『教育』は日本が誇れる産業 知育アプリで世界に進出
- Vol.91
- 株式会社スマートエデュケーション 代表取締役 池谷大吾(Daigo Ikeya)氏
IT化が遅れている教育市場で勝負!
池谷さんが「教育」や「知育」分野に興味を持ったキッカケを教えてください。
もともとは、起業したいという想いが先です。ITベンチャーに勤めていて、ソーシャルアプリの開発などに携わっていましたから、その経験を活かすことができて、まだ未開拓の分野はどこだろうか・・・と考えているときに、教育市場は2兆円もの市場があるのに、ITとはもっとも疎遠といえる分野だ、ということに気づいたんですね。これからの子どもたちはITと無関係に育つわけにはいかないのに、ITが教育現場で活用されているとは言い難い、このギャップに目を付けました。
いろいろなITデバイスがある中で、御社のアプリはスマートフォンとタブレットPCに特化していますね。
スマートフォンとタブレットPCに特化したのは、子育て中の経験からなんです。私の息子が5歳のとき、操作方法を何も教えていないのに、直感的に私のスマートフォンをいじって遊んでいました。パスワードを入れたり、アプリを立ち上げたり、かなり長い時間楽しんでいるんですね。その様子を見て、スマートフォンやタブレットPCは、子どもや高齢者などデジタルとは疎遠と思われていた層のライフスタイルを変えるパワーがあるのではないかと思いました。これまでの携帯電話、いわゆる「ガラケー」や普通のPCは、画面とキーボードが別でしたが、それが一緒になったことで直感的にわかりやすくなったんですよね。
親子で楽しめる タブレット・スマホならではの楽しさを追求
御社のアプリは未就学児を中心とした子ども向けですが、イラストがとても美しく、細かいところまで作り込まれていて、クオリティの高さに驚きました。
脳がもっとも発達すると言われている0~3歳の時こそ、本物を見せてあげるべきだと思っています。弊社の「おやこでスマほん」のラインナップの中には、プロの絵本作家とコラボレーションした作品もあるんですよ。「デジタル絵本」のアプリを作ると決めたとき、「デジタル絵本は売れない、いろいろな出版社などが手がけたけど成功した例がない」と言われたこともありましたが、以前の「デジタル絵本」といえば、既存の絵本を単にPDF化したようなものが多かったのです。しかし、これと「おやこでスマほん」はまったく別物です。実はこうした知育アプリ開発の専業会社は、現在は弊社だけなのです。専業、つまりプロフェッショナルとして、スマートフォンやタブレットPCのインターフェースの見え方や、「さわって遊べる」といった特性を生かしたアプリケーションを、情熱をかけて本気で作っています。
さわると動いたり、音が鳴ったり、スマートフォンやタブレットPCならではの仕掛けもありますが、親子で「一緒に」遊べる仕様になっているのも特徴的ですね。
アプリケーションをダウンロードしていただくと、遊び方が出るのですが、そこではお子さんを膝に抱っこして「一緒に」遊ぶ体勢のイラストを載せています。これまでの子ども向けアプリは、子どもが泣いて困る時や、退屈でうるさい時などに、アニメーションなどを子どもに見せて時間しのぎする、という役割のものが多かったと思うのですが、弊社のアプリはリアルな親子や家族、友達関係を作るためのハブになる役割を担うことができれば、と願っています。UNOやトランプの大富豪と一緒です(笑)一緒に遊ぶツールとして使ってくれれば嬉しいですね。
ITと無縁で生きて行くことはできない 早い段階で触れておくことが大切
こうしたデジタルデバイスを通じて親子や友達関係がより良いものになっていくのは素晴らしいと思いますが、どうしてもデジタルに抵抗がある人も多いのではないでしょうか?
デジタルは教育や知育にとって悪である、という考え方は確かにありますし、だからこそ教育分野にITが活用されていないのだと思います。ですが、これからはITと無縁で生きて行くわけにはいかないわけですから、早い段階でデジタルデバイスに対する拒否反応を取り払っておいたほうが良いと思います。「おやこでスマほん」をインストールしたタブレットPCを幼稚園に提供する試みも始めているのですが、年配の先生はともかく、30代以下の若い先生は抵抗なく子どもたちと一緒に遊んでいますよ。最初のアプリを世に出してから1年強なのですが、累計で340万ダウンロードされていて、スマートフォンを持つママたちも抵抗なく取り入れてくれていると思います。
たった1年強ですごいダウンロード数ですね!起業後の業績も順調に伸びているとのことですが、池谷さんは最初から起業を志していたのですか?
いえ、私は至って普通の思考回路の持ち主でした(笑)理系だったので、大学院を出て、とりあえず安定した職に就こうと考え、大手企業に就職しました。そして、入社して気づくのですが、大手企業は年功序列で偉くなるには年を取るしかないんですよね。そんなこと就職活動中に普通は気づくのですが、入ってから気づいてグチグチ言ってました(笑)ちょうどその頃、ITベンチャーがグングン成長している頃だったので、ベンチャーにいた大学の同期に頼んで幹部に会わせてもらったりしたら、そこでは若くて優秀な人たちがたくさんいて年齢に関わらず重要なポストに就いてガンガン仕事をしている。年功序列の大手よりもこっちで仕事をしたい、と思って転職しました。
前職のITベンチャーでは取締役まで上り詰めたのですよね。そこからなぜ独立を?
