映像2021.07.19

劇場で見たい!圧倒的な映像美『竜とそばかすの姫』

東京
映像編集者
秘密のチュートリアル!
野辺五月

『時をかける少女』『サマーウォーズ』など夏の合うアニメ映画といえば細田守監督作品。
その待望の新作が『竜とそばかすの姫』です。

 

既に予告編の段階でかなりの期待の寄せられている今作ですが、ネットの仮想世界現実という二本軸を扱うことから『サマーウォ―ズ』を想起させられているファンも多いはず……。
さて実際はどうなのでしょうか?

ネタバレなし/ちょっとありの2部構成で、レビューします。

 

STORY

高知の田舎に住む少女、鈴は幼い頃に母を水難事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何より大好きだった鈴は、その死をきっかけに歌うことができなくなっている。

曲を作ることを生きる糧としていた彼女は、ある日親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加する。

<U>では、As(アズ)と呼ばれる自分の分身を作り、別の人生を歩むこと出来る。
歌えない鈴が、Asの「ベル」として自然に歌うように。
そしてベルはその世界の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルのコンサート。
ところが、突然現れた「竜」と呼ばれる謎の存在によって無茶苦茶になってしまう。
世界中が敵視していく竜….
その傷を知りたいと動き出すベル。

現実と<U(ユー)>、どちらでも誹謗中傷が溢れていく中、現実世界の片隅に生きる鈴の声は、たった一人の誰かへ届くのだろうか。
鈴=ベルは、何にたどりつくのだろうか。

* * * *

 

圧巻の映像美!音楽と映像の魔法にかけられる瞬間

この映画の見どころは何と言っても<U>の世界の映像美にあります。
ハリウッド・ヨーロッパのトップクリエイターが参加しているビジュアルや世界観。

特に<U>の歌姫ベルをデザインしたのは、『アナと雪の女王』『ベイマックス』『塔の上のラプンツェル』『モアナと伝説の海』のキャラクターデザインを担当したJin Kim(ジン・キム)。
その美しさや繊細さは息をのむほど。
動いた時が一番美しく、歌うときの繊細な表情、とんでもないエフェクト……。

しかも、それに対して音楽はKing Gnuの常田大希率いるmillennium parade制作のメインテーマ。
そこに「歌」を条件に選ばれた主人公役ミュージシャン中村佳穂さんのボーカルが重なり、見事なハーモニー・世界観が形成されています。

 

クリエイター必見はライブシーンのみならず、<U>の世界のデザイン、繊細な動き……
ところにより「美女と野獣」を思わせるような繊細な光、クラシックディズニープリンセスの世界を思わせる見事なカラリングの変化、リアルなインターネットへの没入を感じさせる電子SF的な映像表現。
はっきりいって美しいもの、見事な映像の「いいとこどり」なのです。

それでいて調和してみえるのは、現実側が、また高知の田舎の美しい光景であることも一役買っているでしょう。

ストーリーはさることながら、この数々の映像表現……
しかも「映画館」というスケールで、完全に世界に入り込んでこそ楽しめる設計は、それだけで必見の価値あり。素晴らしいとしか言えません。

お話の方は「インターネットの匿名性」や、「親子の問題」ちょっとしたモノだけれども「思春期にはあるすれ違い」「SNSを含んだ微妙なやり取り」や「恋」「友情」も含み、純粋に十代の少女が再び立ち上がるまでを周辺含めて描いたもの。

「エンタメ性」というよりも、「日常性」に特化しており、『サマーウォ―ズ』的なスカッとする感情や、ダイナミズムからはちょっと離れているので、映像に対して小さなストーリーであると言わざるを得ません。

大きく繋がる仮想世界と、足元にある大事な日常、そのきってもきれないリンク。
正直、ある種強引な部分もあります。

ただそれでも、細田監督の一貫してツールを楽しみ使いこなしていく中で、人と人がプラスもマイナスもありながら繋がっていく世界観は生きており、よりリアルに現実に立ち戻りながら「すぐそこにある未来感」を楽しませてくれるでしょう。

 

最後にキャストについてですが、メインのボーカル中村佳穂は圧巻です。
特に鈴としての弱く利かせる声、通常の声、呟くような歌になり切れない部分から歌への流れ、ベルのボーカルのすばらしさ……
この違和感が完全にないのは、中村さんが元々歌うように生きている人だからこその配役であると思いました。

ボーカル部分あっての配役なので、正直声優としてはどうかと心配もあったのですが、「鈴はこの人!」と細田監督が太鼓判を押した意味がよくわかります。

ところで、思った以上に「やられた」のが合唱隊のメンバーです。
キャストがもうめちゃくちゃ豪華で……森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世。
合唱隊だから当然歌う場面もあるのですが、なんていうか物凄い自然(=安定感)。

