企画や設定を思いついて 実現までの過程を妄想して わくわくするのが好き
- Vol.49
- 映像作家・演出家(Cruiser) 古屋雄作(Yusaku Furuya)氏
『スカイフィッシュの捕まえ方』は、どんな企画書を書いても 絶対に通らない企画だと確信してました(笑)。 だから実際につくるしかなかった。
こういう作風は、昔からやりたかったこと? 聞くところによると、漫才のダウンタウンにかなり影響受けているそうですが。
ダウンタウンさんの影響は大きいですね。それで、小さな頃からお笑いが好きだったし、やりたかった。ただ、演者になりたいと思ったことはなく、ああいうものをつくりたいと思っていた子供でした。
で、結局、『スカイフィッシュの捕まえ方』のようなものをつくるようになっちゃった(笑)。あれを観ていると、お笑いやテレビ番組というより、映画に近いような気もするんですが。
映画を意識したことは、ないですね。ただ、僕も、テレビのお笑いと違う点はあると思います。「つくりこんだもの」「何回でも観られるもの」をつくりたいと思って取り組んだら、ああなったんです。
なるほど、思う存分、つくりこみたいと考えたわけですね。それで、DVDという手法にもいきついたわけですね。
世界観のあるものをつくりこんでリリースするには、DVDがうってつけでしたね。
デビュー作となった『スカイフィッシュの捕まえ方』が、会社の仕事の合間を縫っての、自費での制作だというのがまた凄い。映画界ではいくらでもあるケースですが、テレビ人が自主制作というのは聞いたことがない(笑)。
重要なのは、忙しくなかったので、時間があったということです(笑)。だから、コツコツと自主制作ができた。
とは言え、自腹を切って制作って、リスクあるでしょう。
やりかったことを、やっただけですから。躊躇なく、やっちゃいましたね。友だちと盛り上がっていたし、その友だちの内のひとりが制作費の半分出してくれたし(笑)。所属していた会社の上司や同僚は、ちょっと意味が理解できずに遠目に見守っていたようですが(笑)。 もっと重要なのは、あれは、どんな企画書を書いても絶対に通らない企画だと確信していたこと(笑)。だから、実際につくるしか、「こういう内容です」と示す手立てがなかったんです。僕、プレゼンテーションとか、ものすごく苦手でもあるので。
面白いものがつくりたい」という欲求が最初にあって、 それが実現できるなら場所はどこでもいいんです。
経歴のお話を。上智大学文学部を卒業して、制作会社に入社した。
お笑い番組をつくりたくて、入りました。
大学時代から制作や創作をやっていた?
いや、まったく。
就職して初めて制作にたずさわるって、今の時代、むしろ少数派ですよね。そういう志のある人は、学生時代から何かやっていたりしますから。
ほんとに、何もしてない学生でしたね。でも、お笑いはやりたかったから、会社に入ればなんとかなると思ってた(笑)。ひとつだけ、明らかに当たっていたのは、「たぶん、面白い方がたくさんいらっしゃる業界だろうから、そこにいるだけで面白いし、刺激を受けるだろう」という目論見。 それと、やはりディレクターという職業を選んだので、映像制作のイロハをおぼえることができたのも大きかったと思います。
テレビの世界で勉強して、DVDで作品をリリースして、スピンアウトした。今後の活動は、媒体としてはどんな風に考えている?
今でも、テレビを捨てたつもりはありません。というか、そもそも「テレビ出身」を強調するほどテレビで何か成し遂げたわけでもないですし(笑)。ただ、僕の場合は「面白いものがつくりたい」という欲求が最初にあって、それが実現できるなら場所はどこでもいいんです。
上手な役者さんが上手に演技するのを見ても、 僕は何も感じないんです(笑)。
古屋さんの笑いって、ブラックですよね。
ブラックですね(笑)。
いつ頃から?
思い返すと、中高一貫教育の、しかも男子校に6年間も通って、その頃から。ちょっと、公では言えないようなブラックな笑いを、仲間内で共有していました。
役者選びの「ポンコツ」という価値観も、その辺から?
