大友啓史監督が語る「るろうに剣心」最終章! 「佐藤健をはじめキャストとスタッフ皆が“日本映画のリミット”をどう超えるかを意識して作っている」
世界50カ国以上で公開され、3部作の累計興行収入が125億を突破する大ヒットシリーズとなった実写版の映画「るろうに剣心」。5年ぶりの新作となる『るろうに剣心 最終章 The Final』が4月23日に公開になった。
佐藤健(さとう たける)が演じる緋村剣心に対するのは縁(えにし)。このシリーズ最恐の敵を新田真剣佑(あらた まっけんゆう)がつとめ、シリーズの集大成とも言うべき超絶アクションを繰り広げている。
今回は実写版映画「るろうに剣心」シリーズを作り上げた大友啓史(おおとも けいし)監督に、本作の見どころ、主演の佐藤さんと今回初登場の新田さんら出演者について、そして映画制作との向き合い方、クリエイターへのメッセージを聞いた。
入口はあるけど出口が見えない感覚は「るろうに剣心」の特徴のひとつ
ファンも待ちこがれていた『るろうに剣心 最終章 The Final』。5年ぶりの「剣心」です。これだけの月日がかかったのには理由があるのでしょうか?
5年という時間が適当だったのか分かりませんが、前作がすごくハードだったので、僕らは終わってすぐに次作をという気持ちにはなれませんでした。やっぱり間隔が必要でしたし、どこか違う題材を撮ってみたいという気持ちもありました。
「そろそろやりませんか」と声がかかったのが2017年くらいですから、3作目の『るろうに剣心 伝説の最期編』の公開から3年経っていましたね。
監督には「前作までを超えなければいけない」というプレッシャーなどはありましたか?
プレッシャーかどうかは分かりませんが、作り手ならみんな、自分が作った作品を超えたいという想いを持って常に次回作と向き合っていると思います。そして5年という時間がまたそこに作用して……。周りに期待されればされるほど、自分たちでハードルを上げてしまう感じです。
クランクインは、ピリピリとした緊張感が漂っていたのでしょうか。
2作目の『るろうに剣心 京都大火編』のときはそういうムードでしたが、今回はそういうことを考える余裕もなかったです。
やはりこれくらいの規模の作品を作るとなると、自分で言うのもなんですが日本映画の器を超えているわけですよ。
走り出したら、まず作品を成立させるにはどうすればいいかが第一で、「我々の思っている以上のもの」を作る、というのがその次になってくる。走り出したら、とりあえずギリギリまで走るぞ!という感覚は「るろうに剣心」シリーズの特徴かもしれないですね。入口はあるけど出口が決まっていない、崖に向かって全員が突っ走って「誰が最後まで頑張れるか」、いわばチキンレースみたいな現場ですね(笑)。
そのギリギリのところまで走っていくような感覚は「るろうに剣心」シリーズだけにあるものなんですか?
正直そうですね。これくらいの規模になっていくと、僕自身も監督として作品の細部にこだわることと並行して、どうやって全員の力を発揮できる環境を作るか、どうやって最後までやり切るかといった、もっと俯瞰的なプロデュスワークも必要にくる。なのでみんなの想いをムダにせず、その土俵をどう作るかについて前回以上に気を回していました。
“戦友”と言っていいでしょうか。主演の佐藤健さんとは、どう向き合ったのでしょうか。。
健くんは『億男』(18年)で一緒にやっているときにも「次、やるんですよね?」と探りをいれてきて(笑)。
やり始めたら覚悟を決めて本気にならなきゃいけないことを彼も分かっているんです。そしてそれがすごくしんどいけれど、その果てにたどり着く充実感も体感している。なので、ずっと探り合いのような、不思議な向き合い方をしていたような気がします(笑)。
前回は、皆で一斉に拳を突き上げて、その勢いのままに作品に立ち向かっていったという感じですが、皆大人になったというか(笑)、ソフトランディングな感じでゆっくりと離陸していった印象が強いですね。やることがめちゃくちゃ多かったので、様々な準備に忙殺され、僕の中ではいつの間にかクランクインしていたという感じです。
今の佐藤健でないと、この剣心は演じられなかった
5年振りとなる佐藤さんの剣心はいかがでしたか?
