映像2022.02.02

「FFF-S BEYOND」第一回作品『牡丹の花』監督、土居 佑香さん~私が目指すべき場所

Vol.36
「FFF-S BEYOND」第一回作品『牡丹の花』監督
Yuka Doi
土居 佑香
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「クリエイターズステーション」を運営する株式会社フェローズが主催する若手映画作家応援プロジェクト「FFF-S BEYOND」は、同社が2019年より毎年開催している学生のための短編映画祭「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(FFF-S)」にノミネート(一次審査通過)された学生監督から短編映画の企画を募集し、最も優秀な作品に制作費及び制作を支援する取り組みです。

第一回作品として選ばれたのは、近畿大学の土居佑香(どい ゆうか)さんの『牡丹の花』。
プレミア上映会を前にプロの制作陣と共に映画を完成させるまでの稀有な経験と今の心境を伺いました。

誕生日に届いた企画通過の連絡

撮影現場での土居さん

FFF-S BEYONDにはどんな思いで参加されたのですか?

フェローズさんから、突然、短編映画の企画募集のメールが届いて、何としてでも通りたくて必死に企画書を作りました。
大阪に住んでいるとなかなかに巡ってこないチャンスだと思うんですよね。こういうイベントは、絶対数で東京が多いし。そもそも学生限定の映画企画募集は、ほとんどありません。

自分の企画が通ったと聞いてどんな心境でしたか?

誕生日に私の企画が選ばれたというメールが届いたんです。バースデープレゼントだって思いました。

このような機会をいただき、監督としてのスタート地点に連れてきていただいたと思っています。『牡丹の花』は、もちろん頑張りましたし、自分としてもいい映画になりました。貴重な経験でしたが、今はいい意味でプレッシャーを感じていて、「これからが本番だ」と思ってます。

素敵なバースデープレゼントですね!『牡丹の花』の企画は何をきっかけに思いついたんですか?

まず尖った作品だと幅広い層の方に楽しんでもらえないと思ったので、ヒューマンドラマにしようと決めました。
通っているシナリオスクールの先生に「家族にまつわる作品がよく書けている」と褒めていただいたことがあったので、初めての挑戦でしたがストーリーは「家族の物語」に決めて。考えていくうちに「職人の家族の映画」は珍しいと思いつきました。そこで職人についていろいろ調べていたら、「線香花火職人」の存在を知りました。こうして「牡丹の花」の骨子ができあがったんです。

「監督」は私が目指すべき場所だったので、あまり動揺はしなかったです

設定について伺います。登場人物は親子2人から作り始めたんですか?

はい、お父さんと娘がいて、最初は娘が過去を回想するという構成でした。
企画審査段階でシノプシス(あらすじ)の提出があり、時間があまりなかったので兄弟に助けてもらいながら組み立てました。
企画書の時点より尺が長くなりすぎてしまい。企画が通ったあとはもっとシンプルかつ面白くしたいと、周りの方に相談しながら構成しました。
シンプルな設定の中でいかに面白くできるかを悩み、いただいたいろいろなご意見まとめてから、脚本に入りました。

今回プロのスタッフの中で「監督」として映画を撮ってみて、プレッシャーは感じましたか?

「監督」は私が目指すべき場所だったので、あまり動揺はしなかったです。自分では「向いているのかどうか」は分かりませんが、たくさん褒めていただいたので、とても励まされました。

確かに緊張することも多かったですが、プロのスタッフの中に放り込まれ、担ぎ上げられた感じでもなく、まだ学生の、言ってみればアマチュアの私にとても丁寧に付き添って、やりたいようにやらせてくださったので、終始、集中して臨むことができました。

撮影の際、苦労したのはどんな点ですか。エピソードを教えてください。

私はまだ映画を4本しか撮ったことがなく、単純に「自分のやるべきことがしっかりできているのか」ずっと心配でした。

プロのスタッフが周りを固めてくれて、私がやりやすいように動いてくださったと感じています。そのため苦労は少なく、順調に制作を進められました。

天候が崩れ、どうしたらいいか悩んでしまったことがあって、現場をバタつかせてしまいました。その状況をみて、監督はアクシデントが起きたときには、1番スマートな答えを出さなきゃいけないのだと痛感しました。

編集もすべて土居さんが手掛けられたのですか?

