ポイントはリアルタイム性であり時代性 つまりは「今」でしかできないこと
- Vol.43
- 東映株式会社東京撮影所・所次長(前・仮面ライダーシリーズ:チーフプロデューサー) 白倉伸一郎(Shinichiro Shirakura)氏
いよいよ劇場版映画『さらば仮面ライダー電王ファイナル・カウントダウン』公開!
劇場版映画『さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン』の出来栄えはいかがですか?
完璧です。想像以上のでき。私なりに「これくらいはいってほしい」という思いはあったのですが、それをはるかに上まわる仕上がりでした。 手前味噌で恐縮ですが、「ちょっと凄いものできちゃった」感がありますね。仮面ライダー映画としてもいいできだと思うのですが、それ以上に、娯楽映画として新しいものができたような気がしています。
劇場版の3作目をつくることになるとは、白倉さん自身も思っていなかったのでは?
電王に関しては、番組の立ち上げ当初から、冗談を言っているとそれが実現していく傾向があるんです。私はそれを「冗談から駒」と言っています(笑)。
ここまでファンに支持されれば、3作目だってありですよね。当然、このファンの盛り上がりは当初の狙いを超えたもので、白倉さんとしても驚いていると思うのですが。
超えるとか、上下とかではなく、やや斜めに行っている(笑)。ものが電車だけにちょっとまずいですが、明らかに脱線です(笑)。昨年1月にシリーズが始まったわけですが、当初の企画で考えていたものとはかなり違う方向に進んだことは確かです。
白倉さんは番組づくり、ドラマづくりで“ライブ感“を重視することで知られています。電王も、そのライブ感を追った結果、現在にいたっているのですね。
2002年あたりから言い始めたことですね。要は、ドラマって、生放送に勝てないというのが私の持論。収録し、編集したものをパッケージとして放映し、生のニュースバラエティなどにいかにして勝つか。ずっとそんなことばかり考えています。いつしか、ポイントはリアルタイム性であり、時代性であり、つまりは「今」でしかできないことをやろう、「今」しか見られないものをつくろうという姿勢になっていきました。そのへんが、ファンの間では「行き当たりばったり」として評判になったようです(笑)。
小学校低学年の視聴者の方々は、 物語の面白さだけを見事に理解してくれる。
ファンの反応、盛り上がりというのは、つくり手にとっては大きなモチベーションになるでしょうね。
少なくとも私個人は、あまり考えないようにしています。テレビはどこまで行っても一方通行のメディアですから、反応を見るよりまず、どんなメッセージをどれくらい強く持って、いかにしっかり伝えるかが勝負だと思っています。メッセージと言っても、そんな高尚なものではないですよ(笑)。「こういうのが面白いよね」、みたいなことです。 さらに言えば、私は、ファンとは会話をしてはいけないと考えています。私は、ファンも含めた「お客様」をベースとなる集団と考えます。ファンは声の大きいお客様。ファンの声にばかり耳を傾け、影響されるといろいろな意味で間違いやすい。むしろ重要なのは、お客様の「声にならない声」を拾い上げることだと思うのです。 ありがたいことに電王は、幅広い層から評価されていますが、もっとも大切なお客様は子供たちなのだということは常に忘れないよう心がけています。
非常に基本的なことですが、電王のメインターゲットは?
小学校低学年です。
そのターゲットに、あのストーリーは理解できる?
コアターゲットには、わからないだろうと思っています。難しい話ですから(笑)。ターゲットを、私は2層に考えています。わかる視聴者と、わからない視聴者がいるのだと。そのために、まず、わからない層にでも楽しめる構図づくりを大切にします。それは、ライダーのキャラクターや対戦の面白さですね。その上に、わかる層に向けたストーリーを載せていきます。 さらに種明かしをすれば、脚本はかなり重層的につくりあげていますが、常にドラマのあちこちに「そんなこと、どうでもいいじゃない」と思える“ノリ”や勢いを持たせるように苦心している。「あまり難しいことは考えなくていいですよ」「そこは、楽しむべきところじゃないかもしれませんよ」というメッセージを発信して、実際、気にせずに楽しめるようにしている。実は、舞台裏では、作家も含めてみんなで小難しいこと考えているんですが(笑)、考えていないふりをしつづけているんです。 で、コアターゲットの小学校低学年の視聴者の方々は、話の難しいところを考えずに、物語の面白さを見事に理解してくれているわけです。
大人たちからは、どんな反応が?
昔からの仮面ライダーファンや関係者からは、「電王は、なんでもありだから楽そうだね」と指摘されることが多いですね。私としては、それこそが成功の指標のひとつだと感じます。だってテレビドラマに「なんでもあり」なんて、ありえないじゃないですか!(笑)。水面下では数々の制約のもと、綱渡りで物語りと番組を成立させていても、外部からは「なんでもありで、楽」と見えているのは、いいことだと思うのです。
仮面ライダーファンではなく、東映ファン。 正直に言えば、ウルトラマンファンでした(笑)。
ネットに露出している白倉さんに関する情報によれば、入社の面接試験の際に既存の仮面ライダーシリーズを批判しつつ熱い思いを語ったというエピソードがあるそうですが。
それは、事実ではないですね。面接の際に、「スポンサーをはじめとする外部と制作現場の調整をするような仕事をしたい。現場を守りたい」という話をしたことがそう伝わったようです。
白倉さんは、仮面ライダーファンだった?
