短編アニメーションは よくアートと呼ばれますが アートは一番の娯楽ではないでしょうか

Vol.31
アニメーション作家 山村浩二(Koji Yamamura)氏
 
山村浩二さんです。覚えている人も多いと思うけど、2003年のアカデミー賞は惜しかったなあ。もちろんノミネートされただけで十分快挙だったんですが。あの、落語を題材にした『頭山』は、特に日本の観客に、アニメーションが芸術になりうることを再認識させてくれる作品だった。そんな山村さんが、最新作をリリースしました。『カフカ 田舎医者』。約21分の作品です。お話は、はっきり言って難解です(笑)。だけど、相変わらずの、魅惑的で強い映像の力で、観る者をグイグイ引っ張っていきます。まさにワン・アンド・オンリーな描写力と表現力は、それだけで十分にファンタジー。「今度もまた、凄いもの作りましたね」という敬意を胸に、山村さんにお会いしてきました。

congraturation

松竹さんからお話をいただいたときに、 ふと浮かんできたのがカフカだったんです。

image_031_01

最新作『カフカ 田舎医者』について。なぜ、題材がカフカなのかというところからうかがいます。

カフカはずっと好きで、20代のころから読んでいました。ただ、映画にしようと、それほど本気では考えていなかったと思います。今回、たまたまですね。松竹さんから映画を作ってみないかというお話をいただいたときに、ふと浮かんできたのがカフカだったんです。

制作期間はどれぐらい?

実質は、そのオファーをいただいてから1年半くらいですね。

約20分で制作期間が1年半。山村さんの場合、これは通常のペース?

いや、ちょっとタイトでしたね。基本的には、10分少々で1年ちょっとくらいがほど良いところかなと思っています。

過去の作品と比べると、尺がかなり長いですね。

そうですね、学生のときに作っていたものを除けば過去最長の作品です。

最長不倒を伸ばしたことへの感想は?

時間は、僕の中では関係ないですね。短編って結局その語るべき必要な長さがあれば、6分でも7分でも5分20秒でも、すごく中途半端でもいいわけです。今回はたまたま21分に行き着いた。それだけのことだと思っています。

今回の作品は、空間や登場人物がどんどん歪む表現が印象的です。デジタルエフェクトなんですか、これは。

いや、デジタルエフェクトは全然使ってないですね。全部、手描きのアニメーションで表現しました。ですからいわゆるコンピュータグラフィックも、エフェクトも、何も使っていません。

このイメージ構想は、はじめからあったんですか?

そうですね。原作を読んだときの僕のイメージとして、時間も物も何かストレッチ――伸び縮みしているという印象が強かった。それをビジュアル化するとおもしろいだろうなという着想は、ずっとありました。

絵のタッチは、やりながら固めていったんですか。

やりながらですね。最初の試行錯誤の段階で、画面としてどう成り立つのかをいろいろ考えました。色、タッチ、使う画材も含めて何度かテストを繰り返しました。だから、最初に撮った数カットは使っていません。

スタッフは何人体制ですか。

絵に関しては、僕を入れて5人です。

チームワークの上で気をつけたこととかはありますか。

その辺は特に問題なかったですね。一番重要な原画の部分、動きのキーになる部分は全部自分で作ってますから、大きなイメージの狂いというのはありませんでした。スタッフはみんな本当に信頼できる人ばかりでしたので、問題なく進みました。

image_031_02

この作品は、どんなところを見てもらいたいですか?

う~ん、難しい質問ですね。自分としては、もう見たくないので(笑)。いつもそうなんです。できあがった映画はどうでもいいんですよ。作ってる過程がおもしろいので(笑)。

すごい本音ですね(笑)。

いや、それは本当ですよ。できあがったら、自分では、あんまり見たくないです。アラというか、だめな部分しか見えないので。作品として客観視するにも、もう少し時間が経って、自分とまったく切り離せるようになる必要がありますし。今はまだ、それができない時期なんです。

これまでの作品でも、そんな感じ?

そうですね。いつも、こうです。もちろん、アニメーションは、観客に観ていただいて完成するものですから、公開されて、多くの人の目に触れることを楽しみにしています。今はもう、ただそれを待つのが自分の仕事だと思っています。

では質問を変えましょう。これを観た人に、どんな顔をして劇場を出てもらいたいと思っていますか。

もう一度観たいと思ってほしいです。もう一回観てもそれほど時間がかからないのが、短編のいいところですから(笑)。僕は短い中に凝縮した世界を作り込むので、たぶん観る人が一回だけですべてをキャッチするのは難しいと思う。何度か観る中での発見があったり、感じ方の違いに気づいたりというのはそれだけでおもしろいことですしね。「もう一度足を運んでみたい」と、観たあとに思ってもらえれば嬉しいです。

僕は、『カフカ 田舎医者』も、 自分では娯楽作品として作ってるんです。

山村さんワークデスク

山村さんワークデスク

『頭山』がアカデミー賞にノミネートされた以降、環境は変わりました?