そうです。しかし私は編集作業が得意でなく…。監督補佐の方に助けていただきながらやりました。今回監督補佐をしてくれた方は普段映画監督として活躍されているのですが、編集に入る前に「これからは幸せな苦しみが待ってる」と声をかけていただいたのが印象に残っています。その言葉の通り、全てのカットが良くって、どこを使ってどこを使わないかを必死に悩みました。

音声も自分で編集すると思っていたんですけど、MA(Multi Audio)のエンジニアさんがとてもきれいに編集してくださいましたので、自分では触りませんでした。

それだけでなく、グレーディング(画像加工処理)など学生映画では経験したことのなかった作業を目の当たりにして、頭が上がらない気持ちでした。

映画の作り手の存在を意識し、エンドロールの最後に名前が出る人になろうと思った

FFF-S BEYOND スペシャルサポーターの堤 幸彦監督と撮影現場で。

映画制作を始めた経緯を教えてください。

『ネオン・デーモン』(2017)という映画を観て、初めて映画の作り手の存在を意識したのがきっかけです。全体的に芸術的であったところが、それまでの私が抱いていた「映画」へのイメージや概念を大きく変えました。

当時私は、イラストや水彩画を書いたり、ピアノやドラムの演奏をしたり、絵や音楽などを使って何かを表現して生きていくことを夢見ていました。無知な私には、映画はテレビの延長線上のもので、観た人のほとんどが面白いと思うようにできている。鑑賞し考えるものではなく、暇な時に見て消費するものでした。
もちろん今となっては、テレビや映画の作り手の存在も、そのすごさもわかるので、そんな印象を抱いていたことを反省しています…。

エンドロールの最後に名前が出てくる人になろうと思いました。

当時はどんな作品を作っていたんですか?

当時、祖母が亡くなったのがきっかけで “四十九日”を題材にした作品を撮りました。
脚本や絵コンテなどは一切なく、手伝ってくれた友人にその場で指示を出して作った作品です。そのときはまだ監督の役割が何なのかも分かっていませんでした。

まずは作品を映画祭やコンペに出してみようと思い、「やお80映画祭」に出品したところ作品を高く評価していただいて「アリオ八尾賞」をいただきました。

その後、どのようにして作り続けてこられたんですか。

受験でしばらく映像作りを休んでいたのですが、大学生になってから映画サークルに入り、『幸運銀行』という15分程の短編を取りました。

人が持っている人生の幸運指数を銀行みたいに自由に出し入れできたらどうなるんだろうという話です。ちょっと『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)みたいな、ハッピーエンドとは言えない作品でした。

なぜ、ハッピーエンドにしなかったのですか?

結構、暗くなる映画が好きなんです。だって人生はハッピーエンドではすまないことの方が多いじゃないですか。
映画を観て傷ついて落ち込んでっていうことを、わざわざ自分からやっていますね。
映画を観た後に自分で考える時間も好きです。

まだまだ観た映画の数が少ないんですけど、最近観た『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00年)も衝撃的でしたね。最近の映画ではありませんが、すごいものを観たと思いました。あれは簡単に「暗くなる映画」とは言えないですけど、幸せなラストではなくて。

憧れの映画監督はいますか?

是枝裕和監督です。『海街diary』(15年)が大好きなんですけど、『奇跡』(11年)という子どもたちが主人公の映画を観て、演出のすごさに驚きました。子役の演技が素晴らしいと思いました。演技だとは思えないほど自然で、そこが一番『奇跡』の世界に入り込めた理由だと感じていました。

今回『牡丹の花』では子役への演出に挑戦しました。予想はしていましたが、やはり難しかったですね。可愛くて仕方なかったのですが、セリフを言おうとすごく頑張ってくれて……。セリフから、声のトーン、発音やスピードまで、演技でない子どもらしさは何から来るのかを考えました。もっと勉強しなければならないなと痛感しています。

改めて、『奇跡』を撮った是枝監督を心からすごいと思いました。

業界の名だたる方たちにご協力いただいて、普通に就職して、夢を諦めるわけにはいきませんよね

次に撮る映画の予定はあるのでしょうか?

