家族で楽しめる映画作りへの挑戦『映画 えんとつ町のプペル』廣田裕介監督がフィルムに込めた思い
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣(にしのあひきろ)さんがプロデュースし、33人のクリエイターによる分業で手掛けられた絵本「えんとつ町のプペル」。5000部でヒットといわれる絵本業界で、累計60万部(2020年12月時点)もの売り上げを誇っている本作が、フル3DCGのアニメ映画となって2020年12月25日(金)に公開されます。
アニメーション制作は、劇場アニメ『ベルセルク黄金時代篇』3部作や『海獣の子供』などで知られるSTUDIO4℃(スタジオよんどしー)。監督は、同制作スタジオのさまざまな作品で、CGセクション全般を担うCGI監督を務めてきた廣田裕介(ひろた ゆうすけ)さんです。未曽有の大ヒット絵本を映像化するにあたっての思いを、廣田監督に伺いました。
原作を尊重し「家族の絆」をより深く感じられる作品に
『映画 えんとつ町のプペル』が初監督作品となりますね。
この業界で働き始めたときから「いつかは監督をやりたい」と思っていましたので、ついに夢が叶うときが来たんだという気持ちでいっぱいでした。
原作の絵本は、お話をいただいた時点ではまだ読んだことがなかったのですが、その存在は存じていました。表紙イラストがとても魅力的で、書店の平積みでひときわ異彩を放っていたんです。
本作は、STUDIO4℃劇場作品としては初のフル3DCGアニメになるとのことですが、それもオファーの時点で提示されていたのでしょうか。
明示はされていなかったと思いますが、僕はずっとCGを手掛けてきた人間ですので、僕に話が来た以上はそういうことだろうと解釈しました。とはいえ、キャラクターだけでなく背景までもCGにするかどうかは、最初は迷いどころでした。
結果としては背景美術もCGで描かれています。その決断にいたった理由を教えてください。
2つあります。本作の舞台である「えんとつ町」は、映画アニメ公式サイトで公開されている原作絵本をご覧いただいてもお分かりの通り、たくさんの建物がひしめき合っている雑多な町です。こうした町を様々なアングルで描くなら、オブジェクトを流用できて、自由にアングルを変えられるCGの方が向いているだろうと。
もう一つは、CGならではのダイナミックなカメラワークを使いたかったというのもあります。そうするなら背景もCGで作っておいた方がやりやすい。あとは「えんとつ町」の持つインダストリアル…工業的な質感もCG採用を後押ししてくれました。CGで出しやすい雰囲気ですので。
手描きで背景を動画化する、いわゆる「背景動画」は、ものすごく労力がかかると聞きますね…。次の質問ですが、オファーを受けて監督も原作を読まれたと思いますが、感想はいかがでしたか。
プライベートな話になってしまうのですが、僕自身、その数年前に子を持つ親になっていたこともあって、父親と子の絆を描く物語に深く共感を覚えました。
また、これまでは比較的に年齢層高めの作品に携わってきていましたが、小さな子が見ても楽しめる作品を手掛けたいとも常々考えていたので、そういう意味でもこの「プペル」は今の自分にピッタリだなと。
「プペル」は長編映画作品としての構想が最初からあって、その一部を先出ししたのが絵本であるとのことですが、映画のシナリオは具体的にどのように詰めていったのでしょうか。
「老若男女、誰もが楽しめるエンターテインメント」にすることを前提に、僕からは、家族の絆、人の成長という人間ドラマとしての要素をより明確にしたいと提案させていただきました。
映画制作に際して西野さんからオーダーなどはありましたか?