今回の佐藤健が演じる剣心は、より深みと凄味をました、今の彼だからこそ演じられる剣心であったように思います。『―The Beginning』(21年6月4日公開)では、有村架純さんが演じた剣心の妻・巴(ともえ)との運命的な物語が描かれますが、とりわけそちらの作品は、そう思います。
『The Final』、の縁とのバトルについては、佐藤健が自分が演じる緋村剣心という人物について誰よりも理解しているからこそ生まれたアクション。その姿勢がこの作品の最大の武器だと、改めて思いました。
そんな剣心の前に立ちはだかる縁を演じた新田真剣佑さん。彼をキャスティングした理由を教えてください。
マッケンはまなざしがピュアですし、役に対して取り組もうとしている姿勢が明確。初めて会ったとき、すぐに縁にピッタリだと感じました。第一作で佐藤健演じる剣心の登場シーンを見て、皆さんがセンセーショナルな感覚を覚えたように、同じ衝撃を“新田真剣佑で再び!”という気持ちがありました。縁の私怨を剣心が全て受け止めて、不殺(ころさず)の剣で過ちを諭して(さとして)いく。2人は、自らの記憶の中にある巴という1人の女性を挟んでお互いの感情をぶつけあっていきます。内在するものすごい量の感情を抱えながら戦っていて、一撃一撃に意味がある。芝居と高度なアクションを両立させ得る健くんとマッケンだからこそできるアクションシーンになっていると思います。
脚本や自分たちの頭の中で想像していたものを超えなければいけない
おっしゃる通り、アクションとバトルシーンは本当にすごいの一言でした。
縁の爆発しそうな怒りを可視化するために、周りの建物を壊して表現したりしています。普通、美術部はセットを壊されるのはイヤなんですよ。でも美術監督も「るろうに剣心」シリーズは、セットが壊されることで初めて完成するという領域に入っている。むしろ、それを様々なオブジェに変換し、美術としてレベルアップを現場で探り続けている。
装飾や小道具チームも当たっても痛くない刀や、滑らない草履の素材を一から開発してきた。谷垣健治率いるアクションチームの優れたアイディアと、皆の創意工夫によって作り上げられた「るろ剣」チームのアクションは、世界最高峰だと大真面目に思っています。
正直、アクションは準備も大変だし、安全も大事。予算や時間配分を含めて、全てを支えきれる土壌がないプロジェクトが多いんです。それを必死に切り拓いてきたのがうちのチームです。
実は公開が延期になる前、オリンピックと同じ時期の公開になるため、どうやったら「エンターテインメントの立場で世紀のイベントに立ち向かえるか」を真剣に考えました。世界最高峰のリアルバトルイベントと戦える、アクションエンタメ作品を目指したんです。
でもコロナ禍になり、当初予定していた公開から1年ズレたとき、僕自身の感覚がちょっと変わっていった。今までとは違う生活を送りながら、こんな時代だからこそ、穏やかな物語や、少し静かで心に染み入るような作品が見たくなって。これって皆もそうだよなと思い、編集で当初とは作品のベクトルを少し変えました。
現状のバージョンが完成して試写をしたら、今までアクションに驚いていたスタッフが、「ラブストーリーになっていました」と泣いたりしている。アクションの底流に流れるドラマがしっかり届いていることを確認出来て、ほっとしましたね。
フィクションでノンフィクションを超える……。なかなか難しいことに挑戦されていたんですね。
僕は大学卒業後NHKに入局しドキュメンタリー制作をしていていました。世の中って自分が知らないことにあふれていて、自分の思い込みなんて頭の中で考えたすごく小さなことだと気づかされました。
だからフィクションより、世の中で起こることの方が面白いという感覚があるんですよ。そこでフィクションが勝つには、現場で思いがけないことが起こる環境を作り、それを発見し、脚本や自分たちの頭の中で想像していたものを超えていく必要があるんです。
「るろうに剣心」シリーズは1作目から、そういう想いの元で作っています。スタッフも思いがけない奇跡を起こそうと、いろいろやってくれる。だからこそ、見たことのない映像ができ、感動させられるのだと思います。
作ったもの考えたことは常にアウトプットしていくことが大事
クリエイターとしての大友監督のお話を伺います。NHKに入局される前から映画監督に興味はあったのですか?
