観客は壮絶なクリエイティブの目撃者となる、映画『12人のイカれたワークショップ』
映画や演劇など演技系の場合、ワークショップと言えば、その目的は大きく2つに分けられる。参加者と主宰者がみんなでアイデアを出し合って何かを創り上げるワークショップと、参加者の自我や常識という外皮をはぎとり、その役者の真実をむき出しにするワークショップだ。
どちらも役者の土台を作るのに大切な作業だが、前者が工芸などの趣味の講座や街づくりの話し合いなどにも応用されているのに対して後者は過酷なトレーニングのような熱量の高い、特別な訓練である。
ある映画作りに参加した役者たち12人が、撮影の前にその状況を徹底して突き詰めるため、2019年放送の本田翼主演ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」などで知られる田口清隆監督のもとに結集したワークショップをノンフィクションとして追い、フィクションである映画本編で追い詰められる登場人物たちと分かちがたく混交していく様を描いた、誰も見たことのないスタイルの映画『12人のイカれたワークショップ』は徹底して後者の道を歩むが、最終的には大きな意味で前者でいう創造の中へと収斂されていく。
この映画の観客は壮絶なクリエイティブの目撃者となるのだ。
ワークショップに集まった12人は年齢もキャリアもばらばら。さまざまな事情を抱えており、役者として乗り越えられていない各人各様の壁にもぶつかっている。
面接での受け答えの様子や居酒屋での本音語り、ワークショップでの監督からの容赦のない?責や演技指導の場面などを細かいテンポで切り替えながら、徐々にその役者の核へと迫っていく。
カメラをじっくりと据えて被写体に迫る純粋な意味でのドキュメンタリーではないが、その視線は鋭く、執拗だ。
2017年に放送されたドラマ「ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」の脚本を手掛けた劇団ポップンマッシュルームチキン野郎主宰の故吹原幸太による脚本を課題映画として監督と演技を練るうち、だんだんと観客にも、それぞれの役者に課せられた課題が見えてくる。その課題の克服とともに映画に真実を与えるためには何が必要なのか。単なる演技論の考察をしているだけではなく、ここではもう観客は立派なワークショップの参加者になっている。
撮影当日はメイキングのような客観的なカメラの目線もあるが、徐々に映画本編へと絞り込まれていく様子が面白い。
いったい何の映画を撮ろうとしているのか分からなかった人々にも物語のフレームが見えてくる。ある中学校の卒業式の日、教室で別れの挨拶をしようとした主人公の河中先生(河中奎人)の前で生徒たちが一人残らず消えてしまう。どこのクラスも同じ状況のようで、混乱して校内を逃げ惑う先生たち。そして突然、惨劇が始まった。SFホラーだ。
子どもたちの失踪と惨劇には謎の存在が関与している様子。子どもたちを取り戻す戦いが始まるが、悲劇はますますその深刻度を増していく…。
映画本編の部分は映画そのものの画面に収まっている映像のようにも見えるが、手持ちカメラを構えている監督や音声スタッフも映り込むなど、徐々にフィクションとノンフィクションの境界線があいまいになっていく。
それは役者自身にも言えることで、役そのもののキャラクターと自分、さらには演じている役のそのどれを今表現しているのかの区別が混濁していく。
この混乱の果てに監督や役者がたどり着こうとしている地平はどこなのか。
物語に、監督に、追い詰められた役者たちの魂の現在地が示される最終盤にかけて、ジェットコースターのような展開が観客を惹き付けて離さない作品に仕上がっていると言えるだろう。
出演は主演の河中奎人をはじめ、上條つかさ、千々岩北斗、波多野美希、中野杏莉、安保匠、カンナ、相馬絵美、大村織、甲川創、青山真利子、栗橋勇。
『12 人のイカれたワークショップ』
11 月 19 日(⾦) アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
河中奎人 上條つかさ 千々岩北斗
波多野美希 中野杏莉 安保匠 カンナ 相馬絵美 大村織 甲川創 青山真利子 栗橋勇
ナレーション:青柳尊哉
監督:田口清隆・島崎淳
課題映画脚本:吹原幸太
製作:島野伸一 國保尊弘 田口清隆 和田有啓
プロデューサー:島野伸一
撮影:井野口功一 辻本貴則
録音:間野翼
メイク:海山真由子
美術:畑山友幸
操演特殊効果:辻川明宏 遊佐和寿
制作担当:三島祐
音楽:百瀬巡
製作:「12人のイカれたワークショップ」製作委員会
制作:ジェイロックアジア マジカル
配給:Atemo
2021年|カラー|16:9|ステレオ|DCP|PG12|106分
著作表記:©「12人のイカれたワークショップ」製作委員会
公式サイト:https://atemo.co.jp/ikawaku.html
公式SNS: Twitter(@12ikawaku)