支えてくれる大人あってこその話でもあるため、全体的にバランスが取れていました。
実はキャストについては後で気づいたのですが「なるほどこの面子!」と唸ってしまいました。

仮想×現実の落としどころが難しい現在 ※ネタバレ多少あり

「映像美×音楽」が見どころの作品となると「プロモーションビデオやミュージックビデオでいいのではないか」となりがちなのですが、そこをギリギリのところで回避し、VR/ARですでに見えている今のネットコンテンツを、圧倒的に美しい映像表現で魅了していく。

ストーリーと現実のリンクも、未来の仮想現実と、現実の仮想現実世界のリンクも……
未来へ近づきつつある今は、正直「表現」が難しい時期であると思います。
その中で、よくここまで「未来」を作り上げたなという感動がありました。

今作は、仮想空間が魅力的かつ、そこに未来がなければ、まず成り立たない物語だと思います。

そのうえで、今いるリアルの自分をどう解放したり、どう乗り越えていくか、またバーチャルな世界という意味で「現在のSNSやインターネット他ふくめてテクノロジー」とどう関わっていくか?がお題として乗っている現実があります。

ちょっとベタではあるのですが、ネットの匿名性である書き込みや、SNSが絡む「いじめ」「いじり」「炎上」であったり…。
その手前の火種、ヘルプが言えない家の中の問題、友情と恋も少し……もりもりっと乗っている「社会的な問題」&「小さいけれど自分(主人公)にとっては大きな問題」もあり、その総量の多さと軸の緩さゆえ、ストーリーラインがスパンと割り切れていない弱さを感じさせられる部分も……。

特に、ビジュアルと先入観で『サマーウォーズ』を期待させる部分がマイナスに働いてしまうため、なかなか難しいなぁと感じました。

ただ、その分それぞれに染みる部分や引っかかる部分を見出せる良さはあるので、十代の少女の成長物語として捉えたうえで、社会的にも現実にも思い通りにはいかない中でのあがきを一緒に楽しめればいいのかなと思います。

竜の正体については人によっては肩透かしを食らうかもしれませんが「まっすぐ彼を助けに行こうと思う鈴はもちろん、協力していく周りの人の善良さとクライマックスに向けての疾走感を素直に受け取れればいいのかな」と。

とにもかくにも劇場で見てこその作品(=映像)なので、ぜひ可能な方は映画館へ。

また、オススメの座席は「仮想世界への没入感をより感じられる左右でいうと中心」「前後でいうと中心より二列以上後ろ(なるべく後ろから3分の1)」のところです。
よければ参照までに。

 


7月16日(金)より全国公開


 

中村佳穂

成田 凌 染谷将太 玉城ティナ 幾田りら

森山良子 清水ミチコ 坂本冬美 岩崎良美 中尾幸世

森川智之  宮野真守  島本須美

役所広司 / 石黒 賢  ermhoi  HANA / 佐藤健

                                                                                                    

メインテーマ: millennium parade × Belle 『U』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

 

原作・脚本・監督:細田 守

 

作画監督:青山浩行 CG作画監督:山下高明 CGキャラクターデザイン:Jin Kim 秋屋蜻一

CGディレクター:堀部 亮 下澤洋平 美術監督:池 信孝 プロダクションデザイン:上條安里 Eric Wong

音楽監督/音楽:岩崎太整 音楽: Ludvig Forssell 坂東祐大

色彩設計:三笠 修  撮影監督:李 周美 上遠野学 町田 啓 衣装:伊賀大介 / 森永邦彦 篠崎恵美 編集:西山 茂

リレコーディングミキサー:佐藤忠治  スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし ミュージックスーパーヴァイザー:千陽崇之 キャスティングディレクター:増田悟司 今西栄介

                                                                                                    

企画・制作:スタジオ地図

?2021 スタジオ地図 

上映時間:2時間2分

映画公式ホームページ ryu-to-sobakasu-no-hime.jp

映画公式twitter @studio_chizu

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プロフィール
映像編集者
野辺五月
学生時代、研究の片手間、ひょんなことからシナリオライター(ゴースト)へ。 HP告知・雑誌掲載時の対応・外注管理などの制作進行?!も兼ね、ほそぼそと仕事をするうちに、潰れる現場。舞う仕事。消える責任者…… 諸々あって、気づけば、編プロ・広告会社・IT関連などを渡り歩くフリーランスと化す。 2015年結婚式場の仕事をきっかけに、映像畑へ。プレミア・AE使い。基本はいつでもシナリオ構成!のひと。趣味は飲み歩き。

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