子供のころは……実は、ウルトラマンファンでした(笑)。仮面ライダーは、なんか「田舎臭いなあ」と感じてた。私が東映をめざしたのは、仮面ライダーファンだからではなく、東映ファンだったからなんです。
なるほど、東映の映画やテレビドラマに心酔して、自分でもつくりたいと考えた。
いや、「自分もつくる」なんてめっそうもない!とにかく、なにがしかの形でかかわれればうれしい。そして、「つくる現場を守るような仕事ができればいいな」と考えていました。
で、入社してみて――。
守るべき、崇高な現場なんてない!ということがわかりました(笑)。脚本家が勝手に脚本書いてくれるわけでもなく、監督が勝手に演出してくれるわけでもない。「やってください」とお願いしなければ現場はできないのだとわかったので、次には、「現場をつくる仕事がしたい」と考えるようになりました。現場はあるのではなく、つくりあげるものなのだということが入社してわかったことです。
やるならとことんやる。 そういう姿勢の人にチャレンジしてほしい。
とはいえ、せっかく白倉さんとお話できるのですから、仮面ライダー論はうかがいたいです。
仮面ライダーは、確かに「変身ブーム」で社会的な注目を浴びました。一時代を築いたと言ってもいい。ですが、冷静に分析すると、ブームはとても短い期間でしかなく、ブーム以降はむしろ「無難なネーム」として再生産されつづけました。歴史としては、そちらのほうが長いんです。名前だけは有名だが番組は、立ち上げてはなくなり、立ち上げてはなくなりを繰り返し、そのたびに制作者たちは「原点回帰」を旗印に企画を練り、考え、時代に合わせた新・仮面ライダーを送り出そうと試みた。 時代、時代の制作者が「原点回帰」を標榜するほど、仮面ライダーの原点には社会に受け入れらる素晴らしいメッセージがあるということがひとつ。そして、たびたびそれをめざしているにもかわらず、一度も原点回帰しなかったということが、もうひとつ。私が理解しているのは、それくらいのことです(笑)。
制作者として、このエンターテインメントコンテンツの特徴をどうとらえていますか?
たとえば、ウルトラマンとくらべて何がいいかと言うと、仮面ライダーはそこら辺で闘っていること(笑)。子供たちが日常目にしている風景の中に、怪物との格闘があるのが仮面ライダーの特徴でしょう。
おっしゃる通りですね。それこそが、ライダーだ。
で、私が子供のころは、そこら辺に造成中の空地があって、遊び場になっていた。だからライダーの格闘の部隊も造成地で違和感がなかったのですが、今の時代はそうではありません。子供たちの日常は、都市にあります。そこが難しい。
特に、格闘の最後は、怪物が爆発しなきゃならない。
都市で火薬を爆発させるわけにはいきませんからね。そこで、合成が必要になってくる。
白倉さんの手がけられているシリーズは、合成の使い方もとてもいい。そういう感想を持っています。
ありがとうございます。スタッフが、がんばってくれていますから。デジタルに関しては、若いスタッフが順調に育っているのがうれしい。
世代論でいえば、白倉さんはデジタルを受け入れやすい世代だと思うし、映像のデジタル化の先陣を切ってきたと思うのですが。
そうですね。私が制作に取り組むようになって、まず気づいたのがそこです。先ほどの、「現場をつくる」にも通じますが、やろうと思えば、すでに存在しているスタッフを連れてきて「はい現場ができました」と言うこともできる。でも、長い目で見たら、今は存在していないスタッフをつくる、育てることも視野に入っていないとつづかないと感じました。その象徴が、デジタルですね。ちょうどアナログとデジタルの過渡期で、デジタルがどれくらい使えるものなのかはわからないけれど、トライはしてみるべき。失敗もあるけれど、成功すれば制作の技術や段取りが一変します。 そして一方では、道具が新しくなったがゆえに、知恵や経験を持ったベテランスタッフがお払い箱になるかもしれない問題も出てくる。そのジレンマをどう収めていくか--それこそがプロデューサーの仕事なのだと思っています。
取材日:2008年9月16日
Profile of 白倉伸一郎
1965年生まれ。東京都出身。東京大学文学部卒。1990年東映入社。1991年よりプロデューサーとして活動し、2008年、東映東京撮影所所次長に就任
- 1991年 『鳥人戦隊ジェットマン』中途より、プロデューサー補として番組に参加。
- 1992年 『恐竜戦隊ジュウレンジャー』中途にて、プロデューサーに昇格
- 1993年 『五星戦隊ダイレンジャー』は年間通じて鈴木武幸とともに作品をプロデュース
- 1996年 『超光戦士シャンゼリオン』でチーフプロデューサーに昇格
- 2000年 『仮面ライダークウガ』でプロデューサー補を担当
- 2001年 『仮面ライダーアギト』で、チーフプロデューサーを担当。以後2003年の『仮面ライダー555』まで仮面ライダー作品のチーフプロデューサーを担当。
- 2005年 『仮面ライダー響鬼』で前プロデューサー高寺成紀の降板を受け、途中からチーフプロデューサーを引き継ぐ。以後2007年の『仮面ライダー電王』まで2年半の間仮面ライダーを手がけた。