WEB・モバイル2008.04.12

背後にあるものの ロジックまで説明できて初めて デザインであると考えています

Vol.38
ウェブデザイナー/アートディレクター/株式会社コンセント取締役 堀田理佳(Rika Hotta)氏
 
大学で工業デザインを学び、大手企業で店舗デザインを任され、次いで宣伝担当として広告クリエイティブに取り組んだ。そんな堀田さんがWebデザインと運命の出会いをしたのは、1997年前後、業界の黎明期のことでした。「ホームページ」が海のものとも山のものとも判明しない時期から、その魅力にとりつかれ、独力でノウハウを編み出し、切りひらいた。ついには会社を辞して、ウェブデザイナーの先駆けとも言える活動を始めた。 バイタリティあふれる生き方にも共感するし、未開の領域にチャレンジする勇気にも憧れる。そして何より、今日のWebの隆盛を見越していたかのような先見性にはまったく脱帽です。 今もなおWebデザインの第一線で大活躍する堀田さんに、業界のこれからや、ちょっとした秘訣なんかも含め、にこやかにお答えいただいたインタビューでした。

Webデザインに出会えたことは、今もラッキーだったと思っています。

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堀田さんは2002年に『ウェブデザイナーになって良かった―独立起業&ウェブサイト制作ドキュメント―』という自叙伝的な本を上梓されていて、私たちはそれを読んで感銘を受けています。

いや~(笑)、確かに、書いた当時のこととして嘘は一切ありませんが、もう、あれからだいぶ経ってますからねえ。

そうですね。6年経つと、業界の様相もかなり違っているでしょうね。でも、同著に記されている、Webとの出会いという幸運への感謝の気持ちはとても胸に響く。

黎明期にWebサイトやWebデザインに出会えたことに関しては、今もラッキーだったと思っています。業界が、まだ混沌としていましたしね。

ほんの10年くらい前ですが、たぶん、今とは比べ物にならない状況だったのでしょうね。

クライアントさんが「Webを作る」ということの意味を理解しきれていないのは当然のこととして、作る方もただがむしゃらで(笑)。私にとっては、そういう中で「どうすればいいのだろう」「本当にこれでいいのだろうか」と考えながら仕事に取り組めたのは幸せでした。

で、今の状況を当時と比べると、ウェブデザイナーにとってどんなところがもっとも変わった?

当時は、ウェブデザイナーという職業も、ワークフローもあまり確立されてませんでした。「コンピュータが扱える」だけでウェブデザイナーを名乗れた時代でしたけど、その代わり、Webに関することは、デザイン以外のことでも何でもやっていましたね。それが、最近ではだんだん分業が進んできたので、そういう意味では、ウェブデザイナーのカバーする領域は狭まってきています。でも、それは仕事としての重要度が低くなってきたという意味ではなく、むしろ、デザインという領域において、より専門性が問われるようになってきたということではないでしょうか。つまり、「広く浅く」から「狭く深く」。デザインの専門家としてプロジェクトに関わることを期待されているわけですから、しっかりとグラフィックデザインを学んで、チームの一員として期待される役割に応えるだけの能力を身につけることが必要になってきていると思います。

現代のWeb制作において、大切なことは?

良い人材を集め、チームワークを大切にする。それが良いWeb制作の第一歩です。この世界は今、日々新しい技術が確立し、新しい課題が生まれています。制作者としてそれらを常にキャッチアップする姿勢は必要ですが、すべてをひとりでカバーすることはできません。必要なことを見きわめ、専門家とチームを組む。適材を適所に配置したチームを作ることから、すべてが始まる。それが現代のWeb制作と言っていいでしょう。

ウェブデザイナーは、デザインの専門家としての高い能力が求められるようになっています。

株式会社コンセントのアートディレクターとしては、チームスタッフであるウェブデザイナーたちをどう牽引しているのですか?徒弟制度なのですかね。

日々指導している中で「堀田色」みたいなものは出ているのかもしれませんが、徒弟制度に該当するようなやり方はしていません。大切なのはやはり、クライアントさんが何を求めるかですからね。その点についてはむしろ、デザイナーがエゴを振りかざすことがないよう気をつけているし、教育しています。

堀田さんから部下、後輩への指導は、たとえば?

堀田さんが手掛けるカネボウ化粧品のサイト。上からLUNASOL、impress、Pouch Mania!会員ページ

堀田さんが手掛けるカネボウ化粧品のサイト。上からLUNASOL、impress、Pouch Mania!会員ページ

デザインには理由があるべき――ですね。プレゼンテーションするデザインには、必ずちゃんとした説明がなくてはいけません。「なんとなく、こうしました」なんていうデザインは、いかにきれいに仕上がっていても論外。何をどう解釈してそうなったかの説明ができないデザインは、ひとたび修正が入ったら、とたんに迷走します。「なんとなく、赤です」なんて出したら、「じゃあ、なんとなく気に入らないので、他の色に」となるものなのです。デザイナーの仕事は、クライアントが求める世界観を具現化する仕事です。プロジェクトゴールに見合った形に落ちていなければならない。ですから、どういうコンセプトがあって、それをどう解釈したから、結果としてそのデザイン、その色になったのかなど、背後にあるもののロジックまで説明できて初めてデザインであると考えています。 常々、「ロジックを意識しなければならない」とスタッフに言っているのは、そういう理由からです。