やはり会社の根本的なコンセプトやルールは、自己資金で起業しないと決められない、ということに気づいたからです。5人の仲間で独立しました。
知育アプリに経営資源を集中 「親子で」「良質な」「世界展開」をキーワードにアプリを開発!
最初から知育アプリ開発を専業にしようと決めていたのですか?
「スマートエデュケーション」という社名は決めて、教育アプリを事業ドメインにしようとは思っていましたが、子ども向けの知育アプリに最初から特化していたわけではありません。起業当時は子ども向けの知育アプリは売れていなくて市場はほとんどありませんでしたから、当初は食べて行くために英会話アプリや受験生向けの暗記カードアプリなど大人向けの教育アプリの開発もしていました。幼児向けの知育アプリを開発していたのは、私一人だけです。
そこからどのように知育アプリに専念を?
「おやこでリズムえほん」のデモが出来上がり、周囲のお母さんたちの反応が非常に良く、これだけで勝負できるのでは、と手応えがありました。どの家庭にもいわゆる「音の出る絵本」はありますが、見た目の美しさも操作性も音も価格も、すべて「おやこでリズムえほん」の方が優れていますからね。すでに英会話アプリも暗記カードアプリも開発が進んでいたのですが、創業メンバーと3日3晩ほぼ徹夜でディスカッションをして、他のアプリは捨てて「おやこでリズムえほん」に集中しようと決めました。
すでに開発が進んでいて一定の売上が見込めるものを「捨てる」のは勇気がいる決断ですね。
起業したばかりで少ない経営資源ですから分散させるよりは選択と集中が必要です。この3日3晩のディスカッションでは、アプリ開発の基本コンセプトとなるキーワードも生まれました。まず「親子で」できるアプリにして、他のアプリとは違う付加価値をつけること。「良質」なものを作って、本物に触れることができる付加価値をつけること。それと「世界展開」ですね。英会話アプリは日本ならではの市場しかありませんが、音楽を聴かない国はありませんし、絵本を読まない国もありません。英語圏はもちろん、あらゆる国で弊社のアプリは通用すると考えていますので、全世界への展開を考えていきます。
教育は日本が誇る強い産業 10年先まで使ってもらえるアプリを開発したい
選択と集中の決断をして、起業からわずか2年弱で、順調な成長ぶりです。
前職ではソーシャルゲームのアプリ開発をしていて、正直に言ってそちらの方が手っ取り早く儲かるのですが(笑)、知育アプリは1回売れて終わりではなく、長く使ってもらえるものですから、大きなやりがいがあります。絵本の売上ランキングのトップクラスは、10年間不変なんです。良いものは残りますし、アプリ業界でもそれは可能だと思っています。子どもたちが大人になった時「そういえば子どもの頃「おやこでリズムえほん」で遊んだよね~」と共通した思い出になるような定番のおもちゃにしていきたいですね。
今後はどのような展開を考えていますか?
10年先まで使ってもらえるよう、現在のアプリをより発展させて行くことはもちろん、知育アプリの分野はまだスタートしたばかりです。「おやこでスマほん」の本棚に追加できるアイデアは、まだまだたくさんあります。というのも、教育とは、世界の中でも日本が誇れる強い産業だと思うのです。知育のための図鑑や絵本やおもちゃがこれほど工夫されていろいろと販売されている国はないと思いますし、そんなアイデアを取り入れたアプリを開発していきたい。そして日本が誇る産業である教育を、アプリを通して世界中に発信して行きたいですね。
これからの成長が見込める分野ですね!御社にも大きな将来性を感じますが、どのような人材を求めていますか?
弊社は外部スタッフの方にも積極的に参加してもらっていますし、育児のための時短勤務や在宅ワークなども推奨しています。弊社のビジョンに共感して、子どもたちに良いものを与えたい、という情熱があれば勤務時間の長さにこだわる必要はありません。情熱が集中を生んで、効率良い仕事ができると思います。親子で遊んで関係を深め、本物に早くから触れさせることで子どもの脳に刺激を与え、世界中で10年先も使ってもらえる…弊社のビジョンに対して、子どもたちと自分の将来に夢を持てる人と一緒に仕事をしたいと考えています。
Profile of 池谷大吾(Daigo Ikeya)
株式会社スマートエデュケーション 代表取締役社長
明治大学大学院理工学研究科修士課程修了後、2000 年 4 月日本ヒューレットパッカード株式会社に入社。 システムコンサルタントとして大手携帯キャリアの基幹システムの開発プロジェクトに従事。
2004 年 8 月に株式会社シーエー・モバイルに入社し、公式課金サイト、SNS サイト、ソーシャルアプリといった 数多くのモバイルメディアの企画開発を経験。 同社執行役員、取締役を経て、2007 年 7 月には同社の SNS サイト、ソーシャルアプリ事業を手掛ける 100%子会社株式会社ixen の代表取締役に就任する。 2011年6月にスマートエデュケーションを創業し、代表取締役に就任。 株式会社スマートエデュケーションhttp://smarteducation.jp/