これから撮りたいと思っている作品は2本あります。
1本は、先輩が書いた脚本をもとに作る予定です。
もう1本は、今年(2022年)に大学4年生になるので卒業制作みたいに自分のための映画を作るつもりです。

では将来一緒に仕事してみたい、憧れの演者や制作スタッフがいたら教えてください。

女優の満島ひかりさんに自分の作品にいつか出ていただきたい、これは夢ですね。

憧れとは違いますが、同級生にトップアイドルや、大手プロダクションで役者をしている友人やシンガーソングライターとしてメジャーデビューしている友人がいるので、彼女たちと一緒に何かを作りたいです。そういう仲間がいると焦りもするんですけど、励みにもなります。

これから本格的に映画業界へ目指していかれるのでしょうか?

そうですね。こんなに大きな企画で業界の名だたる方たちにご協力いただき、皆さんからありがたいお言葉をいただいておいて、夢を諦めるわけにはいきませんよね。高校2年生の頃から目指しているところでもあるので、頑張りたいです。

今はどんな形で恩返しできるのか悩んでいますね。先々、私を選んでよかったと言っていただけるようになりたいと思います。

これから映画を作りたいと思っているクリエイターの卵の皆さんにメッセージをお願いします。

私もまだまだ卵で、全然孵化してないので何を言えばいいのか分からないですけど。一緒に頑張りましょう。励まし合ってやっていきましょう。

取材日:2021年12月27日 ライター:坂本 彩

『牡 丹 の 花』

 

「FFF-S BEYOND」第一回作品

監督・脚本・編集:土居佑香
小野莉奈 甲本雅裕
佐野泰臣 篠原あさみ 沢田優乃

製作:野儀健太郎 企画プロデュース:村田徹 
プロデューサー:広山詞葉・マツオヒロタダ
撮影:蔦井孝洋 照明:石田健司 美術:水谷陽一 録音:豊田隆嗣 
音楽プロデューサー:茂木英興 音楽:植田能平 音響効果:深井翠子 
整音:斎藤真央
グレーディング:長谷川将広 スタイリスト:高木柳子 ヘアメイク:齋藤美幸 
助監督:J.G.  監督補:柳原弘太郎 花火監修:竹内直紀(株式会社若松屋)
制作プロダクション:マツオ計画 
企画・制作・著作:株式会社フェローズ

■プレミア上映会情報
日程:2月10日(木) 開場:18:30/開演:19:00
場所:ユーロライブ(http://eurolive.jp/
入場料:1,000円
※出演者・監督舞台挨拶あり
(登壇者は予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。)
「牡丹の花」の他、短編映画2作品を上映(舞台挨拶付き)

■入場券申込サイト
チケット購入はこちら
https://peatix.com/event/3128601/view

 

プロフィール
「FFF-S BEYOND」第一回作品『牡丹の花』監督
土居 佑香
大阪府出身。近畿大学総合社会学部三年生。高校時代から映画監督を目指し、『forty nine days』が2017年度やお80映画祭アリオ八尾賞。『幸運銀行』が2019年度関西学生映画祭招待及び2019年度関西シネック優秀賞受賞に。2020年に映画『おままごと』で2020年度フェローズフィルムフェスティバル学生部門特別招待を経て「FFF-S BEYOND」に選ばれ、2022年に「牡丹の花」を公開する。またミュージシャン・坂口有望の「お別れをする時は 青春 ver.」「紺色の主張」、3ピースバンド・unGRo「東京」といった楽曲のミュージックビデオも制作。今後の活躍が期待できる若手映画監督の一人として注目されている。

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