映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第12回『この子は邪悪』
『この子は邪悪』
▶こんな家族、見たことない。残暑にヒヤッとできる度:100
王道映画じゃ物足りない!THE・トラウマ映画をお探しの方にオススメ!
TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM に選出された作品群といえば、映画好きならビビビと”気になるレーダー”が反応してしまいますよね。
『嘘を愛する女』『哀愁しんでれら』『先生、私の隣に座っていただけませんか?』など、鮮烈な印象を残すクオリティの高いオリジナル作品を輩出してきた企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」において 2017年の準グランプリを受賞した作品が映画化しました。
先日開催された世界三大ファンタスティック映画祭の一つ、第42回ポルト国際映画祭のファンタジー部門では審査員スペシャルメンションを獲得した映画「この子は邪悪。」について今月は最速でレビューしちゃいます。
なんだか全員おかしい…?
かつて一家で交通事故に遭った家族が、“恐ろしい出来事”へと巻き込まれていきます。そんな世にも奇妙な家族の物語です。
「知らない」と「怖い」という感情は、親戚のようにどこか似ています。
わからないから、怖いもので。わかれば、怖くなくなります。
これが言える最たる例は対人関係だと個人的には思います。
現実をみつめない。相手を知ろうとしない。相手のことを決めつける。
そんな自分の感情優先でい続けると、やはり人間関係には”歪み”が出てきてしまうものです。
それが起きてしまうのがもっとも親しい存在の家族だったら、どうなってしまうのでしょうか。
終始、次のシーンに何が出てくるかわからないという緊張感が続きます。
何が信用できて何が信用できないのか。揺らぐ世界観を覗いているうちに「おかしいと感じている自分のほうがおかしいのかもしれない」という不安に駆られていくんです。
次の展開が予想できない黒沢清監督作品や、トラウマ的衝撃を経験させてくれる鈴木清順監督の作風が好きな人には刺さりそうです。
初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』でブルーリボン賞を始め、数々の新人賞を受賞した南沙良は常にどこか物憂げで心に傷を負った人間の感情表現を繊細に演じきっています。
また単独では初の映画出演となる大西流星(なにわ男子)のフレッシュな佇まいをみせつつも、ときに相反する曇った表情のアンバランスな魅力で演技の緩急をみせてくれています。
それぞれ、今後の役者としてのさらなる成長を期待させてくれます。
はじめてこの映画のポスターを見たときに、この家族のことを不気味だと思っていました。
でも鑑賞後の今は、彼らの歪みの中にも、ほんのひとかけら残る美しさに似た何かを見出しています。
もしかしたらほとんどの人が、
表面は清く正しく生きているように見せかけて、
裏面にはどうしようもない自分がいるかもしれません。
そして、愛をトリガーにしたとき、善悪を語るのは改めて難しいと思いました。
ぶっ飛んでいるという言葉で片付けてしまうのは簡単かもしれません。
でも、普通じゃ到底考えられないある決断をくだす人物。その行動にドン引きしたにもかかわらず私はこの人物のことが、どうしても嫌いにはなれませんでした。多分それは、私もまた家族愛というものを知っているからなのでしょう。
共感はできないもののこの家族に、敗北感と同時に奇妙な納得感を抱いてしまいました。ちょっと新感覚ですね。
ぜひ、鑑賞後に語り合ってほしいです。
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9月1日(木)より新宿バルト9他にて
全国ロードショー
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配給:ハピネットファントム・スタジオ
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© 2022「この子は邪悪」製作委員会
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