映像2021.10.21

美しい青のお手本『恋する寄生虫』 レビュー

東京
映像何でも屋
秘密のチュートリアル!
野辺五月
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なるべくネタバレをしないように書きたいと思います。
ストーリーの内容をざっくり話しますと、

introduction
この物語は、孤独な 2 人が“虫”によって“恋”という病に落ちていく、切なくも美しいラブストーリー。
極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾は、ある日、視線恐怖症で不登校
の高校生・佐薙ひじりと友だちになって面倒をみてほしい、という奇妙な依頼を受ける。そして、運命
か、偶然か、それとも“虫”の仕業か──世界の終わりを願っていたはずの孤独な 2 人はやがて惹かれ合
い、初めての恋に落ちていく 。

 

【映像を作る際に見習いたいカラリング】

この映画を、映像を作る人間が見るときのポイントとしては(おこがましいながら私が思うに)恐らく【カラリング】の素晴らしさであると思います。
内容が内容で、あまり明るいトーンにすると色々な意味でNGになるというのもあるかもしれません。※何せ吐くシーンや、血などのグロテスクな表現がわりとあるので。
ただそれを抜かしても、なお、この青と緑に彩られた印象……偶に入るオレンジの光……全体のトーンが、衣装やセットも含めて統一されており、「寂寥感ある世界」の構築を助けています。
お話自体が淡々とすすみ、下手すれば重さに疲れてしまうのですが、キャストの演技力と全体の色のバランスで、(虫関連が苦手な私でも)見られてしまう不思議さがありました。

ハリウッドというより、北欧を基調としたヨーロッパの映画のカラーでしょうか。青・緑側に全体を転がした映像は美しく感じることが多いように思いますが、この作品もそういった美しい青・深みのある緑こそをポイントに作られているように見受けられます。
それに加えて、今作は偶に入る主人公の家のショット……コントラストとして入る赤がサイバーパンクっぽさもありながら、現代を思わせて不思議な印象を与えます。
ある意味、ダイジェストにするとまるで美しいMVをみているようになるのではないかとおもいました。

また、寄生虫という題材ゆえの映像――ちょっとしたグロテスクさとも重なるのですが、ところどころこの二人が見えている世界線が普通の人と違う状況……これが実際に映像になるとなかなか刺激的です。やりすぎないSF,CGCGしすぎないポイントになる「なじませるエフェクト」は見ごたえありです。
また異様さゆえに、少しずつ心を通わせる二人の関係性が美しく描かれるのですが、要のシーンごとに、かえって自然のモノに目が行くようになっており……ロケ地の森や、川ごしにみえる夕日などが素晴らしい演出になっています。

更に、映像の美しさは色味だけでなく、美術セットにもあります。
特に喫茶店がでてくるのですが、このつくり……美術さんの拘りが見て取れるので、オールディーズというか、少し昔のアメリカンスタイルカフェの雰囲気などがすきな人には要チェックだと思います。

 

【キャスト力に舌を巻く】

ところでお話の方は綺麗なだけではなく、キャストの演技力なしに成り立たない作品でもあります。
特に、主演の片割れ、小松菜奈の雰囲気がぴったりでした。
話し方、ちょっとした視線、動き……目が離せなくなる瞬間が幾度もあるので純粋にファンの方にもお勧めの映画です。
青春ものとしても、最後の赤いコートの可愛いこと、美しいこと。
青系・赤系、光の使い方など、「色」に着目して、たっぷり演技を楽しんで貰えればと思います。


青春映画としては、正直ちょっと表現的に割と平気で吐いたり血がでたりするので苦手な人もいると思いますが、二人それぞれの変質的な空気にあう画面構成と、色味……閉鎖的な空気。
青と緑を基調にし、これからの季節に向けて描かれる空気感は、閉鎖的な世界の作り方――、一つ「冬の青春もののお手本」として見ておくことをお勧めしたいです。

汚さと美しさの同居は、近年(ミッドサマー含め)わりと話題に上がりやすい気がするのですが、ちょっとそのたぐいの気配もありました。

覗き見える寄生虫の汚さは本当人を選ぶのですが、自分がどこにあるか。虫とは何なのか。青と緑、まざるオレンジ・赤のコントラストに彩られた世界観の作り方は「絵」の凄み、「映像としての世界観の作り方」のお手本になるのでは?

ちなみにお話の方はというと、原作とは大分テイストが違うように感じました。
内面的な表現や細やかさは原作にどうしても軍配があがるようにも感じますので、「分からない」「きになるな」と、中身が気になった方には小説の方をおすすめします。

これからの季節、寒いときに染み渡るラブストーリーなのです。

恋する寄生虫
11 月 12 日(金) 全国ロードショー

 

【STORY】
極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾。ある日、見知らぬ男から視線恐怖症で不
登校の高校生・佐薙ひじりと友だちになって面倒をみてほしい、という奇妙な依頼を受ける。露悪的な態度をとる佐
薙に辟易していた高坂だったが、それが自分の弱さを隠すためだと気付き共感を抱くようになる。
世界の終わりを願っていたはずの孤独な 2 人はやがて惹かれ合い、恋に落ちていくが――。

林遣都 小松菜奈

井浦新 石橋凌

監督:柿本ケンサク
脚本:山室有紀子
原案:三秋縋「恋する寄生虫」(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)
製作:「恋する寄生虫」製作委員会 制作プロダクション:松竹撮影所 配給:KADOKAWA
©2021「恋する寄生虫」製作委員会
https://koi-kiseichu.jp/
上映時間:100分

 

 

プロフィール
映像何でも屋
野辺五月
学生時代、研究の片手間、ひょんなことからシナリオライター(ゴースト)へ。 HP告知・雑誌掲載時の対応・外注管理などの制作進行?!も兼ね、ほそぼそと仕事をするうちに、潰れる現場。舞う仕事。消える責任者…… 諸々あって、気づけば、編プロ・広告会社・IT関連などを渡り歩くフリーランス(コピーライター)と化す。 2015年結婚式場の仕事をきっかけに、映像畑へ。プレミア・AE使い。 最近はもっぱら調査・ロケハン・シナハン周り。 基本はいつでもシナリオ構成!のひと。コロナで趣味の飲み歩きができず、近場の映画館へ入り浸り中。

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