映画監督としての 体験からメッセージするなら 面白がるところはブラさないでほしい

Vol.35
映画監督 中村義洋(Yoshihiro Nakamura)氏

今、絶賛公開中、『チーム・バチスタの栄光』のメガホンをとった中村義洋監督。前作『アヒルと鴨のコインロッカー』がなかなかの快作で、あちこちで「あれ観た?」と囁かれてました。「へーっ、こんな映画を撮る監督もいるんだあ」なんて思っていたら、見事に、最新作は東宝系全国公開の大作でした。新進気鋭の監督が満を持して手がけたベストセラー小説の映画の仕上がりやいかに?真正面から、“バチスタばなし”を仕掛けてまいりました。

 
©2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会

©2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会

初のメジャー作品。初めてづくしの中で、 完成にこぎつけた感慨は大きい。

『チーム・バチスタの栄光』を完成させた、今のお気持ちは?

そうですね、初めてのメジャー(大手映画会社)作品が完成したなあと。これまでのインディペンデント映画とはスタッフの数から何から、いろんなことが違って、そういう中でいろんな経験をしながらやりとげた感慨があります。

映画会社のプロデューサーさんとのやりとりなんかも、これまでとは違っていたんでしょうね。

そう、面白かったですね。「ああ、そう考えるんだ」「なるほど、そうきたか」と、感心することも多かった。メジャー作品ですからプロデューサーさんの権限が強いんだけれど、言うことを聞くふりして聞かなかったり(笑)してました。 撮影日程の後半になると、脚本の修正案を当日の朝渡すなんていう巧妙な立ち回りもできるようになった。絶対読んでいる暇ないから、プロデューサーさんは、忙しくて(笑)。

原作では男性だった主人公が、この作品では女性になっている。実は、そのアイデアには、中村さんは反対だったとか。

原作を読んで引き受けた仕事ですからね。「ちょっと待ってくれよ」と思ったし、正直「降りちゃおうか」とも思いましたよ(笑)。主演の竹内結子さんに会って、「彼女とならできる」と確信を持つまでは、不安はありました。

でも、結局、見事にオリジナルなキャラクターを作り上げましたね。

消去法って言うのかな。この主人公はエリート外科医集団と闘うことになるんだけど、途中から白鳥という猛烈なキャラクターが出てくる。だから、そんなに強くある必要はないと思えたあたりで、成立の確信を持てました。結局のところ、観客の目線で考えていけば、何とかなるもんなんです。

なるほど、観客の目線ですか。監督が観客と同じ目線で作れば、観客にとって面白い作品になるということですね。

だから、医学や医療についてもほとんど勉強はしなかった。勉強している時間がなかったというのもあるんですが。手術シーンのディテールなんかは、助監督と医療アドバイザーチームに任せきりでした。

いやあ、てっきり、監督自身でリサーチしまくった作品かと。手術シーンのでき、すばらしく良かったです。

なまじ知っていると、手術のゴールとか段取りとかが読めちゃうでしょ。むしろ、ど素人の目で、「で、次はどうなる」と撮影したほうがいいと思った。覗き見している感覚でね。

手術シーンは映像もそうですが、医師役たちのセリフもリアリティがありました。「はい、開いたよ」(心臓が露出したという意味)なんていう軽い言葉が、すごく新鮮でしたね。

あれはね、一度だけ役者たちと手術の見学に行ってるんです。そこで、僕たちもああいうやりとりにリアリティを感じた。現場で、佐野史郎さんと、「あれは、やりたいね」と意気投合していました。

ネタバレ情報!?。犯人は、犯行現場で、 マスクの下で笑ってます(笑)。

苦労したことなど、ありますか?

中心舞台である手術室では、登場人物は全員大きなマスクをしていて目しか出ていません。役者さんは、大変だったと思いますね。僕たちもキャスティングの段階で、「目元の似ている人が重なるといけないなあ」とけっこう神経使いましたし。

マスクに帽子で、白衣――誰が誰だかわからなくなりそうなものだけど、観てると普通にわかったなあ。役者の力量、演出の力量ということなんでしょうね。

ちょっとだけ、ネタバレ情報を提供しましょう。犯人は、犯行を犯すとき、マスクの下で笑ってますよ(笑)。現場でアイデアがわいて、「ちょっと笑ってみて」「笑ってる?」――「これでも今、満面の笑みですよ」というやりとりを経て、採用。ちなみに、事情があって犯行におよべないいきさつも描かれているのだけど、そのときはマスクの下でつまらなそうな顔をしてます。

むっむう、それは気づかなかったな。次に観るとき、注意してみます。ところで、劇中、患者さん(山口良一)が弾き語りをしますね。あれは、原作にないエピソード。しかも曲が、70年代和製ロックの名曲「レモンティ」(サンハウス)。あれは、中村さんの趣味?

ですね。もちろん、「速いテンポで小さい声で唄える」という必然性を追った結果でもあるんですが。あの歌詞って、実はけっこう卑猥なんです。プロデューサーが、よくOK出したな(笑)と思ってます。

映画「チーム・バチスタの栄光」制作風景

映画「チーム・バチスタの栄光」制作風景

とてもありきたりな質問なんですが、監督として、ここだけは見逃さないで!というポイントなんて、あります?

