笑うか泣くかは 観客にお任せするつもりです
- Vol.65
- 映画監督・映像作家 緒方篤(Atsushi Ogata)氏
『脇役物語~Cast Me If You Can』 10月23日(土)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次ロードショー 公式ホームページ:http://www.wakiyakuthemovie.com/
移植のロマンチックコメディ『脇役物語』、いよいよ公開!
忙しいですか。
忙しいですね。
劇場公開作を一本完成させることによって生まれる忙しさが、身にしみているのでは?
そうですね。睡眠時間が足りていません(笑)。
大変でしょうが、このインタビューも含めて(笑)、がんばってください。では作品のお話しをうかがいます。不思議な空気感が魅力の映画ですね。
普段脚光を浴びない人、観客の皆さんが映画の主人公としてあまり見かけない人を登場させ、スポットを当てようと考えました。
それでもって、ロマンチックコメディ。資料によると緒方さんは映画づくりの上で、ジャンルにとてもこだわっているようですが。
つくるものがジャンル映画かどうかを決め、次にどんなジャンルとするかを決めてからプロジェクトを進めるのは欧米の映画づくりでは基本中の基本ですからね。今回はジャンル映画をめざし、しかもヒーローものでもなく、スリラーでもなく、ロマンチックコメディつくると決める。そうすると、脚本の構造に関して必須のことが明確になりますから。 ジャンルが明確になっていれば、国際市場にも売りやすいという点も重要と思います。
これも資料によれば、次回作はすでに犯罪コメディと決まっているそうですね。
はい。結局僕の場合、何を書いてもコメディになってしまうという裏事情もあるのですが(笑)、次は犯罪コメディです。
ヒロイン役の永作博美さんは推薦を受けて、 彼女の演出作をレンタルショップで借りて観て、決めました。
キャスティングは?
徹底的にこだわりました。益岡徹さんにはぜひやっていいただきたいと思っていましたし、松坂慶子さんのキャスティングも僕の希望を通してもらいました。佐藤蛾次郎さんは、『男はつらいよ』で大ファンだったので、事務所に足を運んで直接交渉しました。ただ、僕は日本の俳優事情に疎いのがネックで(笑)、ヒロイン役の永作博美さんは、今回の共同脚本・キャスティング・ディレクターの白鳥あかねさんの推薦を受けて、彼女の出演作をレンタルショップで借りて観て、決めました。
監督自身も、出演していますね。
そういえば出ました。言われないと思い出さないくらい、忘れている(笑)。私に限らず、スタッフには端役でかなり出てもらっています。
<Cast Me If You Can>というサブタイトル、いかしてますねえ。
これだけは、すごく時間がかかった(笑)。「脇役物語」の英訳が、なかなか決まらなくて。もちろんスピルバーグのあの作品の題名をもじっているわけですが、映画祭とか海外の映画ファンには想像以上に受けています(笑)。
映画の脚本は、 構造がどうなっていて、どんなキャラクターが登場するかが 明確になっていることが重要。
『脇役物語』は、緒方さんが英語で脚本を書き始めたところからスタートしているとか。
幸いにして海外生活が長いせいで英語には苦労しませんし、オランダで活動している時期は脚本はすべて英語でした。演出、脚本、演技も英語で習いましたしね。 『脇役物語』も10何稿くらいまでは英語でつくりました。途中で英国人の脚本コンサルタントにチェックしてもらえたのも、英語のおかげですね。白鳥あかねさんに共同脚本をお願いして以降日本語への翻訳が進み、最終的には日本語で完成稿を仕上げました。 ちなみに、ベースが英語だったおかげで、海外公開用の字幕づくりにはまったく苦労がなかったです。音楽やオープニングアニメーションが完成するはるか前に、字幕が完成していました(笑)
脚本をつくるにあたって、英語と日本語の両言語をあやつる部分は負担になりませんでしたか?
映画の脚本というものは、小説とは違います。極論すると、構造がどうなっていて、どんなキャラクターが登場するかが明確にさえなっていれば言葉のニュアンスは問題にならない。言語には、それほど依存しないと言えます。日本人が海外の映画を観て意味を理解したり、笑ったりできるのはそのためです。
なるほど。
もちろん、最終的なセリフとしての言語はとても大事ですよ。でも、構造部分は英語で指定されていようが、日本語で指定されていようが、映画の質に影響はないのです。
笑うか泣くかは、観客にお任せするつもりです。 『脇役物語』も、実際に、 涙を流してくれた方もいらっしゃいます。
緒方さんの作品は、今後も、日本だけでなく世界のマーケットに向けたものになっていく?
そうなると思います。僕は人生の3分の1くらいしか日本に滞在していないので、日本の観客だけを相手にする感覚は当然持ってません。また、映画という芸術ジャンルは国境を超えた普遍的なものであるべきだと思います。
今後も緒方作品は、常に人を笑わせるものになる?
笑うか泣くかは、観客にお任せするつもりです。『脇役物語』も、実際に、涙を流してくれた方もいらっしゃいます。観た方が、何かを感じてくださるなら、それが笑いであっても涙であっても一向にかまわないと思います。
では最後に、読者のクリエイター諸氏にエールをお願いします。
クリエイティブというものは、工場でものをつくるのとは違う点がいくつもあります。中でも僕は、それが自分のつくったものであるとわかるものをつくることが重要だと思っています。ですから自分の特性、強み、嗜好といったことをちゃんと把握しておくことがとても大事です。自分のテイストを理解していれば、自分の作風やつくるべきものの方向性もいつか見えてきます。
取材日:2010年10月6日
Profile of 緒方篤
米国ハーバード大学学士課程卒、富士通(株)入社。休職し、MITマサチューセッツ工科大学修士課程卒。復職後、ドイツのKHMメディア・アート・アカデミーに客員作家として招待され、退職。以後、ドイツ、オランダを中心に映像作家、脚本家、俳優、監督として活動。アメリカや日本でも発表。前作『不老長寿』は、ニューヨークの近代美術館MoMAとリンカーン・センター共催の映画祭ニューディレクターズ・ニューフィルムズ2007年に日本から唯一入選。バンコク、ハリウッド、ボストンの国際映画祭で受賞。 初長編監督映画『脇役物語』も上海、カリフォルニア、ニューヨークなどの映画祭で入選・受賞し、好評。10月23日より全国ロードショー (www.wakiyakuthemovie.com)。
『脇役物語~Cast Me If You Can』 10月23日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次ロードショー