WEB・モバイル2010.06.16

学んだことを 仕事にフィードバックしていく 意欲だけは、旺盛にあります

Vol.61
デザイナー、rudesign主宰 北村穣(Yutaka Kitamura)氏
 
セカイカメラのインタフェースデザインをした方がいらっしゃる――北村穣さんの名前は、そんな形の情報提供で知りました。最先端のAR(拡張現実)関連技術の中でも、わかりやすく親しみやすい日本発のトピックス。 そんな開発に関わったデザイナーの声が聞きたくて、アプローチすると、快くインタビューを受けてくださいました。

セカイカメラを操作する際に目に見える部分は、 ほとんど関わっています。

セカイカメラの開発には、早くから関わっていたのですか?

はい、2008年にアメリカの「TechCrunch50」というイベントに出展するにあたっての資料づくりの早い段階から、参加させていただきました。

担当したのは、インタフェース部分?

と言えばそうですし、セカイカメラを操作する際に目に見える部分のデザインは、ほとんど関わっておりUI/UXについても頓智ドットさんと共にディレクションしています。

北村さんは、学生でもあるそうですね

フリーのデザイナーとして仕事をしながらIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー及び情報科学芸術大学院大学)のDSPコースの学生でもあるという身分です。セカイカメラを頓智ドット(Tonchidot Corporation)の井口尊仁さんと一緒に開発した、IAMASの赤松正行教授のもとで学んでいます。

仕事と学業が、両立するんですね。

幸いにして、両立しています。

簡単に、自己紹介していただけますか。北村さんって、何者?(笑)

1994年に武蔵野美術大学の基礎デザイン学科を卒業しています。グラフィックデザインもプロダクトデザインも含めたデザインの根っこを学ぶ学科なので、バウハウス学科という通称もあるところです。卒業後、印刷を主体にディスプレイデザインなども手がけるデザイン会社に入社し、1997年にフリーになりました。現在は、Rudesignとして東京に仕事場を持ち、岐阜のキャンパスとの間を行ったり来たりする仕事と学業の毎日です。

手がけたことのない新しい分野に挑戦するのが好きです。 新規開拓の楽しさをとても大事にしています。

フリーになって以降の、主な活動のフィールドは?

Webが中心になりましたね。ちょうど時代が移行期で、最初DTPでかかわりはじめたコンピュータがネットにつながり、Webデザインにつながっていった感じです。そこからさらに、VJ(GO motion名義)やDVD制作などを通して映像を手がける仕事なども増えていきました。

時代性を帯びた歩みですね。

時代とともにということもありますが、好きだったというのも大きいですね。好きなことを追いかけて、チャレンジしていたらそうなったという感じです。

独立するにあたって、さらには独立後、ご苦労はなかったですか?

フリーになるにあたって、時代には恵まれたと感じます。DTPが定着する前の時代であれば、個人で仕事を始めるには相当の設備投資が必要だったはず。時代的には少しだけ早かったかもしれませんが僕の場合はMacと主だったアプリケーションがあればなんとかなりましたから。コンピューターは好きですし、技術を学ぶのも嫌いじゃない。学ぶのに少々お金が必要でも、苦にならない。そういう性分が、うまくマッチしたようにも思います。 仕事がひとつひとつつながって、特別な営業をしなくてもやってこれた部分は幸運だと思います。

グラフィックデザインから映像制作に進出するというケースは、ないことはないですが、そんなに簡単なことではないように思います。

映像に関しては、僕の手がけているのはグラフィックから派生する映像作品であるモーショングラフィックです。撮影や本編編集などは、プロにお任せしています。 ですからそういう仕事をする場合は、自分がどこまでできて、どこまでできないかをちゃんと見きわめることが必要ですね。その上でどこをどんな方に助けていただくかを構想することが大事になります。 ひとつだけ言えるのは、手がけたことのない新しい分野に挑戦するのが好きで、新規開拓の楽しさをとても大事にしています。

コンピュータは、実は、誕生以来40年近く、 インターフェースはまったく変っていません。

IAMASでは、どんなことを学んでいるのですか?

フィジカルコンピューティングです。日本語には、「デジタル世界との人間の関係を理解するための創造的なフレームワーク」と訳されることもありますね。 コンピュータは、実は、誕生以来40年近く、インタフェースはまったく変わっていません。iPhoneやWiiが指し示すように、コンピュータは今後ももっと人間の身体に近い形で発展していくはずだという考えのもとに、さまざまな研究をする分野です。現在はインタラクティブ・ウェアという洋服の中にセンサーやコンピューターを組み込むプロジェクトもやっています。

コンピュータの未来学のようなものですかね。いきなり、アカデミックな方向に行きましたね。

発端はiPhoneなんですよ。写植の時代からDTP、WEBと、時代と共に移り変わってきたわけですが、自身の仕事の内容もモバイルメディアに移行していた時期でもあり、iPhoneの登場にとてもインパクトを受けました。モバイルコンピューティングの未来に、かなりの確信を持ち、それで、その分野を学び直してみたいと考え学校を探したところ、早い段階からiPhoneを教育に取り入れている赤松正行教授と、フィジカルコンピューティングの考えの元、GainerやFunnelを開発されている小林茂准教授がいらっしゃるDSPコースに行き当たり、IAMASを選びました。

■赤松正行ホームページ http://www.iamas.ac.jp/~aka/ ■Gainer http://gainer.cc/ ■Funnel http://funnel.cc/

今後は、仕事の分野もそちらにシフトしていく?

