映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第2回『その日、カレーライスができるまで』
『その日、カレーライスができるまで』
▶「待つ」ことが苦手になってきている現代人の心を癒す度:100
短時間で観られる上質な劇場映画を探している人にオススメ!
52分という決して長くない尺でも、充分すぎるほど伝わってくる、とある男の孤独。彼に寄り添うことで、自分の中の優しさを掘り起こすことができるような”わが家の味カレー”と”いつもの趣味のラジオ”、その化学反応が起こす特別な奇跡の物語を紹介します。忙しい映画好きにこそ、この映画をすすめたい。
カレーの食材が並ぶ台所に立つある男(リリー・フランキー)。
今は一人暮らしをしているようですが、彼は3日後に控えた妻の誕生日に食べる特製カレーを作っています。それは男にとって、毎年恒例の大切な料理。料理を作りながら、愛聴するラジオから聞こえてくる番組が募集する「マル秘テクニック」。彼は携帯を手にして「我が家のカレー」についてのメールを綴り始めるのでしたー。
1時間以内の尺ですが、じっくりコトコトと煮込んだまさしく”3日目のカレー”が出来上がるまでの時間と同じような体感を味わう作品でした。ちなみに撮影期間も3日間だったんだとか。
特筆すべきは、リリーさんの一人芝居。喜びも悲しみも孤独も希望も、すべてを一途なまなざしで表現している様子。一人で暮らす男なのでたくさん喋るというわけではなくとにかく瞳で語る、これがもう素晴らしいに尽きます!
そして、リリーさんの”待ち姿”の余韻が教えてくれること。
現代は、ボタン1つで翌日には欲しかったものが届き、スマホで何でもできる時代。だからこそ1秒も無駄にしたくないと考える人が増えています。かく言う私もそう。
デパートや飲食店やクリニック、どこにおいても1番多いクレームは「待たされた」なんだとか。
そんな私達に「待つ」ことが導いてくれる人生の奥行きを思い出させてくれます。
急ぎ足で生きている人にとって、これは人生の雨宿り。
待つことと願うことは、どこか似ているのかもしれません。
企画プロデュースは齊藤工氏。俳優としての活躍は誰しもが知るところですが、監督やプロデューサーとしての映画作りの姿勢も毎回、目が離せません。
そして監督・脚本は、清水康彦氏。清水監督といえばヴィンチェンゾ・ナタリ監督初の公認リメイク、2021年10月公開予定「CUBE」日本版リメイクなども話題。世界中でカルト的人気を博している作品で斎藤氏はこちらには俳優として出演予定です。同じチームが作る”ジャンル違い”の作品もこの秋、気になるところですね。
料理映画じゃないのに、心に効いた演出でこの試写のあとカレーを作ってしまいました。劇中に登場する意外なカレー作りの裏技も参考に…!
カレーができるまでスマホをおいて余韻に浸りました。
大事な人の手料理のように味わってほしい1本です。
『その日、カレーライスができるまで』
(あらすじ)
どしゃぶりの雨のある日、とあるアパートの一室。くたびれた男が台所に立つ。毎年恒例、三日後の妻の誕生日に食べる特製カレーを仕込んでいるのだ。愛聴するラジオ番組ではリスナーの「マル秘テクニック」のメール投稿を募集している。すると男はガラケーを手に取り、コンロでぐつぐつと音をたてる特別な手料理についてメールで綴り始める。その横では、幼くして亡くなった息子の笑顔の写真が父の様子を見守っている……。
「今年も妻の誕生日にカレーを作っています」「ただ、色々あって今年は一人です」
……ある夫婦を繋ぐラジオ番組とカレー。絆で結ばれたふたりだけに訪れる、特別な奇跡の物語。
9月3日(金)より、全国順次公開
主演:リリー・フランキー
出演(声):中村羽叶 吉田照美 岡田ロビン翔子 黄 栄珠 福田信昭 / 神野三鈴
監督・脚本・編集:清水康彦 企画・プロデュース:齊藤 工
原案・脚本:金沢知樹 脚本:いちかわニャー
主題歌:安部勇磨「テレビジョン」(Thaian Records)