う~ん、そうですねえ。いろいろあるけど、あえて言うなら、竹内結子さんと一緒に作り上げた主人公のキャラクター。そこはぜひ、って感じですね。

「もういいや、好きなことだけやろう」。 考えを変えてから評価されるようになった。

取材風景

ところで、中村さんが映画監督を志したきっかけは?

伊丹十三さんの『マルサの女』です。テレビ放映で観て、面白くて、受験勉強のシーズンだったにも関わらず、録画したものを結局100回くらい観ました。それまでは、どちらかというと興味があるのは芝居でしたが、あれで一気に映画に傾倒していった。

で、進路を映画と決めたわけですか?

そうですね。『マルサの女』に出会ったのは高3の春でしたが、大学受験の願書を出すころには、志望はすべて芸術学科や映画学科ばかりになっていました。

激動の高校3年生だったんですね。

けっこう大変でしたね(笑)。

で、大学に入って、映研に入って、自主制作にどっぷり?

8mmで撮ってましたよ。

おお、そうですか。8mmで自主制作した、最後くらいの世代になるんでしょうか。

たぶんそうでしょうね。でも、8mmは経験しておいて良かったです。プロになって、35mmを扱って、フィルムの「焼いてみないとわからない」をつくづく感じてますから。撮影部と照明部は、ほんとにすごいと思います。「この絞りで、このライティングで、色はこうなる」としっかりわかっているんですからね。監督の前にはビジコン(撮影映像のモニター)はありますが、あれでは色彩の仕上がりは絶対にわかりません。

では最後に、若手クリエイターたちにエールを贈ってください。

僕の映画監督としての体験からメッセージするなら――面白がるところはブラさないでほしい、ですね。僕は、映画監督になりたくて、そのために賞を獲って名を売ってと考えて活動しているころ、いい作品はまったく撮れてません。大学生時代のあるとき、「もういいや、好きなことだけやろう」と考えを変えてから、評価されるようになった。だから、目の前の賞とかに惑わされないでほしい。何を面白いと感じるかを大切にして、面白いと感じることだけを、自信を持ってやっていってほしい。その自信をつけるために一生懸命勉強をする。そういうことが大切なんだと思っています。

映画『チームバチスタの栄光』公開情報!

©2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会

©2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会

栄光のチーム・バチスタに一体何が起こっているのか? 連続して起こる術中死。犯行現場は、半径10cm。 衆人環視の中、実行された究極の完全犯罪。 容疑者は7人の天才。 にわか探偵医とキレモノ役人のコンビが、未踏の謎に潜入する・・・。

【ストーリー】 東城大学付属病院で結成された、成功率60%といわれる心臓手術“バチスタ手術”の専門集団7人。彼らは「チーム・バチスタ」と呼ばれ、26例の手術を連続で成功させるという偉業を遂げていた。しかしその後3例続けて手術中に患者が死亡。これは事故なのかそれとも・・・殺人か? 内部調査を依頼された心療内科医の田口公子。そこに破天荒な厚生労働省の白鳥圭輔も加わり、掟破りな調査で真実が明らかに・・・。 コミカルなやり取りの過程で浮かび上がってくる様々な人間関係。エリート医師たちの思いが交錯する中、乾いた殺意が浮かび上がる。

出演/竹内結子、阿部寛、吉川晃司、池内博之、玉山鉄二、井川遥、田口浩正、田中直樹、佐野史郎 監督/中村義洋 原作/海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(宝島社刊) (C)2008 映画「チーム・バチスタの栄光」製作委員会 配給/東宝 全国東宝系にて公開中

取材日:2008年1月23日

Profile of 中村義洋

中村義洋氏

1970年、茨城県生まれ。1993年、大学在学中に8mmで撮った短編『五月雨厨房』が、ぴあフィルムフェスティバルで準ブランプリを受賞。大学卒業後、崔洋一、伊丹十三、平山秀幸らの助監督として現場に参加。1999年、自主制作映画『ローカルニュース』で劇場映画デビュー。その後、『仄暗い水の底から』(01)、『ラストシーン』(01)、『恋に唄えば♪』(02)の3作で鈴木謙一氏と、『刑務所の中』(02)で鄭義信氏と、『クイール』(03)で丸山昇一氏とそれぞれ共同脚本を担当。05年には佐藤隆太主演のスリラー『ブース』、サスペンスホラー『あそこの席』『@ベイビーメール』を監督。多部未華子主演の『ルート225』(05)で高い評価を得た後、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)では劇場動員記録を更新する大ヒットに導いた。 【作品】 1999年 『ローカルニュース』 2004年 『日野日出志!怪奇ホラー劇場!私の赤ちゃん』 2005年 『ブース』 『@ベイビーメール』(2005) 『あそこの席』(2005) 2006年 『ルート225』(2006) 『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006) 2008年 『チーム・バチスタの栄光 』(2008)

 
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