西野さんからは「廣田監督にお任せします。好きなようにやってください」と言っていただけました。それこそ一番難しいオーダーなんですけどね(笑)。とはいえ、原作が存在し、ファンの方も大勢いらっしゃる作品ですので、原作を逸脱せず、尊重し映画化しています。
フルCGアニメで表現する、リミテッド・アニメと輪郭線の相性のよさ
キャラクターデザインが固まるまでについてもお聞かせください。
デザイン担当の福島敦子さんには、まずは主人公のルビッチとゴミ人間・プペルから方向性を探っていただき、最終的には個性もありつつ親しみやすさを含めたデザインにしていただきました。
イラストレーターやキャラクターデザインの方にお話を伺っていると、「シルエットでもすぐに見分けがつくのが望ましい、というのはよく耳にします。
本作のキャラクターたちもデフォルメを効かせて極端に細いキャラ、極端に背が高いキャラなど、シルエットだけでも面白いデザインになっています。これは西野さんにも喜んでいただけました。
プペルの目は開閉式のオペラグラスのようにカチカチと閉じ開きするレンズになっています。原作では両目ともそうなっているのが、アニメでは片目のみです。それがなんだかウィンクしているようで愛嬌(あいきょう)を感じました。
プペルは、体を構成するパーツの一つ一つがどのようなゴミなのか、それをどのように組み合わせればあの姿になるか、というところから考えてデザインされています。ゴミ捨て場のゴミでできている以上、そうそう同じパーツばかりあるわけではないだろうと、原作とデザインが一部変わっているところもあります。
キャラクターはすべてCGですが、手描きのアニメのように黒い輪郭線が描かれています。他のCGアニメを見るとない作品もありますよね。輪郭線をつける狙いはどのようなものなのでしょうか。
映画は1秒間に24コマを描写しますが、日本のアニメは1秒間に8枚、12枚などの限定されたコマ数を効果的に見せることで発展してきた文化が色濃くあります。定義としていうとそれだけでもないのですが、ここでは割愛して、こうしたアニメの手法を「リミテッド・アニメ」と言います。
手描きのアニメによる輪郭線とベタ塗りで構成されたルックは、ある種究極の形といえるくらいにこの「リミテッド・アニメ」と相性がいいんです。なぜならアニメーションを見ている人の目に一番残るのは輪郭線だからです。輪郭線の動きが残像として処理されて、コマとコマの間を脳内で補間するんです。
私はこの手法が様式的で好きなので、CGでアニメを作る場合は「リミテッド・アニメ」にして、ルックには輪郭線を付けたいと思っていました。もし、24コマ全て使うCGアニメを手掛けたくなったら、また別のルックを模索するでしょうね。
『グレイテスト・ショーマン』で活路が開けたダンスシーンの実現
その後、絵コンテ作業はどのように進められましたか。
絵コンテは僕を含め主に3人で切っていますが、まずは僕が文字だけの“字コンテ”を作成し、大まかなカット割りやカメラワークの方針も伝えたうえで切ってもらいました。
西野さんからいただいたシナリオにはキャラクター同士の掛け合いが多かったので、構図に凝るよりもテンポの良さを大切にしています。そうして最初から最後までの絵コンテができたら、実際の尺に収まるようにブラッシュアップを重ねていきました。
フィルムを作るうえでは絵コンテのプランニングこそが重要だと、本作を通して改めて実感しました。
公式サイトでもメイキングのムービーが公開されています。ミュージカルのようにキャラクターたちが歌って踊るシーンも楽しいですね。
ダンスシーンは西野さんのシナリオにすでにあった要素なのですが、実はこれまで、僕はこうしたミュージカル的な要素を持つ作品の楽しみ方がよく分からなかったんですよ(笑)。
そんなとき、映画『グレイテスト・ショーマン』を観て、感動すると同時に感心させられて。映画の中で登場人物たちが歌って踊り出すシーンがここまで魅力的になるのかと。結果的に全く違うアプローチにはなっていますが、そのときの感動や発見が、本作のダンスシーンの実現を後押ししてくれたと思います。
キャスティングについてもお聞かせください。どのような狙いで人選されましたか?
ご本人のイメージがキャラクターそのままである方に演じていただければより強い説得力が生まれるだろうと思い、そこに重点を置いています。
ルビッチの父・ブルーノとおしゃべりな鉱山泥棒のスコップは、脚本の時点で西野さんがそれぞれ立川志の輔師匠とお笑いタレントのオリエンタルラジオの藤森慎吾さんをイメージされていたとのことで、オファーいたしました。プペル役の窪田正孝さん、ルビッチ役の芦田愛菜さんをはじめ、キャストは皆さん本当にイメージ通りで。
アフレコ現場で実際に声をあてていただいたのを聞いて、これは間違いないという確信が持てました。みなさん素晴らしかったのですが、特に印象深いのは窪田さんです。
僕が持つ窪田さんのイメージは、イケメンだけど、しゃべり口は柔らかい。ちょっと頼りなさそうな雰囲気なのに、やるときはやる……というものなのですが、そこに上乗せする形で「ゴミ人間」というなんとも掴みどころの難しい役を、見事に演じてくださいました。
ブルーノはキャラクターデザインも立川志の輔師匠に寄せているのかも……と感じました。そうした意識はありましたか?
