをする人、DFだから守備をする人、というスペシャリスト的な考え方ではだめで、常に全体を把握して最善のプレイを選択できる選手が必要とされていますよね。それと同じです!
言い訳のできない100%の仕事で チャンスをモノにする
わかりました(笑)まさに村松さんご自身が、CMやCGをクリエイティブディレクターとして制作したり、映画やミュージックビデオの監督をしたり、枠にとらわれない様々なジャンルの作品を手がけていますよね。
ジャンルを問わずいろいろやってきたことが生きたことは間違いありません。イベント演出もやってきましたから。
若いクリエイターにとっては、村松さんのキャリアは眩しいくらいです。
もちろん、最初から順調だったわけではありません。1997年にネイキッドを作ったのですが、友達の年賀状を作って食べていた時期もありましたから(笑)仕事のチャンスを探して電話をかけまくったり、ちょっとしたつながりからデモ作品を持ち込ませてもらったり。当時はまだモーショングラフィックスが珍しい頃だったので、デモを面白いと思ってくれる人がいて、テレビドラマのタイトルバック映像を作るチャンスをもらって、そこから少しずつ広がっていきました。何のキャリアもない、どんな奴かもわからない若造にチャンスをくれたことは、今でも感謝しています。
チャンスをモノにできた理由は?
もしチャンスを与えた若造が期待はずれの作品しか作れなかったら、その責任はチャンスをくれた人が取るしかない。そんなリスクを背負ってくれたことに感謝して、常に100%の仕事をする気持ちでいます。他の制作会社と競合になることもありますが、プレゼンでは100%勝てる自信のある作品を持っていく。言い訳のある仕事はしないことですね。これが現時点のベストだと自負できるものを常にぶつけるのは、チャンスをもらった最低限の礼儀だと思います。
王子様はどこにもいない 立ちはだかる壁はいつか乗り越える!
いまの若いクリエイターについてはどう思いますか?
恵まれていますよね!以前に比べるとハードの性能が良くなったし、アプリケーションの操作性も優れているし、情報もあふれているので、やりたいことがすぐにできる環境だと思います。映画を撮ってみたい、と思ったら撮ればいいし、プロジェクションマッピングを作ってみたい、と思ったら作ればいい。お金をかけなくても作れるし、コンペティションなど発表の場もありますから。うらやましいですよ。
そんな恵まれている環境でも、映像業界は若い人の離職率が高いですよね...
辞めるのが正解かもしれないし、辞めないのが正解かもしれないし、どの道にも正解はあると思うので、辞めたければ辞めればいい、と思います。ですが、王子様はどこに行ってもいませんよ。いつかきっと、同じような壁が立ちはだかる時が来る。いつかは乗り越えなくてはいけないんです。
「コアクリエイティブ」「トータルクリエーション」 に賛同できる映像業界志望者求む!
村松さんは、ネイキッドの代表取締役として、クリエイターを育てる立場にもありますね。
人材育成こそ、まさにクリエイティブな仕事です。腰掛けではなく、最後までネイキッドで添い遂げる意識のある人を採用したいですね。もちろん、結果としてネイキッドから羽ばたくことはあると思うのですが、ネイキッドが掲げる「コアクリエイティブ」「トータルクリエーション」のマインドに賛同して、ネイキッドの「根」になってくれる人を求めています。
例えば、どんな人と一緒に仕事をしたいですか?若いクリエイターには何を求めますか?
「コアクリエイティブ」のマインドに通じるのですが、自分のコアな部分はしっかりとして、ブレない人と仕事をしたいですね。コアはしっかり持ちながら、柔軟な考え方ができる人。実は「ポリシー」という言葉が好きではないんですよ。自分の仕事はココまで、と決めつけず、新しい仕事にチャレンジして新たな発見をすることが面白い。ネイキッドでは、「カンテラ」というインターンシップカリキュラムを組んでいますので、本気で映像業界を志している方はぜひ応募してください。これからも映画やプロジェクションマッピングに限らず、新たな世界観を作る仕事をしていきますので、一緒に取り組める人材として育てていきますよ!
取材日/2013年1月9日 取材・文/植松
Profile of 村松亮太郎(Ryotaro Muramatsu)
NAKED INC. CEO/Director
1997年、役者業の傍ら、自身以外に、映像ディレクター、デザイナー、CGディレクターなどを集め、ネイキッドを設立。TV、広告、MVなどジャンルを問わず、アートディレクションを中心に活動を続け、イベントや広告の分野ではディレクターとしてだけでなく、クリエイティブディレクター、プロデューサーとしても活動を続ける。代表作に、TVドラマ『火曜サスペンス劇場』、『バーチャルガール』などのタイトルバック、聖飢魔II『ジブンナリ』MV&ショートフィルム、『ONKYO』CM、J-Phoneイベントなど。2002年より、オリジナル作品の執筆、ショートフィルムの制作を開始。その後、2006年に劇場公開された長編映画『LOVEHOTELS』を皮切りに、2010年まで立て続けに4作品を劇場公開した。自身の脚本、監督作品がワールドフェストヒューストングランプリ受賞など、国際映画祭で48ノミネート受賞している。現在、ハリウッドの映画製作会社との共同製作を行う長編映画『Paradiso』の製作準備中。
Naked inc. http://www.naked.co.jp/ 村松亮太郎 - 公式サイト http://www.ryotaro-muramatsu.com/