映画は好きでしたが職業としては考えてはなかったです。というのも、学生時代に何気なく見ていた職業事典に映画監督の年収が書いてあって……。とんでもなく低くて、日本で映画監督をやって普通の生活をすることは無理なんじゃないかと。元々映画監督になるという発想はありませんでしたが、正直そのチョイスは、これで全く頭に浮かばなくなくなりましたね。
NHKの秋田放送局にいて、歌番組、子供番組、料理番組などあらゆるジャンルにかかわったんですが、唯一できなかったのがドラマだったんです。連続テレビ小説「ひらり」(92年)が秋田で撮影され、そのお手伝いをしたときに映画青年だったときの記憶や感情が思い出され、フィクションに興味が出てきました。
そうやってドラマの世界に入り、ノンフィクションからフィクションの制作に変わったんですね。
東京に異動し、ドラマ制作をするようになったのですが、最初はドキュメンタリーとの違いに打ちのめされました。ドキュメンタリーは自分がディレクターで、構成から編集まで全て自分でやっていました。でもドラマの現場だとADからで、作る実感が湧かないんです。そのまま3、4年過ぎたころ、アメリカ留学でハリウッドに行きました。これが転機ですね。
ハリウッドには、映画に関わっているだけで人生が祝福されているようなムードがありました。日本だと映画を作ることは、なんとなく求道者的なイメージでしたが、日本と全く違う空気に接しているうちに、映画を身近に感じるようになりました。
「るろうに剣心」シリーズに代表されるようなエンタメ超大作を撮られている一方で、『影裏』(20年)のような人間ドラマも作られるなど、作品の幅の広さに驚かされます。監督自身はもともとどういう映画がお好きでしたか?
中学生ぐらいまではハリウッド映画でしたが、高校生から大学生のころにミニシアターがたくさんできて。フランス映画とかヨーロッパ系の作品が好きになりました。
ただ作るとなると、NHKではエンタメ色の強い作品を多く手掛けましたね。エンターテイメントの都ハリウッドに派遣されていたことと、決して無関係ではないでしょう。
エンタメを作るのは楽しい。ただその真逆で『影裏』のような小さな現場で、個人的な小さなこだわりを表現できる作品を創りたいという気持ちも強くあります。今回、『―The Final』と『―The Beginning』を同時に撮影し、その3カ月前に『影裏』を撮影していました。全く異なるタイプの作品を、それぞれ真逆に振り切って作るのは大変でしたが、僕のメンタルというか、精神衛生的には非常によかったです。
最後に、監督がクリエイターとして大事だと思っていることを教えてください。
アウトプットを続けることですね。いくら頭の中ですごいことを考えていても、カタチにしないと無である、それが僕らの世界ですから。“作っていない監督は監督じゃない”。そのくらいの気持ちを持たないと、時間はあっという間に過ぎていってしまいます。
“作る作業”は楽しいことばかりではないし、むしろ辛いことも多い。生み出したものを、お客様に見てもらう、そしてある評価をいただける瞬間だけが楽しいわけです。その瞬間に触れる機会を、そのチャンスをまずは自ら獲得しなければいけない。それにはとにかく、カタチにすることです。
批評を受け入れる覚悟も、それに抗うための自分の主張も必要。潔く作品のみで自分の主張を伝えていく事も大事だけど、その題材にどういう風に自分が向き合い、どんな考えを込めたのかを言葉で伝えていくことも、今のクリエイターには求められていると痛感しています。
そのためには言葉を鍛えていくこと。読書はもちろん、映画や音楽、社会情勢も含めて、作品を創るということ以外にも、自分の心が動くものを見つけなければいけない。今のクリエイターは忙しいですね(笑)。
取材日:2021年4月1日 ライター:玉置 晴子
『るろうに剣心 最終章 The Final』
4月23日(金)大ヒット上映中
佐藤健
武井 咲 新田真剣佑
青木崇高 蒼井 優 伊勢谷友介
土屋太鳳/三浦涼介 音尾琢真 鶴見辰吾 中原丈雄/北村一輝
有村架純 江口洋介
監督:大友啓史
原作:和月伸宏「るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊)
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
制作プロダクション・配給:ワーナー・ブラザース映画
©和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
6月4日(金)全国ロードショー
佐藤 健 有村架純
高橋一生 村上虹郎 安藤政信
北村一輝 江口洋介
原作:和月伸宏「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督/脚本:大友啓史 音楽:佐藤直紀 主題歌:ONE OK ROCK
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
制作プロダクション/配給:ワーナー・ブラザース映画
© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会