デザインまでは寄せていないですね(笑)。デザインはあくまでも”昭和の雰囲気を色濃く残す、曲がったことを嫌う江戸っ子気質のオヤジ”というコンセプトです。
いよいよ公開も目前です。作品を通して、特にお気に入りのシーン、注目してほしいシーンをお聞かせください。
プペルがゴミ捨て場のゴミから誕生する冒頭のシーンと、先ほどもお話したダンスシーンですね。
また、予告編動画にも少し登場していますが、とある経緯から、プペルとルビッチがトロッコで爆走するアクションシーンも見どころの一つです。このシーンはアトラクションのような気持ちで見ていただくだけでも楽しめますが、2人が絆を深める過程・きっかけでもありますので、そうした視点でもお楽しみいただければ幸いです。あとはやっぱり、ブルーノとルビッチの間にある「親子の絆」ですね。
それでは最後に、クリエイターを目指す若者たちへ向けたメッセージもいただけますか。
これはどうすればいいんだろう、どのようにするのが正しいのだろう……と答えが見えなくて悩むことは僕も常にありましたし、それは今も同じです。そうした壁を乗り越えられてきたのは「それでも諦めずに作り続けた」からです。
壁にぶつかって悩むこと自体は誰にでもあります。月並みですが、そんなときも立ち止まらず、常に挑み続けてもらいたいと思います。僕はそうしてきたことで、こうやって監督になれました。
取材日:2020年11月25日 ライター:蚩尤 ムービー撮影・編集:村上 光廣
『映画 えんとつ町のプペル』
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
12月25日(金)より全国公開
出演:窪田正孝、芦田愛菜、立川志の輔、小池栄子、藤森慎吾、野間口徹、伊藤沙莉、宮根誠司、大平祥生(JO1)、飯尾和樹(ずん)、山内圭哉、國村隼
製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣、
監督:廣田裕介、
OP主題歌:「HALLOWEENPARTY-プペルVer.-」HYDE(VirginMusic)、ED主題歌:「えんとつ町のプペル」ロザリーナ(ソニー・ミュージックレーベルズ)、
演出:大森祐紀、アニメーション監督:佐野雄太、キャラクターデザイン:福島敦子、キャラクター監督:今中千亜季、美術設定:佐藤央一、美術ボード:西田稔、美術監督:秋本賢一郎、色彩設計:野尻裕子、江上柚布子、CGI監督:中島隆紀、編集:廣瀬清志、音響監督:笠松広司、アニメプロデューサー:長谷川舜音楽:小島裕規、坂東祐大、アニメーション制作:STUDIO4℃、
配給:東宝=吉本興業、製作:吉本興業株式会社
©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
ストーリー
厚い煙に覆われた“えんとつ町”。煙の向こうに“星”があるなんて誰も想像すらしなかった。一年前、この町でただ一人、紙芝居に託して“星”を語っていたブルーノが突然消えてしまい、人々は海の怪物に食べられてしまったとうわさした。ブルーノの息子・ルビッチは、学校を辞めてえんとつ掃除屋として家計を助ける。しかしその後も父の教えを守り“星”を信じ続けていたルビッチは町の皆にうそつきと後ろ指をさされていた。そしてハロウィンの夜、彼の前に奇跡が起きた。ゴミから生まれたゴミ人間・プペルが現れ、のけもの同士、二人は友達となる。そんなある日、巨大なゴミの怪物が海から浮かび上がる。それは父の紙芝居に出てきた、閉ざされたこの世界には存在しないはずの“船”だった。父の話に確信を得たルビッチは、プペルと「星を見つけに行こう」と決意する。しかしこの町の治安を守る異端審問官が二人の計画を阻止するために立ちはだかる。それでも父を信じて、互いを信じあって飛び出した二人が、大冒険の先に見た、えんとつ町に隠された驚きの秘密とは?