最近はWebについて教える教育機関も増えているようですが、若いウェブデザイナーたちも、昔に比べてスクリプトやプログラムに詳しい人材が増えているのでしょうか。

確かに、スクリプトに強い人、プログラムに詳しい人材は増えているかもしれません。でも、彼らがウェブデザイナーかといえば、必ずしもそうではないと思っています。かつては、プランニングに強い、情報設計に強い、プログラミングに強い、そんな人たちもいっしょくたにウェブデザイナーとしてくくられてきました。でも、今は職種が細分化されていて、各分野で強みを持った人が大勢います。複数の領域を器用にこなせるにこしたことはありませんが、むしろウェブデザイナーには、デザインの専門家としてデザインの基礎をしっかり学んできて欲しいと思います。

堀田さんの場合には、工業デザインや広告デザインのバックグラウンドがあるようですね。

はい。大学で工業デザインを学び、パルコで店舗デザインの仕事をしていました。その後、広告宣伝へ異動になり最先端のクリエイティブに触れる機会を得ました。ちょうどその頃、独学でWebを作り始めたのですが、テレビCMや広告クリエイティブのクオリティと比べ、当時世の中で目にするWebサイトの完成度はあまりにひどかった。テレビCMや優れた広告を展開している大企業でさえも、Webまで含めてブランディングであるという意識は低かったのではないでしょうか。Web制作ができる人も、Webで積極的に情報を得ようとする人もそれほど多くありませんでしたし。それが今では、Webは一般の人たちの生活にすっかり組み込まれ、すでにインフラ的な役割も果たしてきています。企業もWebに関わるデザイナーも、サイトを維持する責任は大きくなっているでしょうね。

では、Webに足を突っ込んでみて後悔はない?

えぇ。パルコで内装をやっている頃なんかは、建築士を目指したこともありますが、Webの世界に踏み込んだことを後悔していませんし、むしろ良かったと思っています。 Webでできることはどんどん増えていて、それこそWebを作ると言ったときには、建築でいえば平屋なのか超高層ビルなのか、それぐらい概念が広くなっています。ですから構造を考える上では建築的な概念が必要とも言えます。 それに、建築士とウェブデザイナーって、全然違うように見えるかもしれませんが、建物にしろWebにしろ、「どうやったら人が来てくれるだろう」「そこで何を提供したら、人は何をしてくれるだろう」ということを考える。そういう意味では、自分の中では矛盾なくつながっているんですよね。

三食ちゃんと食べて、朝ちゃんと起きてが基本だと思います。仕事のために体調を整えるのは、社会人として基本ですからね。

Web制作という、体力的にかなり厳しい世界で体調を保つ秘訣は?

Webだけが特別厳しい世界とは思っていません。たとえば広告制作の世界でも、編集の世界でも、みんな必要なら徹夜して仕事をしていますし、夜型の人が多い業界ですよね。

それは、そうですね。でも、厳しいのは事実ですよね。

そうですね。厳しいと言えば、厳しいです。でも私、体力には自信があるんです(笑)。ただ、基礎体力には持って生まれたものの違いはあっても、仕事のために体調を整えるのは、社会人として基本ですからね。

心がけていることは?

「食べる」(笑)。三食ちゃんと食べて、朝ちゃんと起きてが基本だと思います。食事のリズムが崩れると睡眠のリズムが崩れて、朝起きられなくて、仕事に取りかかるのが遅くなって--と悪循環が始まります。まずは正しいサイクルを維持する。それだけですごく健康になれると思うのです。

オフィスのキッチンにてクッキング&チームでランチ

オフィスのキッチンにてクッキング&チームでランチ

趣味は?

語学・・・かな。最近、スペイン語にはまっています。その影響で、スペイン料理にも興味が深まっている。語学に関しては、先日のスペイン旅行で現地の人と英語しかできない人の通訳をしてあげて、かなり満足しています(笑)。人とコミュニケーションすることが大好きだし、興味があるんです。

制作者として、日常の中で気をつけていることは?

日々の生活の中で同じことばかりしていると、同じ考えに固まってしまう。だから、機会をとらえて日常ではできない体験を積もうとは、心がけています。単に新しいもの好きなのも、また事実ですが(笑)。

実践を心がけているのは「想像力を働かせること」 「後ろを振り返らないこと」「チャンスを無駄にしないこと」

Web業界、Webデザイン界は今後、どんな風に発展してくと思いますか?どんな風に発展することを期待しますか?

どんどん可能性が広がっていて、やれることが増えていて、いろんなことができるとみんな気づき始めている。期待するのは当然、その可能性を最大限に生かした方向に発展することです。そのような中で憂慮する点があるとすれば、たとえば、コーポレートサイトと言ったとき、クライアントさんも制作側も「それは、こういうことですね」と、短絡した枠組みにあてはめる風潮が見受けられること。作る側が可能性を掘り起こせず、枠組みに納まるものしか作っていないとしたら、それはすごくもったいないこと。クライアントさんが気づかないのは仕方ないとしても、少なくとも作る側は、プロとして柔軟な発想を心がけ、枠組みにとらわれない提案、これまで見たこともないサイトを生み出す気概を持っていたいと思います。

では最後に、若手クリエイターたちへのエールをお願いします。

クリエイティブな仕事で大事と思うことで、私が実践を心がけているのは「想像力を働かせること」「後ろを振り返らないこと」「チャンスを無駄にしないこと」です。この言葉が、読者のみなさんの参考になるなら、とても嬉しいと思います。みなさん、がんばってください。

取材日:2008年4月12日

Profile of 堀田理佳

堀田理佳氏

1969年静岡県生まれ。 1992年東北工業大学工学部工業意匠科(空間デザイン)卒業後、株式会社パルコ入社。同社環境デザイン部、宣伝部を経て、1997年ラナデザインアソシエイツを設立。代表取締副社長を務める。 2004年同社を退社し有限会社アールワークス設立、代表取締役社長を務める。2005年株式会社コンセント取締役に就任。著書「ウェブデザイナーになって良かった(MdN)」。

 
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