自分のやりたいことがやれるようには、なっているかもしれません。『頭山』以降変わってきているというのは、少しずつ実感はしてますね。

プロフィールを見る限り、山村さんのやりたいことは中学のころには確立していて、以降ほとんどぶれがない。

お金を得る手段として、自分が何になる、どんな職業になるというのは、大学に入ってもまだ迷ってはいたと思います。ただ、物を作っていくことが好きなのは明らかだったし、作家としてアニメーションにかかわり続けたい気持ちは、大学の2年生くらいでは固まっていたと記憶しています。

イシュ・パテル(インドのアニメーション作家)との出会いは大きかったんですか。

イシュ・パテルの回顧上映を広島のアニメーションフェスティバルで見たのが、大学2年生のときでした。「ああ、こういう作り方をしたいな」と思いました。

ブログを拝見したのですが、『レミーのおいしいレストラン』がおもしろかったと報告してますね。ああいう娯楽作品も観るんですね。

あれは、久しぶりにおもしろかったですね。娯楽作品が嫌いだなんてことは、まったくないですよ。というか、僕は、『カフカ 田舎医者』も、自分では娯楽作品として作ってるんです。たぶん、娯楽の基準がちょっと人と違うんでしょうけど(笑)。短編アニメーションはよくアートと呼ばれますが、アートは一番の娯楽ではないでしょうか。余裕がないと、芸術なんてやれないわけですから。

山村さんも、機会があれば長編を手がける可能性はある?

いや、それはないですね。ある長さがたまたまできてしまったという意味で、やりたいことが長編の長さになる可能性はあるとは思いますけど、いわゆるジャンルとして長編をやりたいとか、大きなスタッフワークでフィルムを作りたい気持ちは全然ないです。

そこで僕が思うのは、自分のもの作りに 甘えちゃいけないということです。

image_031_03

作家としてやっていけるな、みたいな確信を得た瞬間って覚えています?

まだ、いまだにないですけど。

なるほど。そうなのか。

本当にそうです。あえて言うなら、大学生で、作品を作り始めたころに、もうある部分では確信していましたが、短編というのは現実的な、制作予算確保の問題があります。そういう意味では、今、作家として100%成立しているかと言ったら、まだ見えていない部分、つかみきれていない部分がありますからね。

短編アニメーションのフィールドに、若い人たちは、増えてますか?

増えていると思います。

それは歓迎すべき傾向ですか?

そうですね。やはり裾野が広がるというか、数が増えないといいものが出てこないですから。

最後に、若いクリエイターたちに向けた、エールをお願いします。

あくまで、僕のような個人のクリエイターというレベルでの話ですが、やはりこの世界には2つの極があると思います。ひとつは、純粋に、作っていて「楽しい」という部分。もうひとつは、何かを作りだしていくということの責任とでも言うのでしょうか、重さと言ってもいいいかもしれない。それに関しては、120%力を出してもうまく果たせるかどうかわからないという意味で、「怖い」部分なんだと思います。 そこで僕が思うのは、自分のもの作りに甘えちゃいけないということ。ただただ一生懸命努力すればいいのかというと、それだけでは許されない、厳しい側面もあるんだという覚悟が必要です。自分の気持ちと創作のペースのバランスを、たえず自分自身と向き合いながらコントロールする。気持ちの持って行き方とか作り方、それらをいつも考えていてほしいなと思います。

取材日:2007年9月6日

Profile of 山村浩二

profile

1964年名古屋市生まれ。 1983年東京造形大学絵画科入学。1987年東京造形大学絵画科非具象コース卒業。1993年ヤマムラアニメーション(有)設立。2002年の『頭山』は、アニメーション映画の最高峰/アヌシー2003(仏)にて日本人初となるグランプリを受賞。また、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門、日本人初ノミネートを果たす。2007年には、Animations(http://www.animations-cc.net/)というアニメーション創作と評論のグループを結成した。 1987年 『水棲』 1989年 『ひゃっかずかん』 1990年 『遠近法の箱』 1991年 『ふしぎなエレベーター』 1993年 『おうち』『サンドイッチ』『あめのひ』 1994年 『パクシ』 1995年 『キップリングJr. 』『キッズキャッスル』 1996年 『バベルの本』 1998年 『地球肋骨男』 1999年 『どっちにする?』 2002年 『頭山』 2003年 『冬の日』『おまけ』 2005年 『年をとった鰐』 2006年 『Fig(無花果)』 2007年 『カフカ 田舎医者』『こどもの形而上学』

 
続きを読む
TOP