映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第6回『ちょっと思い出しただけ』
『ちょっと思い出しただけ』
▶池松壮亮×伊藤沙莉!リアルな恋人演技で映画の出来事を自分ごと化しちゃう度:100
胸のうちにまだ癒えぬ過去の恋愛の傷を抱えた人にオススメ!
本年度、東京国際映画祭でコンペティション部門の観客賞を受賞した『ちょっと思い出しただけ』。
まさしくタイトルと同じ気持ちを味わう映画です。
これまで、『くれなずめ』(2021)や『私たちのハァハァ』(2015)など友情を描くのが巧みなイメージだった松居大悟監督によるオリジナルで、初めてのラブストーリー。
松居監督は同映画祭において日本映画スプラッシュ部門(2013)に『自分の事ばかりで情けなくなるよ』、コンペティション部門(2016)に『アズミ・ハルコは行方不明』で選出されていました。今回の受賞までの道のり、とてもうれしく思います。
あらすじは、怪我でダンサーの道を諦めた照生(池松壮亮)と、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)。
2人の出会いから別れまでの6年間を、毎年の照生の誕生日を過去に向かってさかのぼりながら描くラブストーリー。
タクシードライバーを主人公にすることで新型コロナウイルス発生の以前、以後の見せ方が巧みで、変わりゆく東京の夜のシーンなど”時の流れ”を感じられる物語になっています。
それにしても、恋愛って不思議です。
楽しいとしんどい。別れたいと別れたくない。忘れたいと忘れたくない。
ぜんぶ逆の感情なのに、同じ人の中に存在して、安定している期間ってじつは僅か。
まるで車のワイパーの動きみたいに、右・左・右・左と正反対の感情を行き来し、揺れ続けている。
主演の池松壮亮さんと伊藤沙莉さんがそんな恋の矛盾やそれを越える尊さを、安定したお芝居で表現してくれています。
2人の演技のケミストリーは同じ時間を過ごしたわけじゃないのに、何気ないデートシーンもまるで自分の思い出だったかのように自分ごと化させてくれました。キャスト陣が、とてもよかったです。
私たちは、平然と生きていながらも100%癒えたとはいえない心の傷をどこかに隠しながら生きていて。
自分が選択して選んできた人生を否定するわけにはいかないですし、
「ああ、これでよかったはずだ」と思える日をいつだって静かに願っていますよね。
そんな気持ちを否定せずに慈しみ、そっと寄り添ってくれる物語になっていて…。
時々、自分の過去の思い出を悪く語る人がいるけれど、今が辛くても美しい瞬間があったことさえ否定するのは間接的な殺人にあたるんじゃないかと思ったほど素敵なデートシーンがいっぱいでした。
きっと…水族館に行きたくなります。
最後に、モノづくりの視点で感心してしまったのは”空間演出”。
部屋には、時間の流れがこびりついていますよね。部屋と時間の経過はともに変化し、心を映し出すもの。
部屋もまるで生き物のように、登場人物の1人のように、演出を助けているようです。こちらもご注目くださいね。
ちょっと思い出しただけ
2022 年 2 ⽉ 11 ⽇(⾦・祝)全国ロードショー
池松壮亮 伊藤沙莉
河合優実 ⼤関れいか 屋敷裕政(ニューヨーク)/ 尾崎世界観
渋川清彦 松浦祐也 篠原篤 安⻫かれん 郭智博 広瀬⽃史輝 ⼭﨑将平 細井⿎太
成⽥凌 市川実和⼦ ⾼岡早紀 神野三鈴 菅⽥俊 鈴⽊慶⼀
國村隼(友情出演)/ 永瀬正敏
監督・脚本:松居⼤悟
主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」(ユニバーサル シグマ)
製作:太⽥和宏 プロデューサー:和⽥⼤輔 沢村敏
ラインプロデューサー:原⽥耕治 撮影:塩⾕⼤樹
照明:藤井勇 録⾳:⽵内久史 美術:相⾺直樹 装飾:中村三五
ヘアメイク:酒井夢⽉ スタイリスト:神⽥
百実 振付:皆川まゆむ 編集:瀧⽥隆⼀ ⾳響効果:松浦⼤樹
劇伴:森優太 キャスティング:⾨⽥治⼦
タイトル・宣伝デザイン:⼤島依提亜 スチール:E-WAX
メイキング:エリザベス宮地 タートル今⽥
助監督:相良健⼀ 制作担当:尾形⿓⼀
制作・配給:東京テアトル 宣伝:FINOR
制作プロダクション:レスパスフィルム
製作:『ちょっと思い出しただけ』製作委員会(東京テアトル ユニバーサル ミュージック)
2021 年/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/115 分
©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
公式サイト:choiomo.com
公式 Twitter・Instagram:@choiomo_movie