そうですね。面白いことをやってウケている人より、本人、ウケるつもりはないのに面白い、という方が僕は面白い。その辺を人工的につくるためには、「ポンコツ」な役者さんは欠かせません。 上手な役者さんが上手に演技するのを見ても、僕は何も感じないんです(笑)。 あっ、もちろん僕の監督作の中に「この人、めちゃくちゃ上手い!」という出演者の人もいますよ。フォローするわけじゃないですけど(笑)。ただ、そういう人よりも、「ポンコツをいかに輝かせるか」ということのほうに熱中してしまうタチだ、ということですね。
『人を怒らせる方法』シリーズの碑文谷教授の役者さんも、「ポンコツ」?けっこう演技力あると感じるのですが。
「ポンコツ」です(笑)。だから、「ポンコツ」っていうのは、何もできないという意味じゃないんです。 これ以上詳しい説明は、言葉では無理ですね(笑)。
もうひとつ、僕の好きなことに「どメジャー」というのがあって、 今、ちょっとそっちの方向にも取り組んでいます。
「モンティパイソン」の影響なんて、受けてます?
それ、よく指摘されるんですが、僕、知らないんです(笑)。いずれにしろ、古いものにはあまり興味がなくて、新しい、新鮮な笑いに気持ちが向いてますから。
新しいことを生み出すのって、大変じゃない?
そういう点で苦労した記憶は、ないですね。なんか自信満々に聞こえちゃいそうなので注釈すると、企画や設定を思いついて、実現までの過程を妄想して、わくわくするのが好きだということです。少なくとも、苦労してひねり出す感じではないですね。だから、だいたい企画はたまる一方なんです。
そりゃ凄い。どんな風に企画を立てるんですか?目が覚めたらひらめいている、とか?
ほとんどの場合、雑談の中から出てきますね。友人とバカな話をしている時のことが、多い。 だから、逆に言うと、僕の企画っていうのは、学生がファミレスでするバカ話レベルで(笑)。ポイントは、それを実際にやるかどうか。そこだけなんですよ。
はは(笑)、なるほどねえ。じゃあ、これからも、そういうやり方で、そういう作風のものがバンバン生まれてくるわけですね。方向性として、違うジャンルや傾向は考えていない?
あっ、ありますよ。お笑いとは別に、もうひとつ、僕の好きなことに「どメジャー」というのがあって、今、ちょっとそっちの方向にも取り組んでいます。
へえ。具体的には?
残念ながら、今、進行中の企画なので、あまり詳しくは話せないんです。たとえて言うなら、「少年ジャンプ」の冒険もののマンガのようなお話です。
むう、もっと聞きたいけど仕方ないですね。では、最後に、恒例なので、若手クリエイターたちにエールをお願いします。
あの~、若い人たち見て、甘いなあと思うことは確かにあります。ただ、それを一刀両断にできるほど、こちらにも確信があるわけではないので、エールって難しいですね(笑)。 ひとつだけ言えるのは、何かに取り組んだら、諦めずに最後までやってみるべきだということ。だけど、同時に、向いてないと思ったら視野を広げて他の道を探るのも大切だよとも思う(笑)。ごめんなさい。あんまりバシッとしたこと言えなくて。
取材日:2009年3月4日
Profile of 古屋雄作
1977年愛知県生まれ。上智大学文学部卒。 大手制作プロダクションにて数々のお笑い・バラエティ番組に携わりながら、2004年、仕事の合間を縫って『スカイフィッシュの捕まえ方』の撮影を開始。貯金を全額投入し、自主制作でデビュー作を完成させる。 2005年、退社しフリーに。2006年、『スカイフィッシュの捕まえ方』がビクターエンタテインメントよりDVDとしてリリースされ、以降、オリジナル企画のDVD作品を次々に発表。 大ヒットとなった『スカイフィッシュの捕まえ方』は三部作【国内編】、【サイエンスジャーニー編】、【板尾創路編】に発展。さらに、架空の言語学教授・碑文谷潤を作り上げた『人を怒らせる方法』シリーズ(『温厚な上司の怒らせ方』ほか)は口コミで火がつき、DVD作品からテレビ番組化されるという異例の逆転現象まで起こした。この他にも、世界初・65歳以上の高齢者ばかりを主役にして話題となったフェイクドキュメンタリー『R65』など、独自の視点によるヒット作を連発している。 また、「引きこもりミュージシャン・ノリアキ」のプロデュースを手がけ、全PVを監督。幼なじみであるベストセラー作家・水野敬也扮する『恋愛体育教師・水野愛也』に構成・演出で参加。老人のみによるロックバンド「HEAVEN」をプロデュースするなど、様々なフィールドで活動中。 ■株式会社クルーザーHP: http://www.thecruiser.jp