映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第9回『やがて海へと届く』
『やがて海へと届く』
▶アニメと実写と詩集のような言葉の融合!考え抜かれた設計度:100
もう会えない人に思いを馳せ、静かな夜を過ごしたい人にオススメ。
美しい映画をみた。詩を読んでもらっているような、大切な写真を眺めているようなそんな映画だった。
主演:岸井ゆきの×出演:浜辺美波 でおくる強い絆で結ばれた「親友同士」の女子の物語「やがて海へと届く」は、世代を代表するふたりの夢の競演を堪能することができる、友情とも愛情とも言えない思慕を描いた物語です。
まず演者2人がまずとてつもなくすばらしい。うだつが上がらない表情をしていても圧倒的に溢れ出る、岸井ゆきのの生命力。そしていつか消えてしまいそうな儚さを纏いながら、愛される瞬間を待ち望んでいる、そんな浜辺美波の神秘性。
特別な引力で惹かれ合う”ソウルメイト”的な関係性を演じるにおいて、ふたりの説得力は十分すぎるほどでした。
彩瀬まる氏の手掛けたこの映画の原作は壮大なスケールと幻想的な描写から「実写化困難」とも囁かれていた作品でもあり、今回そこに挑戦したのは、モスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブル受賞するなど国内外で注目される中川龍太郎。
アニメーションの要素も加え、多彩な表現で物語の核心に迫っていきます。
この作品を鑑賞して、自分の想いを言語化することはあらためて難しいと感じました。
大事なことに限って、正確に表現しようとすればするほど、それは手のひらからこぼれ落ちる砂のように消えていきます。
人間というのは、ちゃんと理解できるものや目に見えるもの、わかりやすいものを信じたがる性質だから、複雑な想いだったり感情の糸が絡み合ってはねじれてしまい、結果的に言葉にならなったものはどこか別のフォルダに保存され、消化不良なものとして処理されてしまう。
例えば、どの言葉であらわしても”なにか違う”と打ち直しては消して、を繰り返し未送信にしたLINE。取り消したメッセージ。また強くその人を想っていたのに、簡単な言葉に逃げて結果的に違った表現となってしまったあの一言。
言葉にならなくて、また成り損ないとなってしまい、消失していってしまったあらゆるもの。
この映画は、観る人にもあったそんな時間を思い出させ、あらためて喪失させる力を持っています。
一見それは辛いことに感じますが、でも、それは酷なだけじゃないんです。
なぜなら「喪失する」という感情、じつはそれもまた生きている証なのだと教えてくれる、とても真摯な映画だったから。失う話なのに、不思議なくらい落ち着くんです。
ままならなかった言葉への後悔を、この映画が終わる頃には克服していました。
やはり、本当に美しい物語だと思わずにはいられません。
※ LINEは、LINE株式会社の商標または登録商標です。
『やがて海へと届く』
4月1日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!
岸井ゆきの 浜辺美波/杉野遥亮 中崎敏/鶴田真由 中嶋朋子 新谷ゆづみ/光石研
監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる「やがて海へと届く」(講談社文庫)
脚本:梅原英司 音楽:小瀬村晶 アニメーション挿入曲/エンディング曲:加藤久貴
エグゼクティブ・プロデューサー:和田丈嗣 小林智 プロデューサー:小川真司 伊藤整
製作:「やがて海へと届く」製作委員会 製作幹事:ひかりTV WIT STUDIO
制作プロダクション:Tokyo New Cinema
配給:ビターズ・エンド ©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
公式HP:https://bitters.co.jp/yagate/
公式ツイッター、公式インスタグラム:@yagate_movie