それは、わかりません。学んでいることと仕事がどう結びつくかは努力次第ですし、出会いもありますからね。ただ、学んだことを仕事にフィードバックしていく意欲だけは、旺盛にあります。 とても小さな仕事ですが、ある日ふとアイデアが浮かんでiPhoneのスタンドをレーザーカッターを使ってデザインしてみました。縦にも横にも好きな角度にiPhoneを保持しておけるので、けっこう評判がいいんですよ。こういうプロダクトも、デザインして生産して、販売するという流れだけではなく、たとえばオンライン上に展開図を100円程度で公開して、自由にダウンロードしてカスタムや自作してもらう、デザインもデータで流通させることも可能なはずだと、そんなことを考えるのも、とても楽しいですね。

このようなパーソナルファブリケーションをキーワードとしたものづくりの考え方は、小林茂准教授の著書、Prototyping Lab――「作りながら考える」ためのArduino実践レシピの中や、週間ダイヤモンド2010年 5/22号第二特集「ものづくりの新時代を切り拓く当世・電子工作ブーム考現学」でも紹介して頂いています。 ■Prototyping Lab――「作りながら考える」ためのArduino実践レシピ オライリー・ジャパン http://www.oreilly.co.jp/books/9784873114538/ ■週刊 ダイヤモンド 2010年 5/22号 第二特集「ものづくりの新時代を切り拓く当世・電子工作ブーム考現学」 http://dw.diamond.ne.jp/contents/2010/0522/index.html また試作したプロトタイプなどは下記のサイトで公開しています。 ■form. http://www.rudesign.jp/form/ こうしたレーザーカッターや3Dプリンタ、CNCなどの機器を使用した個人からはじまるものづくりの流れは今後おもしろくなってくると思います。

何をどうつくるのか、それをつくって何を伝えたいのかの部分に こそデザインの真髄があるのではないでしょうか。

で、北村さんの肩書きは、デザイナーで、いいんですか?(笑)

あえて聞かれれば、そうなりますね(笑)。きっちりと決めているわけではありませんが、そろそろ、決めた方がいいのかなとも思い始めています。 ただ、肩書きを名乗らないと、フランクなコミュニケーションが取りやすいんです。新しいプロジェクトに参加した時などは、特にそう感じますね。肩書きを名乗り、先入観をもたれるとなんとなく肩書きの枠みたいなものができあがるじゃないですか。

1990年代から2000年代にかけて、デザインの状況は大きく変わりました。北村さんは、そういった変化をどうとらえていますか?

DTPが普及する過程で、「誰でもできるようになるから、デザインの仕事はなくなるぞ」と言われていたのをよくおぼえています(笑)。確かにコンピュータの進歩で、デザインの敷居は低くなりました。デザインは生活に密着したものだという意味で、僕自身、その流れは肯定しますし、好ましく受け取っています。 でも、その当時からプロの仕事が必要なくなるなんて思いませんでしたし、今もそう信じています。「デザイン=装飾」と考えれば、アプリケーションを使って誰にでも装飾はできるようになりましたが、デザインは装飾だけを指すものではありません。むしろ、その前段階の、何をどうつくるか、それをつくって何を伝えたいかの部分にこそデザインの真髄があるのではないでしょうか。そこまでのプロセスをしっかりと担い、「ものづくり」をやりとげ社会に落とし込むのは大変な作業ですし、プロでなくてはできない仕事です。

では最後に、読者のクリエイターの皆さんにエールをお願いします。

まず、自分の中で考えて考え抜く。本当に納得いくまで考えて、人前に出す。そしてまた、考えて、出す。僕は、その行為を繰り返してここまで来ました。出したら何かしら反応があるでしょう、絶賛されることもあれば、ダメだと言われることもある。むしろ、ダメ出しされる方が明らかに多いと思いますが(笑)、それを乗り越えてやっていくことが一番重要だと思います。その先に、とても充実感が待っていると信じて、自分自身もそうですが、皆さんにもがんばっていただきたいですね。

取材日:2010年2月10日

Profile of 北村穣(きたむらゆたか)

北村穣氏

1969年生まれ。1994年、武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。デザイン会社勤務を経て、1997年に独立。rudesign/GOmotionとして活動する。2008年、IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー及び情報科学芸術大学院大学)入学。

【rudesign】 http://www.rudesign.jp/

 
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